第二巻
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草バッチを手に入れ次なるバッチを目指し進むナマエ
道中野生ポケモンに追いかけられたりバトルを挑んでメッソンとの絆を育みながら成長を続け
ターフタウンから数日後
目的のバウタウンに着き安心したのもつかの間…早くも波乱の予感がしていた
『(な…なんでキバナさんがいるの?)』
大きな灯台とシーフードレストランが有名なバウタウンは街から見える広い海に囲まれた美しい街だ
潮風とキャモメの鳴き声がのんびりと時間を過ごす釣人を癒やし釣り目的で訪れる者も多くいた
そんな街の中に一際身長の高い男の姿を見つけてしまったのだ
彼はレストラン前で何やら街の人々と会話しており、まだこちらを振り向いてはいない
彼が嫌いと言うわけではないが頭に過ぎったのはヤローから言われた事…彼女の予想より開会式でキバナと話していた姿は目立っていた事だ
『(見つからないように…そぉ〜と)』
下手に近寄らない方がいいだろう
その場から遠ざかろうと足に意識を集中させ建物の影に身を寄せようと背を丸くした時だった
「ナマエちゃん、みっけ!」
『ひっ!!』
いつの間コチラに来たのか
キバナはナマエのすぐ後ろに立っており声をかけられた彼女は喉奥から心臓が飛び出るほど驚いた
「なぁに隠れてんの?それとも転んだ?」
中腰のまま振り返った彼女はダラダラと背中に冷や汗が浮かぶ気配がし引き攣った顔で苦笑いをしてみせた
『いえっ、ちょっと落とした物を拾っただけですから!じゃあそう言う事で!』
見つかってしまったのならこの場を逃げるしか選択はない
直ぐ様彼から離れようとするが、お目当ての獲物を見つけた黒い狼がただ見送る事はあり得ない
「え〜?冷たくない?せっかくキバナさまに会えたのに、普通ならレアだぜ?」
そそくさと彼から距離取ろうと歩き出すが後ろから直ぐ様長い腕が伸び、彼女の服の裾を掴んだ
「なあ、逃げんなって」
『〜っ!服離してください!』
体ごと前へ進もうとするが彼の掴んだ服が伸びるだけで進めない
必死に逃げようとしているというのに男と女の力の差なのか、キバナは微動だにせず服を掴んだまま不機嫌そうに唇を尖らせた
「やだー、だって離したら逃げんだろ?ねぇちょっとでいいからオレさまに付き合ってよ」
『付き合うって、……何にですか?』
服を離してもらおうと彼の掴んだ裾を両手で引っ張り抵抗していると彼は空いていた方の手でナマエの手首を掴み背中を丸めながら視線を合わせた
「勿論……決まってんだろ?」
海のような青い瞳が妖しく細められその美しさにゾクリとしたものが彼女の首筋から背中に走った
『(まさかっ、この前の請求しに来たとか!いやもしかしたら…あ、あんな事やこんな事ではっ)』
首を噛んでしまった事への脅しかもしれない、どうしたらいいのかと怯えた顔つきになる彼女にキバナはニンマリと口角を吊り上げ八重歯を光らせた
「大人しくついてきな」
*****************
『………つ………釣り……ですか?』
彼が連れてきたのはゴツゴツとした岩場が広がる海岸だった
ちらほらと釣りをしている先客がいるものの穴場なのか街の釣り堀とは違い人気が少ない
「そ!ここ結構大物釣れるんだぜ?」
キバナは先に準備していた釣りのポイントへと彼女を案内すると餌をつけた釣り竿を手渡してきた
彼自身も釣りをする気らしく
鼻歌を歌いながら釣り針に餌をつけ始める
まだ状況が理解できないナマエは渡された釣り竿を眺めながら思った事への正直に彼に聞いてみた
『な…なんで釣りなんですか?』
釣りが好きなんて彼には言った事はない、勿論やった事も興味があるとも言っていないが何故突然誘ってきたのか
不思議そうに見つめるとキバナは軽く首を傾げ小さく唸った
「ん〜オレさまなりの気遣いってやつよ」
『?』
疑問を感じつつキバナの強引な誘いにされるがままに釣り竿を握り海へと糸を垂らし、岩場に二人で並んで座った
海の波の動きに合わせモンスターボールの形をした浮きが右へ左へと緩やかに揺れなんとものんびりとした時間が流れ出す
海面が太陽の光を反射して綺麗だが魚はすぐには餌を食いつかずキバナも垂れ目を海に向けたままぼんやりとしている
『(……なんだろ、もしかしてキバナさんは釣りが好きでただ暇潰し相手にあたしを誘ったとか?)』
横目で彼を見ていると視線に気がついた彼と目が合ってしまい息をのんだ
『あ、あのキバナさんっ』
何か言わなければと頭が真っ白のまま口が勝手に動いてしまう
すると
「ナマエちゃんの浮き反応してるぜ?」
『えっ、ちょっ、これ、どうしたら?』
海面に浮かんでいた浮きは海の中に潜り込み釣り竿の先が強く下を向いている
手に伝わる獲物の糸を引く力強さに驚き慌てていると釣り竿を離してしまいそうだったナマエの手に褐色の大きな手が上から重なった
「落ち着けって、竿をちゃんと握ってな」
後ろに周り一緒に釣り竿を握りだす彼、背中に感じる大きな存在感と目の前に見える自分の手ごと包み込む大きな手に胸が強く高鳴った
『(ひぇぇっ!ちょっ近っ!手ぇ!手がっ!あぁっ背中がっ!)』
ぐるぐると目が回りそうな程混乱しているが釣り竿の先にいる獲物はそんなナマエの心なんて知らない
グンッと海の底へ逃げようとする魚の強さは人間も負けそうになるほど強くナマエは前のめりになりそうになる
『うわぁっ!』
「っ、こりゃデカいのが食いついたな!」
足場の悪い岩場
力で負ければきっと海へと落ちてしまうだろう
『(前に落ちれば海、後ろに下がればキバナさん……どっちでもあたしにとっては絶体絶命ではっ!!)』
最早泣きそうになっている彼女とは違いキバナはすっかり釣りを楽しんでいるのか、バトル時のように目を吊り上げ笑っている
「負けっか……よっ!!」
『うわぁっっっ!!』
一際強く手に力が入ったと思えば竿ごと腕を上に引っ張られた
バネが弾いたような反動が手に伝わりバシャリと大きな水飛沫が上がるのと同時に獲物が海面から引き上げられた
突然力が抜けた、時間がゆっくりになるような感覚
不意に後ろを振り向けば楽しそうに笑うキバナの顔が見えナマエは時間にしては一瞬……
体感的には数分彼に見惚れた
『デカっ!凄い大きいですねっ!』
「ナハハッ!言ったろ?大物が釣れるって、しかしマジでデカいの釣ったな!料理のやり甲斐があるわ」
釣った魚はよく食卓に並んでいた魚の大きさとは違い自分の顔より数倍大きかった
キバナは目的の獲物をゲットできた事に上機嫌になりながら釣り針を外していく
『え!キバナさん料理出来るんですか!』
「オレを誰だと思ってるの?キバナさまだぜ?簡単な料理くらいちゃんとできるっつーの」
確かに雑誌等で知ったキバナは趣味も多くなんでも出来そうなイメージではあるが、料理まで自分でやるとは思っていなかった
『(……意外だ、てっきりお洒落な外食とか綺麗な彼女さんとかが作ってくれるイメージしかないかも)』
魚をクーラーボックスに入れる為しゃがんでいたキバナをじっと見ていると彼は口をへの字に曲げじっとりとした目を彼女に向け返した
「………すげぇ顔に意外だって出てんぞ、失礼なヤツだな」
『あ、そんな事は……すみません、イメージが違ってたんで…なんか彼女さんとかの手作りを食べる姿の方がしっくりくるし』
両手を小さく左右に振り謝るとキバナはボックスを手に持ちながら立ち上がり、一気に彼を見上げる高さへと視線が戻る
「まあいいさ、本当のオレさまをこれからナマエちゃんが知ってくれるならな」
『………本当のキバナさん?』
本当の自分を見て欲しい
その言葉にナマエの中で琥珀色の瞳と紫の長い髪がちらりと浮かんだ
だがそれは一瞬であり
すぐに目の前の青い瞳が視線を奪っていく
「世の中のイメージで出来たキバナじゃなくて、本当のオレをその目でちゃんと見てろよ?……どんなにいい男か教えてやるから」
意地悪そうにニンマリと吊り上がる口元から見える白い八重歯
ふざけてるのか本気なのか
分からない男の妖しい色気にまた胸が騒ぎ出す
『うぐっ、な、なんか…それはそれで怖い気がするので遠慮します!』
「くっ、ハハッ、ところで……どうよ?少しは肩の緊張とれたか?」
ん?と笑顔のままこちらを見つめるキバナにナマエは目を丸くし数秒反応が遅れる
『え?………あ』
今更ではあったが
体が軽くなっていた
旅を始めてから知らず知らずに体中に力が入っていたのだろう
「少しでも気分転換になったのならキバナさまの作戦は成功なんだけどな」
ウィンクして笑う彼はどこまでも女性慣れしていて…それでいて優しい
初めて会った時から彼には驚かされてばかりな気がする
それはとても心地の良い驚きとなりキバナという存在が雑誌やテレビの向こうではなく身近に感じていくようだった
『…………ありがとう…ございます』
心からの言葉を口にし自然と微笑む彼女はぎこちなくも無く、緊張もしていない
ありのままの笑顔を見れたキバナは満足そうに瞳を細めた
「ん、さぁ〜てせっかく釣ったしルリナに厨房でも借りるか」
『え!ルリナさんって…ジムリーダーのですか?そんな急にお願いしていいんですか?』
「釣ったもんは新鮮なうちに食いたいだろ?ルリナには何度か世話になってるから安心しろって」
先にクーラーボックスを肩にかけ歩き出すキバナにナマエも慌ててついていき、二人は岩場から街へと戻っていく
ジムの建物が見える頃まで二人は会話を続けていたが、ふと…
キバナは思い出したように空を見上げ呟いた
「因みに……だけどさ」
『はい?』
「オレ、今彼女いないから」
『…………はぁ』
何故突然そんな事を言ったのか
顔が見えない為キバナの心情が分からず抜けたような返事しかできなかった
「突然来て厨房貸せって言うから何かと思えば…」
「まあまあ!オレさまの特製料理食わせてやっから機嫌治せよ」
話の通りルリナはキバナに文句を言いつつジムの奥にある厨房を貸してくれた
普段はジムリーダーやスタッフの休憩時に使われるそうで他のジムにも同じ設備があるのだろう
キバナは自分の家のように遠慮なく料理を始めており、テーブルに先に座らされたルリナは呆れたように自分の向かい側に座るナマエに視線を向けた
「貴女も災難だったわね、ジムチャレンジに来たのにキバナに足止めをくらって」
『いえ、キバナさんのおかげで少しリラックスできましたから』
「…………(この子…そう言えば開会式の時もキバナと親しかったわね、元々仲が良いのかしら)」
この時のルリナは知らなかった
目の前の少女こそダンデの初恋の相手だと
ダンデから話は聞いていたが彼は恋した相手がジムチャレンジャーのナマエとまでは話していなかったのだ
「ほら出来たぜ!」
両手に三人分の皿を持ってテーブルに来たキバナにルリナは探るように考え込むのを止め、目の前に並べられた料理に不本意ながらも目を奪われた
「(本当…ムカつくほど器用な男ね)」
レストランにでも並べるような魚料理、香草や盛り付けまで気をつける彼の料理へのこだわりは褒めたくなるが調子にのってくる姿を見たくなくてルリナはぐっと我慢する
『凄いお店みたいで美味しそう!本当に食べてもいいんですか!』
ルリナの代わりにナマエが思ったままに感想を言うと、キバナはルリナの隣に座りながらふにゃりと嬉しそうに笑った
「(この顔よ……予想通りね)」
「おう!召し上がれ」
予想通りのキバナの顔にルリナは若干苛立ちを感じながらもナマエと同じように料理へと視線を戻した
『い、いただきます!』
魚料理用のナイフとフォークを使い切り分けるとほんのり湯気の出る切り身に軽く息を吹きかけ口内へと招く
口いっぱいに広がる魚の旨味と香草の風味はキャンプでは味わえない旨さであり、感動にナマエの頬が緩んだ
『ん、んん〜〜っ!!』
美味しさを顔中から溢れさせる姿にルリナとキバナは驚きすぐに吊られるように笑顔を浮かべた
「ハハッ!いい反応だな!」
彼女の顔のせいか
ルリナの小さな意地は消えライバルであるキバナの料理を同じく口に運び感想を口にした
「………本当、なんでも出来る嫌な男よねキバナって」
「お味は気に入りませんでしたか?お嬢さん」
ちらりと隣にいるお互いを見る青い瞳、ジムリーダーでモデルもこなす二人は少し似ているものがある
だからだろう
ルリナが小さなライバル心からキバナを素直に褒めれないのは
「褒めてあげてもいいレベル…てとこね」
だが、今日は…
ほんの少し素直になれた
ルリナは自分の言葉に驚きながらも素直に言えた自分に喜び静かに微笑んだ
「そりゃ光栄だわ」
キバナもまた自分に対抗心を持つルリナと少し近づく事ができたのを感じ嬉しそうに笑い返したそうだ
ーオマケー
『んっ、あむっ、んんっ、おいひっ、ん、』
頬がパンパンになるほど料理を食べる彼女はまるでホシガリスのようだ
その食べっぷりにルリナは驚き
キバナはテーブルに両肘をつけ頬杖をしながらうっとりと見つめた
「はぁ…ほっぺたパンパン、食いしん坊で本当にモルペコみてぇ」
ハートでも飛ばしそうなキバナに嫌気がさしながらもルリナもナマエをじっと見つめると、ぼんやりと彼女のシルエットが食いしん坊のポケモンに見え可愛く見えた
「確かに…可愛いわ」
可愛い物が実は好きなルリナ
ナマエがどんどんと可愛く見えだし好感を持ち始めた頃だった
隣からとんでもない言葉が聞こえる
「いつかオレもナマエちゃんに食べてほしいわ」
「……は?」
何を言ったのかと隣にいるキバナを睨むが彼は気にせずナマエを見ながら何やら妖しい想像をしているようだ
「きっとオレさまの大きすぎて入らないよな…可哀想だし…いや!でも頑張って口に入れようとする姿絶対いいわ」
「……フォーク刺すわよ?」
「え、怖っ…え?何?何怒ってんの?」
せっかく近づいたというのに
この二人はまだまだぶつかり合う運命なのかもしれない
道中野生ポケモンに追いかけられたりバトルを挑んでメッソンとの絆を育みながら成長を続け
ターフタウンから数日後
目的のバウタウンに着き安心したのもつかの間…早くも波乱の予感がしていた
『(な…なんでキバナさんがいるの?)』
大きな灯台とシーフードレストランが有名なバウタウンは街から見える広い海に囲まれた美しい街だ
潮風とキャモメの鳴き声がのんびりと時間を過ごす釣人を癒やし釣り目的で訪れる者も多くいた
そんな街の中に一際身長の高い男の姿を見つけてしまったのだ
彼はレストラン前で何やら街の人々と会話しており、まだこちらを振り向いてはいない
彼が嫌いと言うわけではないが頭に過ぎったのはヤローから言われた事…彼女の予想より開会式でキバナと話していた姿は目立っていた事だ
『(見つからないように…そぉ〜と)』
下手に近寄らない方がいいだろう
その場から遠ざかろうと足に意識を集中させ建物の影に身を寄せようと背を丸くした時だった
「ナマエちゃん、みっけ!」
『ひっ!!』
いつの間コチラに来たのか
キバナはナマエのすぐ後ろに立っており声をかけられた彼女は喉奥から心臓が飛び出るほど驚いた
「なぁに隠れてんの?それとも転んだ?」
中腰のまま振り返った彼女はダラダラと背中に冷や汗が浮かぶ気配がし引き攣った顔で苦笑いをしてみせた
『いえっ、ちょっと落とした物を拾っただけですから!じゃあそう言う事で!』
見つかってしまったのならこの場を逃げるしか選択はない
直ぐ様彼から離れようとするが、お目当ての獲物を見つけた黒い狼がただ見送る事はあり得ない
「え〜?冷たくない?せっかくキバナさまに会えたのに、普通ならレアだぜ?」
そそくさと彼から距離取ろうと歩き出すが後ろから直ぐ様長い腕が伸び、彼女の服の裾を掴んだ
「なあ、逃げんなって」
『〜っ!服離してください!』
体ごと前へ進もうとするが彼の掴んだ服が伸びるだけで進めない
必死に逃げようとしているというのに男と女の力の差なのか、キバナは微動だにせず服を掴んだまま不機嫌そうに唇を尖らせた
「やだー、だって離したら逃げんだろ?ねぇちょっとでいいからオレさまに付き合ってよ」
『付き合うって、……何にですか?』
服を離してもらおうと彼の掴んだ裾を両手で引っ張り抵抗していると彼は空いていた方の手でナマエの手首を掴み背中を丸めながら視線を合わせた
「勿論……決まってんだろ?」
海のような青い瞳が妖しく細められその美しさにゾクリとしたものが彼女の首筋から背中に走った
『(まさかっ、この前の請求しに来たとか!いやもしかしたら…あ、あんな事やこんな事ではっ)』
首を噛んでしまった事への脅しかもしれない、どうしたらいいのかと怯えた顔つきになる彼女にキバナはニンマリと口角を吊り上げ八重歯を光らせた
「大人しくついてきな」
*****************
『………つ………釣り……ですか?』
彼が連れてきたのはゴツゴツとした岩場が広がる海岸だった
ちらほらと釣りをしている先客がいるものの穴場なのか街の釣り堀とは違い人気が少ない
「そ!ここ結構大物釣れるんだぜ?」
キバナは先に準備していた釣りのポイントへと彼女を案内すると餌をつけた釣り竿を手渡してきた
彼自身も釣りをする気らしく
鼻歌を歌いながら釣り針に餌をつけ始める
まだ状況が理解できないナマエは渡された釣り竿を眺めながら思った事への正直に彼に聞いてみた
『な…なんで釣りなんですか?』
釣りが好きなんて彼には言った事はない、勿論やった事も興味があるとも言っていないが何故突然誘ってきたのか
不思議そうに見つめるとキバナは軽く首を傾げ小さく唸った
「ん〜オレさまなりの気遣いってやつよ」
『?』
疑問を感じつつキバナの強引な誘いにされるがままに釣り竿を握り海へと糸を垂らし、岩場に二人で並んで座った
海の波の動きに合わせモンスターボールの形をした浮きが右へ左へと緩やかに揺れなんとものんびりとした時間が流れ出す
海面が太陽の光を反射して綺麗だが魚はすぐには餌を食いつかずキバナも垂れ目を海に向けたままぼんやりとしている
『(……なんだろ、もしかしてキバナさんは釣りが好きでただ暇潰し相手にあたしを誘ったとか?)』
横目で彼を見ていると視線に気がついた彼と目が合ってしまい息をのんだ
『あ、あのキバナさんっ』
何か言わなければと頭が真っ白のまま口が勝手に動いてしまう
すると
「ナマエちゃんの浮き反応してるぜ?」
『えっ、ちょっ、これ、どうしたら?』
海面に浮かんでいた浮きは海の中に潜り込み釣り竿の先が強く下を向いている
手に伝わる獲物の糸を引く力強さに驚き慌てていると釣り竿を離してしまいそうだったナマエの手に褐色の大きな手が上から重なった
「落ち着けって、竿をちゃんと握ってな」
後ろに周り一緒に釣り竿を握りだす彼、背中に感じる大きな存在感と目の前に見える自分の手ごと包み込む大きな手に胸が強く高鳴った
『(ひぇぇっ!ちょっ近っ!手ぇ!手がっ!あぁっ背中がっ!)』
ぐるぐると目が回りそうな程混乱しているが釣り竿の先にいる獲物はそんなナマエの心なんて知らない
グンッと海の底へ逃げようとする魚の強さは人間も負けそうになるほど強くナマエは前のめりになりそうになる
『うわぁっ!』
「っ、こりゃデカいのが食いついたな!」
足場の悪い岩場
力で負ければきっと海へと落ちてしまうだろう
『(前に落ちれば海、後ろに下がればキバナさん……どっちでもあたしにとっては絶体絶命ではっ!!)』
最早泣きそうになっている彼女とは違いキバナはすっかり釣りを楽しんでいるのか、バトル時のように目を吊り上げ笑っている
「負けっか……よっ!!」
『うわぁっっっ!!』
一際強く手に力が入ったと思えば竿ごと腕を上に引っ張られた
バネが弾いたような反動が手に伝わりバシャリと大きな水飛沫が上がるのと同時に獲物が海面から引き上げられた
突然力が抜けた、時間がゆっくりになるような感覚
不意に後ろを振り向けば楽しそうに笑うキバナの顔が見えナマエは時間にしては一瞬……
体感的には数分彼に見惚れた
『デカっ!凄い大きいですねっ!』
「ナハハッ!言ったろ?大物が釣れるって、しかしマジでデカいの釣ったな!料理のやり甲斐があるわ」
釣った魚はよく食卓に並んでいた魚の大きさとは違い自分の顔より数倍大きかった
キバナは目的の獲物をゲットできた事に上機嫌になりながら釣り針を外していく
『え!キバナさん料理出来るんですか!』
「オレを誰だと思ってるの?キバナさまだぜ?簡単な料理くらいちゃんとできるっつーの」
確かに雑誌等で知ったキバナは趣味も多くなんでも出来そうなイメージではあるが、料理まで自分でやるとは思っていなかった
『(……意外だ、てっきりお洒落な外食とか綺麗な彼女さんとかが作ってくれるイメージしかないかも)』
魚をクーラーボックスに入れる為しゃがんでいたキバナをじっと見ていると彼は口をへの字に曲げじっとりとした目を彼女に向け返した
「………すげぇ顔に意外だって出てんぞ、失礼なヤツだな」
『あ、そんな事は……すみません、イメージが違ってたんで…なんか彼女さんとかの手作りを食べる姿の方がしっくりくるし』
両手を小さく左右に振り謝るとキバナはボックスを手に持ちながら立ち上がり、一気に彼を見上げる高さへと視線が戻る
「まあいいさ、本当のオレさまをこれからナマエちゃんが知ってくれるならな」
『………本当のキバナさん?』
本当の自分を見て欲しい
その言葉にナマエの中で琥珀色の瞳と紫の長い髪がちらりと浮かんだ
だがそれは一瞬であり
すぐに目の前の青い瞳が視線を奪っていく
「世の中のイメージで出来たキバナじゃなくて、本当のオレをその目でちゃんと見てろよ?……どんなにいい男か教えてやるから」
意地悪そうにニンマリと吊り上がる口元から見える白い八重歯
ふざけてるのか本気なのか
分からない男の妖しい色気にまた胸が騒ぎ出す
『うぐっ、な、なんか…それはそれで怖い気がするので遠慮します!』
「くっ、ハハッ、ところで……どうよ?少しは肩の緊張とれたか?」
ん?と笑顔のままこちらを見つめるキバナにナマエは目を丸くし数秒反応が遅れる
『え?………あ』
今更ではあったが
体が軽くなっていた
旅を始めてから知らず知らずに体中に力が入っていたのだろう
「少しでも気分転換になったのならキバナさまの作戦は成功なんだけどな」
ウィンクして笑う彼はどこまでも女性慣れしていて…それでいて優しい
初めて会った時から彼には驚かされてばかりな気がする
それはとても心地の良い驚きとなりキバナという存在が雑誌やテレビの向こうではなく身近に感じていくようだった
『…………ありがとう…ございます』
心からの言葉を口にし自然と微笑む彼女はぎこちなくも無く、緊張もしていない
ありのままの笑顔を見れたキバナは満足そうに瞳を細めた
「ん、さぁ〜てせっかく釣ったしルリナに厨房でも借りるか」
『え!ルリナさんって…ジムリーダーのですか?そんな急にお願いしていいんですか?』
「釣ったもんは新鮮なうちに食いたいだろ?ルリナには何度か世話になってるから安心しろって」
先にクーラーボックスを肩にかけ歩き出すキバナにナマエも慌ててついていき、二人は岩場から街へと戻っていく
ジムの建物が見える頃まで二人は会話を続けていたが、ふと…
キバナは思い出したように空を見上げ呟いた
「因みに……だけどさ」
『はい?』
「オレ、今彼女いないから」
『…………はぁ』
何故突然そんな事を言ったのか
顔が見えない為キバナの心情が分からず抜けたような返事しかできなかった
「突然来て厨房貸せって言うから何かと思えば…」
「まあまあ!オレさまの特製料理食わせてやっから機嫌治せよ」
話の通りルリナはキバナに文句を言いつつジムの奥にある厨房を貸してくれた
普段はジムリーダーやスタッフの休憩時に使われるそうで他のジムにも同じ設備があるのだろう
キバナは自分の家のように遠慮なく料理を始めており、テーブルに先に座らされたルリナは呆れたように自分の向かい側に座るナマエに視線を向けた
「貴女も災難だったわね、ジムチャレンジに来たのにキバナに足止めをくらって」
『いえ、キバナさんのおかげで少しリラックスできましたから』
「…………(この子…そう言えば開会式の時もキバナと親しかったわね、元々仲が良いのかしら)」
この時のルリナは知らなかった
目の前の少女こそダンデの初恋の相手だと
ダンデから話は聞いていたが彼は恋した相手がジムチャレンジャーのナマエとまでは話していなかったのだ
「ほら出来たぜ!」
両手に三人分の皿を持ってテーブルに来たキバナにルリナは探るように考え込むのを止め、目の前に並べられた料理に不本意ながらも目を奪われた
「(本当…ムカつくほど器用な男ね)」
レストランにでも並べるような魚料理、香草や盛り付けまで気をつける彼の料理へのこだわりは褒めたくなるが調子にのってくる姿を見たくなくてルリナはぐっと我慢する
『凄いお店みたいで美味しそう!本当に食べてもいいんですか!』
ルリナの代わりにナマエが思ったままに感想を言うと、キバナはルリナの隣に座りながらふにゃりと嬉しそうに笑った
「(この顔よ……予想通りね)」
「おう!召し上がれ」
予想通りのキバナの顔にルリナは若干苛立ちを感じながらもナマエと同じように料理へと視線を戻した
『い、いただきます!』
魚料理用のナイフとフォークを使い切り分けるとほんのり湯気の出る切り身に軽く息を吹きかけ口内へと招く
口いっぱいに広がる魚の旨味と香草の風味はキャンプでは味わえない旨さであり、感動にナマエの頬が緩んだ
『ん、んん〜〜っ!!』
美味しさを顔中から溢れさせる姿にルリナとキバナは驚きすぐに吊られるように笑顔を浮かべた
「ハハッ!いい反応だな!」
彼女の顔のせいか
ルリナの小さな意地は消えライバルであるキバナの料理を同じく口に運び感想を口にした
「………本当、なんでも出来る嫌な男よねキバナって」
「お味は気に入りませんでしたか?お嬢さん」
ちらりと隣にいるお互いを見る青い瞳、ジムリーダーでモデルもこなす二人は少し似ているものがある
だからだろう
ルリナが小さなライバル心からキバナを素直に褒めれないのは
「褒めてあげてもいいレベル…てとこね」
だが、今日は…
ほんの少し素直になれた
ルリナは自分の言葉に驚きながらも素直に言えた自分に喜び静かに微笑んだ
「そりゃ光栄だわ」
キバナもまた自分に対抗心を持つルリナと少し近づく事ができたのを感じ嬉しそうに笑い返したそうだ
ーオマケー
『んっ、あむっ、んんっ、おいひっ、ん、』
頬がパンパンになるほど料理を食べる彼女はまるでホシガリスのようだ
その食べっぷりにルリナは驚き
キバナはテーブルに両肘をつけ頬杖をしながらうっとりと見つめた
「はぁ…ほっぺたパンパン、食いしん坊で本当にモルペコみてぇ」
ハートでも飛ばしそうなキバナに嫌気がさしながらもルリナもナマエをじっと見つめると、ぼんやりと彼女のシルエットが食いしん坊のポケモンに見え可愛く見えた
「確かに…可愛いわ」
可愛い物が実は好きなルリナ
ナマエがどんどんと可愛く見えだし好感を持ち始めた頃だった
隣からとんでもない言葉が聞こえる
「いつかオレもナマエちゃんに食べてほしいわ」
「……は?」
何を言ったのかと隣にいるキバナを睨むが彼は気にせずナマエを見ながら何やら妖しい想像をしているようだ
「きっとオレさまの大きすぎて入らないよな…可哀想だし…いや!でも頑張って口に入れようとする姿絶対いいわ」
「……フォーク刺すわよ?」
「え、怖っ…え?何?何怒ってんの?」
せっかく近づいたというのに
この二人はまだまだぶつかり合う運命なのかもしれない