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同行者クルガンさんの話
「そうだ。御祝儀って、どのくらい包むものなのかな?」
少年は目をパチクリとさせながら、城の広間中央に構えられた立派な石板の前で、はたと立ち止まった。
石板には何十人もの名前が刻み込まれている。一番上には少年の名。以下には軍の要人たちが名を連ねているのだろうか。知った名前もいくらか見受けられるようだ。
「お友達なら三万ポッチって聞くけど……。わたしたち、お友達というよりも家族に近い気がするもんね。もうちょっと奮発したいなぁ」
「え、なに……同盟軍のリーダーが、そんなはした金でお祝いだなんて言うつもりじゃないだろうね? もっと思い切りよくいきなよ、ドーンとさ」
少年の姉と、石板の前にいた魔法使いらしき子どもが口々に声を上げる。しかし少年は思案顔になって小首をかしげた。
「だけど、この前のルカ・ブライトとの戦いの支度で、だいぶ使っちゃったからなぁ。ポッチ枯渇してるんだよね……」
「そんなのすぐに取り戻せるだろ。君の左手にあるそれは、いったい何?」
「ハイ! ルック先生、金運の紋章です!」
「よろしい。じゃあ、さっさと稼ぎに行くよ。現状一番手っ取り早く稼げるのはバナーの森だけど」
魔法使いがこちらへチラリと目を向けた。続けて、彼の視線を追いかけて、少年とその姉もこちらを見つめてくる。姉弟は何やらキラキラとしたエフェクト付きだ。
「そういうわけでグルガンさん、ちょっとだけお時間いただいても?」
「ねっねっ、ジョウイのお祝いのために、ちょっとだけ。ちょっとだけ、バナーの森まで付き合って欲しいなぁ。ねっ、グルーガンさん?」
「移動はテレポートと手鏡で一瞬だし、森では僕がじゃんじゃん切り裂くんで、時間もお手間もかけさせないから安心してよ。えっと、ブルボンさん?」
彼らの提案を断るという選択肢は、端からどこにも用意されてないようで。
「私はクルガンです」
クルガンには、ただそう答えることしかできなかった。
男の名はクルガン。決して、熱を使って接着する拳銃型のからくりではない。もちろん、お菓子を販売していたりもしない。ハイランド皇国の将軍の一人だ。
都市同盟領に遣わされたクルガンの任務は、同盟軍のリーダーであるマキノ殿をミューズまでお連れすることなのだが。
バナーの村でコウという人なつこい子どもに話しかけられ、彼の手引きでトランの英雄と出会い、賊に攫われたコウを助けに向かった先で大きな魔物を倒し、さらにトラン共和国の首都グレッグミンスターに迎えられ、なぜかかつての英雄の生家でシチューをいただいている。英雄の従者が作ったというシチューは絶品であったが、自分が今こうしている理由がまったく理解できない。
あまり出過ぎても、と、クルガンはなるべく目立たないように、ただただマキノ殿に同行していた。それが良くなかったのだろうか。彼らはいったいいつになったらミューズに向かってくれるのだろう。先ほど森の中でたんまりと稼いだはずなのに、もうすっかり御祝儀のことなんて忘れてしまっているのかもしれない。というより、クルガンのことをただの仲間のひとりくらいに思っているのかもしれない。
これは由々しき事態だ。このままでは、いつか彼らが皇都ルルノイエに侵攻する際にも、クルガンは彼らの同行者として扱われるのではあるまいか。
(いや、同盟軍を皇都に侵攻させるつもりなど毛頭ないが)
思いながらも、いい加減本来の目的に戻ってもらわねばと、マキノ殿に向けて声をかけようと口を開きかけたそのとき。
「シチューはお口に合いましたか。おかわりはいかがです、ええと、ルルルンさん?」
英雄の従者がニコニコと人のよさそうな笑顔を浮かべて、こちらを覗き込んできていた。
クルガンのシチュー皿は既に空になっていた。前述のとおり、かなりの絶品だったからだ。けれど――
「私はクルガンです」
おかわりを頼むよりも、マキノに声をかけるよりも、何よりも。クルガンが言わなければならないのは、そのひと言なのだった。