第二章
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フリードがナマエの世話を任されてから二日目の放課後時
ナマエは一つの悩みに頭を痛めていた
それは
『(今日こそシャワーくらいは浴びたい!)』
初日からアカデミーの送り迎えは勿論、夕飯から寝床につくまで側にいてくれるが異性である彼に風呂の世話までは頼めない
寝る前に自室で体を拭いて清めるが年頃の少女にとって二日も体を洗えないのは耐えられなかった
『(問題はこの足なんだよね、ビニールでも巻いて入れば大丈夫かな?)』
フリードが待つアカデミーの出入り口へとヨタヨタと慣れない松葉杖で移動していると後ろから誰かの話し声が彼女の耳の掠めた
「あいつでしょ?ポケモンと話せる不思議ちゃんって」
「どうせ周りの気を引きたくて嘘ついてる子でしょ?あの足だって骨にヒビがとか言ってるけど大袈裟にしてるだけじゃない?」
クスクスと笑う女子生徒の声は嫌でも耳に届いたがナマエは聞こえないふりをし出口へと急いだ
だが気持ちとは裏腹に松葉杖では歩くように早くは移動できない
「昨日から結構カッコいい人に送って貰ってるらしいよ?彼氏かな?」
「まさか〜誰があんな女と付き合うのよ!セフレよセフレ!」
「アハハ!やだ〜キモイっ」
ギシリと松葉杖を掴む手に力が入り顔が強張っていく
噂話に盛り上がる彼女達に本当なら怒鳴ってやりたい
彼は違うと純粋に自分を心配して側にいてくれる人だと声を大きくして言いたいが勇気が持てず悔しさに唇が白くなる程強く噛んだ
『っ!』
体に余計な力が入ったせいだろうか
床を蹴る松葉杖がバランスを崩しナマエは床に倒れてしまった
カランっと乾いた音をさせ床に転がる松葉杖、噂話をしていた女子生徒は一瞬静かになるが次の瞬間一人が小さく吹き出し
「フッ、アハハ!ダサっ!」
「ほら早く起きなよ!誰も悲劇の嘘つきヒロインなんて構ってられないんだから」
先程より大きな声でからかい
周りの下校途中の生徒も助けに入るのを躊躇した
今助ければ自分もイジメの標的になる恐れがあるからだ
正しい事をしても加害者の気を害せば途端に標的にされる
醜いイジメの恐怖に誰も手を出せず同情の視線を送っていると静かな廊下に革靴の床を踏み鳴らす音が響いた
「おやおや…どうしました?」
『……ぁ』
声に反応した全員が振り向いた先には黒縁メガネにスーツを着た男性が立っており、彼は周りをぐるりと確認し顔色の悪くなった女子生徒達と床に倒れ込んだナマエを確認し瞳を細めた
「ナマエさん、転んでしまったのですか?可哀想に……お手をどうぞ」
彼はすぐにナマエの元へと駆け寄り片膝を床につけ彼女を起こしてくれた
「怪我は?」
『ん、大丈夫です』
幸い目立った怪我はなく
転んだ時にぶつけたところが少し痛む程度だ
『ありがとうございます、もう大丈夫ですから』
スピネルから松葉杖を貰い脇下に安定させると彼女は軽くお辞儀をし横をすり抜けようとしたが
「何か……私にして欲しい事はありませんか?誰かに仕返ししたい…とか」
耳元でボソリと告げた低い声、横目で確認した彼の瞳は黒縁メガネの奥で冷たく光り何かを見抜いていた
普段温厚な彼しか知らなかったナマエは驚きに息を飲むが、苦笑いを浮かべ頭を左右に振った
『仕返しってなんのことですか?今のは転んだだけで…本当に大丈夫ですから』
「………そうですか、すみません私の早とちりですね…気をつけて帰ってください」
ニッコリといつもの優しい微笑みを浮かべ片手をひらつかせたスピネルに安心しナマエはフリードの待つ外を目指し進むが、彼女の後ろ姿を見るスピネルは瞳は冷たくさせ少し下がったメガネを指先で押し上げた
「私…嫌いなんですよね、自分のオモチャを勝手に壊されるのは」
ぼそりと呟く彼の後ろ側にいた筈の女子生徒達は先にそそくさと逃げ去り、慌てた足音が廊下に響く
耳障りな音を聞きながらスピネルは妖しく微笑み、もう外へと消えたナマエを見つめうっとりと瞳は細めた
「貴女で遊ぶのは私一人…使うのも壊すのも……ね」
*****************
「はぁ?一人でやる?」
フリードと帰宅した彼女は早速自分の目的の為に動き出した
とにかく一人で留守番ができる事を認めて貰えば風呂に入る時間が取れる
夕飯を作る準備をしていたフリードを帰そうとするが、彼は疑うようにナマエを見下ろし自分の腰に手を添えた
「なぁ〜に企んでるんだ?」
『ええっ?企むだなんて、あたしはただ留守番くらい一人でできるって言いたくて』
ソワソワと落ち着き無く両手をいじり視線を揺らす、見下ろすフリードは嘘を見抜き背を軽く屈めながらナマエの視線に合わせた
「あのなぁ実際できてないだろ?飯を作るにも片足じゃフラつくし、二階の部屋に戻るにも階段から落ちそうになったろ?」
『うぐっ!』
不便なのは片足だけ
両手は無事なのだからなんとかなると思っていたのだが、これが思ったよりも難しく
バランスを取るのに苦労し結局フリードに助けて貰ってばかりだった
正論を言われ口を尖らせると彼は小さく困ったように笑い、先程より優しく問いかけた
「何が目的だ?素直に言ってみな?」
同じ目線の高さに顔を覗き込ませた彼の蜂蜜色の瞳にナマエは一瞬見惚れ、小さく肩から力を抜くと素直に思っていた事を口にする
『実は…お風呂に入りたくて』
「風呂?」
『体を拭くだけじゃなんか気持ち悪くて…だからシャワーだけでもいいから浴びたいんです!』
「あぁ〜なるほどな、まあギブスが濡れないようにすりゃいいかもしれんが…浴室は滑るしな」
背筋を戻した彼は自分の顎を撫で考え込む、明後日には母親が戻るのだから帰ってくるまで待てばいい話でもあるが
年頃の彼女にとっては待てない事なのだろう
フリードは必死に自分を見上げる彼女をチラリと見つめた
他でもない彼女の頼みならば叶えてやりたい
その気持ちだけで彼は口を開き
「よし…俺が手伝う!」
『……え?……えぇっ!』
とんでもない事を口にした
許しが貰えるかどうかだけを待っていたのに、まさか風呂まで手伝いを申し出るとは予想外だ
ナマエの驚いた反応をそのままに彼は数回頷き話を進める
「浴室の椅子に座ったり立ったりするのは危ないだろ?だから移動は俺がやってやる、後はそうだな…足を守る袋か何かを…」
『へっ!いや、でもっ、あたし達…こっ恋人でもないのにそんな破廉恥な事っ』
「破廉恥?」
顔を真っ赤にしあわあわと困惑する彼女にフリードは小首を傾げすぐには気が付かなかった
自分がとんでもない事を女の子に提案しているのを
『え?だって…裸に…』
「…?……………あっ!馬鹿っ!あのなっ、言っとくが俺は服を脱がねぇぞ!お前だってバスタオル巻いて貰うに決まってるだろっ」
やっと彼女が何に反応しているのか分かったフリードは同じように顔を真っ赤に染め上げ声を大きくした
「俺はあくまで浴室に運ぶだけだ、洗ったりするのは自分でやってくれ」
風呂と言えば服を脱ぐ
ナマエはどうやら二人とも裸になって一緒に浴室に入るのだと勘違いしていたようだ
『あ、ああっそっかっ!そうですね、あたしたらっ…なんか変な想像しちゃって…すみませんっ』
泣きそうな程顔を真っ赤にし恥ずかしがる彼女は照れ隠しに自分の顔を両手で隠して俯き
フリードもまた熱いため息を吐き自分の口元を撫でた
「(あぁ〜くそっ!変な意識させんなっ!)」
ただ純粋に風呂に入れないのが可哀想で提案しただけだったが
下手に意識してしまった途端フリードは違う目で彼女を見てしまい自分の欲の弱さに目眩を感じた
その後はぎこちなく夕食を二人で食べ、いざ問題の風呂の時間になるとお互いにまた顔を赤くし視線を泳がせた
脱衣所に椅子を用意し中で先に服を脱いたナマエはドキドキと煩い胸をタオルでキツく隠し一つ深呼吸した
『タ…タオル巻き終わりましたっ』
「ん、よしっ…あぁ〜…入るぞ?」
脱衣所の外で待っていたフリードがゆっくりと扉を開ける
椅子に座ったままの彼女は素肌に白いバスタオルだけを巻き付け、潤んだ瞳で彼を見上げた
「っ!(うっ…こりゃ目に毒だな)」
あまり見ては暴走してしまいそうでフリードはすぐにギブスへと視線を変え持っていたビニール袋をちらつかせた
「んじゃ袋被せっから、少し触るぞ?」
『はいっお願いします』
彼女の目の前に片膝をつけしゃがみ込むと足のギブスにビニール袋を取り付け水が入りこまないようにする
白いギブスから出た白い肌は自分の小麦色の肌とはまったく違い別の生き物でも見ている気分だ
「(……白くて綺麗だよな)」
なんとなく彼女の足を見たフリードはふと真新しい痣に気がついた
「膝…どうした?」
『え?』
「今朝まではこんな色してなかったろ?転んだのか?」
彼が見つめた膝には学校で転んだ時にできた痣がぼんやりと浮き出ていた
肌の色よりも赤く濃くなった場所
時間が経ち余計に色がハッキリしてきたのだろう
『あ…あははっ、ちょっと足がもつれて転んじゃいました』
詳しい事は聞かれたくなくて眉を下げて無理矢理笑った
心配かけまいとする姿にフリードは眉間にシワを作り色の変わった場所を軽く指先で撫で瞳を細める
「……無理すんなよ?」
短い言葉だったが心に響いた言葉だった
嬉しさと切なさに体をむず痒くさせたナマエは初めて自分から彼に甘えたくなり、ぎこちなく口を開く
『さ…寒いから…早く連れてって欲しいです』
「おっと、悪い悪いっ!んじゃ運ぶぞ?」
ビニール袋を強めに縛りナマエを横抱きに抱くと、いつもなら自分の胸元に手を縮こませる彼女が自らフリードの首に腕を回し抱きついてきた
「っ、ナマエ?」
突然の事にドキンと胸が高鳴った
顔はフリードの首元に埋められ見えないが、髪の隙間から見えた耳は赤かった
つい彼女の気持ちを自分に都合良く期待してしまいそうになりフリードは小さく咳払いし邪な気持ちを胸の奥へと追いやった
「なんだぁ〜?やっとお兄さんに甘えてくれるようになったのか?」
わざとからかった言い方をし自分の煩い心音に気が付かないふりをするが、彼女の腕は離れる事なく薄いタオル一枚だけで隠した胸がフリードの胸元に押し付けられる
柔らかく温かい胸の膨らみと彼女の本来の甘い匂いに理性がぐらつき彼は余計に顔を赤くしてしまう
『うん…甘えたくなっちゃいました』
消えそうな小さな声だったが、すぐ横に顔がある為フリードには届いた
ふざけた態度に顔を真っ赤にして怒るかと思えば素直に甘えてくる
子猫のような彼女にフリードは胸を早めついもう一歩踏み出した
「随分可愛い事言ってくれるな…そんな事言うとお兄さんはときめいちゃうぞ?」
恋愛感情を匂わせ彼女の反応を確かめたくなり、フリードは半分ふざけ半分本音を混ぜた言葉を選んだ
ずるいと言われようと彼女との関係を壊したくない為の保険だった
自分の首元に顔を押し付けた彼女を見つめ答えを待つと、ナマエはゆっくりと顔を上げ潤んだ瞳を彼に向けた
『本当?……あたしで…フリードさんはときめいてくれますか?』
フリードは自分の理性がぐらりと大きく揺れたのを感じ、彼女を抱く腕に力を無意識に強めた
「……ナマエ、それ分かってて聞いてんのか?」
この家にはフリードとナマエしかいない
ネモもペパーもいない
誰も邪魔が入らない浴室で好意を示す言葉を口にした意味を彼女はきっと分かっていない
フリードは頭ではまだ彼女は幼い恋心しか知らないだろうと分かっていたが
バスタオル一枚で身を任せる彼女の姿に胸のときめきを止めることができず、男としての欲を疼かせた
戸惑っていた蜂蜜色の瞳はすっかり雄のぎらついた瞳へと変わり、フリードはナマエへと顔を寄せた
『フリード…さん?』
「お前が煽ったんだぜ?」
鼻先同士を擦り付け彼の前髪が彼女の目元と頬を掠める
吐息が肌に触れ、この先の事に不安を感じ蜂蜜色の瞳を見つめると嬉しそうに細められた
「……ナマエ」
抵抗しない事に気を良くさせ唇へと狙いを変えるとフリードは口を薄っすらと開き顔を傾けた
今はドラメシヤもいない
今度こそと唇を求めるが
『へっぷちっ!』
「………………」
『ん…あの…シャワー…浴びてもいいですか?』
可愛らしいくしゃみに邪魔されフリードは触れそうだった唇を断念するしかなく
不貞腐れた彼はナマエがシャワーを浴びている最中はずっと脱衣所の外で膝を抱えて落ち込んでいたそうだ
ナマエは一つの悩みに頭を痛めていた
それは
『(今日こそシャワーくらいは浴びたい!)』
初日からアカデミーの送り迎えは勿論、夕飯から寝床につくまで側にいてくれるが異性である彼に風呂の世話までは頼めない
寝る前に自室で体を拭いて清めるが年頃の少女にとって二日も体を洗えないのは耐えられなかった
『(問題はこの足なんだよね、ビニールでも巻いて入れば大丈夫かな?)』
フリードが待つアカデミーの出入り口へとヨタヨタと慣れない松葉杖で移動していると後ろから誰かの話し声が彼女の耳の掠めた
「あいつでしょ?ポケモンと話せる不思議ちゃんって」
「どうせ周りの気を引きたくて嘘ついてる子でしょ?あの足だって骨にヒビがとか言ってるけど大袈裟にしてるだけじゃない?」
クスクスと笑う女子生徒の声は嫌でも耳に届いたがナマエは聞こえないふりをし出口へと急いだ
だが気持ちとは裏腹に松葉杖では歩くように早くは移動できない
「昨日から結構カッコいい人に送って貰ってるらしいよ?彼氏かな?」
「まさか〜誰があんな女と付き合うのよ!セフレよセフレ!」
「アハハ!やだ〜キモイっ」
ギシリと松葉杖を掴む手に力が入り顔が強張っていく
噂話に盛り上がる彼女達に本当なら怒鳴ってやりたい
彼は違うと純粋に自分を心配して側にいてくれる人だと声を大きくして言いたいが勇気が持てず悔しさに唇が白くなる程強く噛んだ
『っ!』
体に余計な力が入ったせいだろうか
床を蹴る松葉杖がバランスを崩しナマエは床に倒れてしまった
カランっと乾いた音をさせ床に転がる松葉杖、噂話をしていた女子生徒は一瞬静かになるが次の瞬間一人が小さく吹き出し
「フッ、アハハ!ダサっ!」
「ほら早く起きなよ!誰も悲劇の嘘つきヒロインなんて構ってられないんだから」
先程より大きな声でからかい
周りの下校途中の生徒も助けに入るのを躊躇した
今助ければ自分もイジメの標的になる恐れがあるからだ
正しい事をしても加害者の気を害せば途端に標的にされる
醜いイジメの恐怖に誰も手を出せず同情の視線を送っていると静かな廊下に革靴の床を踏み鳴らす音が響いた
「おやおや…どうしました?」
『……ぁ』
声に反応した全員が振り向いた先には黒縁メガネにスーツを着た男性が立っており、彼は周りをぐるりと確認し顔色の悪くなった女子生徒達と床に倒れ込んだナマエを確認し瞳を細めた
「ナマエさん、転んでしまったのですか?可哀想に……お手をどうぞ」
彼はすぐにナマエの元へと駆け寄り片膝を床につけ彼女を起こしてくれた
「怪我は?」
『ん、大丈夫です』
幸い目立った怪我はなく
転んだ時にぶつけたところが少し痛む程度だ
『ありがとうございます、もう大丈夫ですから』
スピネルから松葉杖を貰い脇下に安定させると彼女は軽くお辞儀をし横をすり抜けようとしたが
「何か……私にして欲しい事はありませんか?誰かに仕返ししたい…とか」
耳元でボソリと告げた低い声、横目で確認した彼の瞳は黒縁メガネの奥で冷たく光り何かを見抜いていた
普段温厚な彼しか知らなかったナマエは驚きに息を飲むが、苦笑いを浮かべ頭を左右に振った
『仕返しってなんのことですか?今のは転んだだけで…本当に大丈夫ですから』
「………そうですか、すみません私の早とちりですね…気をつけて帰ってください」
ニッコリといつもの優しい微笑みを浮かべ片手をひらつかせたスピネルに安心しナマエはフリードの待つ外を目指し進むが、彼女の後ろ姿を見るスピネルは瞳は冷たくさせ少し下がったメガネを指先で押し上げた
「私…嫌いなんですよね、自分のオモチャを勝手に壊されるのは」
ぼそりと呟く彼の後ろ側にいた筈の女子生徒達は先にそそくさと逃げ去り、慌てた足音が廊下に響く
耳障りな音を聞きながらスピネルは妖しく微笑み、もう外へと消えたナマエを見つめうっとりと瞳は細めた
「貴女で遊ぶのは私一人…使うのも壊すのも……ね」
*****************
「はぁ?一人でやる?」
フリードと帰宅した彼女は早速自分の目的の為に動き出した
とにかく一人で留守番ができる事を認めて貰えば風呂に入る時間が取れる
夕飯を作る準備をしていたフリードを帰そうとするが、彼は疑うようにナマエを見下ろし自分の腰に手を添えた
「なぁ〜に企んでるんだ?」
『ええっ?企むだなんて、あたしはただ留守番くらい一人でできるって言いたくて』
ソワソワと落ち着き無く両手をいじり視線を揺らす、見下ろすフリードは嘘を見抜き背を軽く屈めながらナマエの視線に合わせた
「あのなぁ実際できてないだろ?飯を作るにも片足じゃフラつくし、二階の部屋に戻るにも階段から落ちそうになったろ?」
『うぐっ!』
不便なのは片足だけ
両手は無事なのだからなんとかなると思っていたのだが、これが思ったよりも難しく
バランスを取るのに苦労し結局フリードに助けて貰ってばかりだった
正論を言われ口を尖らせると彼は小さく困ったように笑い、先程より優しく問いかけた
「何が目的だ?素直に言ってみな?」
同じ目線の高さに顔を覗き込ませた彼の蜂蜜色の瞳にナマエは一瞬見惚れ、小さく肩から力を抜くと素直に思っていた事を口にする
『実は…お風呂に入りたくて』
「風呂?」
『体を拭くだけじゃなんか気持ち悪くて…だからシャワーだけでもいいから浴びたいんです!』
「あぁ〜なるほどな、まあギブスが濡れないようにすりゃいいかもしれんが…浴室は滑るしな」
背筋を戻した彼は自分の顎を撫で考え込む、明後日には母親が戻るのだから帰ってくるまで待てばいい話でもあるが
年頃の彼女にとっては待てない事なのだろう
フリードは必死に自分を見上げる彼女をチラリと見つめた
他でもない彼女の頼みならば叶えてやりたい
その気持ちだけで彼は口を開き
「よし…俺が手伝う!」
『……え?……えぇっ!』
とんでもない事を口にした
許しが貰えるかどうかだけを待っていたのに、まさか風呂まで手伝いを申し出るとは予想外だ
ナマエの驚いた反応をそのままに彼は数回頷き話を進める
「浴室の椅子に座ったり立ったりするのは危ないだろ?だから移動は俺がやってやる、後はそうだな…足を守る袋か何かを…」
『へっ!いや、でもっ、あたし達…こっ恋人でもないのにそんな破廉恥な事っ』
「破廉恥?」
顔を真っ赤にしあわあわと困惑する彼女にフリードは小首を傾げすぐには気が付かなかった
自分がとんでもない事を女の子に提案しているのを
『え?だって…裸に…』
「…?……………あっ!馬鹿っ!あのなっ、言っとくが俺は服を脱がねぇぞ!お前だってバスタオル巻いて貰うに決まってるだろっ」
やっと彼女が何に反応しているのか分かったフリードは同じように顔を真っ赤に染め上げ声を大きくした
「俺はあくまで浴室に運ぶだけだ、洗ったりするのは自分でやってくれ」
風呂と言えば服を脱ぐ
ナマエはどうやら二人とも裸になって一緒に浴室に入るのだと勘違いしていたようだ
『あ、ああっそっかっ!そうですね、あたしたらっ…なんか変な想像しちゃって…すみませんっ』
泣きそうな程顔を真っ赤にし恥ずかしがる彼女は照れ隠しに自分の顔を両手で隠して俯き
フリードもまた熱いため息を吐き自分の口元を撫でた
「(あぁ〜くそっ!変な意識させんなっ!)」
ただ純粋に風呂に入れないのが可哀想で提案しただけだったが
下手に意識してしまった途端フリードは違う目で彼女を見てしまい自分の欲の弱さに目眩を感じた
その後はぎこちなく夕食を二人で食べ、いざ問題の風呂の時間になるとお互いにまた顔を赤くし視線を泳がせた
脱衣所に椅子を用意し中で先に服を脱いたナマエはドキドキと煩い胸をタオルでキツく隠し一つ深呼吸した
『タ…タオル巻き終わりましたっ』
「ん、よしっ…あぁ〜…入るぞ?」
脱衣所の外で待っていたフリードがゆっくりと扉を開ける
椅子に座ったままの彼女は素肌に白いバスタオルだけを巻き付け、潤んだ瞳で彼を見上げた
「っ!(うっ…こりゃ目に毒だな)」
あまり見ては暴走してしまいそうでフリードはすぐにギブスへと視線を変え持っていたビニール袋をちらつかせた
「んじゃ袋被せっから、少し触るぞ?」
『はいっお願いします』
彼女の目の前に片膝をつけしゃがみ込むと足のギブスにビニール袋を取り付け水が入りこまないようにする
白いギブスから出た白い肌は自分の小麦色の肌とはまったく違い別の生き物でも見ている気分だ
「(……白くて綺麗だよな)」
なんとなく彼女の足を見たフリードはふと真新しい痣に気がついた
「膝…どうした?」
『え?』
「今朝まではこんな色してなかったろ?転んだのか?」
彼が見つめた膝には学校で転んだ時にできた痣がぼんやりと浮き出ていた
肌の色よりも赤く濃くなった場所
時間が経ち余計に色がハッキリしてきたのだろう
『あ…あははっ、ちょっと足がもつれて転んじゃいました』
詳しい事は聞かれたくなくて眉を下げて無理矢理笑った
心配かけまいとする姿にフリードは眉間にシワを作り色の変わった場所を軽く指先で撫で瞳を細める
「……無理すんなよ?」
短い言葉だったが心に響いた言葉だった
嬉しさと切なさに体をむず痒くさせたナマエは初めて自分から彼に甘えたくなり、ぎこちなく口を開く
『さ…寒いから…早く連れてって欲しいです』
「おっと、悪い悪いっ!んじゃ運ぶぞ?」
ビニール袋を強めに縛りナマエを横抱きに抱くと、いつもなら自分の胸元に手を縮こませる彼女が自らフリードの首に腕を回し抱きついてきた
「っ、ナマエ?」
突然の事にドキンと胸が高鳴った
顔はフリードの首元に埋められ見えないが、髪の隙間から見えた耳は赤かった
つい彼女の気持ちを自分に都合良く期待してしまいそうになりフリードは小さく咳払いし邪な気持ちを胸の奥へと追いやった
「なんだぁ〜?やっとお兄さんに甘えてくれるようになったのか?」
わざとからかった言い方をし自分の煩い心音に気が付かないふりをするが、彼女の腕は離れる事なく薄いタオル一枚だけで隠した胸がフリードの胸元に押し付けられる
柔らかく温かい胸の膨らみと彼女の本来の甘い匂いに理性がぐらつき彼は余計に顔を赤くしてしまう
『うん…甘えたくなっちゃいました』
消えそうな小さな声だったが、すぐ横に顔がある為フリードには届いた
ふざけた態度に顔を真っ赤にして怒るかと思えば素直に甘えてくる
子猫のような彼女にフリードは胸を早めついもう一歩踏み出した
「随分可愛い事言ってくれるな…そんな事言うとお兄さんはときめいちゃうぞ?」
恋愛感情を匂わせ彼女の反応を確かめたくなり、フリードは半分ふざけ半分本音を混ぜた言葉を選んだ
ずるいと言われようと彼女との関係を壊したくない為の保険だった
自分の首元に顔を押し付けた彼女を見つめ答えを待つと、ナマエはゆっくりと顔を上げ潤んだ瞳を彼に向けた
『本当?……あたしで…フリードさんはときめいてくれますか?』
フリードは自分の理性がぐらりと大きく揺れたのを感じ、彼女を抱く腕に力を無意識に強めた
「……ナマエ、それ分かってて聞いてんのか?」
この家にはフリードとナマエしかいない
ネモもペパーもいない
誰も邪魔が入らない浴室で好意を示す言葉を口にした意味を彼女はきっと分かっていない
フリードは頭ではまだ彼女は幼い恋心しか知らないだろうと分かっていたが
バスタオル一枚で身を任せる彼女の姿に胸のときめきを止めることができず、男としての欲を疼かせた
戸惑っていた蜂蜜色の瞳はすっかり雄のぎらついた瞳へと変わり、フリードはナマエへと顔を寄せた
『フリード…さん?』
「お前が煽ったんだぜ?」
鼻先同士を擦り付け彼の前髪が彼女の目元と頬を掠める
吐息が肌に触れ、この先の事に不安を感じ蜂蜜色の瞳を見つめると嬉しそうに細められた
「……ナマエ」
抵抗しない事に気を良くさせ唇へと狙いを変えるとフリードは口を薄っすらと開き顔を傾けた
今はドラメシヤもいない
今度こそと唇を求めるが
『へっぷちっ!』
「………………」
『ん…あの…シャワー…浴びてもいいですか?』
可愛らしいくしゃみに邪魔されフリードは触れそうだった唇を断念するしかなく
不貞腐れた彼はナマエがシャワーを浴びている最中はずっと脱衣所の外で膝を抱えて落ち込んでいたそうだ