ルック
坊ちゃん・2主・王子の名前を変換する
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脱・小間使い計画 の話
普通。当たり前。一般的。
誰しもが各々の「当然」を持っていて、それらは人によって異なるものである。
であれば、元帝国貴族の嫡男である彼の言う「当然」と、豪商――いや、今は共和国初代大統領だが、ともかくその一人息子の言う「当然」と、ルックにとっての「当然」が同一のものであろうはずがなかった。
(そんなこと、わかってるけどさ……)
師が昨晩食べ散らかしたと思われるお菓子のゴミをかき集めてクズ籠に放り込み、ルックは大きな大きなため息を吐き出した。
彼らに言わせれば、こういった仕事は下男や下女といった立場の者が請け負う仕事なのだそうだ。
(いや、僕は別に下働きをしてるわけじゃなくて、レックナート様のれっきとした一番弟子だし)
ルックはハタキで壁の埃を落とし始めた。このあと床の掃き掃除をして、拭き上げて、師の昼食の支度をして、――ああそうだ、食材が残りわずかだったからそろそろ買い出しにも行った方が良い――
考え始めたところで、ルックはハタキを動かす手をピタリと止めた。
(いや、僕は小間使いじゃなくて、レックナート様の一番弟子なんだけどな?)
小首を傾げる。
何かがおかしい。
もしかして――
(もしかして、僕、ただの小間使いに成り下がってる?!)
恐るべき事態に気付いてしまい、ルックはその場にへたり込んだ。
(いけない、このままではいつまでもアイツらに馬鹿にされてしまう! 小間使い脱却を目指さなければ……!)
グルグルと思考を巡らせながら、ルックはここに脱・小間使い
掃除を完璧にやり遂げる必要が一体どこにあるというのだろう。客人が来るわけでもないし、師は盲目だ。
(今日は掃き掃除だけでもいいだろ)
サッサッと手際よく箒を動かして、目に見える大きな塵だけを取り除いていく。
(いや、風でやればもっと早いんじゃないか)
ルックは紋章に意識を集中して、風の力で塵を一箇所に集めた。
昼食を支度して、師のタイミングに合わせて上げ膳据え膳にしてやる必要が一体どこに? 盲目とは言っても、彼女の日常生活には何の支障もないはずだ。
(作り置きをしておけばいいだろ)
あり物の野菜を超高速で刻んで、米と炒め合わせて味を付け、薄焼き卵で包む。調味料の多用は体に良くないそうなので、味は薄めである。トレイに皿とスプーンを乗せ、『チンして召し上がって下さい』とメモを添えれば完璧だ。
(レックナート様に何か言われたら面倒だから、今のうちに買い出しに行けばいいんじゃないか)
ルックは紋章に意識を集中して、風の力で街まで移動した。
マメに買い出しをする必要などどこにもないだろう。師に必要なものはまとめ買いしておけば良いのだ。
(小分けで買うより安いし、良いことしかないだろ)
師のお気に入りの茶葉とお菓子、師が読みたがっていた本、師が好きな食事を作るために必要な食材や調味料。猛烈な速さであちこち駆け回って買い込んでいく。
(しかも時短料理可能な食材中心で、僕って本当に有能なんじゃないか)
ルックは紋章に意識を集中して、風の力で魔術師の塔へ帰っていった。
「あら。ルック、帰ってきたのですね」
買い込んできた大量の品を仕分けていると、師の声が聞こえた。
まずい。割り振られた仕事を全て適当に済ませようとしたのがバレて、説教をされるのでは。
恐る恐る振り返ると、意外なことに、師はニコニコと満面の笑みを浮かべていた。
「まぁまぁ。私のためにこんなにたくさん買い込んで来てくれたのですね。多くの店を回って、さぞ忙しかったでしょう。お昼のオムライスの支度もご苦労さまでした。美味しくいただきましたよ」
ルックが買ってきたものの中から本を選び取り、師は礼を告げて自室の方へと足取り軽く戻っていった。
(そう。僕は有能だから、掃除も料理も買い出しも手際がいいし、レックナート様が必要なものを的確に準備することだって――、……あれ?)
小首を傾げる。
何かがおかしい。
もしかして――
(もしかして、全然小間使い脱却できてない?!)