坊ちゃん×ルック
坊ちゃん・2主・王子の名前を変換する
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
坊←ルクのはじまりの話
「いいですか、ルック――」
師がそっと教えてくれた。
ルックは天間の星のさだめを負う者なのだそうだ。いつか魁が、星々を導いてゆく。
そう聞いた日から、ずっとずっと、ルックは待ち焦がれていた。
ひと目でわかった。
(ああ、あの人だ)
年の頃はルックよりも少し上だろうか。おろしたての軍服の生地がまだ体に合っていないようで、ブカブカの服に着られている幼い子どものようにも見える。けれど、漆黒の前髪の隙間から覗く瞳があまりに印象的で。きっとこの人が魁の者なのだろうと、ルックは確信した。
待ち焦がれた彼の人。
ようやく会うことができたというのに、うるさい取り巻きたちが目障りだった。
(それに、こいつ――)
あの人にやけに親しげに接している少年――の、外見をもつ男。厄介な紋章を宿しているようだが。その存在が、ルックに不快感を与える。
少しだけ攻撃して弱らせてしまえば、あの人だけを捕まえてルックの部屋に閉じ込めることができるだろうか。なんなら、周りの者たちを一掃できる絶好の機会かもしれない。
(あの人を僕だけのものにしたい)
安易に考えてクレイドールをけしかけてみたけれど、あの人はいとも簡単にその場を切り抜けてみせた。魔法も使わずに、その身ひとつで。棍の描いた美しい軌跡が、しばらくの間、まぶたの裏に焼き付いて離れなかった。
ことはルックの思った通りに運ばなかったものの、心が勝手に弾みだす。
(やっぱり本物なんだ!)
あとで師に小言を言われるかもしれないが、大丈夫。本当に帝国の遣いとしてやって来た人たちなのかどうか、試したかったのだ。そう主張すれば、師を納得はさせられなくても、お咎めはないはずだ。
「ルック。悪戯をしてはいけないと言ったはずです」
得意の魔法で、彼らを岸辺まで飛ばしてやったあと、師の小言が始まった。
本当はあの人をここに閉じ込めてしまいたかったというのに、言われた通りに送ってやったのだ。褒められこそすれ、叱られる場面ではないだろう。
魔法は、ほんの少しだけ制御に失敗した。あいつだけ宙に放り出すよう、わざと制御を甘くして失敗させた。気に食わなかったから。『悪戯? 何のことです?』ととぼけようとしたけれど、ルックの口をついて出たのは、まったく別の言葉だった。
「天間星は僕じゃなかったんですか」
ルックがポソリと呟くと、師はため息を漏らしながらも柔らかく微笑みを浮かべた。
「彼の星の巡りを見たのですね?」
「天間星は僕なのに!」
気に食わない。闇の気配を身に潜ませたあの男。当たり前のような顔をして、あの人の隣に立っていた。なぜ、あいつに天間の星の巡りが見えた?
厳しい声で「ルック」と呼ばれ、ルックは当たり散らしたい気持ちを抑え込んだ。
「まだまだ勉強不足ですよ。今の貴方では、彼の力になることすらできないでしょう」
「もっと学べば、あいつじゃなくて僕が天間星として認められるということですか?」
「さぁ……?」
気が付けば、師の声のトーンが、説教をするときの高さから変わってしまっていた。
「学ぶべきことはまだまだたくさんあります。今日から一層修行に励むことです。私の一番弟子として、誇りを持って彼の元へ行けるように」
言っていることはいつもの説教と大差ないように感じられるのに、師の表情は柔らかく、声色も温かい。
「はい、レックナート様……」
ルックの中に渦巻いていた苛立ちはいつの間にか消えてなくなってしまっていた。
真の紋章を宿すあの男に勝てばルックが天間星になれるとか、そういうことではないのだろうが、あの人の近くに立つためには現状力不足なのだというのは確かだった。たやすく術を破られたのは事実だ。
「それに、もっと学べば、星を正しく見ることもできるようになるかもしれませんね?」
クスクスと面白がるように笑って、師はルックに背を向ける。
「どういうことですか! 僕の星の見方は誤っていると……?」
答えは与えられぬまま、師は部屋へと戻っていった。自分で学べということなのだろう。
魔術師の島に夜の帷が降りる。
窓の外。闇の中に、一番星が眩く光っていた。
漆黒の前髪の下に覗く、あの人の瞳と同じ色だ。
ルックは窓を開いて、星に向かって手を伸ばした。届くはずがない。当たり前だ。
けれど――
待ち焦がれた彼の人。
(いつかきっと、僕だけのものに)
1/28ページ