坊ちゃん
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バッドエンドスチル side:坊
「祝賀会の主役が一体どこに行こうってのさ?」
夜闇の中、背後から声をかけられて、ギオンは振り返った。誰にも見られずに抜け出して来られたと思っていたのだが、若草色のローブを纏ったその魔法使いにはバレてしまっていたようだ。
「……行くの?」
言葉少なにそう言う彼に、ギオンはひとつ頷いた。
この魔法使いは普段は口が悪くて余計なことばかり言ってくる癖に、こういうときは途端に口数が少なくなるのだ。励ましてくれるわけでもないが、否定も肯定もしない。ギオンは彼のそういうところが気に入っていた。
「昔、この服をくれた人がさ、すごく穏やかに笑ってたんだよね」
言いながら、ギオンは自身が纏う緋色の衣を掴んだ。
「父の友人と一緒に、たまに家に訪ねてきてくれてたお客さんなんだ。とても強くて、優しくて、憧れたもんだよ」
恐ろしく綺麗な顔をした男の人だった。そして優雅な所作と鮮やかな三節棍捌き。思えば自分が棒術を学び始めたのは、あの人の影響が少なからずあるだろう。あまりにしつこく付き纏う自分を邪険に扱うこともせず、代わりにこの赤い服をくれた。あの人はいつも優しく穏やかに笑っていてくれた。
それからしばらく経って異国の近代情勢を学び始めた頃、あの人が誰なのかを知った。何となくそうだと思っただけで、父と話したり誰に聞いたというわけでもないのだが――。
当時は気付きもしなかった。あの人にも大きな傷跡があったはずなんだ。
「その人に会いに行くのかい?」
整った顔の魔法使いはそう問いかけてきた。
会って話してみたい。でも、もし会えなくても――
「あの人みたいに世界を旅していたら、いつかはあんな風に笑えるようになるかと思ってね」
「ふーん、いいけど。少なくとも君の前のそいつの所有者も、随分と人生楽しんでるように見えたけどね?」
フンと鼻を鳴らして魔法使いは告げた。
確かにそうだ。
テッドとはいつも笑い合って遊んでいた。くだらないことで笑い、木登りや釣りや狩り、色んなことを一緒にして過ごした。テッドもまた、300年もの間ひとりでこの紋章を守ってきたというのに。
テッドとは距離が近すぎて、つい忘れてしまいそうになる。唯一無二の親友に違いはないのだが、彼もまた自分とは比べ物にならないほどに世界を見てきた人なのだ。
ギオンが思わず苦笑すると、魔法使いはニヤリとした。
「へたくそだけど、まだ笑えるじゃないか。ま、せいぜい長生きしなよ。縁があればまた会うかもしれないしね」
喋りながら、その魔法使いは風と共に姿を消した。
雲が流れ、夜闇を照らす星がひとつ光り輝いていることに気付く。
いつまで続くのか、どこまで行くのか、まったく当てのない旅になるが、ギオンはその星に向かって足を進め始めることにした。