幻水1
坊ちゃん・2主・王子の名前を変換する
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バッドエンドスチル side:ルック
「祝賀会の主役が一体どこに行こうってのさ?」
夜闇の中を行く赤い服の少年の背中に向けて、ルックは声をかける。
今夜は解放軍の勝利を祝う祝賀会なのだが、この大勝利の立役者である彼は、一人でどこかへ行こうとしていた。少年は人々を導き、今や英雄として讃えられていた。だが、果たしてそれは彼が望んだ結果なのだろうか。
ルックは少年の右手に目をやった。そこに宿るのは、親しい者の魂を狩り取るおぞましい真の紋章。
英雄となったその少年が失ったものの大きさは計り知れない。
「……行くの?」
親しい者のいないところへ、たった一人で。
案の定、少年は小さく頷いた。
たが続く言葉は、ルックが思いもしない意外なものだった。
「昔、この服をくれた人がさ、すごく穏やかに笑ってたんだよね。父の友人と一緒に、たまに家に訪ねてきてくれてたお客さんなんだ。とても強くて、優しくて、憧れたもんだよ」
「その人に会いに行くのかい?」
「あの人みたいに世界を旅していたら、いつかはあんな風に笑えるようになるかと思ってね」
「ふーん、いいけど」
そういえばこの赤い服を着た少年は、いつからか全く笑わなくなっていた。それどころか、最近では表情の変化を見ることもなくなっていたように思う。初対面のときは帝国のくだらない雑用をこなすために必死になったり、仲間たちといつでも楽しそうに笑い合っていたというのに。
(無理もないね……)
英雄としての宿命の重さ、真の紋章がもたらす運命の過酷さへとルックは思いを馳せた。
だが何故だろう、彼からは絶望を感じない。自らを知る者のないところへ一人で消えていくのではなく、また笑うために世界を旅するのだと彼は言った。そんな彼に期待に似た気持ちを持ってしまうのは、少年を英雄としてまつり上げる身勝手な人々とどう違うというのだろう。
ルックは自嘲気味にフンと鼻を鳴らした。
彼の言う“あの人”が誰なのかは知らないが、彼の身近にいた人間のことなら少しは知っている。その中に、紋章の以前の所有者がいた。紋章とともに生きて何を感じたのかは知らないが、その人物からも不思議と絶望を感じなかったのだった。
「少なくとも君の前のそいつの所有者も、随分と人生楽しんでるように見えたけどね?」
ルックの言葉に少年はぎこちなく笑う。
「へたくそだけど、まだ笑えるじゃないか。ま、せいぜい長生きしなよ。縁があればまた会うかもしれないしね」
ルックは風を集めると、魔法の力で魔術師の塔の自室へと移動した。
あの紋章の前の所有者は、300年もの間世界を見てきて何か希望を見出すことはできたのだろうか。あの無邪気な顔を思うと、もしかしたら世界は絶望ばかりではないのかもしれない、捨てたものではないのかもしれないなんて、一瞬そんな考えが頭をよぎる。
(馬鹿馬鹿しいね)
大きな運命の流れの中で、ほんのちっぽけな人の力など何になるというのだろう。
それなのに、彼がまた笑えるようになることを期待してしまう自分はなんて愚かしいのだろう。
ルックは窓の外に目をやった。夜空は晴れ渡り、ひときわ大きく輝く星がひとつ視界に入った。