お礼画面

迷ってる顔も可愛い(ちはつち)

 ず、とストローをひと吸い。透明なプラカップの中のレモンティーがするりと口の中に飛び込むが、味はもうすっかり薄まっている。氷は溶けてしまって、ほぼない。ただでさえ安っぽい味だったのに、今ではほとんど紅茶風味の水になってしまった。
「うーん……この触り心地は違うな。やっぱり、コレかコレのどっちかな気がするなぁ」
 目の前で、土屋さんが真剣に呟いた。ショップの陳列棚の前で悩み始めて早二十分。彼は今、いくつものアルミ銀袋を指で押し潰しながら、一生懸命お目当ての中身を推察していた。狙っているキャラクターのアクリルキーホルダーを、どうしても引き当てたいらしい。
「やっぱブラインド文化は悪だよね。欲しいもの選ばせてくれればいいのに」
 不満げにぼやきながら、最終候補に残ったふたつを目線の高さまで持ち上げる。不透明な銀袋は、光に透けることはない。見通せないとわかっているのにやってしまうのは、きっと無意識なんだろう。
「ようやくふたつにまで絞れたんですね」
 横で俺が口を出すと、土屋さんがハッと振り返った。ちょっと焦ったような、申し訳なさそうな顔で眉を八の字にして、持っていたキーホルダー入りの銀袋で口元を覆う。
「ごめんね千早くん。めちゃくちゃ時間かけちゃって」
「いえ。気が済むまで悩んでください」
 寛容に瞳を細めたのは、他でもない土屋さん相手だからだ。他の奴相手なら、嫌味のひとつやふたつ、すでにぶつけてる。
「待たせてごめん。いい加減決めるから!」
 決意を漲らせ、再度グッズと向き合った土屋さんは、むむ、と両手に持った銀袋を睨みつける。細い指先で、中の輪郭を確かめることも忘れない。 
「コッチかな……でもやっぱコッチの出っ張ったところがそれっぽいような……」
 結局また悩み始めたのを見て、俺はひっそりと口元を緩ませた。
 本人は至って真面目だ。薄い眉を蠢かせながら、試合の時と遜色ないほど必死な顔で唸っている。
 ——迷ってる顔も可愛いな。不意打ちで湧き上がった愛しさが、結露で冷えた指に力を込めた。
 べこり、と。プラカップが大げさに音を立てる。
「〜〜ッ!もうダメだ!決められないから千早くん決めてくれる!?」
「え、俺がですか?」
 突然のキラーパスに、俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。土屋さんはずい、と俺にふたつの銀袋を突きつけ、小さくも輝く円らな瞳で俺を射る。
「千早くんに決めてもらったら当たる気がするから!あ、もちろん外れても文句とか言わないよ!」
 勢いに気圧されたものの、頼ってもらえたのは正直嬉しい。俺なら当たる気がするなんて、根拠のない予感に信頼が込められている気がして。
 ——少し、いや、だいぶ。調子に乗ってしまいそうになる。
「……じゃあ、コッチで」
 土屋さんの右手に握られていた銀袋を指差す。俺の判断にパッと顔を明らめると、「じゃあコッチ買ってくるね!」と急いでレジに向かっていった。
 果たして当たっているんだろうか。いや、頼むから当たっていてほしい。偶然の結果にすら、俺は期待をかけてしまう。

 俺の選択が、彼の笑顔になって欲しいから。

 大喜びした顔で、「千早くんありがとう!」と言って欲しいから。

「……いつまで隠していられるんだろうな」

 小さな吐息が、ストローに吹きかかってくるりと向きを変える。

 ブラインド文化は悪だなんて、土屋さんは言うけれど。俺が抱えた気持ちはまだ、彼に見えないままでいたい。

 だけどいつか、暴かれる日が来るのだろう。
 俺の中にある、彼への想いを隠し込めた、不透明なパッケージが。

 自分が開くのか、彼が開くのか。
 それはまだわからないけれど——

 その瞬間が訪れた時は、今まさにレジから走って来る彼のように、満面の喜びが浮かんでいるようにと——俺は、心から願っていた。


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