他キャラ
坊ちゃん・2主・王子の名前を変換する
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
嘘つきお姉ちゃん
ナナミの家族は、じいちゃんと弟のふたりだけだ。
どちらも血は繋がっていないけれど、ナナミにとってはかけがえのない存在だった。
じいちゃんは貰われ子のナナミと弟に対して、厳しくも、愛情をもって接し、育て上げてくれた。
『血縁のないナナミの家族』と、いわゆる『本物の家族』との間に、一体どれほどの違いがあるというのだろう。そうは思うものの、世間的には認識が異なるらしい。
気の弱い弟は、貰われ子であることで、たびたび街のこどもらに虐められてきた。
彼らにとっては、遊びの延長だったのだろう。けれどナナミには、家族が傷付けられるのを黙って見過ごすことなんてできなかった。
涙をこぼす小さな弟のもとへ、息を切らして駆け寄る。
指先が、足が、震えた。肺も震えて、絞り出すように呼吸をする。
じいちゃんから武道を教え込まれていたとはいえ、当時のナナミはまだまだ力の弱い幼いこどもだった。
(もしも仕返しをされたらどうしよう。いっぺんに殴って来られたら、敵うはずなんて――)
胸の内でそんな弱音を吐く自分は、意識の奥底に閉じ込めて。
(マキノはお姉ちゃんが助けてあげなきゃ!)
必死になって大声を上げながら、ナナミは意地悪なこどもたちを追いかけまわした。
ナナミが引き取られたとき、じいちゃんは既にそこそこ高齢だった。
歳の割には健康的で、体を鍛え上げていることもあり、はつらつとした人だったように思う。
それでも、人はいつか必ず死にゆく。じいちゃんはその時に備えて、自活するための術を姉弟に教え込んだ。
料理はほんの少し苦手だったものの、ナナミも弟も、幼い頃から身の回りのことはすべて自分でやってきた。
その甲斐あって、じいちゃんが死んでしまったときにも、ふたりは生きていくことができた。
(いつまで二人で生活し続けられるんだろう。じいちゃんはもういないのに……)
胸の奥で不安がるナナミ自身を、叱咤してむりやり黙らせて。
「マキノにはお姉ちゃんがいるから、大丈夫だからね」
表情をくもらせる弟を、ナナミはギュッと強く抱きしめた。
そうして、嘘を重ねながら、少しずつ、少しずつ、ナナミは強くなっていった。
けれど――
(本当はね、私は全然強くなんてないの)
真っ黒な渦に飲み込まれそうなときには、いつでも弟を言い訳にして心を殺し、自分を奮い立たせてきた。
弟は既に知っているだろう。
ナナミは決して強くないこと。何も持たない、ただの怖がりな、ひとりの娘なのだということ。
それでも、ナナミは『お姉ちゃん』であり続けたかった。
(だって私には、それしかないんだもの)
死ぬことが、弟と離れることが、怖くて。弟をこんな怖いところに置いていくことも、恐ろしくてたまらなくて。
ずっとずっと禁じ続けてきた涙が、今にも溢れそうだったから、最後の最後にずるいお願いをしてしまった。
「……お姉ちゃん」
(そうだ、私は『お姉ちゃん』だから、マキノの前で泣いたりなんてしないんだよ)
最後まで弟を言い訳にして、ナナミは顔に笑みを貼り付けた。
『お姉ちゃん』であることがナナミの存在意義だから。
本当はナナミよりもずっと強いマキノの腕の中で、ナナミは静かに瞼を下ろした。