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名前を言うのもはばかられる協力攻撃に関する会議の話
外光の遮られた、薄暗くてだだっ広い一室。部屋の中央に位置する大きな円卓で、三人は顔を突き合わせていた。
正確に言うと、三人と一匹だ。膝の上で白い生き物が、もぞもぞと居心地悪そうに身じろぎをしている。フッチは落とさないように、しっかり抱え直した。息の詰まりそうな真っ暗な室内。この子竜にとっては、さぞや不快に違いない。その上、円卓の向こう側には、不機嫌の圧で今にも大魔法を暴発させそうな、恐ろしく美しい顔の魔術師が鎮座している。
魔術師の少年は、この中では最年長だった。彼は顎の下で手を組んでいて、その眉間には深い深いシワがきざまれていた。
「今日、君たちに集まってもらったのは、他でもない――」
重々しい空気の中、魔術師はポツリと切り出した。彼の言葉が発せられると同時に、重たい空気は超重量級へと変化を遂げる。
「びしょ……ええと、その。僕たち三人の、名前を言うのもはばかられる協力攻撃について話すためだ」
「美少年攻撃な」
「うるさい黙れ」
口を挟んだ最年少の忍者を一喝してから、彼は忌々しそうに頭を抱えた。
「正直、こんな馬鹿げた協力攻撃なんてやってられないんだよ。この中に、ルカ・ブライトに飛びかかってやってもいいっていう、奇特な人間はいる?」
魔術師の発した狂皇子の名――というか、皇家の姓に反応して、膝の上の子竜が顔を上げてバサバサと小さな翼を動かしはじめる。
魔術師の視線がこちらに向けられたことに気付いて、フッチは己のネーミングセンスを呪った。
(なんで僕は、この子にブライトなんていう名前を付けたんだろう!)
初代の竜がブラックという名の黒竜だったから、二代目である白竜はブライト。なんて安直だったのだろうか。
「ねぇ、フッチ」
魔術師の整った口元に、ニヤリと笑みが浮かんだ。ただし宝玉のような瞳は一切笑っていない。
フッチの服の中で、嫌な汗がツゥと背中を伝い落ちる。
「君はさ、ハンフリーよりも強いの? ハンフリーが出ないのに、どうして君が出てくるの。ルカ・ブライトなんて楽勝だとでも思ってる?」
「思ってません……」
フッチは涙目になって涙声で答えた。
しかし、彼の言うことが事実であったとしても、だ。重要な戦局における人選は、軍主や軍師といったお偉方の決めること。フッチが自らルカ・ブライトと戦いたいなどと志願するはずはなかった。
ちなみに対ルカ・ブライトの作戦行動中、件のハンフリー・ミンツには子竜のお世話を依頼している。この魔術師の前では、口が裂けても言うつもりはないが。不機嫌な魔術師をこれ以上刺激してはならないと、フッチの本能が告げていた。
「サスケも。なんで君? レパントが派遣したのはカスミだろ。君に、カスミに勝てるほどの実力があるとでもいうの?」
魔術師の八つ当たりは、忍者の少年にまで飛び火した。最年少の彼は、幼いながらに男らしく整った凛々しい眉をひそめる。
「カスミさんは、ハンゾウ様の手伝いのために里に帰ってるんだ。ハンゾウ様ギックリ腰なんだから、仕方ないだろ」
「ハンゾウ、もうちょっと役に立てよ」
「何言ってんだ! ルックだって、魔女のお師匠様がギックリ腰になったら、手伝いに戻るんだろうが!」
「そっちこそ何を言ってるんだ。レックナート様がギックリ腰になんてなるわけないだろ!」
何やら雲行きが怪しくなってきた。窓のない部屋の中から外の様子は伺い知れないが(そもそもデュナン城にこんな部屋あったのか?)、空気は重たくじっとり湿っていて、遠くでゴロゴロと雷鳴がとどろきはじめる。ゲリラ豪雨待ったなしだ。
フッチはふたりとも何言ってるんだと思いながら、温かい子竜を抱きしめて後頭部をスンスンと吸った(こうすると気持ちが落ち着くのだ)。
「あのさ、それで。今日はびしょ……いや、うん、例のあの協力攻撃のことを決めるんだよね?」
「びしょうね……むぐ」
フッチは忍者の口を手のひらで塞いだ。軍主考案の恥ずかしすぎる技名は、聞くに堪えない。
「まず、このグループのリーダーを決めようよ。実践でこの協力攻撃を使うかどうかはさておき」
「異論はないよ。マキノからの指示は、リーダーを通してもらう形がいいと思う。実践で使うことはまずないだろうけどね」
最年長の少年の眉間のシワがわずかに浅くなったのを見て、フッチはコッソリと胸を撫で下ろす。
「じゃあ、まずは立候補。我こそは、っていう人?」
「はい! はい!」
忍者の少年が元気いっぱいに手を挙げた。意志の強そうな瞳がキラキラと輝いている。
フッチと魔術師は一瞬顔を見合わせると、即座に「どうぞどうぞ」と口を揃えた。
(誰もやりたくないだろうと思ってたけど、サスケはやる気満々だ。これは思ったよりもスムーズに決まるかもしれないぞ!)
淡い期待を抱きながら、フッチは子竜の前足を掴んでニギニギした。
「それで肝心の攻撃なんだけど。サスケと僕は、物理攻撃の方が良いと思うんだ。無理して魔法を使おうとしても、詠唱にすごく時間がかかる上に、威力も大した事ないからね……。実際にルカ・ブライドに飛びかかるかどうかはともかくとして」
「それなら僕は、君たちに続いて魔法攻撃を仕掛けようと思う。僕がロッドで叩いても、ルカ・ブライトは痛くも痒くもないだろ。実際に君たちが飛びかかることもないだろうけど」
話はまとまりつつあった。というよりも、もともと話し合うことなど大してなかったのだ。協力攻撃と言っても、やることはいつもと同じ。各々が得意な技で攻撃をするだけだ。ただ、三人でまとまって行動するというだけで。その上、フッチと魔術師の少年に関しては、実践でこの協力攻撃に頼るつもりはハナからないのであった。
「そうだ、俺、いいもの持ってるんだ」
忍者の少年は、懐から何かを出してみせた。身代わり地蔵だ。
「ここに来るとき、里の皆が餞別にくれたんだ。いっぱいもらったから、ふたりにも分けてやるよ。俺、リーダーだからさ!」
彼はニカッと笑って、真っ白な歯を見せた。
「ありがとう。使わせてもらうよ。本当にルカ・ブライトに飛びかかるわけじゃないけど」
「それなら、僕からもこれを君たちふたりに渡しておくよ」
言って、魔術師がゴソゴソと取り出したのは札だった。魔法札の中でもかなりの威力を誇る、天雷の札だ。
「地道な物理攻撃よりも効果はあると思う。詠唱もしなくていいし、なんと言っても、本当にルカ・ブライトに飛びかからなくても済むだろ」
彼の眉間からはついにシワが消え去り、平常時の美しさを取り戻しつつあった。
(よかった、これで円満にまとまりそうだ!)
フッチは膝の上の子竜をギュウと抱きしめた。それに合わせて、子竜が喜びの鳴き声を上げる。
「それで、もしも協力攻撃の指示が出たら、俺が号令をかけるってことでいいか?」
ワクワクした表情の最年少リーダーの言葉に、フッチと魔術師は再び顔を見合わせた。そして、「どうぞどうぞ」と即座に返答をする。
なんでも構わないだろう。どうせこの協力攻撃を使うことはないのだから。
かくして、名前を言うのもはばかられる協力攻撃に関する会議は閉会となった。
今回の作戦会議を命じてきた軍主には、リーダーとなった忍者の少年が報告に行くことになっている。協力攻撃というよりは、対ルカ・ブライト戦を見据えてアイテムを有効に活用する作戦を立てただけのような気もするが、懐にしまった身代わり地蔵と天雷の札はかなり心強い。
真っ暗な部屋を出ると、外はピカピカに晴れ渡っていた。どこかで雷鳴が鳴っていたのが嘘のようだ。通り雨が過ぎ去って、空気は澄んでいる。フッチの腕の中の子竜もご機嫌だった。
今からへそくりで特効薬を買い込んできて、ふたりに配ろうか。そんなことを考えながら、フッチは清々しい気持ちで、城の中を歩き始めた。
フッチはまだ知らない。この後、対ルカ・ブライト作戦行動中に、軍主から美少年攻撃の指示が下されるということを。
フッチは忍者の少年とともにルカ・ブライトに飛びかかることになり、さらには魔術師の少年の強力な魔法を被弾して、三人はもとの険悪な状態に戻ることになるのだが――それはまた別の話。
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