第三章
夢小説設定
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『……ん』
お腹が温かい
気持ちのいい眠りの余韻を感じながら目を開けば自分のではないテントの中だった
『(……あれ?どこだっけ?)』
寝起きのせいかすぐには昨日の事が思い出せない、瞬きを数回しぼんやりと前を見つめていると自分ではない誰かの寝息を背中に感じた
お腹に感じる温もりは毛布ではなく太く浅黒い腕、寝息の聞こえる後ろへと視線を向ければ紫の塊が見えた
ボサボサになった紫の髪の隙間から見えた寝顔をじっと見つめ漸く誰なのか分かるとあたしはぼやけていた瞳に光を戻していった
『(ダンデさん?……ぁ…そっか…昨日)』
昨夜は流星群をダンデさん達と楽しんだ、そしてその後された事も思い出してしまいあたしの体が炎がでもついたように熱くなる
『(あたしっ昨日とんでもない事をっ!きっキスだよね?あれってキスだったよね?これからどうやって接すればっ)』
考えても答えなんて見つからない
そして動かないとこの状況さえ変わらない
『(とにかく離れないと…あれ?キバナさんは?)』
あたしの背中に額を押し付け抱きついて眠るダンデさん、そして反対側にはキバナさんがいたであろう場所に毛布しかなく彼はいなかった
逆にいたらそれはそれで緊張するし
いなくて正直ホッとしてるけど…
こんなに朝早くからいないのも気になる
『(……外かな?)』
ダンデさんを起こさないように静かに腕の中から抜け出し、物音を立てずにテントの外へと向かう
外はテントの中よりも冷えており霧が遠くの景色を薄っすらと包んでいた
ワイルドエリアは本当に天候が変わりやすくいつも違った景色を見せてくれる、小さな感動を感じながら目当ての人物を探すと彼をすぐに見つけられた
『キバナさん』
少し離れた場所に焚き火をしている彼を見つけ考えるより先に声が出た
あたしの声に反応したキバナさんは一瞬驚いた顔をしたけどすぐに微笑み自分の側へ来るように手招きしてくれた
「はよっ、早いな?まだ起きるには早いぜ?」
黒いパーカーを着た彼は昨日の服のままのあたしとは違い暖かそうだ
そう言えば寒いのは嫌いってネットで見たことがあったな
『なんか目がさめてしまって…キバナさんこそ早く起きて何してたんですか?』
焚き火の前に置かれた丸太に腰掛けたキバナさん、彼から少し離れた隣へと腰掛けた
昨日の事もあってなんだか側によれない、あたしの気持ちを知ってかキバナさんはお互いの座った場所に出来た隙間を見ては困ったように笑った
「オレさまも眠れなくてな、ちょっと考え事しながら…コイツを食べてた」
そう言うと彼はあたしへと何かを差し出した、なんだろう?と手を伸ばし受け取るとマシュマロを挟んだビスケットだった
『これ、昨日の?』
「おう、焼いたマシュマロをこうしてビスケットに挟んで食うと結構美味いんだぜ?食ってみな」
バターの匂いと甘いマシュマロのいい匂いが鼻を掠め、お菓子の誘惑に弱いあたしは起きたばかりだというのにビスケットを口に含んだ
『……あむっ…んっ!!』
想像通りの美味しさについ頬が緩み笑顔が浮かんでしまう
『んんぅ〜!おいひっ』
「ハハッだろ?」
自分の事のように喜ぶ彼は新しいマシュマロを枝につけては火に近づける
『んふふ、でも朝からお菓子って…なんかいけない事してる気分です』
「悪い事教えちまったな?ママには内緒だぜ?」
唇に長い人差し指を添えて笑う彼は楽しげに笑っていて昨日の夜とは別人みたい
暫く二人でマシュマロを挟んだビスケットを食べつつなんでもない話を楽しんでいると
『っしゅん!』
焚き火があるとは言え朝はまだ寒い
くしゃみをしてしまうとキバナさんは自分の着ていたパーカーを脱ごうとした
「これ羽織な?」
『ん、駄目です!キバナさんが寒くなっちゃうし、あたしなら平気です』
「いや、でもよ」
『大丈夫です、多分すぐ来ますから』
「あ?」
何を言っているといった顔になる彼に微笑みつつあたしはわざとらしく大きな声を出した
『あ〜、寒いなぁ』
すると地響きのような音をさせ遠くから走ってくるキテルグマがあたしの元へと向かってきた
「は?キテルグマっ?」
ボールを構えようとするキバナさんに大丈夫だと言う頃にはあたしの側へとキテルグマが土煙を上げながら辿りつき煙が消えるまでじっとコチラを見下ろしていた
『キテルグマ、少し寒いの…抱きついてもいい?』
彼は任せろとばかりに地面に座ると両手を広げあたしを迎え入れてくれた、ちょっと固いゴワゴワする毛は温かく気持ちがいい
椅子のように彼の体に背を預け座るとキバナさんがあたしをじっとりと見ながら顔を歪めていた
「オマエ…そこは普通オレさまに温めてって言うとこじゃねぇの?なんでキテルグマなの?」
『えっ!いや…キバナさんにそんな事できないし、この子いつもあたしが困ってると助けてくれるから…つい』
「まったく…チハルちゃんはまだまだ甘え下手だな」
崖に落ちた時から何かとキテルグマは助けてくれる
手持ちに迎えたくても生憎ボールを余分に持っていなかった為、ナックルシティに来てから仲間になってもらおうと考えていた
勿論ココガラも一緒に
『今日こそボール買ってくるから、そしたら仲間になってね?』
嬉しそうに喉を鳴らすキテルグマ
ここまで懐いてくれた彼らに恥じないトレーナーになりたい
だからこれからもジムチャレンジを頑張りたい
そんな事を考えているとキバナさんが腰を浮かせ隣ではなく目の前に移動しゆっくりとしゃがみ込んだ
「なぁ、ちゃんと話したい事あんだけど」
『はい?』
「チハルちゃん、昨日オレの事…いやオレらと付き合えないって言ったろ?あれはなんで?」
このまま今日は何事もなかったように解散できるかと思ってたのに、どうやらキバナさんは許してくれないみたい
『………なんで…って』
「オレやダンデが嫌い?年上は好みじゃない?男として見れない?」
『違っ、そんな事はないですけど…』
寧ろカッコイイし二人にドキドキしっぱなしです
なんて…言えないけど、とにかく嫌いには絶対ならない自信はある
「じゃあなんで?オレはちゃんと理由を知りたいんだけど」
太い眉を下げて聞いてくる彼の瞳に負け、あたしは一度強く真っ直ぐに結んだ口を恐る恐る開いた
『……あたし…あたしには一年しか時間がないんです』
ガラルにいられるのは一年だけ
時が経てば故郷に戻らなければならない、そんなあたしが恋愛なんてできるわけがない
そしてもう一つの理由もあるけど、それは言わず期間の問題だけを彼に告げた
これで諦めてくれればいい
期待をしつつキバナさんをチラリと見ると彼は自分の首の後ろを撫でながら大きくため息を吐いていた
「はぁぁ…何?そんな事でキバナさまをふろうとしたの?」
『そんな事って』
「そんな事だろーが、オマエが一年後に故郷に帰らなきゃならねぇのと今恋愛しようって言ってるオレどっちが大事よ?」
どっちと言われても…困るものがある
答えに困り黙るとあたしの膝の上に褐色の大きな手が乗っかり膝を数回叩いてきた
「先ばっか気にして今目の前にある事を見ようとしてないだろ?期限があるからなんだよ?期限があるからオマエは思い出は作らないの?友達はいらないって言えんの?」
『……そんな事…思わない…です』
「だろ?ならさ…オレとの事も考えてみなよ?一年後じゃなくて…まずは近い未来の事をさ」
優しく瞳を細めた彼は触っていた膝から手を滑らせ、あたしの脹ら脛を掴むと無防備になった膝に顔を寄せ触れるだけのキスを贈った
ちゅっ
『っっ!キ、キバナさん!またそんな事!』
「んふふふっ!だって意識して欲しいんだもん!(それに一年でバイバイするつもりもねぇしな)」
唇が触れた膝が熱い
恥ずかしさとドキドキと煩い心臓に息苦しさを感じながら目の前にいるキバナさんをちゃんと見つめた
『(今だけ…それは後になってツライ事になるかもしれない…でも今だけでも夢を見ても……いい?)』
恐る恐る彼に手を伸ばし頬に触れてもいいか躊躇すると、キバナさんの方からあたしの手のひらに頬を擦り付けてきた
あたしより少し固い頬は温かくて皮膚の下に感じる筋肉や骨格が妙によく感じる
「チハルちゃん……大好き」
あたしの手のひらに頬を擦り付けたまま愛を囁く彼はきっと女性に慣れている、分かりつつも胸は素直にときめいてしまい顔が熱くなる
『っ!なんか…狡いです』
「キバナはチハルちゃんを諦めないって決めたからな、狡くてもオレさまの想いを伝えるのに今は必死なわけよ」
『そのわりには、余裕そうに見えますけど』
息をするように口説いたり女の子を褒めるイメージが浮かび、意地悪な事を言ってしまった
なのにキバナさんは怒りもせずにあたしの手を掴むと自分の固い胸へと押し付け瞳を閉じた
「余裕なんかあるかよ、すっげぇドキドキしてんの分かんね?」
強く押し当てる胸
手のひらに感じるドクドクと鼓動する心音は早く、あたしの胸とあまり変わらなかった
彼は一時の遊びでもなく、本当にあたしを想ってくれているんだ
意識してしまうと余計に胸が苦しくなりツラい
楽になりたい
どうしたら楽になるのか分からないけど、あたしは彼に触りたいと感じた
ううん、違うかも
触ってほしくて…できれば昨日のようにぎゅっとして欲しい
大胆にもそんな願いが頭に浮かび自然と口が開く
『キバナさっ』
ぐぅぅぅぅぅ〜!!!
キバナさんに声をかけようとすると大きな腹の虫が聞こえあたし達は目を見開いた
音の主はあたし達ではない
聞こえた方向へと顔を向ければテントから出たばかりらしいダンデさんがあくびをし立っていた
「ふぁぁあっ…ん……腹…減った」
少し伸びた無精髭にボサボサ頭
寝起きの彼は目を閉じたまま自分の腹をボリボリとかき寝ぼけているようだ
「オ、マ、エはぁ!!ほんっっっとっ!空気読めねぇ奴だな!寧ろわざとか?才能かっっ!」
激怒するキバナさんは勢いよく立ち上がるとダンデさんに食いかかり、胸元を前後に引っ張られるダンデさんは言葉にならない唸り声だけを出し目を閉じたままだ
キバナさんには悪いけど
少しダンデさんには感謝してる
『(故郷に帰る前に良い思い出になるかもだし…もう少しだけ、我儘になってもいいかな?)』
お腹が温かい
気持ちのいい眠りの余韻を感じながら目を開けば自分のではないテントの中だった
『(……あれ?どこだっけ?)』
寝起きのせいかすぐには昨日の事が思い出せない、瞬きを数回しぼんやりと前を見つめていると自分ではない誰かの寝息を背中に感じた
お腹に感じる温もりは毛布ではなく太く浅黒い腕、寝息の聞こえる後ろへと視線を向ければ紫の塊が見えた
ボサボサになった紫の髪の隙間から見えた寝顔をじっと見つめ漸く誰なのか分かるとあたしはぼやけていた瞳に光を戻していった
『(ダンデさん?……ぁ…そっか…昨日)』
昨夜は流星群をダンデさん達と楽しんだ、そしてその後された事も思い出してしまいあたしの体が炎がでもついたように熱くなる
『(あたしっ昨日とんでもない事をっ!きっキスだよね?あれってキスだったよね?これからどうやって接すればっ)』
考えても答えなんて見つからない
そして動かないとこの状況さえ変わらない
『(とにかく離れないと…あれ?キバナさんは?)』
あたしの背中に額を押し付け抱きついて眠るダンデさん、そして反対側にはキバナさんがいたであろう場所に毛布しかなく彼はいなかった
逆にいたらそれはそれで緊張するし
いなくて正直ホッとしてるけど…
こんなに朝早くからいないのも気になる
『(……外かな?)』
ダンデさんを起こさないように静かに腕の中から抜け出し、物音を立てずにテントの外へと向かう
外はテントの中よりも冷えており霧が遠くの景色を薄っすらと包んでいた
ワイルドエリアは本当に天候が変わりやすくいつも違った景色を見せてくれる、小さな感動を感じながら目当ての人物を探すと彼をすぐに見つけられた
『キバナさん』
少し離れた場所に焚き火をしている彼を見つけ考えるより先に声が出た
あたしの声に反応したキバナさんは一瞬驚いた顔をしたけどすぐに微笑み自分の側へ来るように手招きしてくれた
「はよっ、早いな?まだ起きるには早いぜ?」
黒いパーカーを着た彼は昨日の服のままのあたしとは違い暖かそうだ
そう言えば寒いのは嫌いってネットで見たことがあったな
『なんか目がさめてしまって…キバナさんこそ早く起きて何してたんですか?』
焚き火の前に置かれた丸太に腰掛けたキバナさん、彼から少し離れた隣へと腰掛けた
昨日の事もあってなんだか側によれない、あたしの気持ちを知ってかキバナさんはお互いの座った場所に出来た隙間を見ては困ったように笑った
「オレさまも眠れなくてな、ちょっと考え事しながら…コイツを食べてた」
そう言うと彼はあたしへと何かを差し出した、なんだろう?と手を伸ばし受け取るとマシュマロを挟んだビスケットだった
『これ、昨日の?』
「おう、焼いたマシュマロをこうしてビスケットに挟んで食うと結構美味いんだぜ?食ってみな」
バターの匂いと甘いマシュマロのいい匂いが鼻を掠め、お菓子の誘惑に弱いあたしは起きたばかりだというのにビスケットを口に含んだ
『……あむっ…んっ!!』
想像通りの美味しさについ頬が緩み笑顔が浮かんでしまう
『んんぅ〜!おいひっ』
「ハハッだろ?」
自分の事のように喜ぶ彼は新しいマシュマロを枝につけては火に近づける
『んふふ、でも朝からお菓子って…なんかいけない事してる気分です』
「悪い事教えちまったな?ママには内緒だぜ?」
唇に長い人差し指を添えて笑う彼は楽しげに笑っていて昨日の夜とは別人みたい
暫く二人でマシュマロを挟んだビスケットを食べつつなんでもない話を楽しんでいると
『っしゅん!』
焚き火があるとは言え朝はまだ寒い
くしゃみをしてしまうとキバナさんは自分の着ていたパーカーを脱ごうとした
「これ羽織な?」
『ん、駄目です!キバナさんが寒くなっちゃうし、あたしなら平気です』
「いや、でもよ」
『大丈夫です、多分すぐ来ますから』
「あ?」
何を言っているといった顔になる彼に微笑みつつあたしはわざとらしく大きな声を出した
『あ〜、寒いなぁ』
すると地響きのような音をさせ遠くから走ってくるキテルグマがあたしの元へと向かってきた
「は?キテルグマっ?」
ボールを構えようとするキバナさんに大丈夫だと言う頃にはあたしの側へとキテルグマが土煙を上げながら辿りつき煙が消えるまでじっとコチラを見下ろしていた
『キテルグマ、少し寒いの…抱きついてもいい?』
彼は任せろとばかりに地面に座ると両手を広げあたしを迎え入れてくれた、ちょっと固いゴワゴワする毛は温かく気持ちがいい
椅子のように彼の体に背を預け座るとキバナさんがあたしをじっとりと見ながら顔を歪めていた
「オマエ…そこは普通オレさまに温めてって言うとこじゃねぇの?なんでキテルグマなの?」
『えっ!いや…キバナさんにそんな事できないし、この子いつもあたしが困ってると助けてくれるから…つい』
「まったく…チハルちゃんはまだまだ甘え下手だな」
崖に落ちた時から何かとキテルグマは助けてくれる
手持ちに迎えたくても生憎ボールを余分に持っていなかった為、ナックルシティに来てから仲間になってもらおうと考えていた
勿論ココガラも一緒に
『今日こそボール買ってくるから、そしたら仲間になってね?』
嬉しそうに喉を鳴らすキテルグマ
ここまで懐いてくれた彼らに恥じないトレーナーになりたい
だからこれからもジムチャレンジを頑張りたい
そんな事を考えているとキバナさんが腰を浮かせ隣ではなく目の前に移動しゆっくりとしゃがみ込んだ
「なぁ、ちゃんと話したい事あんだけど」
『はい?』
「チハルちゃん、昨日オレの事…いやオレらと付き合えないって言ったろ?あれはなんで?」
このまま今日は何事もなかったように解散できるかと思ってたのに、どうやらキバナさんは許してくれないみたい
『………なんで…って』
「オレやダンデが嫌い?年上は好みじゃない?男として見れない?」
『違っ、そんな事はないですけど…』
寧ろカッコイイし二人にドキドキしっぱなしです
なんて…言えないけど、とにかく嫌いには絶対ならない自信はある
「じゃあなんで?オレはちゃんと理由を知りたいんだけど」
太い眉を下げて聞いてくる彼の瞳に負け、あたしは一度強く真っ直ぐに結んだ口を恐る恐る開いた
『……あたし…あたしには一年しか時間がないんです』
ガラルにいられるのは一年だけ
時が経てば故郷に戻らなければならない、そんなあたしが恋愛なんてできるわけがない
そしてもう一つの理由もあるけど、それは言わず期間の問題だけを彼に告げた
これで諦めてくれればいい
期待をしつつキバナさんをチラリと見ると彼は自分の首の後ろを撫でながら大きくため息を吐いていた
「はぁぁ…何?そんな事でキバナさまをふろうとしたの?」
『そんな事って』
「そんな事だろーが、オマエが一年後に故郷に帰らなきゃならねぇのと今恋愛しようって言ってるオレどっちが大事よ?」
どっちと言われても…困るものがある
答えに困り黙るとあたしの膝の上に褐色の大きな手が乗っかり膝を数回叩いてきた
「先ばっか気にして今目の前にある事を見ようとしてないだろ?期限があるからなんだよ?期限があるからオマエは思い出は作らないの?友達はいらないって言えんの?」
『……そんな事…思わない…です』
「だろ?ならさ…オレとの事も考えてみなよ?一年後じゃなくて…まずは近い未来の事をさ」
優しく瞳を細めた彼は触っていた膝から手を滑らせ、あたしの脹ら脛を掴むと無防備になった膝に顔を寄せ触れるだけのキスを贈った
ちゅっ
『っっ!キ、キバナさん!またそんな事!』
「んふふふっ!だって意識して欲しいんだもん!(それに一年でバイバイするつもりもねぇしな)」
唇が触れた膝が熱い
恥ずかしさとドキドキと煩い心臓に息苦しさを感じながら目の前にいるキバナさんをちゃんと見つめた
『(今だけ…それは後になってツライ事になるかもしれない…でも今だけでも夢を見ても……いい?)』
恐る恐る彼に手を伸ばし頬に触れてもいいか躊躇すると、キバナさんの方からあたしの手のひらに頬を擦り付けてきた
あたしより少し固い頬は温かくて皮膚の下に感じる筋肉や骨格が妙によく感じる
「チハルちゃん……大好き」
あたしの手のひらに頬を擦り付けたまま愛を囁く彼はきっと女性に慣れている、分かりつつも胸は素直にときめいてしまい顔が熱くなる
『っ!なんか…狡いです』
「キバナはチハルちゃんを諦めないって決めたからな、狡くてもオレさまの想いを伝えるのに今は必死なわけよ」
『そのわりには、余裕そうに見えますけど』
息をするように口説いたり女の子を褒めるイメージが浮かび、意地悪な事を言ってしまった
なのにキバナさんは怒りもせずにあたしの手を掴むと自分の固い胸へと押し付け瞳を閉じた
「余裕なんかあるかよ、すっげぇドキドキしてんの分かんね?」
強く押し当てる胸
手のひらに感じるドクドクと鼓動する心音は早く、あたしの胸とあまり変わらなかった
彼は一時の遊びでもなく、本当にあたしを想ってくれているんだ
意識してしまうと余計に胸が苦しくなりツラい
楽になりたい
どうしたら楽になるのか分からないけど、あたしは彼に触りたいと感じた
ううん、違うかも
触ってほしくて…できれば昨日のようにぎゅっとして欲しい
大胆にもそんな願いが頭に浮かび自然と口が開く
『キバナさっ』
ぐぅぅぅぅぅ〜!!!
キバナさんに声をかけようとすると大きな腹の虫が聞こえあたし達は目を見開いた
音の主はあたし達ではない
聞こえた方向へと顔を向ければテントから出たばかりらしいダンデさんがあくびをし立っていた
「ふぁぁあっ…ん……腹…減った」
少し伸びた無精髭にボサボサ頭
寝起きの彼は目を閉じたまま自分の腹をボリボリとかき寝ぼけているようだ
「オ、マ、エはぁ!!ほんっっっとっ!空気読めねぇ奴だな!寧ろわざとか?才能かっっ!」
激怒するキバナさんは勢いよく立ち上がるとダンデさんに食いかかり、胸元を前後に引っ張られるダンデさんは言葉にならない唸り声だけを出し目を閉じたままだ
キバナさんには悪いけど
少しダンデさんには感謝してる
『(故郷に帰る前に良い思い出になるかもだし…もう少しだけ、我儘になってもいいかな?)』
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