ゲオルグ
坊ちゃん・2主・王子の名前を変換する
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ゲオルグの送別お茶会の話
ゆったりと雲が流れていく青空の下。
ゲオルグは温かな日差しと、かぐわしい薔薇の香りと、湯気に混じるフルーティな紅茶の香り、そして食指を動かす甘い甘い菓子の香りに身を包まれていた。
色とりどりの花が咲き乱れる、手入れの行き届いた庭園。目の前には、色とりどりの花のような、奇抜な色の衣をまとった男が優雅に腰掛けている。金をあしらった繊細なティーカップを上品に持ち上げてから、男は髭を蓄えた口元へと運んだ。
なんだか目がチカチカして、ゲオルグは数度まばたきをした。片目で見るには、多少情報量が多すぎる。
「それにしても、貴方が騎士とは。ぶふっ、騎士……。聞きましたか、テオ? ゲオルグが騎士ですって!」
派手な出で立ちの男――ミルイヒは、おかしそうに肩を震わせながら、ケーキスタンドの一番下の段に着手した。
一方、話を振られたテオはと言うと、武人らしく飾りの少ない色味を抑えた服を着込んでいる。彼は「聞いたが何か?」と、表情を動かすこともなく、静かに茶を啜った。
「これでも宮廷務めには慣れているつもりなんだが。あんたと同じで」
ミルイヒの反応が不服だったので、ゲオルグは『あんたと』とわざと強調してみせた。
ケーキスタンドに並べられた菓子に、食べる順番などといったマナーはあるのだろうかと、いつも思う。ミルイヒの真似をすれば間違いはないのかもしれない。わかってはいるのだが。ゲオルグは一番上の段にあるチーズケーキを真っ先に指先でつまんで、口の中にヒョイと放り込んだ。
「ほら、そういうがさつなところですよ! それに、言葉遣いも。貴方、クラウディア様にもタメ口で話していたでしょう!」
「ああ、最初に『かしこまらないでくれ』と言われたからな」
「それで本当にかしこまらなくて良いわけがありますか!」
ミルイヒがこちらを睨みつけてくる。キーッという効果音でも立てそうな剣幕だ。
いったい何がいけないというのだ。言われた通りにしただけだというのに。
給仕にチーズケーキのおかわりを頼んでから、ゲオルグはプリンを丸飲みにした。
チーズケーキをしこたまおかわりして(ミルイヒに『わんこチーズケーキ』と称された)、ゲオルグの満腹中枢がようやく満たされてきたかという頃、茶会はお開きとなった。
この庭園での茶会に呼ばれるのは、これが最後になるはずだ。ゲオルグは赤月帝国を離れて、はるか南方の国で騎士として迎え入れられることとなっている。
この度は送別会としてミルイヒが催した茶会だったが、正直な話、宴を開かれるよりはずっとありがたい。
ゲオルグは酒の良さというのがあまりよくわからないのだ。大量摂取して昏睡するのであれば、甘い甘い菓子の方がずっと魅力的だろう。
ド派手な出で立ちの男は、レースがこれでもかというほどふんだんにあしらわれた白いハンカチ(水分を拭き取れるのか甚だ疑問である)で目元を抑えていた。
「手紙をよこしていただければ、オッペンハイマー特製の菓子を送りましょう」
「それには及ばん。あちらの都に、新しくチーズケーキを扱う店ができたらしいからな」
「貴方……。チーズケーキに釣られて、なにか騙されているんじゃないでしょうね?」
「いや、そんなことはない……はずだ」
きっぱり断定をしきれずに、ゲオルグは咳払いをする。
「まぁ、しかし、あれだ。なんらかのタイミングであんたがかの国に遣わされることがあれば。そのときは頼む」
「ふふ、任されましたよ」
面白がるように笑うミルイヒの目元には、案の定涙の痕跡はひとすじもなかった。
ゲオルグは吹き出しそうになるのを堪えながら、芝居がかった仕草の男に「世話になったな」と伝えた。
「ああ、貴方がいないと、茶飲み仲間がいなくなってしまいますね。テオはお誘いすれば必ず来てくれますが、この通り堅物。茶菓子もあまり好まないようですし」
「好まないわけではない。よそで食べてくるなと言われているだけだ。菓子は妻が毎日焼いているからな」
ボソリと注釈をつけるテオに、ミルイヒは「仲睦まじいようで何よりですよ」と返してから話を続ける。
「カシムとクワンダは雅な文化への理解が欠けていますからね……顔を出しもしません。近頃はキラウェアも応じてくれなくなりましたし」
「年食って、甘いものが食べられなくなったんだろ」
「ほらほらほら、もう、そういうところですよゲオルグ! レディに対して、なんという失礼なことを……」
キラウェアが若年でないことは事実だ。
しかし、このままではミルイヒの長ったらしい説教を食らう羽目になってしまう。せっかくの美味い菓子の余韻が、苦いものとなってしまってはもったいないだろう。
ゲオルグは早々にミルイヒの屋敷を立ち去ることとした。
後ろ髪を引かれたわけではないが、ふと振り返ると、彼らの目は既にこちらには向けられていなかった。その真剣な表情を見るに、将軍同士としての話をしているに違いない。
そういうものだろう。
かつてともに赤月帝国将軍として肩を並べた彼らからそっと視線を外して、ゲオルグは前を向き直した。
はるか南を目指して。
ゲオルグは青空を流れる雲とともに、ゆったりと足を踏み出した。
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