第一章
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タクシーを止めたのは握手会をしていた筈のダンデだった
窓越しに肩で息をする彼を見ながらナマエは下げようとしたマスクを咄嗟に戻し警戒し体を強張らせ何を言われるのかと緊張する
「すまないっ、はぁ…ん、君に聞きたい事があって」
『すみませんが急いでるので』
あまり会話をしてはボロが出るかもしれない
声色を変えこれ以上関わりたくない事を伝えるがダンデは話を聞かずタクシーのドアを開けようとしだし、ナマエも慌てて内側から開きかけたドアを握りしめる
「少しでいいんだ!話をさせてくれっ!」
『こっちはないです!てか開けないでください!』
ギチギチと内側と外側に引っ張られるドアは僅かな隙間が開いたり閉じたりし悲鳴をあげる
だがこれも時間の問題だろう、力の差がありドンドンと扉が開き始めナマエは内心焦りだす
『無理矢理開けないでください!なんなんですか!怖いんですよけどっ!』
「君が俺の話を聞いてくれないからだろ!」
『そんなの知りませんよ!運転手さん!構わず出発してください!』
「え、いやぁ〜困ったな…これじゃ飛べませんよ」
『ほら!営業妨害ですって!早く離してください!』
「君が少し時間をくれればすむ話だろ!!」
運転手も困る状況だ
子供の喧嘩のような二人は引くに引けず、ドア一枚を挟みヒートアップしながら声が大きくなっていく
「なんでそんなに嫌がるんだ!そもそも握手会に参加してたじゃないか!俺に興味があるからだろ!」
『〜〜!興味なんかじゃないっっ!!』
咄嗟に彼女は内側に引っ張っていたドアから手を離し、抵抗がなくなったドアはダンデ側へと大きく開く
抵抗する力がなくなりガクンとバランスを後ろへと崩しかけたダンデの胸をナマエは力いっぱい蹴り、無防備な彼は衝撃により地面へと尻餅をついてしまう
「っ!」
少女の蹴りはさほど痛くはない
ただ蹴られた事と転んだ事に驚き目を大きく見開いたまま前を見れば
タクシーの中で仁王立ちした少女がコチラを見下ろしており
『チャンピオン…勘違いしないで!次のジムチャレンジではあたしが勝つっていう宣戦布告しに来ただけだから!!』
「………君は」
『運転手さん!出してください!』
「ハイハイ!ナックルシティですね!」
ドアを勢いよく閉めれば、運転手の指示によりアーマーガアは大きな黒い翼を羽ばたかせてタクシーはふわりと宙に浮かび上がる
翼が起こす風がダンデの長い髪を乱し、頬や目元に触れる髪を鬱陶しそうに手で退かしながら彼は高く飛び上がっていくタクシーから目を離せなかった
ナックルシティの方向へと飛んでいく姿を見ながらダンデはゆっくりと立ち上がると地面に落としてしまった黒いヒトカゲのぬいぐるみを拾い上げ、首元に挟まれたカードを改めて確認した
「……ニンジンも食べれないチャンピオンには負けません……か」
カードを見つめる彼は困っても怒ってもいない
寧ろ嬉しそうに瞳を潤ませており
「君…知らないだろ?俺が昔ニンジン嫌いだったと知っているのは家族以外は一人しかいないんだぜ?」
ここは外だ、誰が見ているかもしれないというのにダンデは黒いヒトカゲのぬいぐるみを愛しそうに胸に抱きしめながら俯き
「君なんだろ?………ナマエっ」
ようやく見つけた幼馴染みの可能性に喜びが溢れ抑えきれない感情は熱い涙となり長い睫毛を濡らした
「っ、こうしちゃいられない!リザードン!」
濡れた目元を乱暴に手の甲で拭いリザードンを呼び出すとダンデはぬいぐるみを彼の顔へと寄せ
「この匂いを覚えてくれ、ナックルシティで人を探したいんだ」
鼻先をぬいぐるみへと寄せるとリザードンは遠い記憶にある懐かしい匂いを思い出し信じられないと言った顔で直ぐ様相棒を見つめた
「ああ!彼女だ!ナマエに違いない!」
マントを揺らしながらリザードンの背中に飛び乗った瞬間、後ろから息を切らせたスーツ姿の男が走ってきた
どうやら今回の握手会のスタッフらしい
「ダンデさん!何処へ行かれるんですか!まだ握手会は終わってませんよ!」
「すまない!とても大事な急用ができたんだ!」
短く謝ると彼はこれ以上は待てないとばかりにリザードンと空高く飛び上がりナックルシティを目指し、地上では残されたスタッフが頭を抱えていた
ナックルシティへと戻ってきたナマエはフードを深く被り直すとトボトボと宛もなく歩き出した、真っ直ぐに帰る気にもなれず寄り道でもしようとスイーツや雑貨屋が並ぶ通りを歩いては先程のダンデの顔を思い出した
『(なんだろ…なんでこんなにイライラしてるんだろ)』
マスクをしていたからとは言え他のファンと同じ扱いをされたから?
ライバルだったのにチャンピオンになってしまったから?
……自分を置いて大人になってしまったから?
それとも正体をバラした時、彼の反応を見るのが怖いと思ってしまったから?
自分の気持ちが分からずモヤモヤとした気持ちばかり大きくなり足が重くなる
このまま何処か遠くへ行ってしまおうか…と、ぼんやりと考え込んでいると
「チビちゃん?」
ここ最近よく聞く声に体が自然と反応し顔を上げると少し離れた先でコチラを見るキバナと目が合った
彼は買い物中だったのか片手に紙袋を抱いており、すぐに人混みを掻き分けナマエの元へと近寄った
「外に出るなんて珍しいな?なんか欲しいもんでもあったのか?」
『……別にないです』
「んー?なんだ?元気ねぇな?あ!さては欲しいもんが高かったか?なんならお兄さんが買ってやろうか?」
ヘラリといつもの調子で冗談を言ってみるが今日は彼女の機嫌が悪すぎる
『なんでもないですってば!!』
思ったよりも声が出てしまった
『あ、ちがっ…あたしっ』
世話になっている恩人に怒鳴るなんて…
ナマエの顔はみるみる青くなり彼女は震える手でマスクの上から自分の口元を抑え肩をすくめた
「ナマエ?おい、大丈夫か?」
『ごめっ…ごめん…な…いっ…ごめんなさっ…ひっ、ぅ、うぅ』
感情が制御できない
突然目元が熱くなり喉奥が狭くなった気がした
息をしたいのに勝手に喉が鳴り出し上手く呼吸ができない
いつの間に溜まったのかポロポロと溢れ出す涙に困惑し背中を丸めると目の前の彼の足元に紙袋がドサリと落ち
次の瞬間大きな腕が彼女を抱き上げ浮遊感が襲ってくる
『っ、キバナさ、ひっ、んんっ』
「いいから……黙ってろ」
紙袋の代わりに彼女を抱っこするとキバナは何事もなかったように歩きだし家への道を進む
母親が小さな子供を抱っこしているようにお互いの肩に顎を乗せ密着した成人男性と少女の姿は目を引くものがある
沢山の人々に見られながらキバナは堂々としており、ナマエは申し訳なさに眉を寄せつつ彼の首に抱きつき顔を首元へと押し付けた
ふわりと香る香水の匂いは優しくて、抱かれた腕は安心感を与えてくれた
抱っこされた浮遊感が気持ちよくて褐色の首筋に涙を流しながらもナマエはキバナに初めて素直に甘えられた気がした
窓越しに肩で息をする彼を見ながらナマエは下げようとしたマスクを咄嗟に戻し警戒し体を強張らせ何を言われるのかと緊張する
「すまないっ、はぁ…ん、君に聞きたい事があって」
『すみませんが急いでるので』
あまり会話をしてはボロが出るかもしれない
声色を変えこれ以上関わりたくない事を伝えるがダンデは話を聞かずタクシーのドアを開けようとしだし、ナマエも慌てて内側から開きかけたドアを握りしめる
「少しでいいんだ!話をさせてくれっ!」
『こっちはないです!てか開けないでください!』
ギチギチと内側と外側に引っ張られるドアは僅かな隙間が開いたり閉じたりし悲鳴をあげる
だがこれも時間の問題だろう、力の差がありドンドンと扉が開き始めナマエは内心焦りだす
『無理矢理開けないでください!なんなんですか!怖いんですよけどっ!』
「君が俺の話を聞いてくれないからだろ!」
『そんなの知りませんよ!運転手さん!構わず出発してください!』
「え、いやぁ〜困ったな…これじゃ飛べませんよ」
『ほら!営業妨害ですって!早く離してください!』
「君が少し時間をくれればすむ話だろ!!」
運転手も困る状況だ
子供の喧嘩のような二人は引くに引けず、ドア一枚を挟みヒートアップしながら声が大きくなっていく
「なんでそんなに嫌がるんだ!そもそも握手会に参加してたじゃないか!俺に興味があるからだろ!」
『〜〜!興味なんかじゃないっっ!!』
咄嗟に彼女は内側に引っ張っていたドアから手を離し、抵抗がなくなったドアはダンデ側へと大きく開く
抵抗する力がなくなりガクンとバランスを後ろへと崩しかけたダンデの胸をナマエは力いっぱい蹴り、無防備な彼は衝撃により地面へと尻餅をついてしまう
「っ!」
少女の蹴りはさほど痛くはない
ただ蹴られた事と転んだ事に驚き目を大きく見開いたまま前を見れば
タクシーの中で仁王立ちした少女がコチラを見下ろしており
『チャンピオン…勘違いしないで!次のジムチャレンジではあたしが勝つっていう宣戦布告しに来ただけだから!!』
「………君は」
『運転手さん!出してください!』
「ハイハイ!ナックルシティですね!」
ドアを勢いよく閉めれば、運転手の指示によりアーマーガアは大きな黒い翼を羽ばたかせてタクシーはふわりと宙に浮かび上がる
翼が起こす風がダンデの長い髪を乱し、頬や目元に触れる髪を鬱陶しそうに手で退かしながら彼は高く飛び上がっていくタクシーから目を離せなかった
ナックルシティの方向へと飛んでいく姿を見ながらダンデはゆっくりと立ち上がると地面に落としてしまった黒いヒトカゲのぬいぐるみを拾い上げ、首元に挟まれたカードを改めて確認した
「……ニンジンも食べれないチャンピオンには負けません……か」
カードを見つめる彼は困っても怒ってもいない
寧ろ嬉しそうに瞳を潤ませており
「君…知らないだろ?俺が昔ニンジン嫌いだったと知っているのは家族以外は一人しかいないんだぜ?」
ここは外だ、誰が見ているかもしれないというのにダンデは黒いヒトカゲのぬいぐるみを愛しそうに胸に抱きしめながら俯き
「君なんだろ?………ナマエっ」
ようやく見つけた幼馴染みの可能性に喜びが溢れ抑えきれない感情は熱い涙となり長い睫毛を濡らした
「っ、こうしちゃいられない!リザードン!」
濡れた目元を乱暴に手の甲で拭いリザードンを呼び出すとダンデはぬいぐるみを彼の顔へと寄せ
「この匂いを覚えてくれ、ナックルシティで人を探したいんだ」
鼻先をぬいぐるみへと寄せるとリザードンは遠い記憶にある懐かしい匂いを思い出し信じられないと言った顔で直ぐ様相棒を見つめた
「ああ!彼女だ!ナマエに違いない!」
マントを揺らしながらリザードンの背中に飛び乗った瞬間、後ろから息を切らせたスーツ姿の男が走ってきた
どうやら今回の握手会のスタッフらしい
「ダンデさん!何処へ行かれるんですか!まだ握手会は終わってませんよ!」
「すまない!とても大事な急用ができたんだ!」
短く謝ると彼はこれ以上は待てないとばかりにリザードンと空高く飛び上がりナックルシティを目指し、地上では残されたスタッフが頭を抱えていた
ナックルシティへと戻ってきたナマエはフードを深く被り直すとトボトボと宛もなく歩き出した、真っ直ぐに帰る気にもなれず寄り道でもしようとスイーツや雑貨屋が並ぶ通りを歩いては先程のダンデの顔を思い出した
『(なんだろ…なんでこんなにイライラしてるんだろ)』
マスクをしていたからとは言え他のファンと同じ扱いをされたから?
ライバルだったのにチャンピオンになってしまったから?
……自分を置いて大人になってしまったから?
それとも正体をバラした時、彼の反応を見るのが怖いと思ってしまったから?
自分の気持ちが分からずモヤモヤとした気持ちばかり大きくなり足が重くなる
このまま何処か遠くへ行ってしまおうか…と、ぼんやりと考え込んでいると
「チビちゃん?」
ここ最近よく聞く声に体が自然と反応し顔を上げると少し離れた先でコチラを見るキバナと目が合った
彼は買い物中だったのか片手に紙袋を抱いており、すぐに人混みを掻き分けナマエの元へと近寄った
「外に出るなんて珍しいな?なんか欲しいもんでもあったのか?」
『……別にないです』
「んー?なんだ?元気ねぇな?あ!さては欲しいもんが高かったか?なんならお兄さんが買ってやろうか?」
ヘラリといつもの調子で冗談を言ってみるが今日は彼女の機嫌が悪すぎる
『なんでもないですってば!!』
思ったよりも声が出てしまった
『あ、ちがっ…あたしっ』
世話になっている恩人に怒鳴るなんて…
ナマエの顔はみるみる青くなり彼女は震える手でマスクの上から自分の口元を抑え肩をすくめた
「ナマエ?おい、大丈夫か?」
『ごめっ…ごめん…な…いっ…ごめんなさっ…ひっ、ぅ、うぅ』
感情が制御できない
突然目元が熱くなり喉奥が狭くなった気がした
息をしたいのに勝手に喉が鳴り出し上手く呼吸ができない
いつの間に溜まったのかポロポロと溢れ出す涙に困惑し背中を丸めると目の前の彼の足元に紙袋がドサリと落ち
次の瞬間大きな腕が彼女を抱き上げ浮遊感が襲ってくる
『っ、キバナさ、ひっ、んんっ』
「いいから……黙ってろ」
紙袋の代わりに彼女を抱っこするとキバナは何事もなかったように歩きだし家への道を進む
母親が小さな子供を抱っこしているようにお互いの肩に顎を乗せ密着した成人男性と少女の姿は目を引くものがある
沢山の人々に見られながらキバナは堂々としており、ナマエは申し訳なさに眉を寄せつつ彼の首に抱きつき顔を首元へと押し付けた
ふわりと香る香水の匂いは優しくて、抱かれた腕は安心感を与えてくれた
抱っこされた浮遊感が気持ちよくて褐色の首筋に涙を流しながらもナマエはキバナに初めて素直に甘えられた気がした
