坊ちゃん×ルック
坊ちゃん・2主・王子の名前を変換する
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ルックが違う時代へ飛ばされる話②
柔らかな風が一面の草花とルックの髪を撫でて流れていった。降り注ぐ陽光が暖かい。
「いや、ビッキーじゃないんだからさ」
見知らぬ場所にポツンと放り出されて、ルックは独りごちた。
以前にも星辰剣にどこかへ飛ばされたことがあった。あれは確か三百年も前の時代だったらしいと、誰かに聞いたような気がする。あのときと同じであれば、時が来ればいずれもとの場所に戻れるはずだった。慌てるほどのことではない。
とはいえ、寝巻き姿のまま一体どこでどうやって過ごせと言うのだろう。ここがどこなのか、いつなのかもわからないというのに。
(塔に帰れたら一番いいんだけどな……)
実は先程から転移を試みてはいるのだが、塔の場所の見当をつけることができずにいた。塔には強力な結界を張られているのだろう。
ルックがあの場所で暮らし始めてからは、自由に出入りをできるよう、師が結界に細工をしてくれていた。それがなされていないということは。
(僕が塔で暮らし始めるよりも以前に飛ばされたということだ。――ここが未来で、僕が塔を追放されたわけじゃなければ、ね)
こんなにも優秀で気の利く一番弟子を破門するだなんて、まず考えられないことではあるのだが。
(時間を潰すしかないか。何もすることがないのは退屈だけど……)
植物の採取なんかをしてみてもいいが、誰の目もない場所でまで、勤勉であり続ける必要はないだろう。このままここで昼寝をしても良いかもしれない。どうせ眠るところだったのだ。
ちょうどよい丈の草が茂っていて、泥が付かなさそうな場所を見繕うと、ルックはゆっくりと体を横たえた。
ポカポカの陽射しを全身に浴びながら、瞼を閉ざす。かすかな花の香りが鼻先を掠めていって、きっと今は春なのだろうとルックは当たりをつけた。
遠くから呼ばれたような気がして、ルック瞳を開いた。
「………………?」
身を起こして辺りを見回すが、花咲く平原が広がるばかり。人の姿はどこにも見えない。少しの間眠っていたようだから、夢でも見ていたのだろうか。
再び横になり、目を閉じかけたところで――
(気のせいじゃない!)
ルックは素早く起き上がった。
確かに声が聞こえる。子どもの声だ。それも悲鳴じみた、切羽詰まったかのような声。
声を運んできた風を逃さず捕まえて、方角を確かめる。
(こういうお節介は好きじゃないんだけど)
思いと裏腹に、全速力で足が動き出す。
(僕は走るのも好きじゃないんだ)
すぐに息があがって、肺が痛くなるのだ。あとで腿やふくらはぎの筋が痛くなるのも嫌だった。必要に迫られなければ、極力動きたくなどない。
それなのにわざわざ厄介事に首を突っ込んでしまうようになったのは、明らかに「あいつら」の影響だと言わざるをえなかった。
緩やかな丘を越えた向こう側に、ルックは声の主の姿を認めた。黒髪を振り乱しながら、必死に駆けてくる幼い少年。彼の背後には、ガラの悪いゴロツキ然とした男たちが複数人迫っている。
ここに来てようやくルックの存在に気付いたらしい少年が、揺れる金の双眸をこちらへと向けた。瞬間的に視線が交錯して――
「ギオン!」
ルックは声を張り上げた。
魔力が弾ける。彼の名を呪文代わりに風を操って、一撃でゴロツキを吹き飛ばした。
少年はしばらくの間唖然としていたが、危機が去ったのを悟ったらしく、へなへなとその場にへたり込んだ。
暖かい春風が、少年の艷やかな髪を揺らす。
この子どもとは初めて会うけれど、決して初めてではない。ルックは彼のことをよく知っていた。
名はギオン。
ルックが属する解放軍を率いているリーダー、その人だ。
つづく