坊ちゃん×ルック
坊ちゃん・2主・王子の名前を変換する
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英雄イベント中の坊→ルクの話
サスケとは、少なくとも友人と呼べるほどの仲ではない。特段気が合うわけでもないし、年はよっつも離れている。いつからだったか、軍主の指示で彼と顔を突き合わせる機会はやたらと増えた気はするけれども。
彼はだいたいいつでも元気がみなぎっていて、ときにルックがうざったく感じるほどだ。城を出発するときもそうだった。バナー経由でグレッグミンスターへ向かうことになっていたのだが、「あの辺は俺の庭!」とたいそう張り切っている様子だった。
しかし同行者にカスミがいることを知るや、急に借りてきた猫かのようにおとなしくなり、しまいにはモジモジしはじめる始末。サスケがカスミを見るときの顔付きは、普段とまるで異なっていた。
ルックからしてみれば、こんなに面白い場面に遭遇して、からかわずにいられるはずもない。ほくそ笑みながら散々つついてやったのだ。そうすると、今度は火山が噴火したかのごとく、サスケはおおいに怒り狂ったのだった。
今回フッチが同行しないことが残念でしかたない、とルックは思っていた。表情のクルクル変わる年少のサスケは、ルックとフッチからしたら、いいオモチャなのだ。(たまにやり返されて頭にくることはあるが、それはまぁ、さておき。)
そんなもんで、彼といるとおおよそ退屈をするということがない。――はずなのだが。
そのサスケが、奇妙なほどに静かで、完全に表情を固めてしまっている。バナーの村から山賊を追いかけて、森で魔物を退け、子どもを助け、グレッグミンスターに至るまでの間、ずうっとだ。今にも突然決壊して、大ベソをかきはじめるのではないかとヒヤヒヤしてしまうほどに。
(原因はまぁ、アイツなんだけどさ)
ルックはななめ向かいの男にチラリと目を移した。
男は、向かいの席――つまりルックの隣にいるカスミと親しげに話しながら、豪勢な食事に手をつけている。彼はこの屋敷の主、ギオン・マクドールだ。
ギオンは視線に気付いたらしく、こちらにニコリと微笑みかけてきた。カスミとの会話はまだまだ弾んでいるようだった。
そのカスミはというと、頬を桃色に染めて瞳をキラキラと輝かせ、すっかりギオンに見入っている。
(もう何度も何度も見てきた顔じゃないか。いまさらそんなに見る必要がどこにあるっていうの)
そうは思うものの、彼女がギオンに想いを寄せているのは誰の目にも明らかで(実際、コソドロにまで指摘されているところをルックは目にしたことがある)。何年も一途にたったひとりを慕い続けるひたむきさには、舌を巻かずにいられない。
しかし、その反対側では、サスケがちまちまとシチューを口に運んだり、フォークの先でサラダをつっついたりしている様子が視界に入ってくるのだ。彼が幼い頃からカスミに憧れ続けていることもまた明白であり、このしょぼくれた様子を見ていると、どうしても不憫に感じてしまう。
(だからって、誰にどうしろとも言えないけど)
彼らがどういう関係であろうと、割って入ることなどできるはずもない。ルックはただの部外者にすぎないのだから。
(……いらつくな)
どんより暗いオーラを振りまくサスケにも、それに気付くことなくギオン一直線なカスミにも、能天気にカスミと楽しんでいるギオンにも。そして、完全に蚊帳の外にも関わらず、ひとりやきもきしている自分にもだ。
ギオンはまだこちらを見ているが、ルックはフィッと目を逸らした。かわりに、たっぷり盛り付けられた兎のローストを思いっきり睨みつける。
「ほら、もっと食べなよ」
勢いに任せて、モリモリモリモリとサスケに取り分けてやった。ただでさえ落ち込んでいるときに、腹まで減らしていていいことがあろうか。
けれど、サスケの取り皿はなかなか空になりそうにない。
コッソリとため息を漏らしたルックの向かい側では、マキノとナナミ姉弟が舌鼓をうちながら、ごくごくマイペースに晩餐を楽しんでいた。
ひとまずカスミとギオンを引き離せば、サスケはいつも通りに戻るのではないか。そう思っていたのに、マキノ一行は今晩、マクドール邸を宿とさせてもらうことになった。ギオンの従者が提案をして、マキノがふたつ返事で頷いたためだ。
そんなわけで、ルックのもくろみはあっさりとはずれてしまったのだった。
(マリーの宿に泊まった方がずっと気楽だよ)
このいたたまれなさを抱えたまま夜を過ごすなんて、冗談ではない。
ルックは腹の底のモヤモヤをどうにかこうにかやり過ごしたくて、夜風に当たるべく部屋を出た。今の状態のサスケとの相部屋は、この上なく息苦しい。
慣れないだだっ広い屋敷の中、階段に向かって歩みを進めていたところで――
「やぁ、ルック」
朗らかに声を掛けられて、ルックはこれ見よがしに重い重いため息を吐き出した。
声の主はギオンだった。隣にはカスミもいる。
(まだ喋ってたのか)
階段より向こう側の廊下で、彼らは立ち話をしていたようだ。おそらくギオンの寝室の真ん前で。
サスケが部屋にこもってくれていることに感謝しつつ、ルックはふたりの前を通り過ぎようとした。素知らぬふりをして、「どうも」と素っ気ない返事だけをよこしてやる。しかし――
「え、待ってよルック」
ギオンはなにやら慌てた様子で、ルックの腕をやんわりつかんで引き止めてくる。
「なに」
早く外に行きたくて、ルックはいらつきながら彼の手を振り払った。
サスケが落ち込んでいるから、こちらまでずっと落ち着かない思いをしているのだ。それもこれも、ギオンが考えなしにカスミと親しくしているせいではないか。
ふたりの親しげな様が目に入ると、もはやこちらまで腹立たしく感じるようになってきてしまった。自分にはまったく関係のないことだというのに。
「久しぶりに会えたから、ゆっくり話をしたいと思ったんだけど」
「久しぶりってほどでもないだろ、ちょくちょく塔に出入りしていたくせに」
「でも、ルックがデュナンに行ってからは、全然会えてなかったし」
「そんなのほんの数ヶ月の話じゃないか」
話をしたいのなら、瞳孔をハートの形にしているカスミと話せばいい。ただし、サスケの目につかないところで。ルックの視界にも入らないところであればなお良い。
「もういいだろ、僕は散歩してくるから」
「散歩? それなら僕も一緒に行くよ」
階段を降りはじめると、後を追うようにギオンが駆けてきた。
「待ってよ、君はカスミと話してたんじゃないの」
「たくさん話したよ。カスミ、それじゃあ、おやすみ」
ギオンは二階の廊下のカスミに微笑みかけ、ヒラヒラと手を振った。
カスミは目に見てわかるほどに顔色を悪くし、何か言いたげな表情を浮かべている。部屋にこもっているサスケのような顔色だ。
(こんな顔させたまま置いていくつもりなの……?)
サスケだけでなく、カスミのことまで気になり始めてしまったではないか。
気ままとも思えるギオンの振る舞いのために、なぜこちらがいちいち気を揉まなくてはならないのだろう。
「ねぇ、君、ちょっと鈍感すぎない?」
こちらに歩調を合わせて階段を降りるギオンに、ルックは半ばあきれながら呻いた。
「そう? ルックには負けると思うけど」
「は? 何言ってるの」
ギオンのよくわからない言葉は適当に流して、ふたり並んで屋敷を出る。
外はすっかり日が暮れてしまっていた。
室内のこもった空気とは違う、ほんの少し温度の低い外の空気。ルックは胸いっぱいに吸い込んでから、ゆっくりと息を吐き出した。
「君は、どうしてバナーなんかにいたの。あんなところにいたら会っちゃうだろ。そんなに皆に会いたがってる風でもなかったじゃないか」
「同盟軍のリーダーがよく行き来しているって話を聞いたからね。ルックにも会えるんじゃないかと思って待ってたんだ」
「皆の前に出てきてまで? 意味がわからないよ。そのせいで、こっちはどれだけ落ち着かない思いをしたと思ってるの」
ルックが睨みつけたギオンの向こう側には、闇にちりばめられた星々が瞬いていた。
「ルックは誰かのことを不憫に思ってるんだろうけど。僕もなかなかかわいそうなんじゃないかな?」
星の色をした瞳が、ルックをじっと見ている。
「――いつになったら、気付いてくれる?」
ルックはよくよく見慣れた顔の、その瞳に映る星をぼんやりと眺めていた。瞬く星々の真ん中には、ルックの姿が映し出されている。不機嫌な顔で眉根を寄せているのだろうと思いきや、意外なことに、ギオンの瞳の中のルックは、穏やかにこちらを見つめていた。
ルックが何も言わないでいると、やがてギオンは柔らかく微笑んでから、小さく肩をすくめた。
「まぁ、時間はありあまってるから、気長に頑張るよ」
やはりギオンの言っている意味はよくわからない。
ただ、なんとなく。理由はわからないが、なんとなく。カスミを見ているときのサスケの表情が思い出された。
そういえば、屋敷にいた間の腹立たしさがすっかり消えてしまっている。あんなにもやきもきしたりイライラし続けて、ギオンの振る舞いには特に腹を立てていたというのにだ。
ルックの目の前。ギオンの闇色の髪の毛が、風に吹かれてふわふわと揺れている。
ああ、そうか。
こんなにも穏やかな気分になれるのは、きっと、夜風があまりにも心地良かったからに違いない。