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KISEKI series fan fiction

木漏れ日の中の秘め事


 教官としての生活も二年目となり、少し経った初夏のある日のこと。
 その日は午前で授業が終わり、リィンは部活動に向かう教え子達に別れを告げて学校を出た。
 いつものように依頼を任されることもなく、気の赴くまま郊外に足を運ぶ。生い茂った木々が燦々と輝く太陽の光を遮っていて、少し涼しく感じる。

(あれは……?)

 視線の先に恋人──クロウの姿を捉えた。木陰のベンチに腰掛け、うたた寝をしている。

(そういえば、クロウは近辺の魔獣退治を頼まれていたんだったか……)

 クロウは現在、政府の監視の下で遊撃士のような仕事を行っている。
 これまでの行いのせめてもの償いとして、とクロウ自身から願い出たことだった。
 帝国にかつて混迷を齎したテロリスト。どんな贖罪をもってしても社会的に赦されることは永遠にないだろう。
 それでもリィンにとっては、大切な人が再び陽の光の下で生きたいと願ってくれたことが嬉しかった。
 ……依頼とはいえ、綺麗な女の人と一緒にいるところを見かけた時には大人げなく、少し嫉妬してしまうけれど。

(……それにしても)

 クロウの隣に腰掛け、その寝顔をまじまじと見つめる。
 やや色白の肌に細いフェイスライン、すっと通った鼻筋、木洩れ日を浴びてきらきらと輝く灰髪……。
 恋人としての贔屓目を差し引いても眉目秀麗この上ない彫刻のような顔立ちに、無意識のうちに吸い込まれる。

「……っ」

 リィンは思わず息を潜めた。
 吐息がかかるほど近づけば、血色の良い艶やかな唇に視線がくぎ付けになる。

 ──キスしたい。

 どくん、と心臓が高鳴る。そのわずかな欲に抗うことは、あえてしなかった。
 クロウを起こさないように小さく深呼吸をして、目を閉じて──その唇に己のそれをそっと重ねる。

「……んっ……」

 触れるだけの子供の悪戯のような口づけ。
 目をわずかに開くと、クロウの精悍な顔が視界に広がる。
 肌を擽るサラサラの髪、真っ直ぐな眉、目尻の下がったアイラインの隙間から覗く朱い瞳──……

(──あれ?)

 朱い、瞳?

 気づいた時には、後頭部をがっちりと固定されていた。抵抗する間もなく、唇が強く押し付けられる。

「ッ!? ……ぅん、ァあ、んンンンぅ……ッ、ふ」

 呆気なく舌をねじ込まれ、咥内を掻き回される。
 上顎を舐められ、舌をチュッと吸われれば、鼻にかかったような高い声が漏れてしまう。

「ぷは……っ!」

 銀の糸を引きながら、ようやく解放された。
 息が絶え絶えになり、クロウの膝の上にへたり込んでしまう。細められた目をキッと睨みつけた。

「クロウ……いつから、起きて……!」
「そりゃ、お前が隣に座ってきた時から?」

 カーワイイことしてくれちゃって、とクロウは意地悪そうに笑う。

「にしても、ヤベエな……」
「え」

 呆気に取られた一瞬のうちに、体制が逆転した。
 ベンチに座らされ、目の前には至近距離に迫るクロウの姿。
「ムラッとキた」
「ひゃっ!?」

 つう、と服の上から腹をなぞられる。

「ッあ、ぁあ、アア……ん」

 今までに幾度となく穿たれたその奥がひくりと震えた。

「……リィン」
「ゃ、あァ……!」

 かぷり。
 耳朶を甘噛みされ、身体が跳ねる。耳許で囁く甘く妖艶な声、肌を擽る跳ねた髪が、夜伽の情欲を目覚めさせていく。

「──続きは今夜、な?」

 有無を言わせぬ表情でそう言うと、クロウは唇に軽いキスをして去っていった。
 残されたのは、ざわめく木々と頬を林檎のように真っ赤に染めたリィンだけ。

「……ク、クロウ、~~~~~~~~ッ!!」

 狡い。こういう時だけ、本当に狡い。
 涼しいそよ風にさらされて、それでもリィンの熱は夜が明けるまで収まることはなかった。
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