第三巻
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
周りに響く爆音
耳に口を寄せて楽しげに話す客
酒の匂いと鼻に纏わりつく香水の匂い
光と音楽の世界に酔いしれ騒ぐ客の中でこの男は別の世界にいるようにぼんやりとカウンター席でグラスを傾けていた
「…………」
「キバナったら!全然ノッてこないじゃない、どうしたの?」
「………別に」
数日前に届いたメールの内容に時が止まったように頭が動かない
キバナは笑うでも怒るでもなく顔に表情を浮かべずじっとスマホを見つめるばかりだった
隙だらけとなった彼を無理矢理クラブへと連れ出した女は今夜こそはとキバナに擦り寄り彼が手を出すのを望んでいた
「ねぇ…なら二人で楽しい事しない?」
「……気分じゃねぇ」
「そんな事言わないで、いい気分になるお薬ならウチにあるわよ?」
チラリと見た先に見えるのはドレスから溢れそうな程の豊満な胸
薬を使ってハイになったセックスの良さは知っている
キバナは欲情はしていないが今の気分が紛れるならいいかと視線を逸らした
「…………(一晩だけなら悪くねぇか)」
「ね?今夜は二人で…いっぱい楽しみましょ」
彼女の手がキバナの腹を撫で下へとゆっくりと下がる
ベルトまであと少しというところで褐色の手が女の手を掴み動きを止めると、キバナはそっぽを向き
「先に出てろ」
「……ふふ、待ってるわ」
ご機嫌に店の出入り口へと向かう女の後ろ姿を横目で確認しキバナはある方向へと向った
店の奥にある男子トイレ、その中には男性が買う目的で設置された自販機が置かれていた
並んだ商品はジュース等の飲み物ではなくコンドームやローションといった性行為の為の物だった
キバナはぼんやりとした瞳のまま自販機の前に立ち自分のサイズのコンドームを物色するが…
「………(ナマエちゃん)」
頭に浮かぶのは彼女の事ばかりであり、キバナは手に持っていたスマホをまた見つめ片手で操作しだした
最後に来たメール
読み返すと辛いと分かっていたが見ずにはいられず目を通す
何度見ても内容は変わらない
そこにあるのは自分ではない男を選んだ事…そして謝罪だった
「………ひでぇな」
どうして自分は選ばれなかったのか
その男の何が自分よりも優れているというのか
聞きたくても聞けない言葉が胸から喉奥まで貯まっていて苦しい
二度と見たくないとでも言うようにポケットへスマホをねじ込むが彼女の姿が頭にチラつく
最後に見た彼女はずっと笑っていて
触ることができて愛しいという気持ちばかり溢れてくる
彼女はもう自分の物にはならない
現実を思い出しては心が痛い
誰かにふられるなんて初めての経験で苦しくて仕方なかった
情けない自分が嫌で笑って次の獲物を探せばいいと頭では言い聞かせれるのに…心は
重く…引き裂かれたように鈍い痛みが消えなかった
「(忘れろキバナ!いつもみたいにクールに流せ!次あった時笑ってお祝いしてやって…友達として…また)」
出会った時から今まで
警戒されておどおどしていた彼女が自分に気を許すまでを思い出すと不意に喉奥が狭くなった感じがした
「(……忘れろ)」
重くなる指先で自販機を押すとガコンと音を鳴らし商品が落下する
取り出し口に手を伸ばそうとしゃがみ込むとキバナは薄いプラスチックの扉の向こうに見えた箱に胸が締め付けられた
「(忘れろっ!)」
これを使う相手は他の女
ナマエではない、好きでもない女
「……ッ」
実感した途端キバナはだらりと手を下げしゃがみ込んだまま顔を下へと向け顔を歪めた
「……………やだな」
目元が熱くなり潤ってくる
今までならワンナイトとして感情がなくても抱けたというのに、今は酷く本能が反対してくる
「(……いやだ…ヤダヤダヤダっ!やっぱオレっ!……ナマエちゃんじゃなきゃ)」
前髪を短くした時、特別な物を見たような気分がした
テントで寝泊まりをした夜は癒やしと欲を知った
一緒に釣りをした時は自分も普通の男に戻ったように気楽な気分で楽しめる事を知った
全て……彼女がいたからだ
「……………側に……いたいっ」
隣に立つ男は自分でありたい
側にいて何気ない瞬間を共に過ごしたい
「ナマエちゃん…オレ…こんなに好きになっちまってたんだぜ?なのに…はいそうですかって…この気持ちを殺せって言うのか?」
頭が痺れて熱くなる
両手で頭を守るように抱え込み太い眉が眉間に痕が残りそうな程深いシワを寄せる
苦痛に耐えるように顔を歪めた彼は暫くしゃがんだまま動かず周りの客に変な視線を向けられた
人目も気にならない程キバナの脳内はナマエへの感情が溢れていた
愛しい
憎い
守りたい
悔しい
欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい…
「…て…たまるか…よ…」
暫くすると彼は何度か深呼吸をし、目元を手の甲で乱暴に拭い取りゆらりと立ち上がった
その青い目はもう曇ってはおらずバトル前のように鋭く輝いていた
「………諦めてたまるかよ」
低い声を漏らした彼は店の出入り口に向かわず裏口へと歩き出し、キバナが使った自販機の取り出し口にはコンドームの箱が置き去りになっていた
キバナが決意している頃
ナマエはテントの中でスマホ画面を見つめ返事の来ないキバナの事を想っていた
『……怒ったのかな』
彼の事だから何かしら短くても返事が必ず来ると思っていたが何も返ってこなかった
『やっぱり会って話した方がよかったかな』
本来ならば会って話したかった
ワイルドエリアからナックルへ戻った時会おうとしたのだが、運悪く彼は仕事が入っており面会は叶わず旅を続けるしかなかった
『ん?あ、ダンデさんからだ』
彼女の落ち込む気持ちを察知するかのように代わりにダンデからのメールが届きナマエはそれを優しい眼差しで目を通した
『……ふふっ、ダンデさんって変なの』
初めての恋人は心配性で嫉妬深いようだ、暇を見つけては怪我をしていないか誰かに手を出されてないかメールで聞いてくる
まだ離れて数日だというのに早く会いたいと連絡をくれるダンデにナマエは胸をときめかせ、自分も同じ気持ちだと照れながらメールを送った
『あたしも……って…なんか照れちゃうな……ってうわ!もう返事来た!』
【時間を作って絶対会いに行くぜ!】
真っ直ぐな愛情表現をしてくれる彼に頬が熱くなるのを感じナマエは夜風に当たろうとテントからゴソゴソと外へ出た
空を見れば黄色に輝く月が見え柔らかい眩しさに瞳を細めた
『………そのうち…ちゃんとキバナさんとも連絡取れればいいな』
友人としてこれからも彼には相談に乗ってもらいたい
また一緒に笑い合いたい
そんな願いを込めながら夜空を見つめるが、あんなに輝いていた月はいつの間にか近寄ってきた黒い雲に隠れようとしていた
耳に口を寄せて楽しげに話す客
酒の匂いと鼻に纏わりつく香水の匂い
光と音楽の世界に酔いしれ騒ぐ客の中でこの男は別の世界にいるようにぼんやりとカウンター席でグラスを傾けていた
「…………」
「キバナったら!全然ノッてこないじゃない、どうしたの?」
「………別に」
数日前に届いたメールの内容に時が止まったように頭が動かない
キバナは笑うでも怒るでもなく顔に表情を浮かべずじっとスマホを見つめるばかりだった
隙だらけとなった彼を無理矢理クラブへと連れ出した女は今夜こそはとキバナに擦り寄り彼が手を出すのを望んでいた
「ねぇ…なら二人で楽しい事しない?」
「……気分じゃねぇ」
「そんな事言わないで、いい気分になるお薬ならウチにあるわよ?」
チラリと見た先に見えるのはドレスから溢れそうな程の豊満な胸
薬を使ってハイになったセックスの良さは知っている
キバナは欲情はしていないが今の気分が紛れるならいいかと視線を逸らした
「…………(一晩だけなら悪くねぇか)」
「ね?今夜は二人で…いっぱい楽しみましょ」
彼女の手がキバナの腹を撫で下へとゆっくりと下がる
ベルトまであと少しというところで褐色の手が女の手を掴み動きを止めると、キバナはそっぽを向き
「先に出てろ」
「……ふふ、待ってるわ」
ご機嫌に店の出入り口へと向かう女の後ろ姿を横目で確認しキバナはある方向へと向った
店の奥にある男子トイレ、その中には男性が買う目的で設置された自販機が置かれていた
並んだ商品はジュース等の飲み物ではなくコンドームやローションといった性行為の為の物だった
キバナはぼんやりとした瞳のまま自販機の前に立ち自分のサイズのコンドームを物色するが…
「………(ナマエちゃん)」
頭に浮かぶのは彼女の事ばかりであり、キバナは手に持っていたスマホをまた見つめ片手で操作しだした
最後に来たメール
読み返すと辛いと分かっていたが見ずにはいられず目を通す
何度見ても内容は変わらない
そこにあるのは自分ではない男を選んだ事…そして謝罪だった
「………ひでぇな」
どうして自分は選ばれなかったのか
その男の何が自分よりも優れているというのか
聞きたくても聞けない言葉が胸から喉奥まで貯まっていて苦しい
二度と見たくないとでも言うようにポケットへスマホをねじ込むが彼女の姿が頭にチラつく
最後に見た彼女はずっと笑っていて
触ることができて愛しいという気持ちばかり溢れてくる
彼女はもう自分の物にはならない
現実を思い出しては心が痛い
誰かにふられるなんて初めての経験で苦しくて仕方なかった
情けない自分が嫌で笑って次の獲物を探せばいいと頭では言い聞かせれるのに…心は
重く…引き裂かれたように鈍い痛みが消えなかった
「(忘れろキバナ!いつもみたいにクールに流せ!次あった時笑ってお祝いしてやって…友達として…また)」
出会った時から今まで
警戒されておどおどしていた彼女が自分に気を許すまでを思い出すと不意に喉奥が狭くなった感じがした
「(……忘れろ)」
重くなる指先で自販機を押すとガコンと音を鳴らし商品が落下する
取り出し口に手を伸ばそうとしゃがみ込むとキバナは薄いプラスチックの扉の向こうに見えた箱に胸が締め付けられた
「(忘れろっ!)」
これを使う相手は他の女
ナマエではない、好きでもない女
「……ッ」
実感した途端キバナはだらりと手を下げしゃがみ込んだまま顔を下へと向け顔を歪めた
「……………やだな」
目元が熱くなり潤ってくる
今までならワンナイトとして感情がなくても抱けたというのに、今は酷く本能が反対してくる
「(……いやだ…ヤダヤダヤダっ!やっぱオレっ!……ナマエちゃんじゃなきゃ)」
前髪を短くした時、特別な物を見たような気分がした
テントで寝泊まりをした夜は癒やしと欲を知った
一緒に釣りをした時は自分も普通の男に戻ったように気楽な気分で楽しめる事を知った
全て……彼女がいたからだ
「……………側に……いたいっ」
隣に立つ男は自分でありたい
側にいて何気ない瞬間を共に過ごしたい
「ナマエちゃん…オレ…こんなに好きになっちまってたんだぜ?なのに…はいそうですかって…この気持ちを殺せって言うのか?」
頭が痺れて熱くなる
両手で頭を守るように抱え込み太い眉が眉間に痕が残りそうな程深いシワを寄せる
苦痛に耐えるように顔を歪めた彼は暫くしゃがんだまま動かず周りの客に変な視線を向けられた
人目も気にならない程キバナの脳内はナマエへの感情が溢れていた
愛しい
憎い
守りたい
悔しい
欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい…
「…て…たまるか…よ…」
暫くすると彼は何度か深呼吸をし、目元を手の甲で乱暴に拭い取りゆらりと立ち上がった
その青い目はもう曇ってはおらずバトル前のように鋭く輝いていた
「………諦めてたまるかよ」
低い声を漏らした彼は店の出入り口に向かわず裏口へと歩き出し、キバナが使った自販機の取り出し口にはコンドームの箱が置き去りになっていた
キバナが決意している頃
ナマエはテントの中でスマホ画面を見つめ返事の来ないキバナの事を想っていた
『……怒ったのかな』
彼の事だから何かしら短くても返事が必ず来ると思っていたが何も返ってこなかった
『やっぱり会って話した方がよかったかな』
本来ならば会って話したかった
ワイルドエリアからナックルへ戻った時会おうとしたのだが、運悪く彼は仕事が入っており面会は叶わず旅を続けるしかなかった
『ん?あ、ダンデさんからだ』
彼女の落ち込む気持ちを察知するかのように代わりにダンデからのメールが届きナマエはそれを優しい眼差しで目を通した
『……ふふっ、ダンデさんって変なの』
初めての恋人は心配性で嫉妬深いようだ、暇を見つけては怪我をしていないか誰かに手を出されてないかメールで聞いてくる
まだ離れて数日だというのに早く会いたいと連絡をくれるダンデにナマエは胸をときめかせ、自分も同じ気持ちだと照れながらメールを送った
『あたしも……って…なんか照れちゃうな……ってうわ!もう返事来た!』
【時間を作って絶対会いに行くぜ!】
真っ直ぐな愛情表現をしてくれる彼に頬が熱くなるのを感じナマエは夜風に当たろうとテントからゴソゴソと外へ出た
空を見れば黄色に輝く月が見え柔らかい眩しさに瞳を細めた
『………そのうち…ちゃんとキバナさんとも連絡取れればいいな』
友人としてこれからも彼には相談に乗ってもらいたい
また一緒に笑い合いたい
そんな願いを込めながら夜空を見つめるが、あんなに輝いていた月はいつの間にか近寄ってきた黒い雲に隠れようとしていた