賢者の石
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
エマ、ロン、ハーマイオニーは更衣室の前で「幸運を祈る」とハリーを見送った。
3人はスタンドでネビルの横に座る。
ハリーが試合に出る事は分かっていたので絶対にハリーと生きて会う為に、エマとロンはハーマイオニーから「足縛りの呪文」を習い、練習をしていた。
もし、セルブス•スネイプがハリーに少しでもおかしな素振りを見せたら、すぐにこの呪文をお見舞いしてやる!とエマは目を血走らせ、杖をローブにしまう。
「ロコモーター•モルティス…ロコモーター•モルティス」
ロンはすでにスネイプを睨みつけながら呪文を呟いている。
「あれ!ダンブルドア校長じゃない?」
ハーマイオニーが双眼鏡を覗きながら叫んだ。
ハーマイオニーの指の先を見ると、銀色の長い髭が見える。
あれは間違いなくダンブルドアだ。
エマは安堵して「ハハ…」と空気の抜けたような笑いが出た。
「よかった!ダンブルドア校長の前ではスネイプは悪さできないわっ」
ハーマイオニーも喜んでエマに振り返った。
「ウゲッ!スネイプの顔がいつもの倍悪いぞ!」
ロンが双眼鏡を覗き込み唸いた。
「うわ、もう僕見てられない………イテっ」
ネビルが両手で目を覆ったのと同時に、誰かがネビルの頭をこづいた。
ドラコだ。
後ろにクラップとゴイルもいる。
「あぁ、ごめん。大きな石かと思ったらロングボトムだったのか」
ドラコがこの2人を連れてここにやってくると言う事は、間違いなく喧嘩を売りに来ている。
今悪魔の親玉みたいな顔をしているドラコは、ほんの数日前泣き止むまで私を抱きしめてくれていた人と同一人物なのだろうかとエマは困惑していた。
ハーマイオニーはドラコが来ている事にも気づかず、全集中で試合を双眼鏡で覗いている。
「この試合、ポッターはどれくらい箒に乗れてるか賭けないか?ウィーズリー」
ドラコは笑いながらロンに声をかけたが、ロンは反応せず試合を見ていた。
試合ではジョージがブラッジャーをスネイプに向けて打ったという理由で、ハッフルパフにペナルティーシュートを与えたところだった。
「グリフィンドールの選手が選ばれる理由を知ってるか?」
ドラコは構わず続ける。
「気の毒な人が選ばれてるんだよ。
ウィーズリー家はお金がないし
ポッターには両親がいない」
エマは急に視界が歪んだような気がした。
観客の声援が遠くなる。
ドラコの言葉が耳に残って反復する。
「ネビル•ロングボトム、お前もチームに入れてもらうべきだ、脳みそがないから」
試合ではスネイプが何の理由もなしにハッフルパフにペナルティーシュートを与えている。
「マルフォイ!!ぼ、僕は本当は、勇気があるんだ!きき、君が10人いたって、僕には敵わないんだ!」
ネビルが立ち上がり、吃りながらも言い切っていた。
マルフォイが大笑いし、クラップとゴイルは下品に高らかに笑った。
ロンは試合から目を離す事なく「そうだ!ネビル、もっと言ってやれ!」と口を出す。
「ロングボトム、もし脳みそが金でできていたらお前はウィーズリーよりも貧乏だ。生半可な貧乏じゃないって事だ、言ってる意味が分かるか?」
「マルフォイ、これ以上一言でも何か言ってみろ、ただじゃ…」
「エマっロン!」
突然ハーマイオニーが叫んだ。
「ハリーが!」
「何?!どこ!」
ハリーが突然ものすごい急降下を始めた。
観客が総立ちとなる。
ハーマイオニーは立ち上がり、指を十字に組んだまま口に食わえていた。
ハリーは弾丸のように一直線に地上に向かって突っ込んで行く。
「早く!先生を呼べ!発作だ!ポッターが身投げするぞ!」
ロンがついに切れた。
ドラコに飛びかかろうとした時、横を黒い塊がドラコに飛びかかっていた。
エマだ。
エマがドラコに馬乗りになり、ローブの胸ぐらを掴んでいた。
ロンはびっくりして呆然としていたがクラップがエマに手を出そうとしているのを見て、迷わずクラップに飛びかかる。
ネビルも一瞬怯んだが、腕をぐるぐる回しながらゴイルに向かって行った。
「行け!ハリー!!」
ハーマイオニーが椅子の上に飛び上がり、声を張り上げる。
エマは胸ぐらを掴んだままドラコを鋭い目つきで睨みつける。
ドラコは目を広げて驚いた表情でエマを見ていた。
一瞬、両耳にニードルが突き刺さる時の感覚が蘇る。
ドクンドクンと心臓が脈を打つ。
『ポッターには両親がいない』
『ポッターが身投げするぞ』
ドラコのセリフが頭をぐるぐる回る。
あなたがそれを言うなんて…
許さない…
分からせてやる…!
ドラコの上半身を持ち上げて、乱れたブラウスの間から見える白い首に近づき、歯を立てた。
グググっ…
スタンドがド!!と沸いた。
割れるような歓声が響く。
遠くでハーマイオニーが名前を呼ぶ。
ハリーがスニッチを取った
新記録だ
ロンの怒号とネビルの悲鳴
温かい首から歯を離す。
光る糸がドラコの首とエマの口を繋いでいた。
鉄の味。
首にはくっきりとついた歯型から、血が滲んで滴り落ちていた。
「…うぅっ…」
ドラコは呼吸が短く、苦しそうにしている。
グイ!っとローブの帽子を思いっきり強く後ろに引っ張られる。
その拍子に観客席の椅子まで転がり、転倒しそうなエマをロンがキャッチした。
「ドラコ!!大丈夫!!?」
パーキンソンがドラコに駆け寄り、我が子が怪我をした時の過保護な母親のように慌てふためいている。
ドラコは手で首を抑え、パーキンソンを無視して去って行く、クラップとゴイルもボロボロになりながらドラコのあとをついて行った。
パーキンソンはエマに向き直り、心底憎々しげに睨んだ。
「あんた…ただじゃおかないから…」
ロンが去っていく4人を睨みつけながらエマを支えた。
ネビルは観客席の椅子で伸びている。
ハーマイオニーは踊り、パーバティに抱きついていた。
※※※
「ハリーったら、いったいどこにいたのよ!」
ハーマイオニーが甲高い声を出す。
「僕らが勝った!君が勝った!僕らの勝ちだ!!」
ロンがハリーの背中をバシバシ叩きながら言った。
「みんな談話室でハリーを待ってる、フレッドとジョージがケーキやら何やら、キッチンから失敬してきたんだ。」
「それどころじゃない」
ハリーはスニッチ掴みの新記録を達成したのに、神妙な面持ちだった。
周りに誰もいないのを確認して部屋のドアをピタリと閉めた。
「僕らは正しかった、『賢者の石』だったんだ。
それを手に入れるのを手伝えって、スネイプがクィレルを脅していたのを見た!
スネイプはフラッフィーを出し抜く方法を知ってるかって聞いていた…それと、クィレルに『怪しげなまやかし」とかの事を聞き出そうとしてた。
フラッフィー以外にもあの四階の部屋には何か別のものが石を守っているんだと思う。
クイレルが闇の魔術に対抗する呪文をかけて、スネイプみたいな奴から石を守ってるのかもしれない」
ハリーは真剣な顔で語った。
「クィレルとスネイプじゃ、石は3日ともたないな」
ロンが言った時、ハリーがロンの口についているアザに気がついた。
「ど、どうしたのそれ?!」
「ハリーがスニッチを掴みに行ってる時にロン達がマルフォイと喧嘩したのよ。殴り合いの」
ハーマイオニーの言葉にハリーがびっくりしていた。
スネイプとクィレルの衝撃事実を目撃して、気が張りすぎて今更気付いたようだ。
ロンは得意気に笑っていた。
「僕はクラップに青あざを作ってやったし、ネビルだって立ち向かった!まだ、医務室で伸びてるけど…!
エマなんかマルフォイをボッコボコにしてたんだ!スリザリンに目に物をみせてやったぜ!」
エマはボコボコにはしてないと心で言った。
ハリーはエマを見て、怪我はしてないか上から下へ忙しなく目をやった。
「大丈夫、私は怪我してない」
「当たり前だ!エマが怪我してたら、今すぐにあいつをクァッフルにしてフープに放り込んでやる…!」
ハリーはエマの両腕を掴んで、安心と憤怒のため息を吐いた。
「そう、だから今回は『僕らの勝ち』!さぁ、もういいだろう。腹減ったよ!」
「全く呆れた」
ハーマイオニーがロンの青あざをチョンと突く。
痛そうに口を手で押さえ、ロンはジトっとした目でハーマイオニーを睨んだ。
※※※※※※※※※※※
「あつい!」
カーテンは閉め切り、もう季節は夏がきているというのに暖炉の火がゴウゴウと燃え盛る。
ハリー、エマ、ロン、ハーマイオニーはフーフーと汗をかいている。
それなのにハグリッドがイタチの肉のサンドイッチをすすめてきたので、軽蔑の目を向けそうになる。
こんなにもハグリッドの小屋が熱いのも、ハグリッドが賭けで勝ち取ってきたらしいドラゴンの卵を温めるためなんだそうだ。
ドラゴンの飼育が法律違反だと言う事も百も承知でハグリッドはドラゴンの世話をする気でいる。
4人は好奇心3割、不安7割と言った感じで、強くハグリッドに辞めるよう説得ができないでいた。
今朝、ヘドウィグがハリー宛に手紙を届けた。
差出人はハグリッドで「いよいよ孵る!」と一行だけ書かれていた。
授業が終わり、まだ暑さの残る夕方にハグリッドの小屋で、4人とハグリッドはテーブルの上に置かれた卵を見守っていた。
中で何かが動きながら殻を突いている音が響く。
卵のヒビが少しずつ広がり、パキパキと音がして亀裂が入る。
間も無くして、パギャっという音とともに中からドラゴンの赤ちゃんが出てきた。
「おぉ…!」
濡れたコウモリのような姿、巨大な翼、長い鼻に大きな鼻の穴、オレンジ色の出目という姿だ。
赤ちゃんがくしゃみをすると、鼻から火花が散った。
「素晴らしい!」
ハグリッドは瞳をキラキラと輝やかせ、ドラゴンを撫でようと手を出すと、ドラゴンがガブリ!とハグリッドの指に噛み付いた。
「ほほほほ、ほーらほら、ママちゃんだよ!」
ロンがいささか気の毒そうにハグリッドを見つめる。
「ハグリッド、ノルウェー・リッジバック種ってどれくらいの早さで大きくなるの?」
エマが聞いた。
答えようとした途端、ハグリッドの顔から血の気が引く。
「だれだ!!!」
ハグリッドが僅かに空いていたカーテンの隙間に向かって声を張り上げる。
ハリーが急いで外に出ると、ドラコが早足で城に帰っていく姿が見えた。
「マルフォイだ…見られた」
ハリーが絶望的な声を出す。
エマは胸がザワザワとした。
「ハグリッド!まずいよっアイツ先生にチクるぞ!」
ロンはハグリッドに向き直るが、ハグリッドは目を逸らした。
「外に放しましょう、自由にしてあげたほうがいいわ」
ハーマイオニーが促す。
「そんな事はできん!コイツは赤ちゃんだぞ!死んだらどうするっ」
ハグリッドは聞き分けのない子供のように渋った
その後一週間でドラゴンは3倍に成長した。
ドラゴンに手がかかり過ぎて家畜の世話がおざなりになるし、床にはブランデーの空き瓶や鶏の羽やらドラゴンの餌作りの残骸が散らかっていた。
「ノーバートと呼ぶ事にしたんだ」
ハグリッドの目は潤んでいる。
「もう、母親が誰かわかってるんだ。ノーバートや、ノーバート、ママちゃんはどこ?」
「……狂ってるぜ」
ロンが4人だけに聞こえる声で囁く。
これは本格的に不味いと思い、4人はロンの兄、ルーマニアでドラゴンの研究をしているチャーリーに助けを求める事にした。
ロンがすぐに手紙をしたため、ヨボヨボのエロールではなく、ヘドウィグを飛ばした。
チャーリーからはすぐに返事が返って来た。
『ロン、元気かい?
手紙ありがとう。喜んでノルウェー・リッジバックを引き受けるよ。だけどここに連れてくるのは簡単じゃないんだ。
来週、僕の友達が訪ねてくることになっているから、彼らに運んでこっちに連れてきてもらうのが一番いいと思う。問題は彼らが法律違反のドラゴンを運んでいる所を見られてはいけないということだ。
土曜日の真夜中、1番高い塔にリッジバックを連れてこれるかい?そしたら、彼らがそこで君たちと会って、暗いうちにドラゴンを選び出せる。
できるだけ早く返事をくれ。がんばれよ!
チャーリー』
4人は顔を見合わせる。
「透明マントがある!僕ともう1人とノーバートくらいなら隠せるはずだ」
ハリーの言葉にエマ、ロン、ハーマイオニーは同意した。
4人はハグリッドの小屋を訪れた。
ファングが尻尾に包帯を巻き、小屋の外に出ている。
「ハグリッド、開けて!話があるんだ」
「中には入れてやれん、ノーバートは今難しい時期でな……ぐわーーー!!いや俺は大丈夫!ちょいとブーツを噛まれただけだっ」
ハグリッドにチャーリーの手紙の事を話すと黒い目からポロポロと涙を流した。
ハグリッド自身もダメなのかもしれない事はわかっていたようで、尻尾で壁を叩き小屋を破壊しかねないノーバートに対して「まだコイツは赤ちゃんなんだ」なんてゴネてはいたが、お別れを決意してくれた。
決行は土曜日の深夜、4人は無事に日曜日が来ることを祈るばかりだった。
土曜の朝、問題が起きた。
ノーバートに噛まれたロンの手が2倍に膨れ上がり、傷口が緑色になっていた。
ノーバートの牙には毒があったのだ。
「もう、自分たちで何とかするなんて無理だよ、マダム•ポンフリーの所に行こう!」
エマはロンの手に大きな布を被せて説得した。
「こんな傷、なんて説明するんだっ!エマっ魔法薬得意だろ!治す薬作ってよ!」
「無茶おっしゃい!仮に作り方を知ってたとしてどうやって材料を手に入れるのよ!」
「何とかしてくれよ、ドラゴンの事がバレたら僕ら法律違反で退学になっちゃう!」
2人が小競り合いをしているのをハーマイオニーが遮る。
「もう、2人ともやめてっ。ロン、行くしかないわ、怪しまれるだろうけど知らぬ存ぜぬで隠し通すのよ!」
ロンはハーマイオニーに連れられて渋々、医務室へ向かった。
「今更計画は変えられない。僕らでやるしかないよ」
ハリーはエマに言った。
チャーリーに今からフクロウ便は間に合わないし、ノーバートをなんとかする最後のチャンスだった。
まだドラコはドラゴンの事を騒ぎ立ててはいない様子。
「うん、それにこっちにはハリーのマントがあるしね。今夜やろう!」
ハリーとエマも医務室に向かうと、「何の用です!ここには病人がいるんですよ!」とマダム•ポンフリーに睨まれたが「すぐ終わらせますから」と少しだけ入れさせて貰った。
ロンはベッドに横になるなり眠ってしまい、その後みるみる体温があがったのだそうだ。
マダム•ポンフリーは大忙しで、何度もハーマイオニーになんでこうなったか尋ねたがハーマイオニーは「知りません」と顔を青くするしかできなかった。
ハリーとエマがその状況にショックをうけた。
「大丈夫、マダム•ポンフリーよ。怪我や病気や毒に関してはプロだし、何とかなるわ」
ハーマイオニーの言う通り、ロンの腕のサイズは既に少し小さくなっているようだった。
ハリーは一息つき、小声で話した。
「あまり長居はできない。マントに入れる人数は2人とノーバートだ。誰が行く?」
「ハリーと私がいいわ。ハーマイオニーはロンに付き添ってもらいたいの。ドラゴンの事がボロが出ないように」
エマはハーマイオニーを見る。
「…わかったわ。必ず成功させてね!」
3人は固く頷いた。
夜、ハグリッドはノーバートを大きい木箱に入れて準備をすませていた。
「長旅だから、ねずみをたくさん入れといたし、ブランデーも入れといたよ、寂しくないようにお前の好きなテディベアのぬいぐるみも…」
ハグリッドは声をくぐもらせ、鼻を啜っている。
中でビリビリと布が破ける音を聞きながら、2人はソワソワしていた。
早くこの作業を終わらせたくて、ハグリッドを気遣う余裕がなかった。
「さぁ、もうバイバイして」
ハリーとエマが木箱に透明マントを被せ、自分達もマントの中に入る。
「ママちゃんは決してお前をわすれないよ!」
2人は無我夢中で木箱を運んだ。
重いだとか遠すぎるだとか、今は弱音を吐く時間の余裕はない、ただひたすら天文台に向かって進むのみ。
最短距離で進んだが木箱を持つ手はビリビリと痺れだし、マントの中はサウナ状態で2人とも汗が吹き出していた。
「もうすぐだ」
一番高い塔の階段で、ハリーはハアハアしながら言った。
夜の冷たい外気に触れ、2人はようやくマントを脱ぐ。
「はぁ!はぁ、はぁ、よく頑張った私!!」
「うん、よく頑張った!」
ノーバートは箱の中でバタバタと暴れていた。
10分程たって、四本の箒が闇の中から舞い降りてきた。
チャーリーの友人たちは陽気な仲間だった。
四人でドラゴンを連れて行けるよう工夫した道具を見せてくれた。
六人がかりでノーバートをしっかりとつなぎ止め、ハリーとエマは四人と握手し、お礼を言った。
ついにノーバートは出発した。
なんたる開放感!全て解決、万事オッケー
明日、医務室に行ってロンとハーマイオニーに嬉しい報告ができる。
2人は安堵の表情で笑い合い肩を組みながら階段を降りようとすると、フェルチの顔が暗闇からヌッと現れた。
「さてさてさてさて、これは困った事になりましたね」
フェルチが囁くように言った。
ハリーとエマは透明マントを塔の上に忘れてきてしまっていた。
※※※
フェルチは意気揚々と「ここで待っときなさい」とマクゴナガル先生の研究室に連れてきた。
2人は最悪の気分で座り、床を見つめる事しか出来ない。
悪ければ退学、もっと悪ければ捕まるんじゃないかと気が気でなかった。
コツコツというマクゴナガル先生が部屋に近寄ってくる足音とバタバタという足音が聞こえる。
2人は凄く嫌な予感がしていた。
マクゴナガル先生は何と、ネビルとドラコを引き連れてやってきた。
「この2人も貴方たち同様、深夜にベッドを抜け出し校内を歩き回っていました」
マクゴナガル先生はネビルとドラコにも席に座るように言った。
ネビルはハリーとエマを見るなり興奮したように話しかけてきた。
「僕、マルフォイがハリーを捕まえるって言ってたから教えようと思って!でもハリー達もマルフォイも見失っちゃって、君たちがドラゴ…」
ハリーがネビルの口を手で押さえる。
時既に遅しとマクゴナガル先生を恐る恐る見上げる。
マクゴナガル先生の鼻は膨らみ、メガネはギラリと光った。
「フェルチから聞いています。ミスター•ポッターとミス•ファースは立ち入り禁止の天文台の塔にいたそうですね、明け方の1時に…。
一体どういう事なんですか?」
2人は下を向いて何も言えなかった。
マクゴナガル先生はゆっくり4人を見下ろしていた。
「なにがあったかはおおかた察しがついています。ドラゴン等と嘘をついてミスター•マルフォイにいっぱい食わせてベッドから誘き出そうとしたのでしょう」
「いえ!僕は見ましたっポッター達がハグ…グッ!」
エマが思いっきりドラコの足の小指らへんを踵で踏みつけた。
マクゴナガル先生がエマとドラコを睨みつけて続ける。
「そしてその話を本気にしたミスター•ロングボトムに対しても滑稽だとしか思っていないでしょう」
ネビルはショックを受けて落ち込んでいた。
ハリーとエマはネビルには悪いが、マクゴナガル先生がドラゴンには気づいていない事にホッとしていた。
ドラコがマクゴナガル先生に何か言おうとする度にエマはぐりぐりとドラコの小指を踏みにじっていたし、ネビルにあとで説明すればいい事だったので、2人はこのまま大人しく罰を受けてやり過ごそうとしていた時だった。
「こんな事は前代未聞です。どんな理由があろうと夜中に抜け出し校内を彷徨く事は禁止されています。ましてやこの頃は特に夜に出歩くのは危険なのですから…よって4人には1人50点減点と処罰を受けてもらいます」
聞き間違いではないだろうか?
1人50点減点??
前代未聞なのは貴方の方ではないかマクゴナガル先生!
4人は目を見開いてマクゴナガルを見たが、マクゴナガル先生は話は終わりですという顔をしている。
4人とも口々に減点に対して情状酌量を懇願したが、マクゴナガル先生の意思は全く変わらなかった。
翌日から、特にハリーに対しての風当たりが強かった。
あの有名なハリー•ポッターが、クィディッチのヒーローが一夜にして寮の点を150点も減らしてしまった。
何人かのバカな生徒と一緒に。
ウィーズリー兄弟以外のグリフィンドール生、そしてなぜかハッフルパフ生やレイブンクロー生も、ハリーが近くを通ると大っぴらに悪口をいっていた。
逆にスリザリンの生徒からは「よくやった!ありがとうポッター!」とお礼を言われる始末。
「レイブンクローとハッフルパフはスリザリンから寮杯を奪えるのを楽しみにしてた人達なのよ」
とハーマイオニーは言ったが、ハリーとエマは腹立だしかった。
集団が一致団結して個に向かう怒りとはこんなに理不尽なものなのか。
ハリーとエマが談話室に入ると、そこにいた生徒たちは蜘蛛の子を散らしたように部屋に戻っていく。
フレッドとジョージは「今はまぁしょうがない」と肩をすくめて慰めてくれるが、2人の心は曇る一方だった。
ハリーとエマは試験が近い事がかえって嬉しかった。
試験勉強に没頭することで、少しは惨めさを忘れることができたからだ。
4人とも、他の寮生と離れて夜遅くまで勉強した。
複雑な薬の調合を覚えたり、妖精の魔法や呪いの魔法の呪文を暗記したり…。
エマが木星の星図を引き寄せ、木星の月の名前を覚えようと、教科書を片手に朝食のテーブルに座っていた。
すると、ハリー、エマ、ネビルそして向こうのテーブルではドラコ宛に手紙が届いた。
『処罰は今夜十一時に行います。
玄関ホールでミスター・フィルチが待っています。
マクゴナガル教授』
忘れていた。
本気で怒ったマクゴナガル先生がこんな地獄の生活だけで終わりなはずがなかった。
※※※
夜11時、心配そうなロンとハーマイオニーに別れを告げ、ハリーとエマはネビルと共に玄関ホールに向かった。
玄関ホールではフェルチとドラコが既に待っていた。
ドラコはこちらを見向きもしない。
首にはエマに噛みつかれた所に痛々しくガーゼが張られている。
魔法界の治療で、あの程度の怪我が治ってないとは考えにくいので、エマは自分への当てつけだと思った。
「ついてこい」
フェルチはランプを持って先に外へ出る。
「逃げようなんて考えない方がいいぞ。もっと酷い目に遭うだけだ、まぁ私は大歓迎だがね…昔悪さをした生徒を吊るしていた鎖が私の部屋に残っている、あの悲鳴がまた聞きたいもんだ…」
フェルチは意地悪く笑いながら話している。
ネビルはメソメソと泣き出した。
フェルチがこんなに嬉しそうにしているという事は、今回の罰はきっととても恐ろしいのだろう。
月明かりが雲で隠れ、辺りを闇にする。
ハグリッドの小屋の明かりが見える。
「よし、ちと急ぐぞお前ら。森にゃ俺と行ってもらう」
ハグリッドは石弓の手入れをやめて立ち上がり、4人に向かって言った。
3人はスタンドでネビルの横に座る。
ハリーが試合に出る事は分かっていたので絶対にハリーと生きて会う為に、エマとロンはハーマイオニーから「足縛りの呪文」を習い、練習をしていた。
もし、セルブス•スネイプがハリーに少しでもおかしな素振りを見せたら、すぐにこの呪文をお見舞いしてやる!とエマは目を血走らせ、杖をローブにしまう。
「ロコモーター•モルティス…ロコモーター•モルティス」
ロンはすでにスネイプを睨みつけながら呪文を呟いている。
「あれ!ダンブルドア校長じゃない?」
ハーマイオニーが双眼鏡を覗きながら叫んだ。
ハーマイオニーの指の先を見ると、銀色の長い髭が見える。
あれは間違いなくダンブルドアだ。
エマは安堵して「ハハ…」と空気の抜けたような笑いが出た。
「よかった!ダンブルドア校長の前ではスネイプは悪さできないわっ」
ハーマイオニーも喜んでエマに振り返った。
「ウゲッ!スネイプの顔がいつもの倍悪いぞ!」
ロンが双眼鏡を覗き込み唸いた。
「うわ、もう僕見てられない………イテっ」
ネビルが両手で目を覆ったのと同時に、誰かがネビルの頭をこづいた。
ドラコだ。
後ろにクラップとゴイルもいる。
「あぁ、ごめん。大きな石かと思ったらロングボトムだったのか」
ドラコがこの2人を連れてここにやってくると言う事は、間違いなく喧嘩を売りに来ている。
今悪魔の親玉みたいな顔をしているドラコは、ほんの数日前泣き止むまで私を抱きしめてくれていた人と同一人物なのだろうかとエマは困惑していた。
ハーマイオニーはドラコが来ている事にも気づかず、全集中で試合を双眼鏡で覗いている。
「この試合、ポッターはどれくらい箒に乗れてるか賭けないか?ウィーズリー」
ドラコは笑いながらロンに声をかけたが、ロンは反応せず試合を見ていた。
試合ではジョージがブラッジャーをスネイプに向けて打ったという理由で、ハッフルパフにペナルティーシュートを与えたところだった。
「グリフィンドールの選手が選ばれる理由を知ってるか?」
ドラコは構わず続ける。
「気の毒な人が選ばれてるんだよ。
ウィーズリー家はお金がないし
ポッターには両親がいない」
エマは急に視界が歪んだような気がした。
観客の声援が遠くなる。
ドラコの言葉が耳に残って反復する。
「ネビル•ロングボトム、お前もチームに入れてもらうべきだ、脳みそがないから」
試合ではスネイプが何の理由もなしにハッフルパフにペナルティーシュートを与えている。
「マルフォイ!!ぼ、僕は本当は、勇気があるんだ!きき、君が10人いたって、僕には敵わないんだ!」
ネビルが立ち上がり、吃りながらも言い切っていた。
マルフォイが大笑いし、クラップとゴイルは下品に高らかに笑った。
ロンは試合から目を離す事なく「そうだ!ネビル、もっと言ってやれ!」と口を出す。
「ロングボトム、もし脳みそが金でできていたらお前はウィーズリーよりも貧乏だ。生半可な貧乏じゃないって事だ、言ってる意味が分かるか?」
「マルフォイ、これ以上一言でも何か言ってみろ、ただじゃ…」
「エマっロン!」
突然ハーマイオニーが叫んだ。
「ハリーが!」
「何?!どこ!」
ハリーが突然ものすごい急降下を始めた。
観客が総立ちとなる。
ハーマイオニーは立ち上がり、指を十字に組んだまま口に食わえていた。
ハリーは弾丸のように一直線に地上に向かって突っ込んで行く。
「早く!先生を呼べ!発作だ!ポッターが身投げするぞ!」
ロンがついに切れた。
ドラコに飛びかかろうとした時、横を黒い塊がドラコに飛びかかっていた。
エマだ。
エマがドラコに馬乗りになり、ローブの胸ぐらを掴んでいた。
ロンはびっくりして呆然としていたがクラップがエマに手を出そうとしているのを見て、迷わずクラップに飛びかかる。
ネビルも一瞬怯んだが、腕をぐるぐる回しながらゴイルに向かって行った。
「行け!ハリー!!」
ハーマイオニーが椅子の上に飛び上がり、声を張り上げる。
エマは胸ぐらを掴んだままドラコを鋭い目つきで睨みつける。
ドラコは目を広げて驚いた表情でエマを見ていた。
一瞬、両耳にニードルが突き刺さる時の感覚が蘇る。
ドクンドクンと心臓が脈を打つ。
『ポッターには両親がいない』
『ポッターが身投げするぞ』
ドラコのセリフが頭をぐるぐる回る。
あなたがそれを言うなんて…
許さない…
分からせてやる…!
ドラコの上半身を持ち上げて、乱れたブラウスの間から見える白い首に近づき、歯を立てた。
グググっ…
スタンドがド!!と沸いた。
割れるような歓声が響く。
遠くでハーマイオニーが名前を呼ぶ。
ハリーがスニッチを取った
新記録だ
ロンの怒号とネビルの悲鳴
温かい首から歯を離す。
光る糸がドラコの首とエマの口を繋いでいた。
鉄の味。
首にはくっきりとついた歯型から、血が滲んで滴り落ちていた。
「…うぅっ…」
ドラコは呼吸が短く、苦しそうにしている。
グイ!っとローブの帽子を思いっきり強く後ろに引っ張られる。
その拍子に観客席の椅子まで転がり、転倒しそうなエマをロンがキャッチした。
「ドラコ!!大丈夫!!?」
パーキンソンがドラコに駆け寄り、我が子が怪我をした時の過保護な母親のように慌てふためいている。
ドラコは手で首を抑え、パーキンソンを無視して去って行く、クラップとゴイルもボロボロになりながらドラコのあとをついて行った。
パーキンソンはエマに向き直り、心底憎々しげに睨んだ。
「あんた…ただじゃおかないから…」
ロンが去っていく4人を睨みつけながらエマを支えた。
ネビルは観客席の椅子で伸びている。
ハーマイオニーは踊り、パーバティに抱きついていた。
※※※
「ハリーったら、いったいどこにいたのよ!」
ハーマイオニーが甲高い声を出す。
「僕らが勝った!君が勝った!僕らの勝ちだ!!」
ロンがハリーの背中をバシバシ叩きながら言った。
「みんな談話室でハリーを待ってる、フレッドとジョージがケーキやら何やら、キッチンから失敬してきたんだ。」
「それどころじゃない」
ハリーはスニッチ掴みの新記録を達成したのに、神妙な面持ちだった。
周りに誰もいないのを確認して部屋のドアをピタリと閉めた。
「僕らは正しかった、『賢者の石』だったんだ。
それを手に入れるのを手伝えって、スネイプがクィレルを脅していたのを見た!
スネイプはフラッフィーを出し抜く方法を知ってるかって聞いていた…それと、クィレルに『怪しげなまやかし」とかの事を聞き出そうとしてた。
フラッフィー以外にもあの四階の部屋には何か別のものが石を守っているんだと思う。
クイレルが闇の魔術に対抗する呪文をかけて、スネイプみたいな奴から石を守ってるのかもしれない」
ハリーは真剣な顔で語った。
「クィレルとスネイプじゃ、石は3日ともたないな」
ロンが言った時、ハリーがロンの口についているアザに気がついた。
「ど、どうしたのそれ?!」
「ハリーがスニッチを掴みに行ってる時にロン達がマルフォイと喧嘩したのよ。殴り合いの」
ハーマイオニーの言葉にハリーがびっくりしていた。
スネイプとクィレルの衝撃事実を目撃して、気が張りすぎて今更気付いたようだ。
ロンは得意気に笑っていた。
「僕はクラップに青あざを作ってやったし、ネビルだって立ち向かった!まだ、医務室で伸びてるけど…!
エマなんかマルフォイをボッコボコにしてたんだ!スリザリンに目に物をみせてやったぜ!」
エマはボコボコにはしてないと心で言った。
ハリーはエマを見て、怪我はしてないか上から下へ忙しなく目をやった。
「大丈夫、私は怪我してない」
「当たり前だ!エマが怪我してたら、今すぐにあいつをクァッフルにしてフープに放り込んでやる…!」
ハリーはエマの両腕を掴んで、安心と憤怒のため息を吐いた。
「そう、だから今回は『僕らの勝ち』!さぁ、もういいだろう。腹減ったよ!」
「全く呆れた」
ハーマイオニーがロンの青あざをチョンと突く。
痛そうに口を手で押さえ、ロンはジトっとした目でハーマイオニーを睨んだ。
※※※※※※※※※※※
「あつい!」
カーテンは閉め切り、もう季節は夏がきているというのに暖炉の火がゴウゴウと燃え盛る。
ハリー、エマ、ロン、ハーマイオニーはフーフーと汗をかいている。
それなのにハグリッドがイタチの肉のサンドイッチをすすめてきたので、軽蔑の目を向けそうになる。
こんなにもハグリッドの小屋が熱いのも、ハグリッドが賭けで勝ち取ってきたらしいドラゴンの卵を温めるためなんだそうだ。
ドラゴンの飼育が法律違反だと言う事も百も承知でハグリッドはドラゴンの世話をする気でいる。
4人は好奇心3割、不安7割と言った感じで、強くハグリッドに辞めるよう説得ができないでいた。
今朝、ヘドウィグがハリー宛に手紙を届けた。
差出人はハグリッドで「いよいよ孵る!」と一行だけ書かれていた。
授業が終わり、まだ暑さの残る夕方にハグリッドの小屋で、4人とハグリッドはテーブルの上に置かれた卵を見守っていた。
中で何かが動きながら殻を突いている音が響く。
卵のヒビが少しずつ広がり、パキパキと音がして亀裂が入る。
間も無くして、パギャっという音とともに中からドラゴンの赤ちゃんが出てきた。
「おぉ…!」
濡れたコウモリのような姿、巨大な翼、長い鼻に大きな鼻の穴、オレンジ色の出目という姿だ。
赤ちゃんがくしゃみをすると、鼻から火花が散った。
「素晴らしい!」
ハグリッドは瞳をキラキラと輝やかせ、ドラゴンを撫でようと手を出すと、ドラゴンがガブリ!とハグリッドの指に噛み付いた。
「ほほほほ、ほーらほら、ママちゃんだよ!」
ロンがいささか気の毒そうにハグリッドを見つめる。
「ハグリッド、ノルウェー・リッジバック種ってどれくらいの早さで大きくなるの?」
エマが聞いた。
答えようとした途端、ハグリッドの顔から血の気が引く。
「だれだ!!!」
ハグリッドが僅かに空いていたカーテンの隙間に向かって声を張り上げる。
ハリーが急いで外に出ると、ドラコが早足で城に帰っていく姿が見えた。
「マルフォイだ…見られた」
ハリーが絶望的な声を出す。
エマは胸がザワザワとした。
「ハグリッド!まずいよっアイツ先生にチクるぞ!」
ロンはハグリッドに向き直るが、ハグリッドは目を逸らした。
「外に放しましょう、自由にしてあげたほうがいいわ」
ハーマイオニーが促す。
「そんな事はできん!コイツは赤ちゃんだぞ!死んだらどうするっ」
ハグリッドは聞き分けのない子供のように渋った
その後一週間でドラゴンは3倍に成長した。
ドラゴンに手がかかり過ぎて家畜の世話がおざなりになるし、床にはブランデーの空き瓶や鶏の羽やらドラゴンの餌作りの残骸が散らかっていた。
「ノーバートと呼ぶ事にしたんだ」
ハグリッドの目は潤んでいる。
「もう、母親が誰かわかってるんだ。ノーバートや、ノーバート、ママちゃんはどこ?」
「……狂ってるぜ」
ロンが4人だけに聞こえる声で囁く。
これは本格的に不味いと思い、4人はロンの兄、ルーマニアでドラゴンの研究をしているチャーリーに助けを求める事にした。
ロンがすぐに手紙をしたため、ヨボヨボのエロールではなく、ヘドウィグを飛ばした。
チャーリーからはすぐに返事が返って来た。
『ロン、元気かい?
手紙ありがとう。喜んでノルウェー・リッジバックを引き受けるよ。だけどここに連れてくるのは簡単じゃないんだ。
来週、僕の友達が訪ねてくることになっているから、彼らに運んでこっちに連れてきてもらうのが一番いいと思う。問題は彼らが法律違反のドラゴンを運んでいる所を見られてはいけないということだ。
土曜日の真夜中、1番高い塔にリッジバックを連れてこれるかい?そしたら、彼らがそこで君たちと会って、暗いうちにドラゴンを選び出せる。
できるだけ早く返事をくれ。がんばれよ!
チャーリー』
4人は顔を見合わせる。
「透明マントがある!僕ともう1人とノーバートくらいなら隠せるはずだ」
ハリーの言葉にエマ、ロン、ハーマイオニーは同意した。
4人はハグリッドの小屋を訪れた。
ファングが尻尾に包帯を巻き、小屋の外に出ている。
「ハグリッド、開けて!話があるんだ」
「中には入れてやれん、ノーバートは今難しい時期でな……ぐわーーー!!いや俺は大丈夫!ちょいとブーツを噛まれただけだっ」
ハグリッドにチャーリーの手紙の事を話すと黒い目からポロポロと涙を流した。
ハグリッド自身もダメなのかもしれない事はわかっていたようで、尻尾で壁を叩き小屋を破壊しかねないノーバートに対して「まだコイツは赤ちゃんなんだ」なんてゴネてはいたが、お別れを決意してくれた。
決行は土曜日の深夜、4人は無事に日曜日が来ることを祈るばかりだった。
土曜の朝、問題が起きた。
ノーバートに噛まれたロンの手が2倍に膨れ上がり、傷口が緑色になっていた。
ノーバートの牙には毒があったのだ。
「もう、自分たちで何とかするなんて無理だよ、マダム•ポンフリーの所に行こう!」
エマはロンの手に大きな布を被せて説得した。
「こんな傷、なんて説明するんだっ!エマっ魔法薬得意だろ!治す薬作ってよ!」
「無茶おっしゃい!仮に作り方を知ってたとしてどうやって材料を手に入れるのよ!」
「何とかしてくれよ、ドラゴンの事がバレたら僕ら法律違反で退学になっちゃう!」
2人が小競り合いをしているのをハーマイオニーが遮る。
「もう、2人ともやめてっ。ロン、行くしかないわ、怪しまれるだろうけど知らぬ存ぜぬで隠し通すのよ!」
ロンはハーマイオニーに連れられて渋々、医務室へ向かった。
「今更計画は変えられない。僕らでやるしかないよ」
ハリーはエマに言った。
チャーリーに今からフクロウ便は間に合わないし、ノーバートをなんとかする最後のチャンスだった。
まだドラコはドラゴンの事を騒ぎ立ててはいない様子。
「うん、それにこっちにはハリーのマントがあるしね。今夜やろう!」
ハリーとエマも医務室に向かうと、「何の用です!ここには病人がいるんですよ!」とマダム•ポンフリーに睨まれたが「すぐ終わらせますから」と少しだけ入れさせて貰った。
ロンはベッドに横になるなり眠ってしまい、その後みるみる体温があがったのだそうだ。
マダム•ポンフリーは大忙しで、何度もハーマイオニーになんでこうなったか尋ねたがハーマイオニーは「知りません」と顔を青くするしかできなかった。
ハリーとエマがその状況にショックをうけた。
「大丈夫、マダム•ポンフリーよ。怪我や病気や毒に関してはプロだし、何とかなるわ」
ハーマイオニーの言う通り、ロンの腕のサイズは既に少し小さくなっているようだった。
ハリーは一息つき、小声で話した。
「あまり長居はできない。マントに入れる人数は2人とノーバートだ。誰が行く?」
「ハリーと私がいいわ。ハーマイオニーはロンに付き添ってもらいたいの。ドラゴンの事がボロが出ないように」
エマはハーマイオニーを見る。
「…わかったわ。必ず成功させてね!」
3人は固く頷いた。
夜、ハグリッドはノーバートを大きい木箱に入れて準備をすませていた。
「長旅だから、ねずみをたくさん入れといたし、ブランデーも入れといたよ、寂しくないようにお前の好きなテディベアのぬいぐるみも…」
ハグリッドは声をくぐもらせ、鼻を啜っている。
中でビリビリと布が破ける音を聞きながら、2人はソワソワしていた。
早くこの作業を終わらせたくて、ハグリッドを気遣う余裕がなかった。
「さぁ、もうバイバイして」
ハリーとエマが木箱に透明マントを被せ、自分達もマントの中に入る。
「ママちゃんは決してお前をわすれないよ!」
2人は無我夢中で木箱を運んだ。
重いだとか遠すぎるだとか、今は弱音を吐く時間の余裕はない、ただひたすら天文台に向かって進むのみ。
最短距離で進んだが木箱を持つ手はビリビリと痺れだし、マントの中はサウナ状態で2人とも汗が吹き出していた。
「もうすぐだ」
一番高い塔の階段で、ハリーはハアハアしながら言った。
夜の冷たい外気に触れ、2人はようやくマントを脱ぐ。
「はぁ!はぁ、はぁ、よく頑張った私!!」
「うん、よく頑張った!」
ノーバートは箱の中でバタバタと暴れていた。
10分程たって、四本の箒が闇の中から舞い降りてきた。
チャーリーの友人たちは陽気な仲間だった。
四人でドラゴンを連れて行けるよう工夫した道具を見せてくれた。
六人がかりでノーバートをしっかりとつなぎ止め、ハリーとエマは四人と握手し、お礼を言った。
ついにノーバートは出発した。
なんたる開放感!全て解決、万事オッケー
明日、医務室に行ってロンとハーマイオニーに嬉しい報告ができる。
2人は安堵の表情で笑い合い肩を組みながら階段を降りようとすると、フェルチの顔が暗闇からヌッと現れた。
「さてさてさてさて、これは困った事になりましたね」
フェルチが囁くように言った。
ハリーとエマは透明マントを塔の上に忘れてきてしまっていた。
※※※
フェルチは意気揚々と「ここで待っときなさい」とマクゴナガル先生の研究室に連れてきた。
2人は最悪の気分で座り、床を見つめる事しか出来ない。
悪ければ退学、もっと悪ければ捕まるんじゃないかと気が気でなかった。
コツコツというマクゴナガル先生が部屋に近寄ってくる足音とバタバタという足音が聞こえる。
2人は凄く嫌な予感がしていた。
マクゴナガル先生は何と、ネビルとドラコを引き連れてやってきた。
「この2人も貴方たち同様、深夜にベッドを抜け出し校内を歩き回っていました」
マクゴナガル先生はネビルとドラコにも席に座るように言った。
ネビルはハリーとエマを見るなり興奮したように話しかけてきた。
「僕、マルフォイがハリーを捕まえるって言ってたから教えようと思って!でもハリー達もマルフォイも見失っちゃって、君たちがドラゴ…」
ハリーがネビルの口を手で押さえる。
時既に遅しとマクゴナガル先生を恐る恐る見上げる。
マクゴナガル先生の鼻は膨らみ、メガネはギラリと光った。
「フェルチから聞いています。ミスター•ポッターとミス•ファースは立ち入り禁止の天文台の塔にいたそうですね、明け方の1時に…。
一体どういう事なんですか?」
2人は下を向いて何も言えなかった。
マクゴナガル先生はゆっくり4人を見下ろしていた。
「なにがあったかはおおかた察しがついています。ドラゴン等と嘘をついてミスター•マルフォイにいっぱい食わせてベッドから誘き出そうとしたのでしょう」
「いえ!僕は見ましたっポッター達がハグ…グッ!」
エマが思いっきりドラコの足の小指らへんを踵で踏みつけた。
マクゴナガル先生がエマとドラコを睨みつけて続ける。
「そしてその話を本気にしたミスター•ロングボトムに対しても滑稽だとしか思っていないでしょう」
ネビルはショックを受けて落ち込んでいた。
ハリーとエマはネビルには悪いが、マクゴナガル先生がドラゴンには気づいていない事にホッとしていた。
ドラコがマクゴナガル先生に何か言おうとする度にエマはぐりぐりとドラコの小指を踏みにじっていたし、ネビルにあとで説明すればいい事だったので、2人はこのまま大人しく罰を受けてやり過ごそうとしていた時だった。
「こんな事は前代未聞です。どんな理由があろうと夜中に抜け出し校内を彷徨く事は禁止されています。ましてやこの頃は特に夜に出歩くのは危険なのですから…よって4人には1人50点減点と処罰を受けてもらいます」
聞き間違いではないだろうか?
1人50点減点??
前代未聞なのは貴方の方ではないかマクゴナガル先生!
4人は目を見開いてマクゴナガルを見たが、マクゴナガル先生は話は終わりですという顔をしている。
4人とも口々に減点に対して情状酌量を懇願したが、マクゴナガル先生の意思は全く変わらなかった。
翌日から、特にハリーに対しての風当たりが強かった。
あの有名なハリー•ポッターが、クィディッチのヒーローが一夜にして寮の点を150点も減らしてしまった。
何人かのバカな生徒と一緒に。
ウィーズリー兄弟以外のグリフィンドール生、そしてなぜかハッフルパフ生やレイブンクロー生も、ハリーが近くを通ると大っぴらに悪口をいっていた。
逆にスリザリンの生徒からは「よくやった!ありがとうポッター!」とお礼を言われる始末。
「レイブンクローとハッフルパフはスリザリンから寮杯を奪えるのを楽しみにしてた人達なのよ」
とハーマイオニーは言ったが、ハリーとエマは腹立だしかった。
集団が一致団結して個に向かう怒りとはこんなに理不尽なものなのか。
ハリーとエマが談話室に入ると、そこにいた生徒たちは蜘蛛の子を散らしたように部屋に戻っていく。
フレッドとジョージは「今はまぁしょうがない」と肩をすくめて慰めてくれるが、2人の心は曇る一方だった。
ハリーとエマは試験が近い事がかえって嬉しかった。
試験勉強に没頭することで、少しは惨めさを忘れることができたからだ。
4人とも、他の寮生と離れて夜遅くまで勉強した。
複雑な薬の調合を覚えたり、妖精の魔法や呪いの魔法の呪文を暗記したり…。
エマが木星の星図を引き寄せ、木星の月の名前を覚えようと、教科書を片手に朝食のテーブルに座っていた。
すると、ハリー、エマ、ネビルそして向こうのテーブルではドラコ宛に手紙が届いた。
『処罰は今夜十一時に行います。
玄関ホールでミスター・フィルチが待っています。
マクゴナガル教授』
忘れていた。
本気で怒ったマクゴナガル先生がこんな地獄の生活だけで終わりなはずがなかった。
※※※
夜11時、心配そうなロンとハーマイオニーに別れを告げ、ハリーとエマはネビルと共に玄関ホールに向かった。
玄関ホールではフェルチとドラコが既に待っていた。
ドラコはこちらを見向きもしない。
首にはエマに噛みつかれた所に痛々しくガーゼが張られている。
魔法界の治療で、あの程度の怪我が治ってないとは考えにくいので、エマは自分への当てつけだと思った。
「ついてこい」
フェルチはランプを持って先に外へ出る。
「逃げようなんて考えない方がいいぞ。もっと酷い目に遭うだけだ、まぁ私は大歓迎だがね…昔悪さをした生徒を吊るしていた鎖が私の部屋に残っている、あの悲鳴がまた聞きたいもんだ…」
フェルチは意地悪く笑いながら話している。
ネビルはメソメソと泣き出した。
フェルチがこんなに嬉しそうにしているという事は、今回の罰はきっととても恐ろしいのだろう。
月明かりが雲で隠れ、辺りを闇にする。
ハグリッドの小屋の明かりが見える。
「よし、ちと急ぐぞお前ら。森にゃ俺と行ってもらう」
ハグリッドは石弓の手入れをやめて立ち上がり、4人に向かって言った。
15/15ページ