第三巻
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ダンデ様、今日の報告書は…」
「ああ!もう出来てるぜ!」
「ダンデ様お願いしていた商品へのサイン…」
「出来てるぜ!これで今日の仕事は全部終わったよな?」
「は…はぁ…」
いつもより手際よく仕事をこなすダンデにローズタワーの社員は圧倒され口籠ってしまう
普段ならばバトル以外の仕事は言われてから思い出しやっと手をつける程苦手な筈だが、最近の彼は早く仕事を終える為に努力していた
それもこれも出来たての恋人の為だろうが誰も知らない
「よし!じゃあまた明日!」
大股でエレベーターへと乗り込んだダンデは壁に背を預けスマホを取り出すと親指で操作しだし、何かを開くと頰を緩ませ瞳を輝かせた
ご機嫌な彼しかいなかったエレベーターの静かな空間、だがとある階に止まると他の人間が乗り込んできた
平均よりも高い身長とオレンジ色のバンダナが目立つ男
「キバナ」
「……よおっ」
静かに扉がしまりエレベーターが動き出す
挨拶を終えると特に話すこともなくお互いに手元を見たり扉側の表示されたエレベーターが通過していく階の数字を眺めていた
「ナマエちゃん、バッチ集め頑張ってるみたいだな」
突然出された話題にダンデは咄嗟にスマホから目を離し背中を向けるキバナへの視線を向けた
「ああ!彼女は少々引っ込み思案なところがあるが相棒達と共に成長しているようだ」
自分の事のように嬉しそうに話すダンデの声を聞きながらキバナは振り向かずに会話を続けた
「何人も他のチャレンジャーがリタイヤしてんのにもう半分もバッチが集まってすげぇよな、今日あたりポプラの婆さんにも勝てるんじゃないか?」
「そうだな、でも彼女ならきっとあの人の面白いクイズバトルに戸惑いそうだな」
ジムリーダーのポプラのバトルは独特だ
バトルの合間に出されるクイズによりバトルが有利になったり不利になるようコートに細工されている
ダンデも何度となくクイズの内容に苦戦したものだ
口元を緩め思い出し笑いをしているとキバナは淡々と彼女の気になる話題を口にした
「ダンデは知ってるか?その頑張ってるナマエちゃんが最近誰かと付き合い出したみたいだぜ?」
「っ、そ、そうなのか?しかし何故キバナが知ってるんだ?」
ギクリと肩を揺らすダンデは何でもないふりをしようとするが、つい口元が緩んでしまう
キバナが背中を向けている事にホッとしつつ少なからずダンデは優越感に浸っている事だろう
噂の誰かが自分であると
「そりゃ秘密だ、まあオレとしちゃ残念だけど?キバナさまの魅力を知る前に他の男なんかに捕まっちまうなんて……可哀想だよな」
キバナのナルシストぶりはいつもの事だが、ダンデはつい負けず嫌いを出し余計な事を口にしてしまう
「………余程その男が魅力的だったんじゃないか?」
「…………ハッ、言うねぇ」
鼻で笑ったキバナは振り返るとダンデの前へと近寄り、上から冷たい目で見下ろしてきた
「そういや…ナマエちゃんの話の前にダンデの事も噂になってたよな、ガラルチャンピオンが恋をしているって」
「……ほう?そんな噂が流れてたのか」
目の前で何やら威嚇してくる青い目を真っ直ぐに睨み返し腕を胸の前で組み合わせる
困るわけでも逃げるわけでない王にキバナは小さく苛立ち目元を険しくさせた
「まさかお前…ナマエちゃんに手ぇ出したりしてないよな?」
「………それは君にいちいち言わないといけない事なのか?」
じっと睨み合う琥珀色と海の色の瞳
エレベーターが動く音が静かな空間に響き、普通の者なら息苦しさを感じる事だろう
ビリビリとした空気の中暫く沈黙が続くと先に口を開いたのはキバナだった
「………はぁぁ…やっぱりな」
キバナは大きく息を吐きながら両手をパーカーのポケットにしまい込みダンデを眺めながらもその瞳は何処か遠くを見つめていた
「時期的にもそうだろうとは思ってたさ、ナマエちゃんの相手がダンデだって」
「………(バレてしまった…秘密にしようと言われたのに、これは俺が約束を破ってしまったという事なのか?)」
約束は必ず守る主義なダンデは真剣に悩みだし眉を寄せてしまう
二人の約束など知らないキバナは黙り込むダンデを見下ろし、すぐに否定しない事から自分の予想が当たったと確信する
「(……マジでムカつく)」
バトルだけでなく恋愛事まで負けるなんてキバナのプライドが許さない
今すぐ胸ぐらを掴み怒鳴り散らしたい気持ちを抑え込み、自分の気持ちを落ち着かせる為にキバナはダンデの前からするりと移動し扉へと向かった
「まっ、別に今お前に喧嘩売るつもりはねぇけどさ…ライバルとしてちょい忠告してやるよ」
扉側に立つ彼は静かに顔だけを振り返らせ真剣な顔を浮かべる
「呑気に浮かれてっとお前じゃなくてナマエちゃんが痛い目見る事になるぜ?」
「どういう意味だ?」
キバナが何を言っているのか分からず聞き返すが同時にエレベーターが目的の階に到着し浮遊感が突然止まり体が揺れる
「おっと、オレここで降りるんだわ」
「おいっ!キバナ!」
手を伸ばしかけたダンデの制止も聞かず歩き出しエレベーターの扉が閉まろうとする中、見えたのは顔だけをコチラに振り向かせたキバナの顔だった
その顔は鼻の上にまでシワがより酷く歪められ怒りさえ感じられる表情だった
「……てめぇじゃ守れねぇんだよ」
冷たく低い声だった
完全に閉まってしまった扉を見つめダンデは自分の口元を片手で撫でながらキバナの言葉を考え込む
「どういう意味だ?彼女が痛い目を見るだなんて…」
だがダンデがいくら考えても答えは見つからずエレベーターは下へ下へと降りていった
*****************
「ナマエ!待たせたな!」
『いえ、大丈夫です!お仕事お疲れ様でした』
キバナと別れた俺は約束していた待ち合わせ場所でナマエと合流した
リザードンから降りるとスニーカーが草を踏む音が僅かに聞こえる
茜色の夕日が照らすガラルの自然は美しくて俺は好きだ
大自然に包まれながらカレーを作る彼女を見ているとなんだか生まれ故郷の田舎に帰ったような気分して落ち着く
「いい匂いだな」
『ふふっ味もいいといいんですけどね、今日は新しい味に挑戦です!』
ワクワクと瞳を輝かせ鍋をかき混ぜる彼女の側には皿を持つインテレオンが心配そうに立っており、俺とリザードンの関係のようで笑ってしまう
今日はここで彼女の作る夕飯を御馳走になる約束だ
本当ならば何処かの店で食事やお茶をしながら話を楽しみたいところだが俺達の関係は秘密だ
その為会う時は必ず街から離れた外と二人で決めた
『よし!完成しました!皆で食べましょう!』
「ああ!楽しみでさっきから腹ペコ虫が鳴いてるぜ!」
リザードンの分も準備してくれたようでポケモン達は仲間同士で円を描いてカレーを食べだし、俺とナマエを二人っきりにしてくれた
皆俺達の関係を理解しているようだ
少し照れてしまうが気を使ってくれて助かるぜ
「ネットニュースで見たぜ!オニオンに続いてポプラさんにも勝ったようだな!」
『はい!オニオンくんまだ子供なのにとても強くてびっくりしました、それとポプラさんは…クイズがとても難しくて大変でした』
「ハハっ!分かるぜ!俺もあの人には苦労したからなっ」
草原に立てたテントをバックに俺とナマエは地面に腰掛けて話そうとした、ワイルドエリアなら丸太など椅子になりそうな物をすぐに調達できるがここにはなさそうだ
俺は構わないが…ナマエを地面に座らせるのはどうにも気になる
「ナマエ、この上に座ると良い」
俺は自分のマントを地面に広げようとしたが彼女は慌ててカレーを持っていない方の手を左右に振った
『そんなっいいですよ!マントが汚れちゃいますから!』
「ん?俺は気にしないぜ?」
『あたしが気になります!』
「ふむ…だが地面に君を座らせると俺が気になるんだが?そうだ!マントか俺の上に座るか選んでくれ」
君を地面に座らせるのが嫌というのもあるが、正直俺のマントに座る君を見たいという好奇心の方が強い
自分が普段身につけている物に包まれる君を想像するとこう…
胸が締めつけられるような、それでいて愛しく感じるんだ
ナマエの性格は分かっている、遠慮がちな彼女は素直に座ってくれないだろう
だから小さく意地悪を言ってみた
ニヤリと笑った俺に気が付き顔を真っ赤にさせた彼女は悔しげに眉を寄せ、観念したように小さくマントに座ると言ってくれた
「よし!じゃあ座ってくれ!」
草が生い茂る地面にマントを広げ俺は先に座ると彼女を招くように手を差し伸べる
まだ納得が言っていない彼女は複雑な顔つきをしていたが俺の手を取り恐る恐る隣に腰掛けてくれた
『………柔らかい』
「なかなか気持ちいいだろ?俺もよくマントを地面に敷いて外で昼寝するんだ!寝すぎて怒られた事もあるがな」
過去に昼寝が気持ち良すぎて遅刻し怒られた記憶が浮かび上がる
あの時はスタッフに申し訳ない事をしたものだ
思い出話をしながら俺とナマエはカレーを口に運んでいく
今日のカレーは辛口のようだ
前の甘口も美味かったが今日の辛口も俺は好きだ
ただナマエには辛すぎたのか何度も口を手で扇いでひんひんと泣いている
そんな姿さえ可愛いと思ってしまうのは俺が彼女を好きだからだろうか
「ん?」
カレーを食べ終えた頃、ふと彼女の足に目が止まった
彼女は普段モルペコをモチーフにしたツートンカラーのパーカーに短パンを履いており足を出しているが、その片足の太腿に見慣れない青あざがあった
前会った時は確かなかった
転んだにしても膝は無事なのに太腿をぶつけるだろうか?
「それどうしたんだ?」
ストレートに怪我について聞こうとすると彼女は一瞬息を呑み込みぎこち無い笑顔を向けた
『え、あ…ちょっとぶつけて、あたしぼーとしてるからよく色んな物にぶつかるんです』
確かに彼女は少し危なかっしいところがあるが…
本当にそうだろうか?
皿を下に置き彼女の側へと近寄ると俺は怪我をちゃんと診てやろうと手を伸ばした
『ダっダンデさんっ?』
「ふむ…熱は持ってないようだな」
太腿の青あざを撫で異常な熱がないか確認し腫れ具合を確かめようと手のひらを滑らせた
『んっ、あのっ、あまり触っちゃ』
「あ、痛かったか?内出血も少しあるからな酷いようなら今からでも病院に連れて行こうか?」
『違っ…その…ダンデさんの手が…』
つい怪我に集中してしまい気が付かなかったが…今の俺は何処から見てもナマエにイタズラする悪い男だろう
自分のマントの上で身を後ろへと引こうとする彼女に詰め寄り、白い太腿に手のひらを滑らせ指先は肌と短パンの隙間に僅かに侵入している
「っ!すまないっ!そんなつもりは!」
慌てて身を引き暴走した自分の手を反対の手で強く掴んで離れた
今更意識したせいか俺の手のひらに残る彼女の温もりと触り心地のいい肌の感触が生々しく残る
もっと触りたい
そう言っているように俺の片手は疼き必死に手首を強く掴み直した
『怪我を心配してくれたんですよね?すみません…ちょっと擽ったくて』
照れ笑いをする彼女に俺も照れてしまい顔が熱くなる
自分の太腿を擦りながら座る彼女をもし…押し倒したら
俺のマントに寝転び髪の毛を広げた彼女を上から見下ろす想像を無意識にしてしまい体が熱くなる
俺達はあの告白をした日から付き合い始めてまだ数週間だ
キスさえまだぎこちないのに、それ以上を求めるなんて…
「(落ち着けダンデ!彼女を大事にしたい筈だ!)」
欲が暴走しないように軽く深呼吸を繰り返す俺は彼女の怪我についてそれ以上は聞かなかった
聞けばよかったと後に後悔する事になるとも知らず
「ああ!もう出来てるぜ!」
「ダンデ様お願いしていた商品へのサイン…」
「出来てるぜ!これで今日の仕事は全部終わったよな?」
「は…はぁ…」
いつもより手際よく仕事をこなすダンデにローズタワーの社員は圧倒され口籠ってしまう
普段ならばバトル以外の仕事は言われてから思い出しやっと手をつける程苦手な筈だが、最近の彼は早く仕事を終える為に努力していた
それもこれも出来たての恋人の為だろうが誰も知らない
「よし!じゃあまた明日!」
大股でエレベーターへと乗り込んだダンデは壁に背を預けスマホを取り出すと親指で操作しだし、何かを開くと頰を緩ませ瞳を輝かせた
ご機嫌な彼しかいなかったエレベーターの静かな空間、だがとある階に止まると他の人間が乗り込んできた
平均よりも高い身長とオレンジ色のバンダナが目立つ男
「キバナ」
「……よおっ」
静かに扉がしまりエレベーターが動き出す
挨拶を終えると特に話すこともなくお互いに手元を見たり扉側の表示されたエレベーターが通過していく階の数字を眺めていた
「ナマエちゃん、バッチ集め頑張ってるみたいだな」
突然出された話題にダンデは咄嗟にスマホから目を離し背中を向けるキバナへの視線を向けた
「ああ!彼女は少々引っ込み思案なところがあるが相棒達と共に成長しているようだ」
自分の事のように嬉しそうに話すダンデの声を聞きながらキバナは振り向かずに会話を続けた
「何人も他のチャレンジャーがリタイヤしてんのにもう半分もバッチが集まってすげぇよな、今日あたりポプラの婆さんにも勝てるんじゃないか?」
「そうだな、でも彼女ならきっとあの人の面白いクイズバトルに戸惑いそうだな」
ジムリーダーのポプラのバトルは独特だ
バトルの合間に出されるクイズによりバトルが有利になったり不利になるようコートに細工されている
ダンデも何度となくクイズの内容に苦戦したものだ
口元を緩め思い出し笑いをしているとキバナは淡々と彼女の気になる話題を口にした
「ダンデは知ってるか?その頑張ってるナマエちゃんが最近誰かと付き合い出したみたいだぜ?」
「っ、そ、そうなのか?しかし何故キバナが知ってるんだ?」
ギクリと肩を揺らすダンデは何でもないふりをしようとするが、つい口元が緩んでしまう
キバナが背中を向けている事にホッとしつつ少なからずダンデは優越感に浸っている事だろう
噂の誰かが自分であると
「そりゃ秘密だ、まあオレとしちゃ残念だけど?キバナさまの魅力を知る前に他の男なんかに捕まっちまうなんて……可哀想だよな」
キバナのナルシストぶりはいつもの事だが、ダンデはつい負けず嫌いを出し余計な事を口にしてしまう
「………余程その男が魅力的だったんじゃないか?」
「…………ハッ、言うねぇ」
鼻で笑ったキバナは振り返るとダンデの前へと近寄り、上から冷たい目で見下ろしてきた
「そういや…ナマエちゃんの話の前にダンデの事も噂になってたよな、ガラルチャンピオンが恋をしているって」
「……ほう?そんな噂が流れてたのか」
目の前で何やら威嚇してくる青い目を真っ直ぐに睨み返し腕を胸の前で組み合わせる
困るわけでも逃げるわけでない王にキバナは小さく苛立ち目元を険しくさせた
「まさかお前…ナマエちゃんに手ぇ出したりしてないよな?」
「………それは君にいちいち言わないといけない事なのか?」
じっと睨み合う琥珀色と海の色の瞳
エレベーターが動く音が静かな空間に響き、普通の者なら息苦しさを感じる事だろう
ビリビリとした空気の中暫く沈黙が続くと先に口を開いたのはキバナだった
「………はぁぁ…やっぱりな」
キバナは大きく息を吐きながら両手をパーカーのポケットにしまい込みダンデを眺めながらもその瞳は何処か遠くを見つめていた
「時期的にもそうだろうとは思ってたさ、ナマエちゃんの相手がダンデだって」
「………(バレてしまった…秘密にしようと言われたのに、これは俺が約束を破ってしまったという事なのか?)」
約束は必ず守る主義なダンデは真剣に悩みだし眉を寄せてしまう
二人の約束など知らないキバナは黙り込むダンデを見下ろし、すぐに否定しない事から自分の予想が当たったと確信する
「(……マジでムカつく)」
バトルだけでなく恋愛事まで負けるなんてキバナのプライドが許さない
今すぐ胸ぐらを掴み怒鳴り散らしたい気持ちを抑え込み、自分の気持ちを落ち着かせる為にキバナはダンデの前からするりと移動し扉へと向かった
「まっ、別に今お前に喧嘩売るつもりはねぇけどさ…ライバルとしてちょい忠告してやるよ」
扉側に立つ彼は静かに顔だけを振り返らせ真剣な顔を浮かべる
「呑気に浮かれてっとお前じゃなくてナマエちゃんが痛い目見る事になるぜ?」
「どういう意味だ?」
キバナが何を言っているのか分からず聞き返すが同時にエレベーターが目的の階に到着し浮遊感が突然止まり体が揺れる
「おっと、オレここで降りるんだわ」
「おいっ!キバナ!」
手を伸ばしかけたダンデの制止も聞かず歩き出しエレベーターの扉が閉まろうとする中、見えたのは顔だけをコチラに振り向かせたキバナの顔だった
その顔は鼻の上にまでシワがより酷く歪められ怒りさえ感じられる表情だった
「……てめぇじゃ守れねぇんだよ」
冷たく低い声だった
完全に閉まってしまった扉を見つめダンデは自分の口元を片手で撫でながらキバナの言葉を考え込む
「どういう意味だ?彼女が痛い目を見るだなんて…」
だがダンデがいくら考えても答えは見つからずエレベーターは下へ下へと降りていった
*****************
「ナマエ!待たせたな!」
『いえ、大丈夫です!お仕事お疲れ様でした』
キバナと別れた俺は約束していた待ち合わせ場所でナマエと合流した
リザードンから降りるとスニーカーが草を踏む音が僅かに聞こえる
茜色の夕日が照らすガラルの自然は美しくて俺は好きだ
大自然に包まれながらカレーを作る彼女を見ているとなんだか生まれ故郷の田舎に帰ったような気分して落ち着く
「いい匂いだな」
『ふふっ味もいいといいんですけどね、今日は新しい味に挑戦です!』
ワクワクと瞳を輝かせ鍋をかき混ぜる彼女の側には皿を持つインテレオンが心配そうに立っており、俺とリザードンの関係のようで笑ってしまう
今日はここで彼女の作る夕飯を御馳走になる約束だ
本当ならば何処かの店で食事やお茶をしながら話を楽しみたいところだが俺達の関係は秘密だ
その為会う時は必ず街から離れた外と二人で決めた
『よし!完成しました!皆で食べましょう!』
「ああ!楽しみでさっきから腹ペコ虫が鳴いてるぜ!」
リザードンの分も準備してくれたようでポケモン達は仲間同士で円を描いてカレーを食べだし、俺とナマエを二人っきりにしてくれた
皆俺達の関係を理解しているようだ
少し照れてしまうが気を使ってくれて助かるぜ
「ネットニュースで見たぜ!オニオンに続いてポプラさんにも勝ったようだな!」
『はい!オニオンくんまだ子供なのにとても強くてびっくりしました、それとポプラさんは…クイズがとても難しくて大変でした』
「ハハっ!分かるぜ!俺もあの人には苦労したからなっ」
草原に立てたテントをバックに俺とナマエは地面に腰掛けて話そうとした、ワイルドエリアなら丸太など椅子になりそうな物をすぐに調達できるがここにはなさそうだ
俺は構わないが…ナマエを地面に座らせるのはどうにも気になる
「ナマエ、この上に座ると良い」
俺は自分のマントを地面に広げようとしたが彼女は慌ててカレーを持っていない方の手を左右に振った
『そんなっいいですよ!マントが汚れちゃいますから!』
「ん?俺は気にしないぜ?」
『あたしが気になります!』
「ふむ…だが地面に君を座らせると俺が気になるんだが?そうだ!マントか俺の上に座るか選んでくれ」
君を地面に座らせるのが嫌というのもあるが、正直俺のマントに座る君を見たいという好奇心の方が強い
自分が普段身につけている物に包まれる君を想像するとこう…
胸が締めつけられるような、それでいて愛しく感じるんだ
ナマエの性格は分かっている、遠慮がちな彼女は素直に座ってくれないだろう
だから小さく意地悪を言ってみた
ニヤリと笑った俺に気が付き顔を真っ赤にさせた彼女は悔しげに眉を寄せ、観念したように小さくマントに座ると言ってくれた
「よし!じゃあ座ってくれ!」
草が生い茂る地面にマントを広げ俺は先に座ると彼女を招くように手を差し伸べる
まだ納得が言っていない彼女は複雑な顔つきをしていたが俺の手を取り恐る恐る隣に腰掛けてくれた
『………柔らかい』
「なかなか気持ちいいだろ?俺もよくマントを地面に敷いて外で昼寝するんだ!寝すぎて怒られた事もあるがな」
過去に昼寝が気持ち良すぎて遅刻し怒られた記憶が浮かび上がる
あの時はスタッフに申し訳ない事をしたものだ
思い出話をしながら俺とナマエはカレーを口に運んでいく
今日のカレーは辛口のようだ
前の甘口も美味かったが今日の辛口も俺は好きだ
ただナマエには辛すぎたのか何度も口を手で扇いでひんひんと泣いている
そんな姿さえ可愛いと思ってしまうのは俺が彼女を好きだからだろうか
「ん?」
カレーを食べ終えた頃、ふと彼女の足に目が止まった
彼女は普段モルペコをモチーフにしたツートンカラーのパーカーに短パンを履いており足を出しているが、その片足の太腿に見慣れない青あざがあった
前会った時は確かなかった
転んだにしても膝は無事なのに太腿をぶつけるだろうか?
「それどうしたんだ?」
ストレートに怪我について聞こうとすると彼女は一瞬息を呑み込みぎこち無い笑顔を向けた
『え、あ…ちょっとぶつけて、あたしぼーとしてるからよく色んな物にぶつかるんです』
確かに彼女は少し危なかっしいところがあるが…
本当にそうだろうか?
皿を下に置き彼女の側へと近寄ると俺は怪我をちゃんと診てやろうと手を伸ばした
『ダっダンデさんっ?』
「ふむ…熱は持ってないようだな」
太腿の青あざを撫で異常な熱がないか確認し腫れ具合を確かめようと手のひらを滑らせた
『んっ、あのっ、あまり触っちゃ』
「あ、痛かったか?内出血も少しあるからな酷いようなら今からでも病院に連れて行こうか?」
『違っ…その…ダンデさんの手が…』
つい怪我に集中してしまい気が付かなかったが…今の俺は何処から見てもナマエにイタズラする悪い男だろう
自分のマントの上で身を後ろへと引こうとする彼女に詰め寄り、白い太腿に手のひらを滑らせ指先は肌と短パンの隙間に僅かに侵入している
「っ!すまないっ!そんなつもりは!」
慌てて身を引き暴走した自分の手を反対の手で強く掴んで離れた
今更意識したせいか俺の手のひらに残る彼女の温もりと触り心地のいい肌の感触が生々しく残る
もっと触りたい
そう言っているように俺の片手は疼き必死に手首を強く掴み直した
『怪我を心配してくれたんですよね?すみません…ちょっと擽ったくて』
照れ笑いをする彼女に俺も照れてしまい顔が熱くなる
自分の太腿を擦りながら座る彼女をもし…押し倒したら
俺のマントに寝転び髪の毛を広げた彼女を上から見下ろす想像を無意識にしてしまい体が熱くなる
俺達はあの告白をした日から付き合い始めてまだ数週間だ
キスさえまだぎこちないのに、それ以上を求めるなんて…
「(落ち着けダンデ!彼女を大事にしたい筈だ!)」
欲が暴走しないように軽く深呼吸を繰り返す俺は彼女の怪我についてそれ以上は聞かなかった
聞けばよかったと後に後悔する事になるとも知らず