幻水5
坊ちゃん・2主・王子の名前を変換する
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二人旅ED後の話
「あやしい奴らめ!その荷、改めさせてもらうぞ!」
群島諸国連合の警備兵に取り囲まれ、ゾンタークは苦笑した。連れが後生大事に持ち運んでいる大きな黒い箱に目をやる。誰がどう見てもあやしい。
ただでさえこの辺りでは紋章砲の破壊事件が起こったり、密輸が行われていたりするのだ。こんなに大きな荷物を運んでいてあやしむなと言う方が無理な話である。
「ゲオルグ、観念して中身を確認してもらおうよ」
しかしゾンタークの提案にも、連れは首を縦には振らない。
「断る」
ふぅ……とゾンタークは大きく息を吐いて空を仰いだ。
まさかゲオルグとの二人旅がこんなに困難を極めるとは思いもしなかった。いつでも頼りになる、まるで兄のようなゲオルグ・プライム。旅に慣れていて何でもスマートにこなすのだろうと思っていたのだが。
ゲオルグは剣の柄に手を添え、まさに一触即発といった状態だった。
ゾンタークは背中の三節棍を確認する。
(これは力でゴリ押しして逃げるパターンかな……)
などと考えていると、警備兵の一人が改まった声を上げた。
「こいつらです!あやしい荷物を運んでおり、検閲を拒否しております!」
警備兵に呼ばれて来たらしい上官は、盛大にため息をついた。
「はぁ……またあなた達ですか……」
言いながら、その女性はものすごく嫌そうな顔をしてゲオルグを眺めていた。
「助かったぞ、ベルナデット」
ゲオルグは荷を守り通せた満足感からか、満面の笑みで女性の肩を叩いた。
「いえ、ほんと、いい加減にして下さいね。いつもいつもここを通るたびに騒動を起こされて困っているんですからね」
死んだ目でベルナデットはそう告げる。
ベルナデット・イーガン。オベル王国の軍人であり、ゾンタークの叔母にあたる女性だ。
敏腕の軍人でありながら義理堅く思慮深い女性なのだが、仕事ではいつも苦労し続けているようだ。もっとも、今はゾンタークの連れがその原因の一つとなっているのだが。
「悪いな、この箱は不必要に開け閉めしたくないんだ」
「そうですか」
真剣にそう告げるゲオルグに、ベルナデットは話しても無駄と悟ったのかそれ以上は言わなかった。
ベルナデットとゾンタークは視線を合わせると「殿下も苦労しますね」「お互いね」と互いを労い合った。
ゲオルグが持ち運んでいる箱には強力な水魔法がかけてある。箱の内部の温度を低く保つためだ。しかし魔法には限界があり、次第にその効力は薄れていく。箱を開け閉めすればするほど箱内部の温度が徐々に上昇してしまうため、ゲオルグは必要時以外にその箱を開けることを嫌がった。
必要時とは、すなわち中身を取り出さないといけないとき。
ゲオルグがチーズケーキを食べたくなったときだ。
「現地調達じゃ駄目なの?」
幸せそうにチーズケーキを頬張るゲオルグを横目に、ゾンタークは素朴な疑問を投げかけた。
「何を言ってるんだ。ソルファレナのチーズケーキに勝るものなどないぞ。もっと自分の故郷を誇れ」
何故か励まされながらチーズケーキを差し出され、ゾンタークはよくわからないまま「あ、ありがとう……?」と受け取った。
次の目的地は赤月帝国だ。そこにもゲオルグ御用達のスイーツショップがあるのだそうだ。少なくともそこに辿り着くまでは、ソルファレナのチーズケーキを持ち歩くことになるのだろう。
(そういえばオベル王国で食べたおまんじゅう美味しかったな。この人、世界中のスイーツ食べ歩きを目的に旅してるんだったかな?)
元女王騎士ゲオルグ・プライムのことがわからなくなりながらも、ゾンタークは彼から差し出された故郷の味を噛み締めていた。
果たしてこのあやしい箱を持った二人組は、無事に赤月帝国の地を踏むことができるのだろうか。