賢者の石
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「さっさと起きるんだよ!!いつまで寝てるんだ!全くいい身分だね!」
薄暗い階段下の物置の扉から大きな音がしてエマはムクリと起き上がった。
もう朝が来てしまったのか。
階段下の物置には太陽光が全く入らないので、今がいつなのか大変わかりにくい。
マージョリーおばさんが箒の枝で容赦なく扉を叩くので、扉の一部分のペンキが禿げている。
この音が聞こえてきたら、10秒以内に外に出ないとマージョリーおばさんが癇癪を起こし、朝ごはん無しで家事を山ほど言いつけられるのでエマはボサボサに伸びた長い髪をゴムでしばり、急いで扉を開けて外に出た。
階段下の物置から出てきた女の子。
たっぷりとしたブロンドの髪の毛は手入れされておらず、ボサボサと後ろで無造作に一つに束ねられている。
細くて小さい体に不釣り合いなダボダボのTシャツは、向かいの家の一人息子ダードリーのお古だ。
ブルーの瞳に長いまつ毛。まだあどけなさを残す透き通る白いほっぺ、笑えばとっても可愛いだろうに、今の彼女はマージおばさんに怒られたくないので、顔はきゅっと固まっていた。
マージョリーおばさんは、エマがご機嫌に過ごす事が大嫌いだから。
「おはようおばさん。」
マージョリーはぼったりした体をソファに横たわらせ、横目でエマを睨むとフン!と鼻を鳴らした。
エマは何を言われるでもなく、すぐにキッチンに向かいテキパキと朝ごはんの準備を始めた。
ベーコンと目玉焼きをフライパンに乗せて火をつけ、
パンをトースターにセッティングし、コーヒーメーカーに豆の粉末を入れる。
マージョリーは朝から卵を4つ、ベーコンを4枚、コーヒー3杯、パンを5枚食べるので朝食の準備は忙しい。
「リッパーの食事も忘れるんじゃないよ!」
「はい、おばさん」
朝食を作っているエマの足元でブルドッグのリッパーが、ピョンピョン跳ね回りながらご飯の催促をしている。
本来凶暴なリッパーだが、エマが毎日餌を用意してるのでぷりぷりと尻尾を振り、舌を出しながら跳ね回っている。
まぁ、餌をもらえる時だけだが。
エマはカラカラとドッグフードを犬用の皿に盛り、その上にドック用ビーフを乗せた。
涎を垂らし餌をもらえる喜びからリッパーはその場でグルングルン回っている。
「お座り!!リッパー!お座り!!」
ソファからマージョリーが大声を張り上げた。
リッパーは勢いを弱め、仕方なしという表情でお座りをした。
「待てだよ。リッパー、待て」
マージョリーの声。
リッパーは前足をそわそわさせながら涎をダラダラ垂らしている。恨めしそうにエマを睨みつけながら。
長い沈黙のあと「よし!」の声と同時にリッパーは怒りも込めているかのような勢いで餌にくいついた
「リッパーは私の言う事は聞くんだ。お前は下に見られてるからね、全く何年この家にいるんだろうね。情けない、で、私の朝食はできたかい?」
マージョリーおばさんは兎に角悪態をつかなければ1日が始まらないのだ。
「はい、おばさん。出来ました。」
エマは朝食をマージョリーおばさんのソファの横のテーブルに並べた。
リッパーによく似た顔でむしゃむしゃと朝食を食べるマージョリーを見届けて、エマは食パンの上に申し訳程度のバターを塗ってキッチンの洗面台の前でかじった。
マージョリーは「小さな体なんだからこれくらいで十分」との事だ。
もうすぐ11歳になるエマは、もちろんこれでは足りず、マージョリーがソファに座ってテレビを見てるうちにポケットに入るサイズの食べ物を詰めれるだけ詰めていたが、家の家事はキッチンも含めて殆どエマがしているのでまだバレた事はない。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴る
「ペチュニアだ。さぁ、ボケっとしてないでサッサとドアを開けな!」
マージョリーはようやくソファから身体を起こし立ち上がる。
エマは言われた通り玄関のドアを開けると、勢いよく向かいの家の小太りダードリーが入ってきてエマを吹っ飛ばした。
「邪魔だっ!!」
「ぅわ!」
エマはコロンと階段前に転がったがその光景に全く意を介さず、マージョリーは両手を広げて小太りダドリーをヒシと抱き止めた。ペチュニアおばさんも入ってきたが、エマに声をかける事はなかった。
「おー!可愛いダッドちゃーん!」
ワンワンワンワン!とリッパーがダドリーに吠え、噛みつこうとしている。
「エマ!!リッパーをリードに繋いどきな!」
マージョリーに怒鳴られたエマは、頭を打ったので片手で摩りながら起き上がった。
「いたた…」
「エマ、大丈夫?僕がやるよ」
開いたままの玄関からヒョロリと現れた少年。
深いグリーンの瞳に壊れたメガネをかけていた。
エマと同じように細く、小さい。
そしてやはりダボダボのダドリーのお下がりを着ている。
くしゃくしゃに広がっている黒髪に隠れてはいるが、額に稲妻型の傷跡がある。
少年は玄関の扉横にかけてあるリードをささっとリッパーにつけた。
鎖を繋がれ、リッパーは玄関から動けなくなるが、構わずダドリーに吠えまくっている。
「ありがと、ハリー」
少年は笑顔で返した。
マージョリー、ダードリー、ペチュニアは二人など見えてないかのようにワイワイ何かを話しながらリビングに向かった。
「ハリー、今朝は何か食べれた?」
「うん、ダドリーの残りだけどベーコン食べれた」
「それはラッキーだったわね。」
「今日は朝食前にダドリーに見えるようにクッキー缶をリビングに置いておいたんだ。」
ハリーはにこやかに言ったが、足りない事は分かっていたので、先ほどキッチンからかすめとったリンゴを器用に膝を使いパカリと二つに割って、ハリーに渡した。
「ありがとう。」
二人は3人が戻ってこないうちにささっとりんごを口に運んだ。
リビングは何やら賑やかで、ありがたい事に存在を忘れられているようだ。
ポケットにマージョリーが気に入って大量にストックしている大玉ウイスキーボンボンがまだ二粒あったので、それをハリーに一粒渡して、二人は外に飛び出した。
「久しぶりだね、ハリー。大丈夫だった?」
エマはハリーと外に出れた喜びから、ブルーの瞳をより鮮やかに輝かせていたが、ハリーはここ最近の様子を思出だし心底疲れ切ったようにため息を吐いた
「最悪だよ。ダドリーの誕生日の日から2週間ずっと物置にいたんだ。」
今までで最高記録の軟禁生活だった。
そういえば、元々細かった身体が更に細くなった気がして、エマは心配そうにハリーの肩に手をおいた。
「でも聞いて、ダドリーの誕生日に動物園に行った時、僕蛇と話ししたんだ。
蛇はブラジルに行きたいって言ってた。
それから、ダドリーを蛇の檻の中に閉じ込めたんだ。ガラスゲージの中から助けを求めてるダドリーの顔…」
ハリーはクスクス笑った。
一見あり得ないような事を言うハリーだが、エマには理解できたし、それが本当な事を知っていたので嬉しそうに笑った
「表札をヘビから豚に変えなきゃ!」
エマが思いっきり笑ったのでハリーも嬉しそうにエマを見た。
「私もね、この間おばさんにこの髪の毛を犬用のバリカンで剃られたんだけど、剃ってもすぐに髪の毛が生えてくるから、おばさん何も言わずに剃るのをやめてソファに座ったわ。
夜まで口を開かなかったから、多分気味悪がってたんだと思う。癇癪おこさなくて良かったけど、」
ハリーやエマの身には時々不思議な事が起こった。
2人が本当に嫌な時や危ない時に、ダーズリー一家が決して認めたくないような出来事が今までに何度も
2人はひとしきり笑い合い、語り合っていたが
マージョリーの「どこ行ったんだい!!」の大声で慌てて家に戻った。
※※※※※※※※※
ある日曜日の朝、いつものようにエマがキッチンで朝食を作っていたら、バーノンおじさんの家から、マージョリーの家にまで届く程酷い悪臭が漂ってきた
あー、きっとハリーに不幸な事が今起きてるに違いないとエマは確信していた。
どうやらペチュニアおばさんが、ハリーが今年から通うストーンウォール校の制服としてダドリーのお古を染めていた匂いだったそうだ。
ペチュニアが染める時に使いたいと、マージョリーにザルを借りに来たときに話していたのが聞こえた。
エマもストーンウォール高校に通うのだが、マージョリーは
「金がかかって仕方がないよ、一生分働いてもらわなくっちゃね」と今年に入ってさらにエマをこき下ろしている。
しかしまだ制服は買ってもらえていない。
お古を染めた制服を着たハリーと、ダードリーのダボダボのお下がりTシャツを着たエマの初登校を想像したが、それは考えないようにしよう!とエマは首を振り、玄関に朝刊を取りに出る。
ポストから朝刊と請求書、それから白い便箋に赤い封蝋で封をされている一通の手紙を手にする。
【プリペット通り10番地、階段下の物置
エマ•ファース様】
「…………何これ?」
エマは生まれて初めての自分宛の手紙に驚き、暫くそのまま立ち尽くした。
私に誰かが手紙を書いている。どういう事か考えようとした瞬間、バーノンおじさんが慌てて玄関から飛び出してきた。その手には今しがたエマがポストから取り出したのと全く同じ便箋が握られている。
青いシマシマのローブをはだけさせ、ドタドタと走ってこちらに向かってきた、その迫力たるや、エマは目をひん剥いておじさんを見た。
おじさんは息を切らしながらエマがもっている白い手紙を乱暴に剥ぎ取ると、再びドタドタと暴れるようにマージョリーのいるリビングに向かっていった。
「マ、マ、マージ!マージ!!」
「どしたんだい、バーノン、そんなに慌てて」
「こ、コレ!コレを……!」
バーノンおじさんは声にならない声でマージョリーに手紙を渡す。
訝しげに便箋に目を通したマージョリーは便箋に書かれている文字に戦慄したようだった。
【ホグワーツ】
目を見開いたマージョリーとバーノンはお互いに顔を合わせた。
「おばさん、その手紙私のよ!」
「僕の手紙!」
後ろから走ってきたであろうハリーが興奮した様子で叫んだ
「返して!」
「こんなの、何でもないっ!何かの間違いだ!いいからとっとと玄関の掃除でもしてきな!」
「間違いでも何でもいいわ!」
「それは僕の手紙だ!」
2人が手紙を奪おうと駆け寄ると、マージョリーとバーノンは必死になって手紙をビリビリに破き、暖炉の中に素早くくべた。
その様子を唖然と見つめるハリーとエマ。
2人がハリーとエマに絶対にバレたくない物があるという証拠だ。
誰かが自分達に出した自分達だけの手紙。自分達が知らなければいけない事実があるのだ。
生まれてこの方、これ程にハリーとエマの中で闘志が湧いた事は無かった。
何としてでもその秘密を暴きたい。
例え秘密がバレた事により、軟禁生活の新記録が待っていようと戦う覚悟を持った2人だったが、その秘密を知る日はそう遠く無かった。
白い便箋自体も、ハリーとエマが中身を確認するまで絶対に諦めないかのように毎日ありとあらゆる方法で2人の前にやってきた。
バーノンもマージョリーも頑張ったが、2人とも体が大きくハリーとエマに比べるとノロいので、割とすぐに中身を確認する事ができた。
【 親愛なるエマ•ファース殿
この度、あなたがホグワーツ魔法魔術学校の生徒として選ばれましたことをお知らせいたします。 生徒は到着時に、受付となる商工会議所に報告する必要があり、その日付は正式に通知されるものとします。 ここに添付されている要件リストを注意深く確認してください。 ホグワーツの偉大なる歴史に、あなたを新しく迎え入れることを、我々一同大いに楽しみにしております。
敬具 教授 ミネルバ・マクゴナガル
ホグワーツ魔法魔術学校 校長 アルバス・ダンブルドア 】
ホグワーツ…?
魔法…?
誰かの手の込んだイタズラかとも思ったが、マージョリーとバーノンの焦りようが目に浮かび、エマは慌ててハリーに会おうと家の外に出る。
するとバーノンおじさんが大きなトランクを車に積んでいるのが見えた。
どこかへ出かけるのだろうかと思っていたが、おじさんは無言でずんずんエマの前にやってきて問答無用でエマの腕を掴み、車に放り込む。
「うわっ!」
ゴン!!と鈍い音がした。先に乗っていたハリーと乱暴に放り込まれたエマの頭がぶつかったのだ。
「いてぇ…!」
「うー、…コブ出来た……そうだ。ハリー手紙読んだ?」
2人は額のたんこぶをさすりながらコソコソと話した
「うん、読んだ。僕ボクワーツなんて聞いた事ない」
「魔法学校って何?」
「分からないけど、手紙を読んだら見つかってさ。チャイルドロックがかかっててドアは開かないし…」
「私たちもしかして、コレからバーノンおじさんにどっかに連れてかれちゃうの?」
「………。」
車の外ではペチュニア、ダドリー、マージョリーが総出で並び、バーノンにハグをしていた。
「じゃぁ、頼んだよバーノン」
「あぁ、」
「あなた、気をつけてね!愛してるわ」
「あぁ、行ってくるよペチュニア、」
ダーズリー家は厳しい旅に出る父親を見送るように別れを惜しんでいるようだが、自分達の方がバーノンよりもっと厳しい現実が待っているんじゃないかと2人は不安になった。