第一巻
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心地よい春先の陽気
新しい土地、新しい家
引っ越し初日は緊張とこれからの暮らしへの希望が詰まっている物だが彼女はどうやら違うようだ
「お姉ちゃん!早く片付け終わらせて町に行こうよ!」
ノックもせず自室に入り込む元気ハツラツな妹とは逆に段ボールの中を静かに弄るナマエは暗い表情を浮かべ振り返った
『いやだよ〜ただでさえ環境変わってお腹痛いのに』
期待に目を輝かせる妹のユウリより年上の彼女は今回の引っ越しに反対だった
住み慣れた土地を離れ誰も知り合いがいない環境は内気な彼女にはとてもすぐには受け入れられない
『(母さんの希望だから嫌だって正直に言えなかったけど…あたしここで本当にやっていけるかな?)』
ガラルは自然が豊かであり賑やかな街並みや歴史ある古城も美しい
引っ越し先はその中でも田舎のハロン、駅から初めて下りた時
牧場と畑が目立つのどかな町に少なからずホッとしたのを覚えている
『(都会だったらきっともっと不安だったろうな)』
少し離れたご近所さんはいるが家の周りは殆ど人が通らない
人付き合いが苦手なナマエには有り難い事だ
「もう!じゃあお隣さんに挨拶だけは一緒に行こ!お母さんにも言われたし」
『え…えぇ…?』
「ほら!今行こ!早く行こ!」
嫌がるナマエの腕を引っ張り無理矢理立たせると彼女の長い前髪がさらりと揺れ隠していた顔をあらわにさせる
『っ!』
特別醜いわけでも見られて困る物があるわけでもないがナマエは自分に自信がなくいつも長い前髪で顔を隠してきた
そのせいだろうか
もうすぐ成人を迎えるというのに男性とまともに話した事がなく付き合った事も勿論ない
家族だけに心を許す彼女にとって知らない相手の家に挨拶に行くのは不安が強く胸が急激に嫌な音を鳴らし始める
『どうしても行かなきゃ駄目?』
前を歩くユウリに駄目もとで問いかけるが彼女は笑顔を浮かべ駄目だと返した
「これからお世話になるんだから挨拶はちゃんとしようよ!」
『…だんだん母さんに似てきたね』
「ありがとう!」
褒めたつもりはないがユウリは機嫌よくお礼を言い、話しているうちにお隣さんの家へとついてしまった
ナマエ達の家よりも大きな家
広い庭には小さな池とバトルコートまである
『(田舎ってこれが普通なの?それともお金持ちなのかな?)』
ユウリがチャイムを鳴らしているのに気が付かずバトルコートを見つめたままぼんやりしているとドアノブをガチャリと開ける音が響いた
「はいっ……ん?誰だ?」
ドアを開けたのはユウリと同じ年頃の男の子だった
彼は初めて見る二人の少女に片眉を吊り上げ警戒するがユウリはお構いなく前のめりに話し出す
「はじめまして、お隣に引っ越してきたユウリです!こっちが姉のナマエ!よろしくね!」
元気に挨拶すると男の子は外に見える少し離れた家を目で見つけ納得した
「ああ、母ちゃんが言ってた家の…俺はホップだ」
よろしくとユウリとホップが握手をして挨拶している頃、ナマエはフラフラとバトルコートへと無意識に足を進めていた
『(……よく手入れされてるけど…何度も使われているっぽい…)』
すり減った地面と僅かに消えかけた白線をじっと見下ろし集中していたせいだろう
自分に近づく足音の存在を確かめる事もせずユウリと信じ思った事を口にした
『これ凄いね…よっぽど何回もバトルしたんだね』
「ああ、俺がチャレンジャー時代の頃から使っていたからな」
『ひっ!』
ユウリだとばかり思っていたが返ってきた声は若い男性の声だった
慌ててバトルコートから顔を上げ声の聞こえた方へと顔を向ければ白いニットセーターを着た筋肉質な青年が側に立っていた
彼はナマエと目が合うなりニッコリと太陽のように明るく微笑み片手を差し出した
「すまない、驚かせるつもりはなかったんだが君があまりに熱心にコートを見ていたから…隣に引っ越してきた人だろ?俺はダンデだ」
握手を求める彼の浅黒い手に視線を向けるもナマエは自分の両手を持ち合わせたまま下へ下ろし気不味そうに視線を逸らした
『……ナマエです、こちらこそ勝手にすみませんでした』
握手をしてくれない彼女に一瞬ダンデは戸惑うが苦笑いを浮かべると差し出していた腕を静かに下ろしポケットへと行き場のない手を隠した
「構わないぜ、今は殆ど弟が使ってるがバトルに興味があるならいつでも来てくれ」
『あ…いえ…あたしはっ』
断ろうと勢いよく顔を上げるとふわりと前髪が揺れ僅かに彼女の顔がダンデの琥珀色の瞳に入り込む
長い前髪はカーテンのようにすぐにナマエの顔を隠してしまい、たった一瞬見えただけの素顔にダンデは妙に興味を惹かれた
見えそうで見えないもの程見たくなるという好奇心だった
「君は…」
「お姉ちゃん〜!」
彼が口を開こうとした瞬間
玄関で一通り話し終えたユウリとホップが合流しダンデの言葉は喉奥へと飲み込まれる
「もう置いてかないでよ!」
『置いてってないよ、ただちょっとぼーとしてただけ』
「それもだめ!ホップ!こっちがさっき話した私のお姉ちゃんだよ」
ユウリの後ろから追いついたホップはナマエへと視線を向けユウリにやったように手を差し出し握手を求めた
「ホップだ!よろしくな!」
『よ、よろしく』
ユウリに負けない元気な少年のテンションに圧され咄嗟に弱々しく片手を差し出すとホップは自ら彼女の手を掴み上下に激しく揺らしながら握手した
ダンデは無表情でそれを見下ろしていたが、突然目の前に近寄ってきたユウリにぴくんと眉を揺らした
「ダンデさんってガラルチャンピオンのダンデさんですよね!凄いっ本で見た人に会えるなんて!尊敬してます!」
興奮気味に握手を求める少女にダンデは他のファンへも向ける笑顔を貼り付け握手に応えた
「ありがとう、これからはお隣さん同士仲良くしてくれ」
その言葉はユウリではなくナマエへ向けた言葉だったのだろう
こちらを見ない彼女をじっと見つめれば不意に視線に気がついたのか前髪の隙間から見える瞳と視線がぶつかる
『(ひっ!な、何?なんで睨んでくるの?怖っ……え?……怖っ!)』
慌てて視線を逸らす彼女にダンデは自然と口をへの字にさせ琥珀色の瞳を細めていき、不機嫌をあらわした顰めっ面へと表情を曇らせた
『(ああ…きっとあたし何かしたんだ…もう絶対ここに来ない!顔も合わせないようにしなきゃ!)』
一方的ではあるがナマエのダンデへの第一印象は良くなかったようだ
新しい土地、新しい家
引っ越し初日は緊張とこれからの暮らしへの希望が詰まっている物だが彼女はどうやら違うようだ
「お姉ちゃん!早く片付け終わらせて町に行こうよ!」
ノックもせず自室に入り込む元気ハツラツな妹とは逆に段ボールの中を静かに弄るナマエは暗い表情を浮かべ振り返った
『いやだよ〜ただでさえ環境変わってお腹痛いのに』
期待に目を輝かせる妹のユウリより年上の彼女は今回の引っ越しに反対だった
住み慣れた土地を離れ誰も知り合いがいない環境は内気な彼女にはとてもすぐには受け入れられない
『(母さんの希望だから嫌だって正直に言えなかったけど…あたしここで本当にやっていけるかな?)』
ガラルは自然が豊かであり賑やかな街並みや歴史ある古城も美しい
引っ越し先はその中でも田舎のハロン、駅から初めて下りた時
牧場と畑が目立つのどかな町に少なからずホッとしたのを覚えている
『(都会だったらきっともっと不安だったろうな)』
少し離れたご近所さんはいるが家の周りは殆ど人が通らない
人付き合いが苦手なナマエには有り難い事だ
「もう!じゃあお隣さんに挨拶だけは一緒に行こ!お母さんにも言われたし」
『え…えぇ…?』
「ほら!今行こ!早く行こ!」
嫌がるナマエの腕を引っ張り無理矢理立たせると彼女の長い前髪がさらりと揺れ隠していた顔をあらわにさせる
『っ!』
特別醜いわけでも見られて困る物があるわけでもないがナマエは自分に自信がなくいつも長い前髪で顔を隠してきた
そのせいだろうか
もうすぐ成人を迎えるというのに男性とまともに話した事がなく付き合った事も勿論ない
家族だけに心を許す彼女にとって知らない相手の家に挨拶に行くのは不安が強く胸が急激に嫌な音を鳴らし始める
『どうしても行かなきゃ駄目?』
前を歩くユウリに駄目もとで問いかけるが彼女は笑顔を浮かべ駄目だと返した
「これからお世話になるんだから挨拶はちゃんとしようよ!」
『…だんだん母さんに似てきたね』
「ありがとう!」
褒めたつもりはないがユウリは機嫌よくお礼を言い、話しているうちにお隣さんの家へとついてしまった
ナマエ達の家よりも大きな家
広い庭には小さな池とバトルコートまである
『(田舎ってこれが普通なの?それともお金持ちなのかな?)』
ユウリがチャイムを鳴らしているのに気が付かずバトルコートを見つめたままぼんやりしているとドアノブをガチャリと開ける音が響いた
「はいっ……ん?誰だ?」
ドアを開けたのはユウリと同じ年頃の男の子だった
彼は初めて見る二人の少女に片眉を吊り上げ警戒するがユウリはお構いなく前のめりに話し出す
「はじめまして、お隣に引っ越してきたユウリです!こっちが姉のナマエ!よろしくね!」
元気に挨拶すると男の子は外に見える少し離れた家を目で見つけ納得した
「ああ、母ちゃんが言ってた家の…俺はホップだ」
よろしくとユウリとホップが握手をして挨拶している頃、ナマエはフラフラとバトルコートへと無意識に足を進めていた
『(……よく手入れされてるけど…何度も使われているっぽい…)』
すり減った地面と僅かに消えかけた白線をじっと見下ろし集中していたせいだろう
自分に近づく足音の存在を確かめる事もせずユウリと信じ思った事を口にした
『これ凄いね…よっぽど何回もバトルしたんだね』
「ああ、俺がチャレンジャー時代の頃から使っていたからな」
『ひっ!』
ユウリだとばかり思っていたが返ってきた声は若い男性の声だった
慌ててバトルコートから顔を上げ声の聞こえた方へと顔を向ければ白いニットセーターを着た筋肉質な青年が側に立っていた
彼はナマエと目が合うなりニッコリと太陽のように明るく微笑み片手を差し出した
「すまない、驚かせるつもりはなかったんだが君があまりに熱心にコートを見ていたから…隣に引っ越してきた人だろ?俺はダンデだ」
握手を求める彼の浅黒い手に視線を向けるもナマエは自分の両手を持ち合わせたまま下へ下ろし気不味そうに視線を逸らした
『……ナマエです、こちらこそ勝手にすみませんでした』
握手をしてくれない彼女に一瞬ダンデは戸惑うが苦笑いを浮かべると差し出していた腕を静かに下ろしポケットへと行き場のない手を隠した
「構わないぜ、今は殆ど弟が使ってるがバトルに興味があるならいつでも来てくれ」
『あ…いえ…あたしはっ』
断ろうと勢いよく顔を上げるとふわりと前髪が揺れ僅かに彼女の顔がダンデの琥珀色の瞳に入り込む
長い前髪はカーテンのようにすぐにナマエの顔を隠してしまい、たった一瞬見えただけの素顔にダンデは妙に興味を惹かれた
見えそうで見えないもの程見たくなるという好奇心だった
「君は…」
「お姉ちゃん〜!」
彼が口を開こうとした瞬間
玄関で一通り話し終えたユウリとホップが合流しダンデの言葉は喉奥へと飲み込まれる
「もう置いてかないでよ!」
『置いてってないよ、ただちょっとぼーとしてただけ』
「それもだめ!ホップ!こっちがさっき話した私のお姉ちゃんだよ」
ユウリの後ろから追いついたホップはナマエへと視線を向けユウリにやったように手を差し出し握手を求めた
「ホップだ!よろしくな!」
『よ、よろしく』
ユウリに負けない元気な少年のテンションに圧され咄嗟に弱々しく片手を差し出すとホップは自ら彼女の手を掴み上下に激しく揺らしながら握手した
ダンデは無表情でそれを見下ろしていたが、突然目の前に近寄ってきたユウリにぴくんと眉を揺らした
「ダンデさんってガラルチャンピオンのダンデさんですよね!凄いっ本で見た人に会えるなんて!尊敬してます!」
興奮気味に握手を求める少女にダンデは他のファンへも向ける笑顔を貼り付け握手に応えた
「ありがとう、これからはお隣さん同士仲良くしてくれ」
その言葉はユウリではなくナマエへ向けた言葉だったのだろう
こちらを見ない彼女をじっと見つめれば不意に視線に気がついたのか前髪の隙間から見える瞳と視線がぶつかる
『(ひっ!な、何?なんで睨んでくるの?怖っ……え?……怖っ!)』
慌てて視線を逸らす彼女にダンデは自然と口をへの字にさせ琥珀色の瞳を細めていき、不機嫌をあらわした顰めっ面へと表情を曇らせた
『(ああ…きっとあたし何かしたんだ…もう絶対ここに来ない!顔も合わせないようにしなきゃ!)』
一方的ではあるがナマエのダンデへの第一印象は良くなかったようだ
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