第一巻
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『広いなぁ』
初めて訪れたワイルドエリア
普段は室内から出たがらない彼女が太陽の元へ出た理由は最愛の妹の為だった
【お姉ちゃんのジャムが食べたい】
そんな他愛ないお願いが嬉しくて怯えつつ買い物に出たが生憎欲しい木の実は既に売り切れており
ならばと後先考えず来たのがワイルドエリアだった
なるべく駅から離れないように
強そうなポケモンと会わないように
モルペコデザインのツートンカラーをしたパーカーのフードをすっぽりと被りコソコソと目立たないように行動し木の実を集めようとする
『う〜んなかなか落ちてないや』
カゴを片手に落ちている木の実を集めるが状態の良い物は稀にしか手に入らない
草むらに落ちている木の実を見つけ顔を明るくさせては野生ポケモンの噛った後を見つけ落ち込む
そんな繰り返しをしているうちに駅から離れていくが彼女は気がついてないようだ
『ん〜やっぱり木から直接取った方がいいのかな?』
木の側へ近寄り顔をあげれば沢山の緑色の葉の隙間からちらほらと木の実が見える
運動神経が良ければ木を登ってとれそうだがナマエには難しい
手頃な木を探していくと周りよりも一回り小さな木を見つけた
『この木なら細いし、少し頑張って揺すれば落ちるかも』
ゴツゴツとした木の表面に両手をつけ思いっきり体の体重をかけ木を揺するが……
『…う、うぐっ、全然揺れないっ!』
手のひらは痛み慣れない体の動かし方に疲労だけが加わり、肝心の木は微かに葉音をたてるだけで木の葉一枚落ちる事はなかった
『(うぅ…だめだぁ)』
疲れてしまいぐったりと木に体を押し付け休憩をしていた時だった
彼女の後ろから草を踏み鳴らす乾いた音が聞こえ、その足音はまっすぐにナマエへと近寄った
「お嬢さん!なぁ〜に、やってんの?」
『ひえっ!』
誰もいないと思っていた為口から短い悲鳴が飛び出てしまった
何事かと振り向けば自分よりも遥かに高身長な男がふにゃりと笑いこちらを見おろしていた
『なっなんですか!(ヤバい!デカい!怖いっ!)』
素早く木の後ろへと隠れる彼女
モルペコパーカーのフードを深く被っており顔はよく見えないが、小柄な体と声からして若い女だろうと彼は判断し怖がらせないように微笑んだ
「あはっ!わりぃわりぃ!驚かしちまったな?でも木にしがみついて何やってたわけ?」
『違っ、……しがみついてたわけじゃなくて……木の実が欲しくて(チャラい人だ!苦手なんだよなぁ)』
「木の実?」
『妹があたしが作る木の実を使ったジャムが食べたいって言うから…リクエストが嬉しくて頑張ってたんですが』
隠れた木の向こう側でしょんぼりと落ち込む相手から視線をずらせば足元に転がるカゴに目が止まる
中に入っていた木の実は二つ三つでありジャムを作るにはまったく足りない
「ふ〜ん?どのくらい欲しいの?」
彼は数歩近寄ると地面に落ちたカゴを拾い上げ中身を覗き込んだ
『え?あ…そのカゴいっぱいくらいは欲しいです』
このままのやり方ではきっと夜になる事だろう
チラリとナマエを見た彼は鼻で笑うと
「うっし!じゃあ手伝ってやるよ」
『へ?』
一瞬何を言ったのか理解できずぼんやりと彼を見上げたが、遅れて脳内で聞いた事を理解するとナマエは隠れていた木の後ろから飛び出した
『えっ!いやいいですよ!そんなっ』
「いいから、妹に美味いもん食わしてやりたいんだろ?健気なお嬢さんの為にキバナさまが一肌脱いでやるよ」
ニッと白い歯を出して笑う彼はカゴを片手に持ち肩に担ぐと大股で何処かへと歩き始めてしまいナマエも数歩遅れてついていった
『(チャラいけど…いい人?てかキバナさまって自分の名前にさまつけてるの?…キバナ…キバナ…どっかで聞いたような)』
オレンジ色のバンダナから見える黒い髪は何束にかわけて結ばれており見え隠れするうなじは刈り上げられていた
視線を上から下へと下げれば男性らしい筋肉がついた長い足に目がとまる
『(足長っ…スタイルいいな…羨ましい)』
「よしっ!まずはこの木からやってみるか!」
『はっはい!(あたしったら見すぎだよ!変態さんじゃないんだからっ)』
動揺しつつも彼の見つめる先の木へ向かうとさっきよりも大きな木に自然と口が半開きになった
『これ…ですか?』
「おう!立派だし絶対木の実も沢山ある筈だぜ」
確かにあるだろうが
本当に揺すって木の実が落ちるんだろうか?
唖然とするも彼は木の下へと移動しナマエにもこっちに来るように指示を出した
言われるがままに側へ駆け寄ると隣に並ぶように言われ太い木へと二人で両手をつける
「行くぜ?せ〜〜のっ!!」
タイミングを合わせグンッと力をかけると一人でやった時は何も感じなかった木の揺れが感じ取れた
殆どキバナの力だろうが共にやる事により自分の力で木が揺れているようで心が踊った
前後に揺らすと頭上から葉の音がザワザワと鳴りさざ波のようだった
「もうちょいっ!」
ちらほらと緑色の葉が落ちた時
彼は一際力を入れ木を揺すり、ナマエの手のひらから僅かに外れる程木が揺れた
すると一つ、また一つと葉ではない物が地面に落ちてくるではないか
『うわっ、わわわっ!!いっぱい落ちた!』
「ハハッ!だろ!次々行くぜ!」
一つの木から木の実を数個ずつとりまた別の木へと移動する、彼が言う通りカゴの中はすぐに木の実でいっぱいになっていきナマエがユウリの喜ぶ顔を思い浮かべた頃
とある木を揺らそうとし異変が起こる
『ふぅ…この木だけ何にも落ちて来ませんね?』
何度揺すっても木の実が落ちない
下から見上げても木の葉しか見えず実が落ちる気配がしなかった
ナマエも流石に体力の限界か両手を下げぐったりと肩を落し、彼は不満げに頭上を見上げると片眉を吊り上げ片足を振り上げ
「ん〜ハズレか?一個くらい出てもいいのに…よっ!」
太い木を何気なく蹴飛ばした
二人で落ちないのだから彼一人が蹴っても何も落ちないだろう
そう思っていたが大きな物がボトンッと地面に落ちる
落ちてきた物は丸々と太ったヨクバリス、その頭には落ちた時にできたタンコブがあり怒りに顔を染め大きな奇声をあげ襲いかかってきた
「うわっ!ヤベッ!逃げるぞっ!」
『へ?ちょっ、わあっ!』
片手に木の実の入ったカゴを抱えもう片方の手で彼女の手を引っ張り彼は走り出した
大きな褐色の手は熱くナマエは恥ずかしさに手を振り払おうとするが、前だけを見て走る彼の手は簡単には外れなかった
後ろには怒ったヨクバリス
前に自分の手首を掴む男の広い背中
なんとも不思議な体験に頭が動かずナマエはひたすら走るしかできなかった
「ハァっ、ハァっ…あ〜ここまで来れば大丈夫だろ」
『ハアっ…っ、ハァっ…』
どのくらい走っただろうか?
木が沢山生えていた場所から随分離れてしまい周りには湖しか見えない
あのヨクバリスもいつの間にか諦めて姿を消してくれたようだ
キバナは軽く深呼吸し両膝に手をつき俯いたナマエを心配した
「おい、大丈夫か?」
無我夢中で走ってしまった
無理をさせただろうと労わろうとするが
『はっ…ふっ、ふふっ、あははっ!びっくりした!凄いびっくりしたし怖かった〜』
顔をあげた彼女は両手で口元を隠すが笑いと興奮が止まらずケラケラと笑いだした
「ふ…アハハハっ!オレもすげぇビビったわ!食いもん絡みだとアイツらすげぇ怖ぇよな!」
『は〜っ、はっ、あはっ、だめっ、苦しいっあはは!』
「オマエ笑いすぎ、フハッ、移るからっ、ハハッ!」
怖かった
驚いた
だがそれ以上に何処かスッキリした気分を感じ爽快だった
あまり外に出ないナマエには特に鮮明に感じ自分の世界が広がった気がした
一通り笑い終え息を整えるとキバナは持っていたカゴをナマエへと渡した
「木の実足りそうか?もっと欲しいなら付き合うぜ?」
『いえ十分に取れましたから…ありがとうございます』
カゴを受け取った彼女は予想より遥かに集められた木の実に喜び深く被ったフードから見える口元を微笑ませた
「ん、ところでさ」
『はい?』
何だろうかと木の実からキバナへと顔を向けると彼は自分の腰に両手をつけ、体を丸めるように背中を屈めナマエの顔を覗き込んだ
「名前、そろそろ聞いていい?モルペコちゃん」
こちらをじっと見る青い瞳
ナマエはキョトンとしてしまい小さく息をのむが、そういえばお互いにちゃんと名乗り合ってなかった事に気がついた
『あ……ナマエ、ナマエです!最近ガラルに引っ越してきました』
「ナマエちゃんね?オレはキバナ…って今更だけどよ、よろしくな」
『よ、よろしくお願いします』
フードは下ろしてくれない
顔が見えない事に焦らされた気分を感じたがキバナは無理強いはしない
最初からずっと顔を隠していたのだからきっと見られたくないのだろう
自分なりに予想した彼はなんでもないフリをしニコニコと微笑む
『あ、では…これで』
背中を向け帰ろうとする彼女はキョロキョロと辺りを見回し始め、キバナはそんな彼女に近寄り隣に並んだ
「送ってこうか?」
『え!いや…でも』
「駅まで随分離れたし、さっきみたいにポケモンに襲われたら危ないだろ?」
思い出すのはヨクバリス
また出会ってしまったら今度こそ逃がして貰えないかもしれない
『…………はい』
ぎこちなく返事をすればキバナは小さく笑いパーカーのポケットから一つのモンスターボールを取り出しその場に投げた
乾いた弾けた音を鳴らしボールから出てきたフライゴンはすぐにキバナの元へ近寄り鈴のような音を羽から鳴らした
どうやら甘えているようだ
彼も相棒に愛情を伝えるように頬を撫でてやり瞳を優しくさせている
平和な雰囲気だが、ふとナマエはある事に気がついた
『ポケモン持ってたのにヨクバリスから逃げたんですか?』
フライゴンがいたなら走って逃げる必要はなかったのでは?疑問を彼に伝えると
「あー慌てて忘れてたわ」
八重歯を光らせて少年のように笑うキバナに驚いてしまうが、それと同時に親近感もほんの少し感じた
『ふふっ、キバナさんて楽しい人ですね』
「……そ?でもそこはカッコイイ人ですねの方がオレさま嬉しいけど?」
垂れ目はじんわりと吊り上がり意地悪い笑みへと変わる
からかっているのだと分かりナマエは顔に熱を集めた
『カッ、っ……それは言えません!』
「なんで?なぁ〜なんで?」
『(やっぱりチャラい人は苦手だ)』
顔を覗き込もうするキバナから顔を逸らし暫く二人は戯れあっていた
初めて訪れたワイルドエリア
普段は室内から出たがらない彼女が太陽の元へ出た理由は最愛の妹の為だった
【お姉ちゃんのジャムが食べたい】
そんな他愛ないお願いが嬉しくて怯えつつ買い物に出たが生憎欲しい木の実は既に売り切れており
ならばと後先考えず来たのがワイルドエリアだった
なるべく駅から離れないように
強そうなポケモンと会わないように
モルペコデザインのツートンカラーをしたパーカーのフードをすっぽりと被りコソコソと目立たないように行動し木の実を集めようとする
『う〜んなかなか落ちてないや』
カゴを片手に落ちている木の実を集めるが状態の良い物は稀にしか手に入らない
草むらに落ちている木の実を見つけ顔を明るくさせては野生ポケモンの噛った後を見つけ落ち込む
そんな繰り返しをしているうちに駅から離れていくが彼女は気がついてないようだ
『ん〜やっぱり木から直接取った方がいいのかな?』
木の側へ近寄り顔をあげれば沢山の緑色の葉の隙間からちらほらと木の実が見える
運動神経が良ければ木を登ってとれそうだがナマエには難しい
手頃な木を探していくと周りよりも一回り小さな木を見つけた
『この木なら細いし、少し頑張って揺すれば落ちるかも』
ゴツゴツとした木の表面に両手をつけ思いっきり体の体重をかけ木を揺するが……
『…う、うぐっ、全然揺れないっ!』
手のひらは痛み慣れない体の動かし方に疲労だけが加わり、肝心の木は微かに葉音をたてるだけで木の葉一枚落ちる事はなかった
『(うぅ…だめだぁ)』
疲れてしまいぐったりと木に体を押し付け休憩をしていた時だった
彼女の後ろから草を踏み鳴らす乾いた音が聞こえ、その足音はまっすぐにナマエへと近寄った
「お嬢さん!なぁ〜に、やってんの?」
『ひえっ!』
誰もいないと思っていた為口から短い悲鳴が飛び出てしまった
何事かと振り向けば自分よりも遥かに高身長な男がふにゃりと笑いこちらを見おろしていた
『なっなんですか!(ヤバい!デカい!怖いっ!)』
素早く木の後ろへと隠れる彼女
モルペコパーカーのフードを深く被っており顔はよく見えないが、小柄な体と声からして若い女だろうと彼は判断し怖がらせないように微笑んだ
「あはっ!わりぃわりぃ!驚かしちまったな?でも木にしがみついて何やってたわけ?」
『違っ、……しがみついてたわけじゃなくて……木の実が欲しくて(チャラい人だ!苦手なんだよなぁ)』
「木の実?」
『妹があたしが作る木の実を使ったジャムが食べたいって言うから…リクエストが嬉しくて頑張ってたんですが』
隠れた木の向こう側でしょんぼりと落ち込む相手から視線をずらせば足元に転がるカゴに目が止まる
中に入っていた木の実は二つ三つでありジャムを作るにはまったく足りない
「ふ〜ん?どのくらい欲しいの?」
彼は数歩近寄ると地面に落ちたカゴを拾い上げ中身を覗き込んだ
『え?あ…そのカゴいっぱいくらいは欲しいです』
このままのやり方ではきっと夜になる事だろう
チラリとナマエを見た彼は鼻で笑うと
「うっし!じゃあ手伝ってやるよ」
『へ?』
一瞬何を言ったのか理解できずぼんやりと彼を見上げたが、遅れて脳内で聞いた事を理解するとナマエは隠れていた木の後ろから飛び出した
『えっ!いやいいですよ!そんなっ』
「いいから、妹に美味いもん食わしてやりたいんだろ?健気なお嬢さんの為にキバナさまが一肌脱いでやるよ」
ニッと白い歯を出して笑う彼はカゴを片手に持ち肩に担ぐと大股で何処かへと歩き始めてしまいナマエも数歩遅れてついていった
『(チャラいけど…いい人?てかキバナさまって自分の名前にさまつけてるの?…キバナ…キバナ…どっかで聞いたような)』
オレンジ色のバンダナから見える黒い髪は何束にかわけて結ばれており見え隠れするうなじは刈り上げられていた
視線を上から下へと下げれば男性らしい筋肉がついた長い足に目がとまる
『(足長っ…スタイルいいな…羨ましい)』
「よしっ!まずはこの木からやってみるか!」
『はっはい!(あたしったら見すぎだよ!変態さんじゃないんだからっ)』
動揺しつつも彼の見つめる先の木へ向かうとさっきよりも大きな木に自然と口が半開きになった
『これ…ですか?』
「おう!立派だし絶対木の実も沢山ある筈だぜ」
確かにあるだろうが
本当に揺すって木の実が落ちるんだろうか?
唖然とするも彼は木の下へと移動しナマエにもこっちに来るように指示を出した
言われるがままに側へ駆け寄ると隣に並ぶように言われ太い木へと二人で両手をつける
「行くぜ?せ〜〜のっ!!」
タイミングを合わせグンッと力をかけると一人でやった時は何も感じなかった木の揺れが感じ取れた
殆どキバナの力だろうが共にやる事により自分の力で木が揺れているようで心が踊った
前後に揺らすと頭上から葉の音がザワザワと鳴りさざ波のようだった
「もうちょいっ!」
ちらほらと緑色の葉が落ちた時
彼は一際力を入れ木を揺すり、ナマエの手のひらから僅かに外れる程木が揺れた
すると一つ、また一つと葉ではない物が地面に落ちてくるではないか
『うわっ、わわわっ!!いっぱい落ちた!』
「ハハッ!だろ!次々行くぜ!」
一つの木から木の実を数個ずつとりまた別の木へと移動する、彼が言う通りカゴの中はすぐに木の実でいっぱいになっていきナマエがユウリの喜ぶ顔を思い浮かべた頃
とある木を揺らそうとし異変が起こる
『ふぅ…この木だけ何にも落ちて来ませんね?』
何度揺すっても木の実が落ちない
下から見上げても木の葉しか見えず実が落ちる気配がしなかった
ナマエも流石に体力の限界か両手を下げぐったりと肩を落し、彼は不満げに頭上を見上げると片眉を吊り上げ片足を振り上げ
「ん〜ハズレか?一個くらい出てもいいのに…よっ!」
太い木を何気なく蹴飛ばした
二人で落ちないのだから彼一人が蹴っても何も落ちないだろう
そう思っていたが大きな物がボトンッと地面に落ちる
落ちてきた物は丸々と太ったヨクバリス、その頭には落ちた時にできたタンコブがあり怒りに顔を染め大きな奇声をあげ襲いかかってきた
「うわっ!ヤベッ!逃げるぞっ!」
『へ?ちょっ、わあっ!』
片手に木の実の入ったカゴを抱えもう片方の手で彼女の手を引っ張り彼は走り出した
大きな褐色の手は熱くナマエは恥ずかしさに手を振り払おうとするが、前だけを見て走る彼の手は簡単には外れなかった
後ろには怒ったヨクバリス
前に自分の手首を掴む男の広い背中
なんとも不思議な体験に頭が動かずナマエはひたすら走るしかできなかった
「ハァっ、ハァっ…あ〜ここまで来れば大丈夫だろ」
『ハアっ…っ、ハァっ…』
どのくらい走っただろうか?
木が沢山生えていた場所から随分離れてしまい周りには湖しか見えない
あのヨクバリスもいつの間にか諦めて姿を消してくれたようだ
キバナは軽く深呼吸し両膝に手をつき俯いたナマエを心配した
「おい、大丈夫か?」
無我夢中で走ってしまった
無理をさせただろうと労わろうとするが
『はっ…ふっ、ふふっ、あははっ!びっくりした!凄いびっくりしたし怖かった〜』
顔をあげた彼女は両手で口元を隠すが笑いと興奮が止まらずケラケラと笑いだした
「ふ…アハハハっ!オレもすげぇビビったわ!食いもん絡みだとアイツらすげぇ怖ぇよな!」
『は〜っ、はっ、あはっ、だめっ、苦しいっあはは!』
「オマエ笑いすぎ、フハッ、移るからっ、ハハッ!」
怖かった
驚いた
だがそれ以上に何処かスッキリした気分を感じ爽快だった
あまり外に出ないナマエには特に鮮明に感じ自分の世界が広がった気がした
一通り笑い終え息を整えるとキバナは持っていたカゴをナマエへと渡した
「木の実足りそうか?もっと欲しいなら付き合うぜ?」
『いえ十分に取れましたから…ありがとうございます』
カゴを受け取った彼女は予想より遥かに集められた木の実に喜び深く被ったフードから見える口元を微笑ませた
「ん、ところでさ」
『はい?』
何だろうかと木の実からキバナへと顔を向けると彼は自分の腰に両手をつけ、体を丸めるように背中を屈めナマエの顔を覗き込んだ
「名前、そろそろ聞いていい?モルペコちゃん」
こちらをじっと見る青い瞳
ナマエはキョトンとしてしまい小さく息をのむが、そういえばお互いにちゃんと名乗り合ってなかった事に気がついた
『あ……ナマエ、ナマエです!最近ガラルに引っ越してきました』
「ナマエちゃんね?オレはキバナ…って今更だけどよ、よろしくな」
『よ、よろしくお願いします』
フードは下ろしてくれない
顔が見えない事に焦らされた気分を感じたがキバナは無理強いはしない
最初からずっと顔を隠していたのだからきっと見られたくないのだろう
自分なりに予想した彼はなんでもないフリをしニコニコと微笑む
『あ、では…これで』
背中を向け帰ろうとする彼女はキョロキョロと辺りを見回し始め、キバナはそんな彼女に近寄り隣に並んだ
「送ってこうか?」
『え!いや…でも』
「駅まで随分離れたし、さっきみたいにポケモンに襲われたら危ないだろ?」
思い出すのはヨクバリス
また出会ってしまったら今度こそ逃がして貰えないかもしれない
『…………はい』
ぎこちなく返事をすればキバナは小さく笑いパーカーのポケットから一つのモンスターボールを取り出しその場に投げた
乾いた弾けた音を鳴らしボールから出てきたフライゴンはすぐにキバナの元へ近寄り鈴のような音を羽から鳴らした
どうやら甘えているようだ
彼も相棒に愛情を伝えるように頬を撫でてやり瞳を優しくさせている
平和な雰囲気だが、ふとナマエはある事に気がついた
『ポケモン持ってたのにヨクバリスから逃げたんですか?』
フライゴンがいたなら走って逃げる必要はなかったのでは?疑問を彼に伝えると
「あー慌てて忘れてたわ」
八重歯を光らせて少年のように笑うキバナに驚いてしまうが、それと同時に親近感もほんの少し感じた
『ふふっ、キバナさんて楽しい人ですね』
「……そ?でもそこはカッコイイ人ですねの方がオレさま嬉しいけど?」
垂れ目はじんわりと吊り上がり意地悪い笑みへと変わる
からかっているのだと分かりナマエは顔に熱を集めた
『カッ、っ……それは言えません!』
「なんで?なぁ〜なんで?」
『(やっぱりチャラい人は苦手だ)』
顔を覗き込もうするキバナから顔を逸らし暫く二人は戯れあっていた