第二巻
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食事をすませジムもまた問題なく進んだ、ルリナとのバトルを見届けたキバナはナマエの成長ぶりに満足そうに微笑み拍手を送る
『はぁ〜まだ胸がドキドキいってる』
バトルを終えた彼女はまだ興奮が収まらず何度も深呼吸を繰り返しながら控室へと向かっていた
バトルで勝てた嬉しさと自分の戦法が通じた楽しさ、家の中に籠もっていた時は想像もできなかった世界に酔いしれた時だった
『あ……あれ?』
控室内にある自分が使っていたロッカーが開いているではないか
まさかと思い周りや中を確認するがやはり自分の使っていたロッカーだ
鍵をかけた筈だが緊張のあまり忘れたのかもしれない
ざわざわとした落ち着かない焦りを首筋に感じながらも荷物へと手を伸ばしてみる
『お財布もあるし…特に盗まれてもないかな?やっぱりあたしがただ鍵を忘れただけかも』
貴重品は何も盗まれていない事にホッとしユニフォームから私服へと着替えた彼女は気が付かなかったのだろう
何かが減ったのではなく
増えた事に
「おっ、ナマエちゃん!」
控室を出ると廊下には彼女を待っていたルリナとキバナが軽く手を振ってくれた
彼らの元へと駆け寄ろうとした時ナマエの荷物から何かが一つ床に落ちた
カシャリと乾いた音を鳴らして落ちたそれに気がつかずキバナ達の元へ向かおうとすると彼女の後ろから大きな声で呼び止める女性の声が響いた
「ねぇ!落としたわよ?」
『え?』
振り返って見えたのはニヤニヤと笑う大人の女性と彼女が高々と持ち上げた小さな四角い包みに入った何か
「貴女のでしょ?カバンから落ちたの見たし…ていうか、ジムチャレンジャーの癖にこんなの持ち歩いてるの?」
ただ落とし物を拾ってやるならばすぐに返せばいいものを女性はわざとフロアにいる全ての者に聞こえるように声を大きくした
声に注目した人々は女性の持つ物と持ち主であろうナマエを見比べてはざわめき、クスクスと笑う者まで現れた
子供達には分からないだろうが
ある程度の年齢の者なら全員知っている、女性が持っていた物は男性用の避妊具だ
『え?いえ…それはあたしのじゃないです』
「そんな事ないわよ!貴女の荷物から落ちるの見たもの!別に恥ずかしがる事ないのよ?貴女みたいな年頃は興味をもつ頃だし…寧ろ避妊してるだけ偉いんじゃない?」
ニヤニヤと笑う大人の女性はゆっくりとナマエに近づき冷たい眼差しで見下ろすと持っていた避妊具の包みを見せつけた
「ポケモンじゃなくて男をゲットするのに忙しいんでしょ」
『違います…あたしはっ』
「ほら、早く受け取って?」
ナマエの言葉を聞こうとしない女性の威圧に負け震えるながら手を動かそうとする彼女に気がつきルリナが声を出そうとした瞬間
彼女達の会話を邪魔するようにキバナが明るい声をフロアに響かせた
「あ〜わりぃ!それオレさまのだわ!さっきぶつかった時にオレの荷物が混ざっちまったみてぇだな」
キバナはケラケラと笑い二人の間に入ると女性の手に握られていた避妊具を寄越せと手のひらを向けた
「悪かったな、お嬢さんもこんなのいつまでも触りたくないだろ?」
「キバナさま?いえ、これはっ」
「オレさまのだ」
女性は何か言いたげだったが、ここで渡さなければ変に見られるのは自分だと悟ったのだろう
気不味そうにキバナに手渡すと彼は手の中で避妊具をぐしゃりと握り込み嘘の笑顔を顔に貼り付けた
「サンキュ」
彼が受け取った事によりフロアの人々は納得しそれぞれ元の位置に戻っていく
何事もなかったようになる雰囲気に戸惑いを隠せないナマエはキバナの背中を見上げ眉を下げるばかりだ
「さて、迷惑かけたお詫びだ!そこまで送ってやるよ」
『キバナさんっあの!』
「ハイハイ!文句は外で聞くから」
無理矢理肩を抱き外へ向かいルリナはキバナ達を追いかけながらも後ろで顔を歪める女性を睨みつけた
街から離れるとキバナは大きくため息を一つし足を止めた
「オマエ…前にもこんな事されたのか?」
『どういう事ですか?』
「明らかに嫌がらせだろーが、ナマエちゃんを笑い者にしたくてこんなもん仕込みやがって!」
ぐしゃりと握りしめていたそれをキバナは地面に捨て去り忌々しそうに踏みつけた
「きっとこれだけじゃ終わらねぇ、ナマエちゃんを狙ってくる奴はまだいる筈だっ」
『そんな…でもどうして?あたし何かしましたか?』
野良バトルで負けた悔しさによる逆恨みだろうか?
それにしては先程の女性にピンと来るものがない
何か見落としてないか過去を振り返り頭を悩ませる彼女を隣に立つキバナは見つめ眉を下げる
「あ〜〜それに関しちゃ多分オレとダンデのせいかもしれない、まあ調べてみないとなんとも言えねぇけど」
ガシガシと頭をかき申し訳無さそうに眉を下げるキバナは思い当たる事を口にした
「オレらのファンってさ、たまにすげぇ嫉妬する奴らいんだよ…だからもしかしたら一部のファンがナマエちゃんに嫉妬してやったのかもしれない」
開会式にしろ他の何処かにしろ
ダンデとキバナは他のチャレンジャーに比べてナマエとの距離が近い
その親しげな距離感に嫉妬する者が現れてもおかしくなかった
ファン同士で揉め事が起こった事が過去にありキバナはナマエを巻き込んでしまった事に酷く罪悪感を感じ心を重くさせた
「(くそっ…オレはただナマエちゃんと仲良くしたいだけだっつーのになんでこうなるんだよっ!)」
ファンを大事にしたい気持ちは勿論あるが…それ以上に自分の中で大きくなりだしている彼女の存在を守りたくて……
どうしたものかと考え込むがナマエは悩む素振りもなく自分なりの解決策を口にしだす
『いえ、あたしは平気ですけど…そっかそりゃ嫌ですよね?あたしみたいなぽっとでの女が突然お二人の側にいたら』
「ん?」
嫌な予感がし片眉がつい吊り上がる
『これからはファンの皆さんの為にも誤解されないようにします!』
「は?おいっ」
『お二人とはなるべく離れて…』
「ちょい待ち!!」
予感的中だ
争いになるならば身を引くという彼女の答えはキバナには受け入れ難い
寧ろ受け入れるわけにはいかない
「それはオレさま的に嫌なんだけど?」
片手を腰に当てながら見下ろしてくる青い瞳は面白くないとばかりに険しく細められ声も低くなる
不機嫌な空気を肌で感じナマエはジリジリと刺さる視線に怯えながら彼を見上げた
『なんでですか?』
「なんでって……オレはナマエちゃんと仲良くしたいんだよ!だから距離を置くなんて嫌だぜ」
『…仲良くって今以上にですか?』
「当たり前だろ、こんぐらいじゃオレさまは満足しねぇよ」
ナマエとしては今でも信じられない程仲がいいと思っていた
仲の良い男友達
その考えは自分の勘違いだったんだろうか?
『(あれ?もしかして…あたし達ってまだ友達でもないとか?)』
「まぁ〜た何か勘違いしてんだろ?」
マイナス方向へ考え出す彼女にすぐに気がつきキバナはナマエの眉間のシワを人差し指で突いた
「今のまま友達じゃなくて…もっと深い仲になりたいから距離を置くのは嫌だってオレは言ってんだよ」
『あ…よかった、今友達で合ってたんだ……て……あれ?』
然りげ無く言われた重大な言葉に気がつきキバナへ真っ直ぐに瞳を向けると、彼は漸く気がついたかと言わんばかりに困ったように笑った
『な、なんか誤解しちゃいそうなんで、変な言い方しないでください』
「ん〜?どんな誤解?」
『だから…友達より深い仲って…それって…恋愛的な関係みたいに聞こえるし』
口にするだけで恥ずかしい勘違いだ
彼のようなモテる男が自分にそんな感情持つはずがない
きっとすぐに笑ってこのおかしな雰囲気をなんとかしてくれる
期待をしながら彼を見つめるが
キバナは人を馬鹿にしたような笑い声を上げるわけでもなく
ゆっくりと背中を少し屈めるとナマエの目を真っ直ぐに見つめ
「そのつもりなんだけど?」
『………………ひゅっ!!』
驚きすぎて息を吸い込み変な音がでてしまう、真剣な顔つきでこちらを見るキバナにどうしたらいいのか分からず視線を急いで逸らすしかできない
急激に赤くなる頬を隠そうと手の甲で顔を隠す彼女にキバナは小さく笑い屈めていた背筋を元に戻していく
「あ〜あ、こんなすぐに追い込むつもりはなかったんだけど…仕方ねぇよな?」
仕方ないとはどういう事なのか
聞きたいがまた変な声が出そうで苦しい程音を鳴らす胸が煩くてナマエは動けずにいた
「オレさ……ナマエちゃんの事結構気に入ってんのよ、だから付き合って欲しいな〜て思ってさ」
『っ!(えっ!軽っ、てか付き合うって……えぇ?)』
湯気でも出しそうなナマエの頭をキバナは数回撫でるとそれだけで彼女はビクンッと過剰に反応してしまい、その小動物のような反応に彼はクスクスと喉奥で笑った
「ま、オレさま気長に待っててやるからさ……友達以上になる勇気でたら教えてくれよ」
『……ずっと勇気が出なかったら?』
少し震えた声で聞くとキバナは一瞬驚きじんわりと意地悪い笑みを浮かべた
「そんときゃ我慢が切れたドラゴンが襲いに来るから覚悟しとけ」
『〜〜っ!(それ逃げられないって意味じゃ!)』
湯気を頭から出す彼女とそれを面白そうに撫でるキバナ
「ちょっと何いじめてんのよ」
ルリナが現れるとナマエはすぐさま彼女に逃げるように抱きつき、ルリナもキバナを敵として睨みつける
ルリナの中ではもうナマエは保護すべき小動物のような物らしく、甘やかしたくて仕方ないようだ
『うぅ〜』
「お〜よしよし、色ボケチャラ男になんか言われたの?気にする事ないわよ?」
「えー酷くない?オレさま紳士だと思うんだけど…な?ナマエちゃん」
『っ!』
ルリナに抱きつく彼女に話しかけるがナマエはキバナの近い距離感に限界を迎えたのだろう
咄嗟に走り出し二人の元から逃げ出してしまい、転びそうになりながらバウタウンを出ていくナマエをキバナとルリナは苦笑いしながら見送った
「あ〜あ…逃げられちまった」
「まったく……で?どうするの?さっきの女ならウチのスタッフが捕まえたわよ」
ルリナが二人を追いかけて来たのは別れを惜しむからだけでない
本題を口にするとキバナは笑顔を静かに消し去り青い瞳を冷たくさせる
「とりあえずオレが話を聞いてみるさ、あんま大袈裟にはしないつもりだけどよ……また何か手を出す奴らがでたらオレさま暴れちまうかもな」
「……キバナ」
じわじわと彼の体から溢れ出す怒りの気配を感じ眉を寄せるルリナは目の前にいる男がほんの少し恐ろしい物に見えた
「ドラゴンは宝を守る為ならなんでもする……それを分からせてやる」
ナマエという新たな宝を前にしキバナの渇きが疼く
早く手に入れたい
早く自分の巣穴に迎え大事に閉じ込めてしまいたい
誰にも触らせない
誰にも見せない
自分だけの宝物
「(先にオレに火をつけたのはナマエちゃんなんだぜ?)」
自分の首筋を手のひらで軽く撫でた彼はゾクリとしたものを背筋に走らせ妖しく白い八重歯を光らせた
『はぁ〜まだ胸がドキドキいってる』
バトルを終えた彼女はまだ興奮が収まらず何度も深呼吸を繰り返しながら控室へと向かっていた
バトルで勝てた嬉しさと自分の戦法が通じた楽しさ、家の中に籠もっていた時は想像もできなかった世界に酔いしれた時だった
『あ……あれ?』
控室内にある自分が使っていたロッカーが開いているではないか
まさかと思い周りや中を確認するがやはり自分の使っていたロッカーだ
鍵をかけた筈だが緊張のあまり忘れたのかもしれない
ざわざわとした落ち着かない焦りを首筋に感じながらも荷物へと手を伸ばしてみる
『お財布もあるし…特に盗まれてもないかな?やっぱりあたしがただ鍵を忘れただけかも』
貴重品は何も盗まれていない事にホッとしユニフォームから私服へと着替えた彼女は気が付かなかったのだろう
何かが減ったのではなく
増えた事に
「おっ、ナマエちゃん!」
控室を出ると廊下には彼女を待っていたルリナとキバナが軽く手を振ってくれた
彼らの元へと駆け寄ろうとした時ナマエの荷物から何かが一つ床に落ちた
カシャリと乾いた音を鳴らして落ちたそれに気がつかずキバナ達の元へ向かおうとすると彼女の後ろから大きな声で呼び止める女性の声が響いた
「ねぇ!落としたわよ?」
『え?』
振り返って見えたのはニヤニヤと笑う大人の女性と彼女が高々と持ち上げた小さな四角い包みに入った何か
「貴女のでしょ?カバンから落ちたの見たし…ていうか、ジムチャレンジャーの癖にこんなの持ち歩いてるの?」
ただ落とし物を拾ってやるならばすぐに返せばいいものを女性はわざとフロアにいる全ての者に聞こえるように声を大きくした
声に注目した人々は女性の持つ物と持ち主であろうナマエを見比べてはざわめき、クスクスと笑う者まで現れた
子供達には分からないだろうが
ある程度の年齢の者なら全員知っている、女性が持っていた物は男性用の避妊具だ
『え?いえ…それはあたしのじゃないです』
「そんな事ないわよ!貴女の荷物から落ちるの見たもの!別に恥ずかしがる事ないのよ?貴女みたいな年頃は興味をもつ頃だし…寧ろ避妊してるだけ偉いんじゃない?」
ニヤニヤと笑う大人の女性はゆっくりとナマエに近づき冷たい眼差しで見下ろすと持っていた避妊具の包みを見せつけた
「ポケモンじゃなくて男をゲットするのに忙しいんでしょ」
『違います…あたしはっ』
「ほら、早く受け取って?」
ナマエの言葉を聞こうとしない女性の威圧に負け震えるながら手を動かそうとする彼女に気がつきルリナが声を出そうとした瞬間
彼女達の会話を邪魔するようにキバナが明るい声をフロアに響かせた
「あ〜わりぃ!それオレさまのだわ!さっきぶつかった時にオレの荷物が混ざっちまったみてぇだな」
キバナはケラケラと笑い二人の間に入ると女性の手に握られていた避妊具を寄越せと手のひらを向けた
「悪かったな、お嬢さんもこんなのいつまでも触りたくないだろ?」
「キバナさま?いえ、これはっ」
「オレさまのだ」
女性は何か言いたげだったが、ここで渡さなければ変に見られるのは自分だと悟ったのだろう
気不味そうにキバナに手渡すと彼は手の中で避妊具をぐしゃりと握り込み嘘の笑顔を顔に貼り付けた
「サンキュ」
彼が受け取った事によりフロアの人々は納得しそれぞれ元の位置に戻っていく
何事もなかったようになる雰囲気に戸惑いを隠せないナマエはキバナの背中を見上げ眉を下げるばかりだ
「さて、迷惑かけたお詫びだ!そこまで送ってやるよ」
『キバナさんっあの!』
「ハイハイ!文句は外で聞くから」
無理矢理肩を抱き外へ向かいルリナはキバナ達を追いかけながらも後ろで顔を歪める女性を睨みつけた
街から離れるとキバナは大きくため息を一つし足を止めた
「オマエ…前にもこんな事されたのか?」
『どういう事ですか?』
「明らかに嫌がらせだろーが、ナマエちゃんを笑い者にしたくてこんなもん仕込みやがって!」
ぐしゃりと握りしめていたそれをキバナは地面に捨て去り忌々しそうに踏みつけた
「きっとこれだけじゃ終わらねぇ、ナマエちゃんを狙ってくる奴はまだいる筈だっ」
『そんな…でもどうして?あたし何かしましたか?』
野良バトルで負けた悔しさによる逆恨みだろうか?
それにしては先程の女性にピンと来るものがない
何か見落としてないか過去を振り返り頭を悩ませる彼女を隣に立つキバナは見つめ眉を下げる
「あ〜〜それに関しちゃ多分オレとダンデのせいかもしれない、まあ調べてみないとなんとも言えねぇけど」
ガシガシと頭をかき申し訳無さそうに眉を下げるキバナは思い当たる事を口にした
「オレらのファンってさ、たまにすげぇ嫉妬する奴らいんだよ…だからもしかしたら一部のファンがナマエちゃんに嫉妬してやったのかもしれない」
開会式にしろ他の何処かにしろ
ダンデとキバナは他のチャレンジャーに比べてナマエとの距離が近い
その親しげな距離感に嫉妬する者が現れてもおかしくなかった
ファン同士で揉め事が起こった事が過去にありキバナはナマエを巻き込んでしまった事に酷く罪悪感を感じ心を重くさせた
「(くそっ…オレはただナマエちゃんと仲良くしたいだけだっつーのになんでこうなるんだよっ!)」
ファンを大事にしたい気持ちは勿論あるが…それ以上に自分の中で大きくなりだしている彼女の存在を守りたくて……
どうしたものかと考え込むがナマエは悩む素振りもなく自分なりの解決策を口にしだす
『いえ、あたしは平気ですけど…そっかそりゃ嫌ですよね?あたしみたいなぽっとでの女が突然お二人の側にいたら』
「ん?」
嫌な予感がし片眉がつい吊り上がる
『これからはファンの皆さんの為にも誤解されないようにします!』
「は?おいっ」
『お二人とはなるべく離れて…』
「ちょい待ち!!」
予感的中だ
争いになるならば身を引くという彼女の答えはキバナには受け入れ難い
寧ろ受け入れるわけにはいかない
「それはオレさま的に嫌なんだけど?」
片手を腰に当てながら見下ろしてくる青い瞳は面白くないとばかりに険しく細められ声も低くなる
不機嫌な空気を肌で感じナマエはジリジリと刺さる視線に怯えながら彼を見上げた
『なんでですか?』
「なんでって……オレはナマエちゃんと仲良くしたいんだよ!だから距離を置くなんて嫌だぜ」
『…仲良くって今以上にですか?』
「当たり前だろ、こんぐらいじゃオレさまは満足しねぇよ」
ナマエとしては今でも信じられない程仲がいいと思っていた
仲の良い男友達
その考えは自分の勘違いだったんだろうか?
『(あれ?もしかして…あたし達ってまだ友達でもないとか?)』
「まぁ〜た何か勘違いしてんだろ?」
マイナス方向へ考え出す彼女にすぐに気がつきキバナはナマエの眉間のシワを人差し指で突いた
「今のまま友達じゃなくて…もっと深い仲になりたいから距離を置くのは嫌だってオレは言ってんだよ」
『あ…よかった、今友達で合ってたんだ……て……あれ?』
然りげ無く言われた重大な言葉に気がつきキバナへ真っ直ぐに瞳を向けると、彼は漸く気がついたかと言わんばかりに困ったように笑った
『な、なんか誤解しちゃいそうなんで、変な言い方しないでください』
「ん〜?どんな誤解?」
『だから…友達より深い仲って…それって…恋愛的な関係みたいに聞こえるし』
口にするだけで恥ずかしい勘違いだ
彼のようなモテる男が自分にそんな感情持つはずがない
きっとすぐに笑ってこのおかしな雰囲気をなんとかしてくれる
期待をしながら彼を見つめるが
キバナは人を馬鹿にしたような笑い声を上げるわけでもなく
ゆっくりと背中を少し屈めるとナマエの目を真っ直ぐに見つめ
「そのつもりなんだけど?」
『………………ひゅっ!!』
驚きすぎて息を吸い込み変な音がでてしまう、真剣な顔つきでこちらを見るキバナにどうしたらいいのか分からず視線を急いで逸らすしかできない
急激に赤くなる頬を隠そうと手の甲で顔を隠す彼女にキバナは小さく笑い屈めていた背筋を元に戻していく
「あ〜あ、こんなすぐに追い込むつもりはなかったんだけど…仕方ねぇよな?」
仕方ないとはどういう事なのか
聞きたいがまた変な声が出そうで苦しい程音を鳴らす胸が煩くてナマエは動けずにいた
「オレさ……ナマエちゃんの事結構気に入ってんのよ、だから付き合って欲しいな〜て思ってさ」
『っ!(えっ!軽っ、てか付き合うって……えぇ?)』
湯気でも出しそうなナマエの頭をキバナは数回撫でるとそれだけで彼女はビクンッと過剰に反応してしまい、その小動物のような反応に彼はクスクスと喉奥で笑った
「ま、オレさま気長に待っててやるからさ……友達以上になる勇気でたら教えてくれよ」
『……ずっと勇気が出なかったら?』
少し震えた声で聞くとキバナは一瞬驚きじんわりと意地悪い笑みを浮かべた
「そんときゃ我慢が切れたドラゴンが襲いに来るから覚悟しとけ」
『〜〜っ!(それ逃げられないって意味じゃ!)』
湯気を頭から出す彼女とそれを面白そうに撫でるキバナ
「ちょっと何いじめてんのよ」
ルリナが現れるとナマエはすぐさま彼女に逃げるように抱きつき、ルリナもキバナを敵として睨みつける
ルリナの中ではもうナマエは保護すべき小動物のような物らしく、甘やかしたくて仕方ないようだ
『うぅ〜』
「お〜よしよし、色ボケチャラ男になんか言われたの?気にする事ないわよ?」
「えー酷くない?オレさま紳士だと思うんだけど…な?ナマエちゃん」
『っ!』
ルリナに抱きつく彼女に話しかけるがナマエはキバナの近い距離感に限界を迎えたのだろう
咄嗟に走り出し二人の元から逃げ出してしまい、転びそうになりながらバウタウンを出ていくナマエをキバナとルリナは苦笑いしながら見送った
「あ〜あ…逃げられちまった」
「まったく……で?どうするの?さっきの女ならウチのスタッフが捕まえたわよ」
ルリナが二人を追いかけて来たのは別れを惜しむからだけでない
本題を口にするとキバナは笑顔を静かに消し去り青い瞳を冷たくさせる
「とりあえずオレが話を聞いてみるさ、あんま大袈裟にはしないつもりだけどよ……また何か手を出す奴らがでたらオレさま暴れちまうかもな」
「……キバナ」
じわじわと彼の体から溢れ出す怒りの気配を感じ眉を寄せるルリナは目の前にいる男がほんの少し恐ろしい物に見えた
「ドラゴンは宝を守る為ならなんでもする……それを分からせてやる」
ナマエという新たな宝を前にしキバナの渇きが疼く
早く手に入れたい
早く自分の巣穴に迎え大事に閉じ込めてしまいたい
誰にも触らせない
誰にも見せない
自分だけの宝物
「(先にオレに火をつけたのはナマエちゃんなんだぜ?)」
自分の首筋を手のひらで軽く撫でた彼はゾクリとしたものを背筋に走らせ妖しく白い八重歯を光らせた