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目を覚ました時、知らない場所に居て、そこには警視庁の公安でよく話をしてくれる女の刑事さんがいた。
というよりも今日の護衛もこの人だったな。なんて思っていると
「ごめんね夢姫ちゃん」
「え?」
「ちょっと頼まれたのよ」
頼まれた?
「彼を警部補か警部にするにはそれなりにすることがあって、今はその最中」
カレ?カレって誰の事?なんて思っていると
「刑事部の松田君よ」
「!?なんで」
「今彼らに与えている捜査は本来公安の仕事。でもそれを降谷さんと諸伏さんが『捜査一課の松田に一任する』って明言しちゃったから。だから公安で集めた情報は全て彼らの元に行っているわ」
「そうなんですね」
「そして夢姫ちゃんのこの誘拐」
「ゆ…!?」
「驚くのも無理はないわね。でも安心していいわ」
「え?」
「諸伏さんからの指示だもの」
「ヒロ君の?」
「えぇ」
それは陣平君があたしを探し出すことが出来たのなら階級を上げるように進呈する。そういう話になっているらしい
「そうなんですね」
「えぇ。ここは公安がよく使用する場所の1つ。足がつかないのよ」
そんな場所じゃ、陣平君は…きっと探し出せないかもしれない
「この部屋の中にいる間は自由にしていて構わないわ」
「え?」
「誘拐って言うのは言葉だけで、諸伏さんに頼まれたから。そう言ったでしょ?」
確かにこの人はそう言った。言ったけど…
「私は仕事があるから戻るけど「もし」」
「ん?」
「もし、陣平君が来なかった時は」
「その時は、明日の朝ここに諸伏さんが迎えに来る手筈になっているから」
「そう…ですか」
「なにかあった?」
「!?」
「この間の時も、いつもは捜査一課に行くのに諸伏さんと一緒に来たじゃない。だから何かあったのかと思ったのよ。違う?」
やっぱり公安の刑事さんはちょっとした動作でそんなのも見抜いちゃうんだ
「実は…」
ことの話をすると
「そう。千速と…」
「ん?ちーちゃん、知ってるんですか?」
「知ってるも何も千速は高校から一緒だもの。同期で同僚」
世間って狭い…
「弟の研二君も何回か会った事はあるけど、まさか機動隊の爆処に来るとはね」
「そう…ですね」
「怖い?彼が」
「怖いわけじゃないんですけど」
「心配かけたくなかった?」
「はい」
「でもね夢姫ちゃん」
下を向いていたあたしにそう言ってくれたのは間違いなくこの人だ
「誰だって、心配事の1つや2つはあるもの。今はこうして私がここにいて誘拐という体を作り上げているけど、もし彼が夢姫ちゃんを本当に好きならきっと今も心配してるだろうし、捜査してたって夢姫ちゃんの事だって考えてくれているはずよ」
「そう…なんですかね」
「そうよ。確かに捜査を見捨てることは出来ない。それは同じ刑事なら考えることは同じ。でもその後の行動はきっと、捜査一課には戻らないでしょうね」
捜査一課に戻らない?
「戻らないで、きっとあなたの事を探し始めるでしょうね」
そう…だといいな…
「まぁここでゆっくりとしていればいいわ。氷帝に置いて来ている荷物は、警備に当たっている公安の人間に警視庁まで届けて貰っているから安心して頂戴」
「はい」
「じゃあね」そう言って出て行った刑事さんはきっと、ちーちゃん達とは別の答えをあたしにくれたんだと思う。
ちーちゃんもあの刑事さんもお姉さんタイプではあるけど、どっちかと言うとちゃんと話を聞いて園子太を導き出してくれるのは女の方の刑事さんで、話を聞いて、それでもその時のその状況を瞬時に見抜いてくれるのはきっとちーちゃんの方が上かも知れない
ベッドの上で横になると、どうしても陣平君の事を考えてしまう。あの時、ちーちゃんに言っていた「好き」という言葉はあたしじゃない。きっとちーちゃんに向けて言っている言葉なんだろうと
あたしは陣平君が好きで、ずっと「好き」という言葉を言い続けてた。でも陣平君からあたしに「好き」なんて言葉1回も言われたことがない
「あたしみたいな子供。本気にならないか…」
なんて思いながらヒロ君が明日来てくれると言っていたけど「歩いて帰ります」とヒロ君にメッセージを送ると「そこから動くなよ」と返信が来ていて
「何もすることがない」
なんてベッドで横になりながらぼーっとしているとあっという間に夜になっていて
「きっと陣平君は来ないか…」
ルームサービスを取ってくれていたのだろうけど、何も食べる気が起きなくて
こんな風になるなら「陣平君を好きにならなきゃよかった」
そう無自覚に呟いていたあたしの言葉は部屋の中に消えていて
==
翌朝
「ん…」
ベッドの中で起きたあたしの目の前には
「なんで…」
「起きたかよ」
なんでいるの?
「ったく、誘拐されたってのに呑気に寝てるとは思わねーだろ」
「!?」
「諸伏にもゼロにも言ってあるからな」
「何を…」
「お前を見つけたって」
なんで、そんな報告…
「ついでだ」
ついで…か。なんて思いながら制服に着替えると、部屋を出ようとしたタイミングで
「え?ひゃあっ」
後ろから腕を掴まれたかと思えば、そのまま抱きしめられていて
「じ…じんぺ…」
「心配かけさせんな」
「心配…してくれたの…?」
「ったりめーだろが。自分の女が誘拐されたなんて聞かされたら気が気じゃねぇ」
自分の女…そう、思ってくれてるの?
「どうしたって捜査が優先だけどよ。それだってお前が誘拐されてるっていう危機感とも隣り合わせなんだよこっちは」
「!?」
自分の心臓がどくどく言ってるのがよく分かる。こんなこと今まで言われたことなんてなかったのに…
「で?」
「で?」
「何を考えてやがる今度は」
「な…なにも「考えてねーわけねぇだろ」」
「!?」
「千速ん所に泊まった帰りから可笑しい事に気づいてねぇ俺じゃねぇんだよ」
ずっと、気づいてくれていたの?
「とっとと白状しやがれ」
「…ってたから」
「あ?」
「陣平君が、ちーちゃんに『好きだ』って言ってた」
一瞬目を見開いた陣平君が
「はぁーーーーっ」っていうデッカイため息をついていて
「お前馬鹿だろ」
「は!?」
「なんで肝心なところ聞いてねぇんだよ」
肝心なところを聞いてない?
==
数日前の神奈川
夢姫が着替えに行ったのを確認すると
「陣平」
「何だよ?千速」
「夢姫が言っていたぞ」
「何を」
「『お前にはもっとお前に似合う女がいる。夢姫じゃなく、私や捜査一課の人間の様な女が好きだという事も分かってるのに』ってな。まぁそれは陣平が散々私に「好きだ」と言ってきていたのも関係しているのかもしれないが」
「あぁ」
「だが違うだろう?私への「好き」と夢姫への「好き」の意味が」
「大分ちげーな。多分千速が誰かと一緒になるとなった時に幸せになれよって思える。けどな夢姫の隣に俺じゃない誰かがいるってなったら、冗談じゃねぇってなったんだよ」
「そうか」
「けど、何だってまた」
「夢見たんだよ」
「「夢?」」
「あぁ。夢姫が他の男にくっついてどこかに行っちまう夢をな」
「マジかよ」
「そんな夢見たらなりふり構ってられねぇだろ」
「そうか。お前は私じゃなくちゃんと自分で見つけたんだな」
「あぁ。他の誰でもねぇ」
「ちゃんと夢姫が好きなんだな」
「当り前だろ?夢姫を好きに決まってんだろ。でなきゃ婚約だってしねぇよ」
==
「っつーのが経緯だ」
「初めて聞いた」
「初めて言ったからな」
ぽろぽろと泣き出したあたしに
「ったく。変な勘違いしてんじゃねぇよ」
「だ…だって!」
「『だって』じゃねぇよ。これから忙しいんだよ。俺もお前も」
「なんであたしまで」
「この間書いた交際届受理されてねぇんだよ」
「え?」
「つーことでまた書かなきゃいけねぇ」
うぅ…
「どっかの誰かさんは勝手に指輪まで外してやがるしな」
「うぅ…」
学校は休みにしてくれていたらしく、今日は家に帰っても1人だ。なんて思っていると
家に帰ってからすぐに「支度して来いよ」とだけ言って車に戻って行った陣平君を他所に着替えてから部屋で指輪を見ていた時だ
「ったくどんだけ時間がかかってんだよ」
「じ…」
「貸せ」
そう嵌めてくれたのは左手の薬指
「もう外すんじゃねぇぞ」
「あ、うん」
そのまま陣平君に腕を引かれて来たのは警視庁の総務課
「あら?また」
でも、その先の言葉は出なかった様だ
「な、なんで公安部の…」
「『なんで?』それは君がよく知って居るんじゃないか?」
「え?何を」
「松田の出した『交際届』そう言えば分かるんだろう?」
「!?」
「受け取っているのは君だ。防犯カメラでそれも確認済み。だけど実際は受け取った直後に君はそれをシュレッダーにかけて無かったことにしたよね」
「な…」
「知って居た筈だ。俺が出した交際届の名前に書いている人物と松田と一緒に書いて出した人物は同一人物」
「それじゃ…!」
「でも俺はあくまでその交際届は妹として。妹を守るために出すための手段だ。だけど松田は違う。俺や夢姫の実兄にちゃんと話を通したうえでの婚約者。交際届に出される欄にはしっかりと交際相手と記載されていたはずだ」
「そ、そんな…」
「きょうおはその受理をされなかった松田たちがもう1度だけ書きに来ているんだ」
「!?」
「それが何を意味するのか。分からない君じゃないだろう。俺達の同期であるならば」
え…?
オレタチノドウキ…?
「覚えていたのね」
「あぁ」
「どういうことだ諸伏」
「コイツは俺達の同期で、この間お前たちが捕まえた女がいただろう」
「あぁ」
「アイツの男とコイツは双子なんだよ」
マジかよ。そう言った陣平君は全然興味がなさそうで
「取り合えず先に書いちゃいなよ。俺の前で不正なんてしたらどうなるか。分からない君じゃないだろう」
「わ、分かったわよ」
