第二巻
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あたしのメッソンは男の子
泣き虫で笑った顔が可愛いこの子がこれからあたしの相棒
『メッソンもお腹いっぱいになったの?』
腕の中に抱いたメッソンは満足げに鳴き声をあげあたしに甘えてくれた
あたしもバーベキューを沢山堪能し、そろそろ帰ろうかとユウリを探すといつの間にか姿がなくなっていた
先に帰ったんだろうか?それともホップくんと一緒なのか…
『ん〜取り敢えず家に帰ってみよっかな』
帰り道で会うかもしれないし家にいるかもしれない
そんな軽い気持ちで帰ろうとダンデさんのご家族に挨拶し家を出ると、すぐにダンデさんが後ろから追いかけてきた
「ナマエ!そこまで送るぜ」
『送るって、すぐ近くですよ?』
あたしとダンデさんの家はご近所さんでありここからでもお互いの家が見えるほど近い
それなのに自宅へ送る必要があるんだろうか
不思議そうに彼を見上げるとダンデさんは自分の頬を指先で軽くかき
「もう少し君といたいんだ……だから送るのを許して欲しい」
ストレートに照れくさい事を言われてしまい断るなんてあたしにはできない
頬がまた赤くなる気配を感じ数回素早く頷くのがやっとだった
「サンキューだ、じゃあゆっくり歩こう」
すっかり日が落ちた田舎道
草木の匂いと少し冷たくなった空気が気持ちよく感じるのはあたしの頬が熱いせいだろうか
隣を歩く彼をちらりと横目で覗いてみると琥珀色の瞳と視線がぶつかりビクッと肩が揺れてしまう
「メッソン…随分君に甘えてるな」
『え、あ、はい!こんなに懐いてくれるなんて思ってなかったからとっても嬉しいです』
ダンデさんはあたしの胸の中で眠り始めたメッソンをじっと見つめると何故か眉間にシワを寄せだし険しい顔つきになった
「…………そいつ、オスだぜ?」
『そうですね、可愛い男の子ですね』
「………ポケモンなら平気なのか?」
『……ん?』
「いや……なんでもないぜ」
何を言いたかったのか
彼は前を向き直すと自分の口元を片手で撫で黙り込んだ
ゆっくり歩いても距離が短すぎて家への坂道がもう見えてきた
もう少し話したい気はしたけど何を話せばいいか浮かばなくてそわそわと視線を泳がせると、胸に抱いていたメッソンが突然目をさまし腕の中から飛び降りた
『メッソン?』
彼は地面に着地するなり首を伸ばしては辺りを見回しまるで警戒しているように見えた
トレーナーでもいるんだろうかと思いあたしも辺りを見ると坂道の途中に見える森への入口の柵が破壊されているのに気がついた
『ダンデさん!あれっ』
「柵がっ!」
ダンデさんも気がつき二人で破壊された入口へと駆け寄ると折れた柵には白くふわふわした毛とユウリの帽子が落ちていた
『ユウリ…まさかここに入ったの?』
拾った帽子に温もりはなく時間が経っているのが分かりあたしの体から血の気が引いていくのが分かった
ダンデさんは地面にしゃがみ込み白い毛を手に取り険しい顔つきになり聞きたくない言葉を口にする
「ウールーの毛だ、それに地面には複数の足跡が僅かに残ってるな……理由は分からんがユウリくんとホップはこの森に入ったのかもしれない」
『っ!』
あたしは咄嗟に森へと走り出し後ろから名前を呼ぶダンデさんの声を聞きつつ薄暗い世界へと飛び込んだ
『ユウリっ!!』
この森は大人でも入ってはいけない場所
強いポケモンが彷徨いていて並のトレーナーでは勝つこともできないと聞いたことがある
そんな場所にまだ相棒を貰ったばかりのあの二人が入ったらどうなるか考えなくても分かってしまう
野生ポケモンはパートナーポケモンとは違い人を襲い怪我をさせる物だって勿論いる
最悪の結果に背筋の毛を逆立てながらあたしは道なき道を走り声を何度も掛けた
霧に包まれた森は奥に進むにつれ濃くなり数メートル先でさえ見えない
この向こうにあるのは地面なのか崖なのか
それさえも分からず困っているとあたしの足元にいつの間にかついてきたメッソンが飛びついた
『メッソンっ、ご、ごめんねっ!いきなり走って』
置いていくなと泣き出した彼を抱き上げあやしていると近くの茂みがカサカサと葉を揺らし音を鳴らした
野生ポケモンだろうか?
メッソンで戦うしかない
せめて手助けになるように地面に落ちていた枯れ木を拾い自分も戦えるように構えると茂みの向こうから出たのは大きな大きな……
ポケモン?
『その目……この前の子?』
その目はとある夜の森から視線を感じた時の目に似ていた
霧の中でもハッキリと姿が見えるそのポケモンは青い鬣をした大きな犬のような姿をしており、あたしをじっと見つめる瞳からは戦う意志が見えなかった
手に持っていた木を下げその子を見つめると背中を向けて数歩歩き、またコチラを振り返りじっと見つめてくる
『そっちに行けばいいの?』
鳴き声を上げずただ歩き出すポケモンにあたしは疑問を感じながらもついていった
不思議な事にあんなに険しかった森の道が今は歩きやすい
木や茂みが自ら道を開けていくような不思議な感覚
前を進むポケモンはよく見れば古い傷跡がいくつも体にありその風格は堂々とした王様のようだ
他の野生ポケモンとも会う事なく暫く歩いていくと地面に倒れた人影が目に入った
『っ!ユウリ!ホップくん!』
駆け寄り直ぐに地面に座り込むとあたしはユウリの顔を膝の上に乗せ息を確認した
『息っ、……ぁ…息してるっ』
怪我もなく眠っているようにぐったりとしたユウリに少しホッとしホップくんに視線を向ける、どうやら二人ともただ眠っているみたい
『案内してくれたの?ありがとうっ!』
ここまで連れてきてくれたポケモンにお礼を言う為顔を上げると大きなポケモンはふさふさの尻尾を数回揺らし、あたしに近寄ってきた
座っているせいでより大きく見えるポケモンはあたしの顔をじっと見つめるなりぺろりと優しく頬を舐めてくれた
『……ふふ、本当に……ありがとうね』
優しいポケモンで良かった
感謝を込めてお礼を言うとポケモンは尖った耳をピンと立たせある方向をじっと見つめ、素早く霧と共に姿を消してしまった
「ナマエっ!!」
ポケモンが消えて数秒もしないうちに現れたのはダンデさんとリザードンだった
彼はあたしの膝の上で眠るユウリと近くに横たわるホップくんに気がつき直ぐに駆け寄った
「ホップ!」
『怪我はないみたい、眠ってるだけです』
「そうか……はぁ……全く!ホップ達も悪いが君も君だっ!一人で入って何かあったらどうするんだ!」
ダンデさんはホップくんの頭をくしゃりと撫でた後あたしの側に近寄ると……
そっとあたしの頭を抱きしめた
「……心臓が張り裂けるかと思ったぜ」
膝たちになった彼は胸元にあたしの顔を抱き込み大きく肩で息をした、少し汗ばんだ彼の体は熱を帯びて熱く
服越しでも分かるほどドキドキと胸が早鐘をうっていた
きっとここまで一生懸命に走ってくれたんだろう
あたしもユウリの事ばかり考えて走ったからかな
今更胸が苦しくなってきたみたい
『っ…ごめん…なさいっ…あたし…妹に何かあったらと思ったら…ついっ』
本当に無謀な事をした
強くもないのにこんな森に入って自分でさえ危ない目に会うかもしれないのに
恐怖がどっと溢れあたしは目元が潤みメッソンのようにポロポロと涙を流してしまった
『あ…あれ?っ、ふ……な…なんか…いまさらっ…怖くなって…ぁ』
「……ナマエ」
それに気がついたダンデさんは抱きしめていた腕を緩めるとあたしの頬を両手で包み込み顔を覗き込んだ
眉間にシワを寄せた彼は心配そうに瞳を細め苦しげな顔をしていた
頬へ流れ落ちた涙が彼の親指を濡らしてしまい、身を引こうと肩を竦めるとダンデさんは背中を丸めてこちらへと顔を近づけ
視界いっぱいに彼が見えたと思った瞬間
目元に柔らかい感触が優しく触れた
『……え?』
それは離れると反対の目元にも触れ静かに離れていった
涙で歪んだ視界をハッキリとさせるため数回瞬きをし前を見ればほんのりと頬を赤めたダンデさんがコチラをじっと見ており
彼の唇は少し濡れて光っていた
何が起こったか分からない
ただ頬に触れた彼の手が熱くて気持ちよくて
これ以上逃げる気になれなくてじっとしていると、ダンデさんは瞬きも忘れたかのようにあたしを見つめながら顔をまた近づけてくる
顔を少し傾けた彼は長いまつ毛を下ろしながら近寄り
あたしも彼の近づいてくる顔を見つめ続けていると
「そ…そろそろ起きてもいいか?」
突然ダンデさんじゃない声が聞こえたあたし達はビクンっと体を飛び跳ねさせた
声の主を慌てて探せば地面に仰向けになったまま顔を真っ赤にしたホップくんがコチラを見ておりなんとも気不味い
「ホップ!!いつからっ、いやっ目がさめたのか!」
慌ててあたしから離れた彼はホップくんを抱き上げ大きな声をあげ何やら話している
ユウリも目が覚めているかもしれないと期待し膝元にいる彼女を見下ろしてみたけど、ユウリには反応が見えなかった
『……ユウリ』
「ユウリなら大丈夫だ!俺だってこの通り起きたんだからそのうち起きるさ!」
元気になったホップくんはあたしの元からユウリを引っ張ると背中におんぶし立ち上がった
家まで運んでくれるようだ
「リザードン、来た道を戻れるか?」
ダンデさんの問いかけに任せろと言うように鳴いたリザードンはゆっくりと歩き出し、その後ろをホップくんがついていく
あたしも行かないと…地面から立ち上がろうとすると目の前に手のひらが見え顔をあげた
「俺達も行こう」
手を差し伸べてくれたダンデさんの手を遠慮がちに取り立ち上がると、彼は何故かその手を離してくれなかった
『ダンデさん?あの…手を』
もう立ったのだからこの手は必要ないのに
どうして離してくれないのかと彼を見上げる
するとダンデさんは空いている方の手で自分の口元を隠し視線を逸らした
「迷子になったら大変だろ?だから…森を出るまでは繋いでいてくれ」
迷子になる心配はあたしの事?
それともダンデさん自身?
どちらにしろちゃんと男性と手を繋いだのは初めてだ
キバナさんの時と違い優しく手をついだ大きなダンデさんの手
緊張に手のひらがじんわりと汗を滲ませ恥ずかしくなったけどダンデさんは本当に森を出るまで離してくれなかった
「(俺は……何をしようとしてたんだ、突然あんな…だが…ナマエも俺に身を任せてくれたのか?いいのか?……いいのか!)」
『(なんか今日は色々ありすぎて疲れた…あのポケモン…また会えるかな?)』
「(アニキとナマエってそういう関係なのか!ごめんっアニキ!でも俺もいつ起きていいかタイミングが分からなかったんだぞ!)」
モヤモヤとした気持ちのまま森を出る頃にはユウリの呑気なあくびが聞こえた
泣き虫で笑った顔が可愛いこの子がこれからあたしの相棒
『メッソンもお腹いっぱいになったの?』
腕の中に抱いたメッソンは満足げに鳴き声をあげあたしに甘えてくれた
あたしもバーベキューを沢山堪能し、そろそろ帰ろうかとユウリを探すといつの間にか姿がなくなっていた
先に帰ったんだろうか?それともホップくんと一緒なのか…
『ん〜取り敢えず家に帰ってみよっかな』
帰り道で会うかもしれないし家にいるかもしれない
そんな軽い気持ちで帰ろうとダンデさんのご家族に挨拶し家を出ると、すぐにダンデさんが後ろから追いかけてきた
「ナマエ!そこまで送るぜ」
『送るって、すぐ近くですよ?』
あたしとダンデさんの家はご近所さんでありここからでもお互いの家が見えるほど近い
それなのに自宅へ送る必要があるんだろうか
不思議そうに彼を見上げるとダンデさんは自分の頬を指先で軽くかき
「もう少し君といたいんだ……だから送るのを許して欲しい」
ストレートに照れくさい事を言われてしまい断るなんてあたしにはできない
頬がまた赤くなる気配を感じ数回素早く頷くのがやっとだった
「サンキューだ、じゃあゆっくり歩こう」
すっかり日が落ちた田舎道
草木の匂いと少し冷たくなった空気が気持ちよく感じるのはあたしの頬が熱いせいだろうか
隣を歩く彼をちらりと横目で覗いてみると琥珀色の瞳と視線がぶつかりビクッと肩が揺れてしまう
「メッソン…随分君に甘えてるな」
『え、あ、はい!こんなに懐いてくれるなんて思ってなかったからとっても嬉しいです』
ダンデさんはあたしの胸の中で眠り始めたメッソンをじっと見つめると何故か眉間にシワを寄せだし険しい顔つきになった
「…………そいつ、オスだぜ?」
『そうですね、可愛い男の子ですね』
「………ポケモンなら平気なのか?」
『……ん?』
「いや……なんでもないぜ」
何を言いたかったのか
彼は前を向き直すと自分の口元を片手で撫で黙り込んだ
ゆっくり歩いても距離が短すぎて家への坂道がもう見えてきた
もう少し話したい気はしたけど何を話せばいいか浮かばなくてそわそわと視線を泳がせると、胸に抱いていたメッソンが突然目をさまし腕の中から飛び降りた
『メッソン?』
彼は地面に着地するなり首を伸ばしては辺りを見回しまるで警戒しているように見えた
トレーナーでもいるんだろうかと思いあたしも辺りを見ると坂道の途中に見える森への入口の柵が破壊されているのに気がついた
『ダンデさん!あれっ』
「柵がっ!」
ダンデさんも気がつき二人で破壊された入口へと駆け寄ると折れた柵には白くふわふわした毛とユウリの帽子が落ちていた
『ユウリ…まさかここに入ったの?』
拾った帽子に温もりはなく時間が経っているのが分かりあたしの体から血の気が引いていくのが分かった
ダンデさんは地面にしゃがみ込み白い毛を手に取り険しい顔つきになり聞きたくない言葉を口にする
「ウールーの毛だ、それに地面には複数の足跡が僅かに残ってるな……理由は分からんがユウリくんとホップはこの森に入ったのかもしれない」
『っ!』
あたしは咄嗟に森へと走り出し後ろから名前を呼ぶダンデさんの声を聞きつつ薄暗い世界へと飛び込んだ
『ユウリっ!!』
この森は大人でも入ってはいけない場所
強いポケモンが彷徨いていて並のトレーナーでは勝つこともできないと聞いたことがある
そんな場所にまだ相棒を貰ったばかりのあの二人が入ったらどうなるか考えなくても分かってしまう
野生ポケモンはパートナーポケモンとは違い人を襲い怪我をさせる物だって勿論いる
最悪の結果に背筋の毛を逆立てながらあたしは道なき道を走り声を何度も掛けた
霧に包まれた森は奥に進むにつれ濃くなり数メートル先でさえ見えない
この向こうにあるのは地面なのか崖なのか
それさえも分からず困っているとあたしの足元にいつの間にかついてきたメッソンが飛びついた
『メッソンっ、ご、ごめんねっ!いきなり走って』
置いていくなと泣き出した彼を抱き上げあやしていると近くの茂みがカサカサと葉を揺らし音を鳴らした
野生ポケモンだろうか?
メッソンで戦うしかない
せめて手助けになるように地面に落ちていた枯れ木を拾い自分も戦えるように構えると茂みの向こうから出たのは大きな大きな……
ポケモン?
『その目……この前の子?』
その目はとある夜の森から視線を感じた時の目に似ていた
霧の中でもハッキリと姿が見えるそのポケモンは青い鬣をした大きな犬のような姿をしており、あたしをじっと見つめる瞳からは戦う意志が見えなかった
手に持っていた木を下げその子を見つめると背中を向けて数歩歩き、またコチラを振り返りじっと見つめてくる
『そっちに行けばいいの?』
鳴き声を上げずただ歩き出すポケモンにあたしは疑問を感じながらもついていった
不思議な事にあんなに険しかった森の道が今は歩きやすい
木や茂みが自ら道を開けていくような不思議な感覚
前を進むポケモンはよく見れば古い傷跡がいくつも体にありその風格は堂々とした王様のようだ
他の野生ポケモンとも会う事なく暫く歩いていくと地面に倒れた人影が目に入った
『っ!ユウリ!ホップくん!』
駆け寄り直ぐに地面に座り込むとあたしはユウリの顔を膝の上に乗せ息を確認した
『息っ、……ぁ…息してるっ』
怪我もなく眠っているようにぐったりとしたユウリに少しホッとしホップくんに視線を向ける、どうやら二人ともただ眠っているみたい
『案内してくれたの?ありがとうっ!』
ここまで連れてきてくれたポケモンにお礼を言う為顔を上げると大きなポケモンはふさふさの尻尾を数回揺らし、あたしに近寄ってきた
座っているせいでより大きく見えるポケモンはあたしの顔をじっと見つめるなりぺろりと優しく頬を舐めてくれた
『……ふふ、本当に……ありがとうね』
優しいポケモンで良かった
感謝を込めてお礼を言うとポケモンは尖った耳をピンと立たせある方向をじっと見つめ、素早く霧と共に姿を消してしまった
「ナマエっ!!」
ポケモンが消えて数秒もしないうちに現れたのはダンデさんとリザードンだった
彼はあたしの膝の上で眠るユウリと近くに横たわるホップくんに気がつき直ぐに駆け寄った
「ホップ!」
『怪我はないみたい、眠ってるだけです』
「そうか……はぁ……全く!ホップ達も悪いが君も君だっ!一人で入って何かあったらどうするんだ!」
ダンデさんはホップくんの頭をくしゃりと撫でた後あたしの側に近寄ると……
そっとあたしの頭を抱きしめた
「……心臓が張り裂けるかと思ったぜ」
膝たちになった彼は胸元にあたしの顔を抱き込み大きく肩で息をした、少し汗ばんだ彼の体は熱を帯びて熱く
服越しでも分かるほどドキドキと胸が早鐘をうっていた
きっとここまで一生懸命に走ってくれたんだろう
あたしもユウリの事ばかり考えて走ったからかな
今更胸が苦しくなってきたみたい
『っ…ごめん…なさいっ…あたし…妹に何かあったらと思ったら…ついっ』
本当に無謀な事をした
強くもないのにこんな森に入って自分でさえ危ない目に会うかもしれないのに
恐怖がどっと溢れあたしは目元が潤みメッソンのようにポロポロと涙を流してしまった
『あ…あれ?っ、ふ……な…なんか…いまさらっ…怖くなって…ぁ』
「……ナマエ」
それに気がついたダンデさんは抱きしめていた腕を緩めるとあたしの頬を両手で包み込み顔を覗き込んだ
眉間にシワを寄せた彼は心配そうに瞳を細め苦しげな顔をしていた
頬へ流れ落ちた涙が彼の親指を濡らしてしまい、身を引こうと肩を竦めるとダンデさんは背中を丸めてこちらへと顔を近づけ
視界いっぱいに彼が見えたと思った瞬間
目元に柔らかい感触が優しく触れた
『……え?』
それは離れると反対の目元にも触れ静かに離れていった
涙で歪んだ視界をハッキリとさせるため数回瞬きをし前を見ればほんのりと頬を赤めたダンデさんがコチラをじっと見ており
彼の唇は少し濡れて光っていた
何が起こったか分からない
ただ頬に触れた彼の手が熱くて気持ちよくて
これ以上逃げる気になれなくてじっとしていると、ダンデさんは瞬きも忘れたかのようにあたしを見つめながら顔をまた近づけてくる
顔を少し傾けた彼は長いまつ毛を下ろしながら近寄り
あたしも彼の近づいてくる顔を見つめ続けていると
「そ…そろそろ起きてもいいか?」
突然ダンデさんじゃない声が聞こえたあたし達はビクンっと体を飛び跳ねさせた
声の主を慌てて探せば地面に仰向けになったまま顔を真っ赤にしたホップくんがコチラを見ておりなんとも気不味い
「ホップ!!いつからっ、いやっ目がさめたのか!」
慌ててあたしから離れた彼はホップくんを抱き上げ大きな声をあげ何やら話している
ユウリも目が覚めているかもしれないと期待し膝元にいる彼女を見下ろしてみたけど、ユウリには反応が見えなかった
『……ユウリ』
「ユウリなら大丈夫だ!俺だってこの通り起きたんだからそのうち起きるさ!」
元気になったホップくんはあたしの元からユウリを引っ張ると背中におんぶし立ち上がった
家まで運んでくれるようだ
「リザードン、来た道を戻れるか?」
ダンデさんの問いかけに任せろと言うように鳴いたリザードンはゆっくりと歩き出し、その後ろをホップくんがついていく
あたしも行かないと…地面から立ち上がろうとすると目の前に手のひらが見え顔をあげた
「俺達も行こう」
手を差し伸べてくれたダンデさんの手を遠慮がちに取り立ち上がると、彼は何故かその手を離してくれなかった
『ダンデさん?あの…手を』
もう立ったのだからこの手は必要ないのに
どうして離してくれないのかと彼を見上げる
するとダンデさんは空いている方の手で自分の口元を隠し視線を逸らした
「迷子になったら大変だろ?だから…森を出るまでは繋いでいてくれ」
迷子になる心配はあたしの事?
それともダンデさん自身?
どちらにしろちゃんと男性と手を繋いだのは初めてだ
キバナさんの時と違い優しく手をついだ大きなダンデさんの手
緊張に手のひらがじんわりと汗を滲ませ恥ずかしくなったけどダンデさんは本当に森を出るまで離してくれなかった
「(俺は……何をしようとしてたんだ、突然あんな…だが…ナマエも俺に身を任せてくれたのか?いいのか?……いいのか!)」
『(なんか今日は色々ありすぎて疲れた…あのポケモン…また会えるかな?)』
「(アニキとナマエってそういう関係なのか!ごめんっアニキ!でも俺もいつ起きていいかタイミングが分からなかったんだぞ!)」
モヤモヤとした気持ちのまま森を出る頃にはユウリの呑気なあくびが聞こえた