お礼画面

千石さんと眞城くん

 帝徳高校での昼休み。中庭のベンチに座った眞城史哉は、膝の上に広げたアルバムをじっと見つめていた。
 写真部の新しい課題――「昔と今」。
 過去と現在をどう結びつけて作品にするか、そのヒントを探すため、眞城は自宅から持ってきたアルバムを開いた。
 ページをめくるごとに、幼い頃の自分の姿が映し出される。――父から譲り受けた初めてのカメラを大事そうに抱えている写真、お遊戯が上手く出来なくて泣いている写真、家族旅行の写真。
「昔の自分って、なんか不思議だな……」
 小さく独り言を呟きながら、眞城は考え込む。
(昔の写真をどう今に繋げて課題にするか……)
 そんなことを思案していた時だった。
「お、なにか面白そうなものを見てるな」
 不意に、横からひょいっと覗き込む影がアルバムに落ちた。
「わっ!? 千石さん!?」
 驚いて顔を上げると、そこには帝徳野球部の千石今日路が、興味津々な顔でアルバムを覗き込んでいた。ーー面白いものを見つけた。千石の無表情に、そんな色が差す。
「へぇ、昔の写真か。お前、ちっちゃい頃から真面目そうな顔してんな」
「勝手に覗かないでくださいよ……!」
 眞城は慌ててアルバムを閉じようとするが、千石は素早くその手を止め、ひょいとアルバムを取り上げる。
「そんなこと言うなって。せっかくの貴重な資料だろ」
「資料って何ですか!? 返してください!」
「おっ? これは……?」
 千石の手が止まり、一枚の写真をじっと見つめる。
 それは、まだ幼い眞城が、小さなウサギのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめている写真だった。
「…………なんだこの破壊力」
 千石が低く呟き、にやりと口角を上げる。
「これはダメだろ。可愛すぎる。国都が見たら絶対喜ぶやつだ」
「ちょっ……!?」
 眞城は顔を赤くしながら慌ててアルバムを取り返そうとするが、千石はそれをサッとかわす。
「よし、眞城。この写真を国都に売ろう」
「売りませんよ!!!」
 眞城は思わず全力でツッコミを入れた。しかし千石は譲らない。
「いやいや、これ絶対価値あるって。国都、無駄にお前のこと好きだし、これは高値がつくぞ」
「高値って何ですか!! ていうか、国都に見せるとか絶対ダメです!」
「いやいや、国都は絶対見たがるぞ。国都が『史哉くんの小さい頃が見たいな』って言ってたらどうする?」
「えっ……」
 千石の言葉に、眞城は一瞬固まった。国都が自分の幼少期を見たがるだろうか。そんなこと、考えたこともなかった。
「……それでも、これは恥ずかしいから絶対に見せません!」
「おーい、国都ー!」
「ちょっ!? 呼ばないでください!!!」
 慌てて千石の口を塞ごうとする眞城だったが、千石は悪戯っぽく笑いながら、楽しげにアルバムを閉じるのだった。

[ ログインして送信 ]