坊ちゃん×ルック
坊ちゃん・2主・王子の名前を変換する
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ルックが違う時代へ飛ばされる話①
どこからか喧騒を拾ってきた夜風が、ルックの耳元をくすぐって流れていった。大人たちが酒盛りでもしているのだろう。
(――そろそろ部屋に戻るか)
まさかこの時間からリーダーのお出掛けの供を言い付けられることはないだろうし(そのリーダーも酒盛りに呼ばれているはずだ)、ひとり生真面目に持ち場を守り続けることもあるまい。どうせ周囲には誰もいないのだ。
しんとした石板の間に、遠くの笑い声がこだましていた。今夜はいつにもまして盛り上がっているようだった。連中ときたら暇さえあれば飲んだくれていて、よくよく飽きないものである。
思いながら階段に差し掛かったところで、ルックは段差ではないものに足を取られた。
「なに……」
危うくつまずきかけるが、素早く足を踏み出してどうにかとどまる。我ながらなかなかの反射神経とバランス感覚だ。以前であれば、なすすべもなく派手に転倒していたに違いない。
この湖城に来てからというもの、嫌でも体を動かさなければならない場面というのが何度も何度も、本当に嫌というほどあった。解放軍は脳筋ばかりなのだ。数年の間、ルックにしてみればかなりの無理を強いられてきたのだが、今転ばずに済んだのは、そういった涙ぐましい努力のひとつの成果と言えなくもなかった。
ともあれ、ルックはここにあるはずのないものに足を取られたのだった。床に転がっているものを拾い上げる。柄部分に人面の彫刻が施されていて、非常に趣味の悪い剣だ。
「星辰剣……?」
解放軍の、とあるメンバーが所持しているものだった。
「こんなところにほったらかすなんて、何考えてるのあの熊」
ルックはこの剣が何であるのかを知っている。不気味ななりをしているが、れっきとした真の紋章のひとつ――夜の紋章だ。
「まったくだ。酒盛りの邪魔だ、酒が不味くなるなどとたわけたことを抜かしおって」
おまけに喋る。
「真の紋章なんて持ってたら、美味しいものも美味しくなくなるからね。それも人語を解して四六時中小言ばかり言われてたら嫌にもなるよ」
だからと言って、これをぞんざいに扱ってよいという理由にはならないが。
「思っていることと言っていることが逆になってはいないか」
「僕はいつもこうだよ。それより、……どうしようかな」
見つけてしまったからには、このまま無防備に捨て置くわけにもいくまい。真の紋章を付け狙う輩に持ち去られでもしたら厄介だ。しかしながら、広間までこの重たい剣を抱えていって、今頃飲んだくれているであろう所有者を探し出してわざわざ手渡してやる、というのもひどく億劫だった。
「仕方ないな。朝まで保護してあげるよ。歯ぎしりとかいびきとかうるさかったら、部屋の外に放り出すけどね」
誰に向かって言っているのかと喚く人面剣を雑に引きずりながら、ルックは自室へと足を向けたのだった。
ルックにあてがわれた部屋は個室だった。それは、ルックが魔法兵団長という役職についているからというよりも、まだ人員の少ない頃に城に入ったためだと思われる。
その証拠に、軍への合流が遅れた副リーダーなんかは相部屋だ。同郷の者とは言え、恋人同志の男女と同室だなんて面白――いや、不憫にもほどがある。
何にしても、幼い頃から師とたったふたりで静かに過ごしてきたルックにとって、私的な空間を確保できたのは幸運だったと言えるだろう。
星辰剣は大人しいものだった。悪さをするでもなく、呪いの力を振りまくでもない。部屋の片隅の壁に立てかけられて、まるでただの剣のようにじっとそこに佇んでいる。
(まぁ、ちょっとでも妙な気配がしたら、すぐに投げ捨てるつもりだけどね)
ルックはいつもどおり棚から本を取り出すと、目で文字を追っては脳に落とし込んでいく作業に没頭した。夜更けまでたっぷり時間を使い、やがて強烈な睡魔に襲われて目を開いていられなくなると、観念して部屋の灯りを消した。
今晩は冷え込みが強かった。まどろみの中にある意識が、肌寒さによってたびたび覚醒させられる。毛布を頭までかぶり、繰り返し寝返りをうった。
なかなか寝付けずに、もう何度目になるかわからない寝返りをうっていると――
「ぶうぇっくしょぉぉい!」
部屋の静寂を切り裂くような破裂音がなった。
くしゃみ。それも、品性のかけらも感じられない特大のくしゃみだ。
途端に、ルックは違和感を感じ取る。
「は?!」
毛布を除けて跳ね起きた。
周囲の空間が歪んでいる。これは、真の紋章の力だ。
「なに!? なにしてくれてるの!」
「許せ。生理現象だ……」
抗うことさえできず、ルックの体は空間の歪みに飲み込まれていった。星辰剣がズビ、と鼻をすするような音を立てるのを聞きながら。
つづくよ