賢者の石
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ーーーエマっ、エマ!」
ハリーの声が聞こえ、エマは目を覚ました。
寝ぼけながら体を起こす。
外は真っ暗だ。
エマはすっかり眠り込んでしまったらしい。
ハリーが興奮した面持ちで部屋にやってきたので、何かあったのかと目が冴えた。
「どうしたのハリー、私すっかり寝ちゃってて…」
「見せたい物があるんだ!今すぐ一緒に来て!」
ハリーはエマの手を引き、有無も言わさず部屋を出た。
「どうしたの?今真夜中じゃないっ」
時計は12時を回っていた。
ハリーはエマの言葉を聞かず寮の外に出る。
そして透明マントを自分とエマに被せ、手を引いて歩き続けた。
外は凍えるような寒さで、あっという間に足がキンキンに冷える。
ハリーがどこに向かってるのかも分からなく、エマは不安になった。
「フェルチに見つかったらどうするの」
「大丈夫、このマントがあれば近くにいてもわからない」
ハリーは図書館への道沿いを注意深く歩き、時々折り返して同じ場所を何度か行ったり来たりしていた。
「禁書の棚にいくのね!なる程…」
「もう行ったよ、でも見つからなかった」
「え?じゃぁ、今どこに行ってるの?」
「もっとすごい所…あ!あった!ここだよ!」
ハリーは昔使われていた古い教室のような部屋に連れてきた。
教室の真ん中に、明らかに場違いな大きな鏡があった。
天井まで届くような背の高い見事な鏡だ。
枠の上に何か字が彫ってある。
『すつうをみぞののろここのたなあくなはでおかのたなあはしたわ』
「エマ、みて!僕の家族!」
エマは鏡を覗き込み、ハッ!と小さく悲鳴を上げハリーにしがみつく。
目を見開いて鏡を見る。
息をするのを忘れて、悴んだ手で胸を押さえた。
鏡にはエマとハリー、あと2人映っている。
エマは後ろを振り返るが、誰もいない。
鏡を覗くと2人は笑ってこちらを見ている。
「これ、誰?幽霊?」
「違うよ、僕の両親だよ」
エマは鏡を食い入るように見つめた。
女の人が笑ってエマの肩に手を置いている。
その手にはあの指輪がはめられていた。
「お母さん…?」
女の人は優しく微笑んだ。
とても綺麗な人だ。
ブルーの瞳に、たっぷりとしたブロンドの髪、そしてとても見た事がある顔だった。
「私にそっくり…」
「え?」
ハリーが鏡を覗き込む。
「…エマ、何が見えてるの?」
私にそっくりな女の人と、そして男の人。
とても爽やかな笑顔をしている。懐かしいような、不思議な気持ち…
「私のお母さんと…お父さん?」
鏡の中の男の人は深く頷き、大きくて優しい手を私の頭に置いて撫でている。
その手に触れようと手を伸ばすが、自分の手がふわりと頭を触れるだけだった。
その様子を見ていたハリーは、自分の見ているものとエマが見ているものが違うと悟った。
「僕には、僕の両親が見えるんだ」
鏡の中の2人がこちらを愛しそうに微笑んで見つめている。
エマは鏡に手を伸ばすと、お母さんもエマに手を合わせてくれた。
凍るように冷たくて固いガラスの感触。
お父さんとお母さんがそこにいる。
それなのに触れる事ができない。
「…そんな……」
エマは泣いていた。
そして鏡から目が離せないでいる。
ハリーもじっと鏡を見つめて動かない。
2人は時間を忘れ、初めてあった両親とただただ見つめあっていた。
ーーーーカタン
廊下で音がし、ハリーとエマは後ろを振り返る。
ハリーがすぐにマントを2人に被せた。
ミセス•ノリスだ
2人は息を潜めて、そっとミセス•ノリスの横を通る。
ミセス•ノリスはそのまま通り過ぎて行った。
「フェルチを呼びに行ったかも、急いで帰ろう」
2人はほぼ走るようにして寮へ帰っていった。
※※※
次の日もその次の日もハリーとエマは鏡の前にいた。
ロンにこの事を話そうとしたが、一緒に行きたいと言われると3人で移動する事になり、見回り中のスネイプやフェルチ見つかるリスクが上がってしまうかもしれないので黙っていた。
チェスをしよう、ハグリッドに会いに行こうと誘われても2人が断るので、ロンは怒っていた。
しかし今日になりかなり心配もしていた。
「2人ともなんかおかしいよ。夜眠れてないみたいだし、医務室に行った方がいい」と促された。
そんなロンの思いも忠告もいまの2人には全く届かない。
エマのお父さんとお母さんは、エマが来ると凄く嬉しそうに笑って鏡の中で抱きしめてくれる。
その顔を見れるだけで、後のことはもうどうでも良かった。
ここで暮らせたらどんなに良いだろう。
もし死んだら幽霊になってずっとここにいれるだろうか。
そんな考えすらよぎる。
ハリーもきっと同じ考えだろうと分かっていた。
「ハリー、エマ、また来たのかい」
2人は背筋が凍る思いをした。
後ろを振り返ると、壁際の机にダンブルドア校長が腰をかけていた。
「あ、僕たち、気が付きませんでした」
ハリーがかなり動揺しながら言った
「この部屋に入ると、エラく近眼になるようじゃの」
ダンブルドア校長は微笑みながら2人に近づき、一緒に床に座る。
ハリーとエマはホッとため息をついた。
「…ダンブルドア先生、この鏡は一体…」
「君たちだけじゃない、何百人という人がこの『みぞの鏡』に夢中になった」
「みぞの鏡…」
「2人はこの鏡が何を映すか気づいたじゃろう」
「僕の家族を見せてくれました」
「私も、両親を…」
ダンブルドアはキラキラした瞳をしていた。
「鏡がみせてくれるのは、心の1番深いところにある望みじゃ、2人の両親に会いたい、愛されたいという思いを鏡は答えた。
しかしそれは、現実に生きる人間にとってはただの幻、思いが強い故に鏡を覗く人間の心を意図も容易く壊してしまう事がある。
わしは明日、この鏡を2人の手の届かない場所に移す。
夢に耽ったり、生きるのを忘れては駄目じゃ。
それをよく覚えておきなさい」
ダンブルドアは2人の頭を優しく撫でた。
ずっと冷たく空虚だった心に、じんわりと温もりが伝わる。
エマはまた目頭が熱くなった。
ダンブルドアは立ち上がり、腕を後ろに組んでからゆっくりハリーの方を向いた。
「ハリー、その素晴らしいマントを被って少し外で待っていてはくれないか。ちょっとエマと話す事があるのでな」
ダンブルドアは物腰柔らかに言った。
ハリーはエマを見てから、ダンブルドアを見て、少し心配そうにしたがマントを被った。
扉が開き、暫くし扉が閉まる。
ハリーは出ていったのだろう。
扉の方をダンブルドアはキラキラした瞳で見つめていた。
「ほぅ、ちゃんと外でまってるようじゃ」
「先生、お話って…?」
「うむ、エマよ。わしがあの鏡の前に立つと何が映ると思う?」
なぞなぞなのだろうか?
エマは暫く下を向いて考えたが、さっぱりわからない。
エマはダンブルドアを見上げた。
「あの、分かりません」
「ワシには、厚手のウールの靴下が映るんじゃよ」
ダンブルドアはイタズラっぽくウィンクをした。
「それじゃぁ、風邪を引かぬように」
とダンブルドアはスタスタと扉に向かい、出ていってしまった。
なんだったのかさっぱりわからない。
とても不思議な人だ。
エマは扉まで行き、ハリーに小声で声をかけるとすぐにマントを被せてくれた。
「エマ、ダンブルドアはなんて?」
「ワシが鏡をみたら厚手のウールの靴下が映るんじゃって言ってた」
「何それ??」
ハリーも訳がわからないと不思議な気持ちになりながらヒタヒタと教室を後にする。
※※※※※※※※※※
みぞの鏡の件以降、エマは毎日悪夢を見た。
赤ん坊の鳴き声
血まみれの手
赤色や青色の光
母親の心配そうな視線
額に落とされるキス
そして緑色の閃光が光り、母親は魂を抜かれた抜け殻のように動かなくなる。
以前よりも夢の内容を鮮明に覚えていたし、繰り返し同じ夢をみる為、とても辛かった。
エマは眠るのが怖くなる程だった。
「なんて馬鹿な事をしたの!どうせやるなら、もっと禁書の棚の本を読み漁っていればよかったのに!」
新学期早々、ハーマイオニーにガミガミ怒られながら4人は図書館にいた。
先程、ロンからクリスマス休暇中に2人が3日も可笑しな鏡に夢中になって夜中抜け出した事を洗いざらいバラされてしまった所だった。
ハリーも同じように悪夢にうなされているらしく、ロンに言わせれば「ダンブルドアの言う通り、2人は気が変になったんだよ」と、心なしか冷たく言い放たれる。
ロンは自分の言う事を聞かず、おまけに仲間はずれにされた事を根に持っているようだった。
新学期が始まって、授業の休み時間には必ず図書館で調べ物をしていたが、ハリーはクィディッチの試合が始まり調べ物に参加ができなくなった。
かなりしごかれているらしく、練習が終わるとハリーは泥のように眠る。
無理もない、次のハッフルパフとの試合に勝てば7年ぶりにスリザリンから寮対抗杯を取り戻せるのだ。
雨の日も風の日も、ハリーは弱音を吐かず練習を頑張っていた。
そんなハリーに悪夢の事など相談できる筈もなかった。
※※※
朝、ワシミミズクが寮の寝室の窓に入ってきた。
ワシミミズクはエマの手元までやってきて、ツンツンとつつく。
エマはワシミミズクのクチバシの下を撫でながら、足にくくりつけられた紙をとり、広げた。
『今日、授業後西校舎の2階空き教室で待つ』
見覚えのある綺麗な字だ。
「エマ、先に降りるわよ」
ハーマイオニーが部屋の外から声をかけてきたので、エマは生返事をする。
ベット横の引き出しにしまってあった黒い袋を首から下げて、制服の下に閉まった。
午後の授業が終わって、ハリーは早々にクィディッチの練習をしに行ってしまう。
ロンも「僕は今日は帰る。ニコラス•フラメルの事はもう今は考えたくない」とグリフィンドールの寮へ向かった。
残されたエマとハーマイオニー。
「エマはどうする?」
「あー…ハーマイオニーは?」
ハーマイオニーは今日も沢山出た宿題の山をみて肩をすくめた。
「いいよ、ハーマイオニー先に帰って。私も宿題で調べたい事があるし、ついでにニコラス•フラメルの事も調べてみるから」
「私も少しなら手伝えるわ」
「いいの、多分、今ロンはストレス溜まってるだろうから、一緒にいてあげて」
ハーマイオニーは少し悩んでから「いいわ」と言って寮に戻って行った。
2人が見えなくなり、他の生徒達の足音も遠のいたのを確認して、エマは早足で西校舎に向かった。
西校舎はひと気が無い。
ドラコは空き教室で既に待っていて、テーブルの上に座って外を眺めていた。
戸を開け、エマはぎこちなく手を挙げる。
「ハイ、ドラコ…手紙よんだよ」
ドラコは振り返り、テーブルから降りて真っ直ぐエマの方を向いた。
「クリスマスプレゼントありがとう。凄く可愛いわ、でも本当に良かったのかな…なんだか高級そうだし…」
エマは目をあさっての方に向け、半笑いで手をモジモジといじりながら話す。
改めてちゃんとこうして2人きりで会う事が今まで無かったからなのか、変に緊張してしまっていた。
ドラコの表情は変わらない、ずっとエマを凝視している。
エマはどんどん居た堪れなくなる。
「私のプレゼント、届いた?ドラコがくれるって言ってくれたから、私なりに頑張って用意したんだけど…まさかドラコからあんな素敵なプレゼントが届くと思ってなかったから…」
勝手に口が動くけれど、無言で見られすぎて今すぐにでも踵を返してダッシュで帰ってしまいたい。
「……あー、あのー。えっと…」
「つけてないのか?」
ドラコが初めて口をきいた。
「え?」
ドラコの言葉の意図が分からなくて一瞬止まる。
おそらくピアスの事を言ってるんだろう。
エマは思わず、こないだ針を刺した右耳を触った。
「あ、うん。私の耳、ピアスホール空いてないの。だからまだ付けられてない。でもちゃんとここに入れてるの」
エマは制服の下にあった黒い袋を取り出してドラコに見せる。
「いつか絶対このピアス付けるから、待ってて」
ドラコはエマの手を掴んでぐいっと体を引き寄せた。
「見せて」
ドラコはそう言って、エマの髪をかき上げ右耳を触る。
カサ…と言う音と共に耳がビリビリとした。
突然の急接近に心臓が大きく鳴る、目が泳ぎ、身体が熱くなる。
エマは息が止まった。
「…開けようとしたんだな」
クリスマスの日に針で刺した所は、まだ赤くなっていた。
ドラコがエマの耳たぶを触る。
声が出そうになるのを、強く目を瞑って必死で抑えた。
「そうだ、そうしていろ」
ドラコがグッと耳たぶを掴む手に力を入れた。
ズッと音がし、と同時に耳たぶが火が通ったように熱くなった。
ジンジンジンと脈を打っている。
エマはびっくりしてドラコを見た。
「あ、動くな」
ドラコはまだエマの耳たぶを押さえ、もう一つの手で器用にエマの袋からピアスを取り出した。
パチン…
「よし」
ドラコが離れた時、ドラコの手には白いハンカチと綺麗に装飾されている鋭いニードルがあった。
ハンカチには血が滲んでいる。
自分の耳を触ると固い物がついていた。
「えぇ…」
エマは困惑と驚きが入り混じった顔でドラコを見た。
ヘタヘタと力が抜けて、その場に座り込む。
ドラコは見下ろすようにエマの顎を持ち上げ反対側を向かせ、髪をかき上げた。
「…う…」
ドラコは同じように左耳たぶを触り、ぎゅっと強く掴む。
ズッ…
パチン…
「ふぅ…」
ドラコは小さくため息をついた。
血のついた白いハンカチにニードルを包み、ポケットにしまう。
そして確認するように、エマの顎を持ち丁寧に左右の耳のピアスを見た。
「うん、綺麗だ」
ドラコはエマから手を離し、新しいハンカチを取り出した。
エマの耳を覗き込み、血を拭いている。
エマはこの気持ちをなんと表現して良いか分からなかった。
まだ心臓がドキドキと鳴っている。
ドラコの気を張ったような顔と、ドラコの手、確認をしていた時の真剣な目、耳に穴が空いた時の熱さを思い出していた。
ジンジンと両耳から痛みが伝わる。
ポタリとエマの手に赤い血が滴った。
叫び出したいような衝動が襲ってくる。
エマが顔を上げてドラコを見る。
ようやくドラコが困惑の表情を浮かべた。
エマの目からポロポロと涙が流れていた。
「うー…」
涙が止まらない。
次から次へと溢れ出てくる。
目があつい。
感情が湧き上がってくる。
耳の痛みが奥底にある感情を表出させた。
思い返せば、クリスマスの日から泣いてばかりだ。
母親に、父親に会えない悲しみが深く広く心を覆っている。
指輪の事も、みぞの鏡の事も、何一つ自分の中で解消できていない。
母親の血を、母親の死を夢で何度もみた。
夢の中で私は無力で、母親が殺されるのを見てる事しか出来ない。
エマは堰を切ったように、大きな声で泣いた。
空き教室に、エマの声が響き渡る。
「……お母さん…ごめんなさい!…ごめんなさい……」
幼い子供ように、大きな声で泣きながら、もういない母親に何度も何度も謝った。
泣くのを止めようと思っても、止まらない。
止めどなく感情の波に飲まれてしまう。
突然、肩を強く締め付けられる。
ローブの布が頬に当たる。
ドラコが強くエマを抱きしめていた。
ローブにエマの涙も、耳から出ている血もついてしまう事は気にも止めず、強く抱きしめている。
エマは優しい香のような香りと温かい体温を感じる。
もっと泣いてもいい、と言われた気がした。
エマもドラコの背中に手を回し、ドラコの胸に顔を埋めて泣いた。
2人は暫くそのまま抱き合ったいた。
窓の外は夕陽が沈みかけていて、教室を赤紫色に染めている。
エマがもう泣き声を上げる事は無くなっていた。
ドラコはじっとエマの頭を抱えて、耳元で囁くように言った。
「そのピアスには、まじないがかかってる
お前が1人にならないように」
ドラコはエマをそっと離す。
そして立ち上がり、何も言わずに教室を出て行った。
※※※※※※※※※※
エマはピアスがバレないように、髪の毛を短く切り、耳を隠した。
新しいヘアスタイルを「可愛いわ!」とハーマイオニーが褒めてくれたので嬉しかったが、気分転換に切ったと言った時に目が泳がないようにするのに必死だった。
ハリーも「凄く似合ってる」と言ってくれたが、ロンは「どこか変わったの?」と全然気づかなかった。
正直、今回に関してはみんなの目がロンになればいいのにと思った。
そして不思議な事に、あれ以来悪夢をみなくなったのだ。
母親の事も思い出さない事はないが、あの時の辛さや寂しさの感情が遠い昔の事のように感じられ、エマは起きた時に、冷や汗や動悸を味わう事のない朝を迎えれるようになった。
授業が終わって、グリフィンドールの談話室でロンとハーマイオニーはチェスを打っていた。
「なんで?!どうしてよ!」
ハーマイオニーはロンに全敗記録を更新中だ。
悔しそうにチェス盤を覗き込んでいる。
「ハーマイオニー、君はちょっとは負ける事を覚えた方がいいね!」
すっかり機嫌がいいロンがニヤニヤ笑ってハーマイオニーを挑発している。
「もう一回よ!」
「ようし、ボコボコにしてやる!」
エマはそんな2人を微笑ましく眺め、呑気にソファに寝そべりながら百味ビーンズを食べていた。
げ、鼻くそ味…。
すると、ハリーが息を切らしながら談話室に入ってきて、真っ直ぐこちらに向かってきた。
「ハリー、なんて顔してんのっ」
エマは悔しそうな、泣きそうな、不安そうな顔をしたハリーを見て思わず立ち上がる。
「次のクィディッチ、スネイプが審判だ」
ロンとハーマイオニーも立ち上がる。
チェスの盤がロンの足に当たり、スコーンとソファの下に飛んでいってしまった。
「試合に出ちゃだめだ!殺される!」
「病気だって事にしましょっ」
「足が折れたの方がいいかも」
「私が言ってあげるわ!」
「むしろ本当に足を折っちまえ!」
矢継ぎ早にまくしたてる3人、
ハリーは首を横に振った。
「出来ないよ、シーカーは僕1人だ。僕がいないとグリフィンドールが試合に出られない」
その時、ネビルが談話室に倒れこむように転がり込んできた。
両足がピッタリくっついていて、ネビルは苦しそうに芋虫のように動くしかできない様子だ。
ネビルは「足縛りの呪い」がかけられている。
グリフィンドール塔までずっと兎跳びをして帰ってきたに違いない。
他の寮生が笑い転げていたが、エマは半泣きのネビルに駆け寄り腕を肩に回して立たせようとし、2人もろともベシャリと転けてしまう。
ハーマイオニーが呪いを解いてくれた。
ネビルは自由になったが、足も手も顔も震わしている。
「どうしたの?」
エマは今度こそネビルを支え、ハリー達の近くに座らせた。
「マルフォイが…」
エマの心臓がドクンと鳴る。
「図書館の外で、色々言われて…」
ネビルがチラリとエマを見た。
そしてすぐに逸らし絨毯に目を落とす。
「誰かに呪文を試してみたかったって言って…」
エマは頭がヒヤリとして一瞬何も考えられなくなった。
…何かの間違いであってほしい
しかしドラコは本来、そういう人間だった事を思いださされた。
「マクゴナガル先生に言うべきよ!マルフォイがやったて報告するの!」
ハーマイオニーがキッパリと言い、急きたてた。
ネビルは首を横に振る。
「そんなの嫌だ。負けたみたいで…!」
ネビルは俯き、黙ってしまった。
「僕がグリフィンドールに相応しくないなんて、本当は毎日おもってるんだ…マルフォイに言われなくたって僕…」
ネビルの声が詰まっている。
エマは居た堪れなさで胸が締め付けられた。
ハリーはポケットを弄り、カエルチョコレートをネビルに差し出した。
「マルフォイが10人束になったって君には及ばない。
組分け帽子に選ばれて君はグリフィンドールにはいったんだ。マルフォイを見ろよっ腐れスリザリンだぞ」
カエルチョコの包みを開けながら、ネビルは少し顔が綻んだ。
「ありがとうハリー。僕はもう寝るよ…カードあげる。集めてるだろ?」
ネビルがハリーにカードを渡して部屋に戻って行った。
エマはとても複雑な気持ちになりながらネビルを見送る。
「見つけた!!」
ハリーが囁いた。
「これだよ!ダンブルドアのカード!」
3人はカードを覗き込む。
『ダンブルドア教授は特に、
1945年、聞の魔法使いグリンデルパルドを破ったこと
ドラゴンの血液の十二種類の利用法の発見パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究などで有名』
4人は顔を合わせる。
ハーマイオニーが女子寮の階段をものすごいスピードで駆け上がり、すぐに古い大きな本を持って矢のように戻ってきた。
「ちょっと軽い読書をしようと思って、図書館から借りてきたの!」
「こんな時に冗談言ってるんじゃないよ」
「ロン!だまってて!」
ハーマイオニーはそう言うなり、ブツブツと独り言を言いながら凄い勢いでページをめくる。
「これだわ!
『ニコラス・フラメルは、我々の知るかぎり、賢者の石の創造に成功した唯一の者』!」
ハーマイオニーがキラキラした瞳で3人を見上げたが、全員ポカンとしている。
ハーマイオニーは目をぐるっと上に向けて短くため息をついた。
「全くもう!あなた達もっと本を読みなさい!」
そして3人に向かってドサ!と本を向けた。
『錬金術とは、『賢者の石』といわれる恐るべき力をもつ伝説の物質を創造することに関わる古代の学問であった。
この『賢者の石』は、いかなる金属をも黄金に変える力があり、また飲めば不老不死になる『命の水』の源でもある。
『賢者の石』については何世紀にもわたって多くの報告がなされてきたが、現存する唯一の石は著名な錬金術師であり、オペラ愛好家であるニコラス・フラメル氏が所有している。フラメル氏は昨年665歳の誕生日を迎え、デボン州でペレネレ夫人(687歳)と勤かに暮らしている。』
3人は読み終わると、小さく「おー…!」と歓喜の声を上げた。
「ね?あの3頭犬は賢者の石を守ってるに違いない!フラメルは誰かが石をねらってるのに気付いたんだわ、だからダンブルドアに頼んでグリンゴッツから石を移動させたのよ」
後日。
クィレルの闇の魔術に対する防衛術の授業後に、ハリーが3人に言った。
「僕、明日の試合出るよ。スリザンの連中やスネイプに、目に物みせてやる!」
3人は顔を見合わせて、硬く頷いた。
「そうだろうと思って僕たちなりに準備してきたんだ」
「ハリーは気にせず、ぶちかましてきて!」
ロンとエマ、ハーマイオニーはハリーと同じくらい意気込んでハリーの手を握った。