坊ちゃん
坊ちゃん・2主・王子の名前を変換する
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ルックが坊の尻を蹴る話
戦況はお世辞にも良いとは言い難い状態だった。
小高い丘から見渡すと、解放軍の仲間たちが次々に倒れていくのがよく見て取れる。
だが不思議と気持ちに焦りはない。むしろ頭は冴え渡り、冷静に状況を受け止めているという自覚があった。
――この状況を簡単にひっくり返す方法が、ひとつある。
マッシュの策に頼らずに、自力で打開する方法だ。最も手っ取り早く、そして仲間の犠牲もおそらく一番少なく済むだろう。
(帝国軍の者たちの魂を、こいつで根こそぎ刈り取る)
魔法の使い方など誰に習ったこともないが、なぜかこの紋章の力だけは最大限引き出すことができるという自信があった。根拠などない。だが、それは間違いないと、確信していた。
ギオンは棍を地面に投げ捨てた。続いて、右手の手袋を外して放り投げる。
スゥ……と大きく息を吸う。右手を高く掲げ――
「何やってんの」
背後から声がかかると同時に、勢いよく尻を蹴り飛ばされる。
ギオンは成すすべもなく倒れ込んだ。地べたに手と膝を付く。
右手にヒリヒリとした痛みが走る。どうやら擦りむいてしまったらしい。手袋を外していたせいだ。
突然のことに呆然としていると、背後から声を投げかけられる。
「紋章に使われてるんじゃないよ」
舌打ちしながらそう言い放ったのは、魔法使いの少年だった。
「ルック」
名前を呼びながら、のそりと身を起こす。思いもよらぬ横槍に驚き、ギオンはいまだ混乱した頭のままで、ルックの方へと向き直った。
ルックはかがんで棍と手袋を拾い上げると、ローブの裾についた砂埃を嫌そうに払った。
「慣れないことするもんじゃないよ」
彼が「ホラ」と押し付けてきたのは、ギオンの根と、右の手袋。
「後衛にはこの僕がいるんだ。魔法で君の出番なんてないからね」
言いながら、ルックは再度ギオンの臀部をブーツで蹴り飛ばしてくる。
「脳筋は脳筋らしく、前衛で戦ってなよ」
蹴られた勢いのまま、ギオンは駆け出した。
先程とはうってかわって、焦燥感を覚えている自分に気付く。
冷静なつもりでいた。だが違う。あれは紋章の意思に違いない。
(僕の意思は――、こっちだ!)
辛辣な魔法使いに感謝しつつ、全力で前線へ走る。
擦りむいて痛む右手には、しっかりと手袋をはめながら。