幻水2
坊ちゃん・2主・王子の名前を変換する
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オムライスの話
「ルックって料理できるんだ?」
ギオンが興味深そうに手元を覗き込んでくる。あまり手元に近付かれると鬱陶しい。邪魔だから退いて欲しいと告げる代わりに、ルックは彼の顔の前で玉葱をみじん切りにしてやった。
「わ、痛!」
少年は目を抑えながら距離をとる。
「人がわざわざ作ってやってるのに、邪魔しないで欲しいんだけど」
シッシッと手を払い、先に部屋に戻るよう促した。
そもそも「料理ができる」とは?君たちは料理もできないの?まったく、坊っちゃん育ちは優雅なもんだね。
ルックは嘆息して炒め鍋を探し出す。
本来なら専属の料理人がいるデュナン城の厨房だが、こんな夜更けに食堂が開いているわけもなかった。
「何か食べたいのなら酒場にでも行けば良いのにさ」
呟いてはみたものの、あの酒場の女主人は子供が夜更しすることを良しとしないため、追い返されるのは目に見えている。子供と言っても、ルックもギオンも外見ほど低年齢ではないのだが――。それをいちいち説明してまで酒場に居座ろうとは思わなかった。
さて、オムライスが四人前出来上がった。右手で一皿、左手で一皿、右腕左腕にも一皿ずつ。どこにあるかわからない盆を探すよりは、こちらの方が手っ取り早いだろう。そのまま自室前まで歩いて行き、そこで初めて両手が塞がっていることに気付いたルックは、風の魔法で扉を開ける。
「待ってましたー!」
陽気な声でルックを迎え入れたのはシーナだった。
「感謝して崇め奉ると良いよ」
フンッと鼻を鳴らして、ルックはオムライスをテーブルに並べた。
「さっき野菜刻んでたのにもう出来たの?グレミオの料理とスピードが違う……!」
「この世は煮込み料理が全てじゃないんだよ」
ギオンに向かってルックは得意気に言い放つ。
ルックの部屋には三人の来客者が居座っていた。シーナとギオンの二人は、ここ数日の間、毎晩この部屋にやって来ては酒盛りをして駄弁っていくようになっていた。いつもならいい時間になれば自然と解散になるのだが、今宵は酒の肴……もといゲストとしてヒックスが招かれていたのだ。昔話をしたりヒックスの恋人の話を聞き出したりしているうちにすっかり夜が更けてしまった。そうして小腹を空かせた彼らのリクエストにより、ルックが手料理を振る舞うことになったのであった。
「ギオンさんがシチュー以外を食べるのって、初めて見たかもしれません」
心底意外そうにしているヒックスの言葉に、シーナとルックはニヤニヤしながら目を合わせる。
「こいつ、弁当の中身までシチューだもんな」
「シチュー弁当五つ持たされるなんて、さすがに笑っちゃうよね」
「………………」
ギオンは赤面して口をつぐんだ。
実は彼は数日前にグレッグミンスターからこのデュナン城にやって来たばかりなのだが、その際従者のグレミオに持たされたのが五つのお弁当(シチュー)だったのである。
「あ!悪い意味じゃなくて!僕がサンドイッチが好きだって言ったら、テンガアールがサンドイッチばかり作ってくれるようになったから、グレミオさんもそうなのかなと思って……」
恥ずかしそうに黙りこくっているギオンへのフォローのつもりなのか何なのか、そんなことを言うヒックス。
その言葉に反応したのはギオンではなくシーナだった。
「あー、いいなー、俺も可愛い恋人にサンドイッチ作ってもらいたいなー。このオムライスも女の子が作ってくれたものだったらどんなに良かったか……」
「なら、あのおっかない眼鏡に作ってもらえば?」
ルックはオムライスを頬張ってモグモグ言いながらシーナの皿を取り上げる。
「そういえばアップルだいぶ丸くなってた気がするけど……、シーナ何かあった?」
皿を取り返そうと躍起になっているシーナに向かって、先程の仕返しとばかりに今度はギオンがニヤリと笑う番だった。
毎日毎日、そんな下らないやり取りをしながら夜は深まっていくのだった――
「ルック様?」
ぼんやりしていたところ、青いローブの小さな少女が興味深そうに手元を覗き込んできて声をかけてくる。
「あんまり近付くと危ないから、少し離れた方が良いよ」
少女が距離をとるのを確認してからルックは玉葱をみじん切りにした。
今日の昼食はお弁当を作って塔の外で食べようと言っていたのだが、お弁当の中身はオムライスだけで良いのだろうか……シチューだけよりはマシだろうか……
自問自答している間に三人前のオムライスが完成してしまった。
少女は小さな手で弁当箱の蓋を閉めて、控えめに微笑む。
「ルック様、セラにもお弁当の作り方を教えて下さい。今度お出かけのときには、セラがルック様のお弁当を作ります」
そう言われ、ルックは(これか!)と合点がいった気分になった。
かつて、可愛い恋人に手料理を振る舞ってもらいたいなどとのたまっていた奴がいたが、こういうことだったのだ。
当時は理解できず、料理くらい自身でやれば良いと何となく馬鹿にしたような感覚で聞き流していたが、今なら理解できそうだった。
この小さな少女は恋人ではありえないし、家族でもない。だが、最も親しくかけがえのない存在。その彼女が自分のために料理をしてくれると言うのだ。感謝して崇め奉りたい。
「楽しみにしてるよ」
ルックが正直にそう告げると、少女は頷いて「お任せ下さい!」と更に微笑むのだった。
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