坊ちゃん×ルック
坊ちゃん・2主・王子の名前を変換する
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救いのない未来の話
どこまでも広がる青空の下、少年は草原に寝そべり風に吹かれていた。そこらじゅうに色とりどりの花が咲いている。そよ風さえ聴き取れるほどの静寂の中、少年の鼻唄だけが音を発していた。
少年の近くをヒラヒラと舞っていた蝶が、何の前触れもなく地面の上へ落ちた。
「何だ。お前、まだ生きてたの」
ユーバーが近付くと、少年は退屈そうに息をついた。身を起こすこともせずにそう言う。
「貴様こそ、よくその姿を保っていられるものだ」
ユーバーの言葉に、少年は意味がわからないといった風に首を傾げる。
少年の周囲には黒い瘴気が渦巻いていた。真なる紋章の力と彼自身の魔力が混じり合い、体の内から禍々しいエネルギーを発し続けている。生身の人間が触れられるものではない。
少年は姿形こそ人間のそれを保っているものの、その中身はもはや異形と呼ぶより他になかった。
「そうだ、お前は殺さないといけないと思ってたんだ。テッドのお爺さんの仇だからね」
少年は右の手のひらを空に向かってかざし、そこに刻まれる紋章に目を向けた。しばらくそうやっていたかと思うと、腕を下ろして両目を閉じる。
「だけど今度にしようか。今日は久しぶりに晴れたから、ルックと花を見に来たんだ」
ルックというのは真なる風の紋章を宿していた者の名だとユーバーは記憶していた。
百年か二百年か、そのぐらい前の話だ。彼は紋章を破壊するための儀式に失敗した。解放された風の紋章の力も、他の五行の紋章によって抑え込まれてしまった。
(だが、面白かったのはそのあとだ)
ユーバーは、目の前いる少年の手の甲に目をやった。右手に宿るのは生と死を司る紋章。左手に宿るのは真なる風の紋章。
少年が風の紋章を宿すようになった経緯をユーバーは知らない。前の継承者が命を落としたときにすぐ近くにいたか、あるいはどこかから盗み出したか。
紋章を継承した少年は、意図的にその力を解き放って暴発させた。あろうことか、その身に宿す真なる紋章をふたつ同時にだ。
(紋章を破壊すれば大陸のひとつくらいは消し飛ぶだろうと予想していたが、そんな生温いものではなかった)
あらゆる生物が死に絶え、文字通り世界は終焉を迎えた。
ユーバーは口角を上げた。
(あれは心地の良い混沌だった)
ふたつの紋章と、少年が持つ魔力、そして何よりも強い憎悪。
時が経ち、世界を覆っていた闇は集約されつつあるように見えるが、混沌はその力を秘めたまま少年の内に渦巻いている。
「人が全部いなくなって、ルックの望んだ色鮮やかな未来が来た」
両目を閉じたまま、少年は穏やかな笑みを浮かべる。
「ルックは僕と一緒にずっとここにいられる。ルックの魂も紋章も、僕の中にあるからね……」
ゆっくりと喋りながら、少年は眠ったようだった。眠りに落ちてもなお、その身から放たれる瘴気が失われることはない。
この少年の姿をしたものの持つ闇は、いつまた世界を覆い尽くすだろうか。ユーバーはそれが楽しみで仕方がなかった。
ユーバーがそこから立ち去ると、咲き乱れる花の中で眠る少年ただひとりが世界に取り残された。