賢者の石
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
スネイプがグリフィンドールに5点追加した事は、グリフィンドール寮内で瞬く間に話題になった。
エマはたまたま角が自分の所にあっただけで、ハーマイオニーでも同じ事をしたと主張したが、ハーマイオニーは寄生された二角獣の角については知らなかったと言い、『実践魔法薬学』という分厚い本を出してきた。
「ここと…ここにエマが言っていた事がかいてあるわ…すごいわね」とハーマイオニーが言った。
エマはどこかでその事を読んだ記憶があるが、『実践魔法薬』の本だったか別の本だったかは思い出せない。
自分自身も不思議だった。
フレッドとジョージはエマを見かけるとエマを女王陛下に仕立て上げうやうやしくお辞儀したり、うやうやしくマッサージをしたりしていた。
ラベンダーやパーバティもエマを称賛し、魔法薬学の宿題を一緒にしないかと誘われる事が多くなった。
他の生徒からもこの件でよく声をかけれた。
エマとしてはハーマイオニーの「パーキンソンが作業開始から最後まで調合をせずに、エマとドラコペアの方を見ていたのでやりやすかった」という言葉の方が気が気でなかった。
しかしそれもクリスマス休暇が後1日に迫る頃には話題も薄れ、エマはいつものように過ごせるようになっていた。
大広間では実家に帰る生徒が大半にも関わらず、盛大にクリスマスの飾り付けをしている。
沢山の巨大なもみの木が12本、マクゴナガル先生やフリットウィック先生の魔法で綺麗に飾り付けされている。
小さなツララでキラキラ光るツリーや、何百というロウソクで輝いてるツリーもあった。
「きれい…」
その景色は本当に素晴らしかった。
「エマ、図書館に行くよ!」
ツリーに見惚れていたエマをハリーが迎えにやってきた。
ハリーもエマの隣に並び、フリットウィック先生が杖からふわふわ光る泡を出してツリーに飾り付けしている所を眺めた。
「こんなクリスマスを体験できるなんて」
ハリーの目がキラキラしている。
「これからも、ずっとこんなクリスマスをハリーと過ごしたい」
ハリーがエマを見る。
エマの目にツリーの光が反射して泣いているようにも見えた。
「うん、過ごせるよ。これからも」
ハリーはエマと手を繋いだ。
ハリーとエマは繋いだ手にぎゅっと力を込めた。
「さぁ、行こう。ハーマイオニー達が待ってる」
※※※
4人は暇を見つけては、ホグワーツの図書館でニコラス•フラメルについて調べていた。
巨大な図書館なので本は無限にあったが、ニコラス•フラメルの情報が名前しかなかったので手当たり次第だった。
ハーマイオニーが調べる内容と表題のリストを用意してくれたが、そのどれにもニコラス•フラメルは乗ってなかった。
ハリーが『閲覧禁止棚』に近寄ろうとするも、司書のマダム•ピンスがそれを許さない。
かれこれ二週間探しているが、一切収穫が無いまま、ハーマイオニーは「禁書の棚を出来る限りさがしてみて!私も自分なりに探してみる」とロンドンに帰っていった。
※※※※※※※※※※
クリスマス休暇が始まって、ハリー、エマ、ロンはニコラス•フラメルの事などすっかり忘れて過ごしていた。
「ロン!凄いもってきたわね!」
ロンがパンやマシュマロ、ソーセージ、カエルチョコやクッキー、ジャガイモを両手に抱えてやってきて、気兼ねなく暖炉の前にドサドサと置いた。
「焼こう!」
ハリーもエマもウキウキしながら好きな物を串に刺し、暖炉の火で炙った。
ロンがカエルチョコをパンで挟み、焼くと言った時は悲鳴ものだった。
パンに挟まれたカエルチョコが動き、火に炙られて少しずつ動きを弱めていく様がグロテスクで、エマが凄い顔をして見ているのを2人が笑った。
ある日では。
ハグリッドの小屋に1人でやってきたエマは、ハグリッドから白樺の木の丸太をさらに小さく加工してもらい、彫刻刀を貸してもらった。
彫刻刀で試し掘りをすると、ハグリッドに「うまいもんだ。初めてとは思えねえ」と言われ、すっかり気をよくした。
それから編み物を教わりながら、2人で紅茶を飲んだり、フクロウの世話を手伝った。
またある日
雪合戦ではフレッドとジョージが参加したので、まるで戦場のようになった。
避けても避けても追いかけてくる卑怯な魔法雪玉が容赦なく後輩のハリー達を追いかけ回す。
3人も負けじと、浮遊魔法を駆使して大きな雪玉を2人の頭上から降らす事に成功したり、追いかけてくる雪玉を魔法で溶かしたり、終わる頃には全員ぐしょぐしょになった。
驚いたのはその後、フレッドとジョージが上手く教師とパーシーの目を掻い潜り、監督声のバスルームに3人を連れて行ってくれた事だった。
「上級者になれば、監督生でなくても毎日入れる」とフレッドは得意気に言っていた。
「なんならクリスマス休暇中毎日くるか?」
と余裕そうに言うもんだから、3人は複雑になりながら笑うしか無かったが、相変わらず監督生のバスルームは感動ものだった。
夕方頃になるとエマは、はしゃぎ過ぎて眠くなってウトウトしながらでも、編み物や木彫りをしていた。
フレッドとジョージはイタズラグッズの研究で部屋に篭り、ハリーとロンは『スネイプにいかに上手く仕返しをするか』や『マルフォイを退学に追い込む方法』と言った実現は決してしない話に花を咲かせたり、チェスをしたりして遊んでいた。
クリスマスイブの夜は、ハリー達の部屋に集まる事になった。
エマは初めて男子寮のドアを開けると、女子寮とは違う雰囲気があった。
部屋はかなり広く、ベッドは5つあった。
壁に貼ってあるクィッディッチのポスターや動かないマグルのサッカーのポスターもある。
箒の模型やチェス盤、イタズラグッズなんかがランダムに置いてあり、散らかり具合が男の子っぽさを感じさせた。
「お邪魔しまーす」
エマはパジャマを着て枕を抱えて部屋に入った。
ロンが振り返り、エマにおいでおいでをして、隣に呼んだ。
ジョージがラジオのチューニングをしてる。
ザ、ザザ、ザーー、、ザザ、『…魔法…バックラジオー!…』
『…メリークリスマスイブ!今日という特別な夜にあなたに送る魔法界ならではのあんな事やこんな事、ホグワーツでのビックニュースをこの人に語ってもらいましょう!ゲストのリー•ジョーダンです!』『リーです!メリークリスマスイブ!』
「おっ!リーの声だ!」
みんなラジオに耳を傾けた。
『リー、今日はよろしく』『やぁ、よろしく』『早速だけど、ホグワーツのビックニュースを聞かせてくれるかい?』『それぁ、なんと言ってもあのハリー•ポッターだねっ』『ハリー•ポッター?』
みんなニヤニヤしながらハリーを見る。
ハリーは苦笑いをしていた。
『なんと、例のあの人が去った第一次魔法戦争後に姿を消していた彼が、今年ホグワーツの新入生として入学してきたのさっ。しかも僕の寮グリフィンドールに組分けされたんだ!』『お、それは僕も知ってるよっ結構噂になってたからね』
『何を隠そう、彼の両親もグリフィンドール生で、しかも彼は父親譲りの箒の技術を生かして、一年生にしてクィッディッチのシーカーに選抜されたんだ!』
『えー?!それはすごい!』『そうさ、彼は今年の初試合で試合開始40分でスニッチを掴んだ100年に一度の逸材さっ』『ぜひその試合をお目にかかりたかった!』『そうだろ?なんだか話してるとまるで嘘みたいだけど、嘘じゃないぜ、ハリーは本当に僕たちが知るように凄いやつだった。おまけに可愛い幼馴染までついてる』
エマの顔が凍った。
『幼馴染?』『あぁ、彼女の名はエマ•ファース、なかなかミステリアスな経歴を持っているが、彼女は明るくて可愛くて負けん気も強い。そして魔法薬学がすこぶる得意でこの間もグリフィンドールの仇、魔法薬学のスネイプ教授から直々にグリフィンドール生初の5点を勝ち取ったんだ。あん時は感動したね』
エマは顔が真っ赤になって湯気が出そうだった。
正直もうラジオを切って欲しかった。
『なるほど、今年のホグワーツは大ニュースが盛りだくさんだね』『そうさ!こないだ僕の親友のフレッドとジョージの事だけど、』『お、彼らも有名だね』
フレッドとジョージが互いに目を合わせてリーが何をいうか注意深く聞いた。
『まったく、あいつらときたら一年生のころからの親友だった僕に秘密にしていた事があったんだ』『それは何?』『それは………おっと、そいつぁ言えないな!秘密なんだ!』『ええーー!そりゃないよ』『いやいや、話題を変えよう!』
パチン……
ジョージがラジオを消した。
「リーのやつ、帰ったらクソ爆弾だな」
フレッドがつぶやいた。
エマは是非自分もお見舞いしたいと思った。
この後、みんなでチェスをしたりして遊んだ。
ロンはチェスがとても強く、フレッドとジョージでさえロンに勝てなかった。
エマは互角で戦えるハリーと何度かチェスを打ち、2連敗して不貞腐れた頃に大きなあくびが出た。
「おや、お姫様はもうお眠だぞ」
フレッドが娘を茶化す父親のような口ぶりで言い、リーが帰ってきた時に使うクソ爆弾をこさえると自分達の部屋に戻って行く。
ロンとハリーは「このままここで寝ていけよー」と言ったが、エマはシェーマスのベッドに勝手に寝るのは悪い気がして女子寮に帰り、ミネットとベッドに潜った。
※※※
朝、目が覚めるとエマは驚いた。
少なくとも1つ、2つはきていると思っていたが、沢山のプレゼントがベッドの下に敷詰めて置かれている。
「わぁ!見てミネット!」
エマは興奮してベットから出ると、ミネットが顔を上げてエマを見つめた。
エマはプレゼントの包みの前に座って色とりどりの包みを眺め、茶色い包み紙に『エマへ ハグリッドより』と書かれたプレゼントを開けた。
木製のティーカップだ。
少し大きめで、右端には多分ミネットだろうか、猫らしき動物が掘られていた。
その猫が不格好で可愛かった。
「ミネットよ!可愛いわね!」
ミネットはティーカップに少し鼻を近づけてクンクンと嗅いだ。
今度は長方形で薄ピンクの包みを開ける。
ハーマイオニーからだ。
白い羽の羽ペンだ。
『メリークリスマス、
そちらはみんな元気にしてる?あれからニコラス•フラメルについて調べてはいるんだけど、目ぼしい情報はまだないわ。会えるのを楽しみにしてる。ハーマイオニーより』
すっかり忘れてたっ…!!
エマは一瞬やばいと思ったが、とりあえず気を取り直して次の包みを開いた。
一層おおきな包み紙、持つと紙越しでも分かるほどふっくらしている。
中には厚い手編みのスモーキーピンクのセーターが出てきた。
『メリークリスマス!是非またハリーと家に来てね
ウィーズリー家より』
ロンのママからだ!
エマはすぐさまパジャマの上から袖を通す。
少し大きく、手が指しかでない。
ミネットに『どう?』とやると、しっぽだけ返事をした。
ロンのママからのプレゼントの下に、黒い箱に白いリボンを結んであるプレゼントがあった。
ドラコだ。
メッセージカードには綺麗な字で『メリークリスマス、
ドラコ•マルフォイ』とだけ書かれている。
箱はアクセサリーケースだった。
小花が二つ重なったようなデザインの…「ピアス?」
エマは手にとって光に透かしてみた。
小花は細かい装飾が施されてていて、小ぶりな水色の石が花びらに見立てて埋め込まれている。
キラキラしていてとても綺麗だ。
でも…
「私ピアスなんてした事ないわ…」
それに何だかすごく高そうだ。
確かにかなりの坊ちゃんみたいだったけど。
こんなのもらって本当にいいのだろうか。
何故か少しソワソワとして、エマは最後の包みを開けた。
中から黒い小さな袋が出てくる。
袋には何か固いものが入ってるようだ。
エマは袋を逆さまにして中を出してみた。
指輪だ。
扇形の貝の形を縁取っている銀細工に、ダイヤモンドが綺麗に敷詰められている。
銀細工の下は濃い青い石がリングの形に加工され、埋め込まれていてた。
アンティークなのか、少し年期を感じる。
これはまたどういう事なのだろうとおもっていると、包みの中に手紙がはさまっていた。
『君のお母さんが大事にしていた物だ。
君を守ってくれる。
大事にもっておきなさい。
メリークリスマス』
名前が書いてなかった。
お母さんの…
この指輪はお母さんが…
誰かからもわからないが、本当なのだとおもった。
指輪から覚えていない母親の温もりを感じられる。
お腹の奥から胸に熱いものが込み上がってくる。
本当にちゃんといたんだっ
この指輪をつけていたんだ…
エマは胸がいっぱいになり、指輪を両手で包み自分の胸に押し当てた。
目頭が熱くなり、ポロと温かい涙が溢れた。
一粒流れると、次から次へと涙が流れていく。
「おーい!!エマ!メリークリスマス!おいでよ!」
ハリーの声。
エマは溢れ出た涙を慌てて拭い、深呼吸して何でもないような顔を作った。
「メリークリスマス!ハリー、ロン」
「メリークリスマス…あっ!やっぱりだよ、エマにもあげてたか!」
ロンがあちゃーと自分のおでこを叩く。
「ハリー!お揃いね!」
ハリーがエメラルドグリーンのセーターを軽く引っ張りエマに見せるようにした。
「すごくあったかいよ」
ハリーとエマはセーターをすごく気に入っていたが、ロンはうんざりしてるやら恥ずかしいやらといった顔をしている。
「ロン、あなたのセーターは?」
「僕は栗色は嫌いなんだ!」
「おい!見ろよ!お二人さんもウィーズリー家のセーター来てるぜ」
フレッドとジョージが青いセーターを着て談話室へやってきた。
胸元に大きく『F』『G』がついている。
「うわっはー!かーわーいー!」
エマは双子のペアルックに感激した。
2人はモデルポーズを決めている。
「でもそっちの方が上等だな」
フレッドがハリーのセーターを掴み、笑ってジョージに見せた。
「ママは身内じゃないとますます力が入るんだよ」
「ロン!なにしてるんだっ、着ろよ!あったかいぞ」
ジョージが急かした。
ロンは渋々栗色のセーターを着る。
「嫌いとか言ってたけど、とてもよく似合ってるわ」
「お世辞をありがとう」
「ロンのはイニシャルがないね」
ハリーが言った
「ママはお前なら名前を忘れないと思ったんだろうな」
「僕らだって自分の名前はちゃんと覚えてるのにな」
「僕、グレッド!」
「僕、フォージ!」
「ややこしいよ!」
男子寮の階段から「何の騒ぎだい?」とパーシーが顔をだした。腕にはもっこりしたセーターを抱えている
「P担当!メリークリスマス…あっ!お前も着てない!もう、うちの子達何考えてるの!?」
ジョージがパーシーのセーターをひったくり、無理やりパーシーに着せる。
「伸びる伸びる!自分で着るからやめろー!」
「いいかコードネームP!今日は監督生のテーブルにつくことは許されない!クリスマスだから僕らと過ごすんだぞ!」
双子は、まだセーターを半分しか着れてないパーシーを逃げられないように押さえつけて連れ出た。
ロンも「ハリー、エマ、いこう!」と3人について行った。
エマがウィーズリー兄弟のドタバタをひとしきり笑った後、みんなについて行こうとしたが視界の端でハリーが動かないので不思議に思った。
ハリーがじっとエマを見つめていた。
エマは首を傾げる。
「エマ、泣いてた?」
ハリーの瞳が真っ直ぐ入ってきた。
エマはギクっとして慌てて目の周りを拭く。
「何かあったの?」
「んーん、何でもないの。大丈夫、後で話すわ」
「おーいっ!行こうよ!」
ロンが呼んでいる。
2人は談話室を出た。
※※※
大広間でのクリスマスのご馳走に、ハリーとエマは度肝を抜いた。
丸々太った七面鳥のロースト百羽、山盛りのローストポテトと茹でポテト、大皿に盛ったソーセージ、深皿いっぱいのバター煮の豆、銀の器に入ったコッテリとした肉汁とクランベリーソース。
そしてテーブルのあちこちに魔法のクラッカーが山のように置いてあった。
フレッドがクラッカーを鳴らした。
大砲のような音を立てて、モクモクと青い煙が辺りに立ち込め、中からカーボーイハットと生きたハツカネズミが飛び出してきた。
ハリーとエマは目を輝かせてクラッカーを鳴らす。
紫と緑色の煙が立ち込め、コックの帽子とシルクハットが出てきた。
みんなでウィーズリーセーターを着て、色んな帽子を被りテーブルに座った。
上座ではダンブルドア先生が婦人用の大きな孔雀の羽が付いたピンク色の帽子を被っている。
エマはそれをみてすごくキュンキュンしていた。
ハグリッドはワインの飲みすぎて酔っぱらい、あのマクゴナガル先生のほっぺにキスをしていた。
それだけでも驚きなのに、マクゴナガル先生は頬を染めてくすくす笑ったのには、ハリーに今の驚愕な出来事を伝えざるを得なかった。
上座の大人達はクラッカーに入っていたイギリスジョークが書かれた紙を読んではクスクス笑ったり大爆笑したりと、いつもより砕けて楽しげな教師陣の姿を見る事ができた。
ご馳走の後はブランデーにフランベしたプディングがでてきて食べていたが、ジョージの「プティングは違ったらしい!」という声が聞こえてきた。
「クリスマスといえばクリスマスケーキだよな!」とフレッドに唐突に聞かれ「プティングも美味しいよ」と言ったが「「 プティングじゃだめだ! 」」と双子が声を揃えていた。
※※※
自分の部屋で、エマは母親の指輪を眺めた。
大事に仕舞うより、肌身離さずつけておきたかったが、親指以外の指は全てブカブカでつけられない。
そうだ、指輪の事ハリーに言わなきゃ
エマは指輪をポケットに入れてハリーの部屋に向かう。
「エマ!ちょうど今呼ぼうと思ってたんだ!」
部屋にはハリーとロンがいた。
ハリーが輝く銀色の布を見せてきた。
ロンが「これは目玉が飛び出るほど貴重なものなんだ」と興奮している。
「なにこれ?」
エマが恐る恐る触ると、布なのに水のような肌触りだ。
「透明マントだよ」
「透明マント?」
説明するより見せた方が早いと、ハリーがマントを羽織る。
いや、羽織るというよりハリーの下半身が突然消え去った。
「え?!何?!」
「透明になれるマントなんだよ!」
ハリーもロンもニコニコしながらエマを見た。
魔法の世界は不思議だ不思議だと思っていたが、こんなものまであるとは驚きだった。
「僕のお父さんが誰かにこれを預けて、その人からのクリスマスプレゼントで今朝届いたんだ」
「ハリーも?」
エマはポケットに入っていた指輪を取り出して2人に見せた。
「この指輪も、私のお母さんの物だって知らない人から今朝プレゼントで届いたの」
ハリーがマジマジと指輪を眺める
「綺麗な指輪だね、つけるの?」
「ダメなの、まだ大きくて」
「石には時々、守りの魔法や呪いがかけられてる時があるらしいぜ。僕は見た事ないけど、チャーリー兄さんが言ってた」
ロンに言われ、エマはもう一度指輪を見つめてみた。
今朝も感じた母親の温もりが、トンと胸に落ちてきて、胸をキュッと締め付けた。
「…私この指輪、何だか凄く懐かしい感じもしてるの。それに手紙には、私を守ってくれるって。」
「僕もそう思うよ」
ハリーがエマを見つめながら言った。
エマは頷き、指輪を大事そうにポケットにしまう。
突然、部屋のドアが勢いよく開き、フレッドとジョージが入ってきたので、ハリーは慌ててマントを隠した。
「雪合戦だ!」
ジョージが雪の玉をロン目掛けて思いっきり投げつけた。当たるや否や光の速さで飛び出すロン。
「まてこの!!!」
ロンが勢いよく飛び出し、ジョージを追いかけ回した。
本物の雪が部屋の中に飛び込んでくるとは思ってなかったエマが呆然としてると、フレッドが扉を通りすぎる時に素早くもう一球飛ばしてきた。
見事ハリーの顔面にクリティカルヒット。
フレッドが「きゃーーー!!たすけてー!!」と逃げ去っていくので、ハリーも光の速さで部屋から飛び出した。
エマが部屋から出てみると、パーシーも雪玉をくらっていて、赤毛のくりくりの頭から雪を落としながらフレッドを追いかけている。
敵を作りすぎて分が悪くなってきている2人は談話室を飛び出して行き、ロン、ハリー、パーシーは後を追った。
エマはポツンとひとりになった。
みんなと一緒に行こうかと悩んだけど、今は雪合戦をする気分じゃ無い。
エマは部屋に戻ることにした。
ポケットに入っていた指輪を取り出し、引き出しに仕舞おうと開けた時にドラコのプレゼントが目についた。
指輪を引き出しに入れ、アクセサリーケースを取り出し開けてみると、石が光を取り込んでキラキラしている。
一つを取り出してしげしげと眺めた。
「…まさか、呪いがこめられてないわよね…」
エマはいささか不安になり、ミネットに見せてみた。
「どう思う?」
ミネットは確認するように髭をひくひくさせてピアスに鼻をつける。
暫くクンクン嗅ぎ、ピタっと止まった後、フン!と鼻息を飛ばし、ゴロンとペットに横たわる。
「…大丈夫って事?」
ミネットからの返事はなかったが、お腹を出して目を細め、ゴロゴロいっていた。
エマはピアスを見つめた。
ドラコはこのピアスをどうやって用意したんだろう。
坊ちゃんだから召使いさんに用意させたんだろうか。
それともドラコが選んだんだろうか。
エマは部屋の姿鏡に近寄り、自分の顔を覗き込んだ。
ゆっくり髪をかきあげて耳を見てみる。
「…この辺かな…」
エマは耳たぶの真ん中に爪を食い込ませて痕をつける。
裁縫用の針を取り出し、爪痕に針の先端を向けた。
ーーーチクっ!
耳たぶからプクッと血が出てきた。
針は皮膚を少し刺しただけで、貫通するにはまだまだ長い道のりになる事は痛い程実感した。
「…これは無理だわ」
エマはピアスと針を引き出しに仕舞い込み、耳にハンカチを押し当てて、ベットにゴロンと横になった。
お腹も満たされていて、ミネットの尻尾が顔にフサフサかかるのが気持ちよく、次第に瞼が降りてきて眠ってしまった。
夢を見た。
『指輪が貴方を守ってくれる』
声がする
湖のほとりで女の人が佇んでいる
その人は指輪を外し、湖の中に沈めていた
指輪が水中の奥深くへ沈んでいく
深く、深く…
指輪が暗闇の中へ溶けて消えていく
私とお母さんの繋がりが消えていってしまう
『大丈夫』
後ろから手が伸び、私の肩を抱き寄せた
私の手を取り、指輪をはめてくれた
『大丈夫』
指輪が私の手にある
嬉しい、温かい、
お母さんの温もりを感じられる
エマは更に深く眠りにつく。
エマはたまたま角が自分の所にあっただけで、ハーマイオニーでも同じ事をしたと主張したが、ハーマイオニーは寄生された二角獣の角については知らなかったと言い、『実践魔法薬学』という分厚い本を出してきた。
「ここと…ここにエマが言っていた事がかいてあるわ…すごいわね」とハーマイオニーが言った。
エマはどこかでその事を読んだ記憶があるが、『実践魔法薬』の本だったか別の本だったかは思い出せない。
自分自身も不思議だった。
フレッドとジョージはエマを見かけるとエマを女王陛下に仕立て上げうやうやしくお辞儀したり、うやうやしくマッサージをしたりしていた。
ラベンダーやパーバティもエマを称賛し、魔法薬学の宿題を一緒にしないかと誘われる事が多くなった。
他の生徒からもこの件でよく声をかけれた。
エマとしてはハーマイオニーの「パーキンソンが作業開始から最後まで調合をせずに、エマとドラコペアの方を見ていたのでやりやすかった」という言葉の方が気が気でなかった。
しかしそれもクリスマス休暇が後1日に迫る頃には話題も薄れ、エマはいつものように過ごせるようになっていた。
大広間では実家に帰る生徒が大半にも関わらず、盛大にクリスマスの飾り付けをしている。
沢山の巨大なもみの木が12本、マクゴナガル先生やフリットウィック先生の魔法で綺麗に飾り付けされている。
小さなツララでキラキラ光るツリーや、何百というロウソクで輝いてるツリーもあった。
「きれい…」
その景色は本当に素晴らしかった。
「エマ、図書館に行くよ!」
ツリーに見惚れていたエマをハリーが迎えにやってきた。
ハリーもエマの隣に並び、フリットウィック先生が杖からふわふわ光る泡を出してツリーに飾り付けしている所を眺めた。
「こんなクリスマスを体験できるなんて」
ハリーの目がキラキラしている。
「これからも、ずっとこんなクリスマスをハリーと過ごしたい」
ハリーがエマを見る。
エマの目にツリーの光が反射して泣いているようにも見えた。
「うん、過ごせるよ。これからも」
ハリーはエマと手を繋いだ。
ハリーとエマは繋いだ手にぎゅっと力を込めた。
「さぁ、行こう。ハーマイオニー達が待ってる」
※※※
4人は暇を見つけては、ホグワーツの図書館でニコラス•フラメルについて調べていた。
巨大な図書館なので本は無限にあったが、ニコラス•フラメルの情報が名前しかなかったので手当たり次第だった。
ハーマイオニーが調べる内容と表題のリストを用意してくれたが、そのどれにもニコラス•フラメルは乗ってなかった。
ハリーが『閲覧禁止棚』に近寄ろうとするも、司書のマダム•ピンスがそれを許さない。
かれこれ二週間探しているが、一切収穫が無いまま、ハーマイオニーは「禁書の棚を出来る限りさがしてみて!私も自分なりに探してみる」とロンドンに帰っていった。
※※※※※※※※※※
クリスマス休暇が始まって、ハリー、エマ、ロンはニコラス•フラメルの事などすっかり忘れて過ごしていた。
「ロン!凄いもってきたわね!」
ロンがパンやマシュマロ、ソーセージ、カエルチョコやクッキー、ジャガイモを両手に抱えてやってきて、気兼ねなく暖炉の前にドサドサと置いた。
「焼こう!」
ハリーもエマもウキウキしながら好きな物を串に刺し、暖炉の火で炙った。
ロンがカエルチョコをパンで挟み、焼くと言った時は悲鳴ものだった。
パンに挟まれたカエルチョコが動き、火に炙られて少しずつ動きを弱めていく様がグロテスクで、エマが凄い顔をして見ているのを2人が笑った。
ある日では。
ハグリッドの小屋に1人でやってきたエマは、ハグリッドから白樺の木の丸太をさらに小さく加工してもらい、彫刻刀を貸してもらった。
彫刻刀で試し掘りをすると、ハグリッドに「うまいもんだ。初めてとは思えねえ」と言われ、すっかり気をよくした。
それから編み物を教わりながら、2人で紅茶を飲んだり、フクロウの世話を手伝った。
またある日
雪合戦ではフレッドとジョージが参加したので、まるで戦場のようになった。
避けても避けても追いかけてくる卑怯な魔法雪玉が容赦なく後輩のハリー達を追いかけ回す。
3人も負けじと、浮遊魔法を駆使して大きな雪玉を2人の頭上から降らす事に成功したり、追いかけてくる雪玉を魔法で溶かしたり、終わる頃には全員ぐしょぐしょになった。
驚いたのはその後、フレッドとジョージが上手く教師とパーシーの目を掻い潜り、監督声のバスルームに3人を連れて行ってくれた事だった。
「上級者になれば、監督生でなくても毎日入れる」とフレッドは得意気に言っていた。
「なんならクリスマス休暇中毎日くるか?」
と余裕そうに言うもんだから、3人は複雑になりながら笑うしか無かったが、相変わらず監督生のバスルームは感動ものだった。
夕方頃になるとエマは、はしゃぎ過ぎて眠くなってウトウトしながらでも、編み物や木彫りをしていた。
フレッドとジョージはイタズラグッズの研究で部屋に篭り、ハリーとロンは『スネイプにいかに上手く仕返しをするか』や『マルフォイを退学に追い込む方法』と言った実現は決してしない話に花を咲かせたり、チェスをしたりして遊んでいた。
クリスマスイブの夜は、ハリー達の部屋に集まる事になった。
エマは初めて男子寮のドアを開けると、女子寮とは違う雰囲気があった。
部屋はかなり広く、ベッドは5つあった。
壁に貼ってあるクィッディッチのポスターや動かないマグルのサッカーのポスターもある。
箒の模型やチェス盤、イタズラグッズなんかがランダムに置いてあり、散らかり具合が男の子っぽさを感じさせた。
「お邪魔しまーす」
エマはパジャマを着て枕を抱えて部屋に入った。
ロンが振り返り、エマにおいでおいでをして、隣に呼んだ。
ジョージがラジオのチューニングをしてる。
ザ、ザザ、ザーー、、ザザ、『…魔法…バックラジオー!…』
『…メリークリスマスイブ!今日という特別な夜にあなたに送る魔法界ならではのあんな事やこんな事、ホグワーツでのビックニュースをこの人に語ってもらいましょう!ゲストのリー•ジョーダンです!』『リーです!メリークリスマスイブ!』
「おっ!リーの声だ!」
みんなラジオに耳を傾けた。
『リー、今日はよろしく』『やぁ、よろしく』『早速だけど、ホグワーツのビックニュースを聞かせてくれるかい?』『それぁ、なんと言ってもあのハリー•ポッターだねっ』『ハリー•ポッター?』
みんなニヤニヤしながらハリーを見る。
ハリーは苦笑いをしていた。
『なんと、例のあの人が去った第一次魔法戦争後に姿を消していた彼が、今年ホグワーツの新入生として入学してきたのさっ。しかも僕の寮グリフィンドールに組分けされたんだ!』『お、それは僕も知ってるよっ結構噂になってたからね』
『何を隠そう、彼の両親もグリフィンドール生で、しかも彼は父親譲りの箒の技術を生かして、一年生にしてクィッディッチのシーカーに選抜されたんだ!』
『えー?!それはすごい!』『そうさ、彼は今年の初試合で試合開始40分でスニッチを掴んだ100年に一度の逸材さっ』『ぜひその試合をお目にかかりたかった!』『そうだろ?なんだか話してるとまるで嘘みたいだけど、嘘じゃないぜ、ハリーは本当に僕たちが知るように凄いやつだった。おまけに可愛い幼馴染までついてる』
エマの顔が凍った。
『幼馴染?』『あぁ、彼女の名はエマ•ファース、なかなかミステリアスな経歴を持っているが、彼女は明るくて可愛くて負けん気も強い。そして魔法薬学がすこぶる得意でこの間もグリフィンドールの仇、魔法薬学のスネイプ教授から直々にグリフィンドール生初の5点を勝ち取ったんだ。あん時は感動したね』
エマは顔が真っ赤になって湯気が出そうだった。
正直もうラジオを切って欲しかった。
『なるほど、今年のホグワーツは大ニュースが盛りだくさんだね』『そうさ!こないだ僕の親友のフレッドとジョージの事だけど、』『お、彼らも有名だね』
フレッドとジョージが互いに目を合わせてリーが何をいうか注意深く聞いた。
『まったく、あいつらときたら一年生のころからの親友だった僕に秘密にしていた事があったんだ』『それは何?』『それは………おっと、そいつぁ言えないな!秘密なんだ!』『ええーー!そりゃないよ』『いやいや、話題を変えよう!』
パチン……
ジョージがラジオを消した。
「リーのやつ、帰ったらクソ爆弾だな」
フレッドがつぶやいた。
エマは是非自分もお見舞いしたいと思った。
この後、みんなでチェスをしたりして遊んだ。
ロンはチェスがとても強く、フレッドとジョージでさえロンに勝てなかった。
エマは互角で戦えるハリーと何度かチェスを打ち、2連敗して不貞腐れた頃に大きなあくびが出た。
「おや、お姫様はもうお眠だぞ」
フレッドが娘を茶化す父親のような口ぶりで言い、リーが帰ってきた時に使うクソ爆弾をこさえると自分達の部屋に戻って行く。
ロンとハリーは「このままここで寝ていけよー」と言ったが、エマはシェーマスのベッドに勝手に寝るのは悪い気がして女子寮に帰り、ミネットとベッドに潜った。
※※※
朝、目が覚めるとエマは驚いた。
少なくとも1つ、2つはきていると思っていたが、沢山のプレゼントがベッドの下に敷詰めて置かれている。
「わぁ!見てミネット!」
エマは興奮してベットから出ると、ミネットが顔を上げてエマを見つめた。
エマはプレゼントの包みの前に座って色とりどりの包みを眺め、茶色い包み紙に『エマへ ハグリッドより』と書かれたプレゼントを開けた。
木製のティーカップだ。
少し大きめで、右端には多分ミネットだろうか、猫らしき動物が掘られていた。
その猫が不格好で可愛かった。
「ミネットよ!可愛いわね!」
ミネットはティーカップに少し鼻を近づけてクンクンと嗅いだ。
今度は長方形で薄ピンクの包みを開ける。
ハーマイオニーからだ。
白い羽の羽ペンだ。
『メリークリスマス、
そちらはみんな元気にしてる?あれからニコラス•フラメルについて調べてはいるんだけど、目ぼしい情報はまだないわ。会えるのを楽しみにしてる。ハーマイオニーより』
すっかり忘れてたっ…!!
エマは一瞬やばいと思ったが、とりあえず気を取り直して次の包みを開いた。
一層おおきな包み紙、持つと紙越しでも分かるほどふっくらしている。
中には厚い手編みのスモーキーピンクのセーターが出てきた。
『メリークリスマス!是非またハリーと家に来てね
ウィーズリー家より』
ロンのママからだ!
エマはすぐさまパジャマの上から袖を通す。
少し大きく、手が指しかでない。
ミネットに『どう?』とやると、しっぽだけ返事をした。
ロンのママからのプレゼントの下に、黒い箱に白いリボンを結んであるプレゼントがあった。
ドラコだ。
メッセージカードには綺麗な字で『メリークリスマス、
ドラコ•マルフォイ』とだけ書かれている。
箱はアクセサリーケースだった。
小花が二つ重なったようなデザインの…「ピアス?」
エマは手にとって光に透かしてみた。
小花は細かい装飾が施されてていて、小ぶりな水色の石が花びらに見立てて埋め込まれている。
キラキラしていてとても綺麗だ。
でも…
「私ピアスなんてした事ないわ…」
それに何だかすごく高そうだ。
確かにかなりの坊ちゃんみたいだったけど。
こんなのもらって本当にいいのだろうか。
何故か少しソワソワとして、エマは最後の包みを開けた。
中から黒い小さな袋が出てくる。
袋には何か固いものが入ってるようだ。
エマは袋を逆さまにして中を出してみた。
指輪だ。
扇形の貝の形を縁取っている銀細工に、ダイヤモンドが綺麗に敷詰められている。
銀細工の下は濃い青い石がリングの形に加工され、埋め込まれていてた。
アンティークなのか、少し年期を感じる。
これはまたどういう事なのだろうとおもっていると、包みの中に手紙がはさまっていた。
『君のお母さんが大事にしていた物だ。
君を守ってくれる。
大事にもっておきなさい。
メリークリスマス』
名前が書いてなかった。
お母さんの…
この指輪はお母さんが…
誰かからもわからないが、本当なのだとおもった。
指輪から覚えていない母親の温もりを感じられる。
お腹の奥から胸に熱いものが込み上がってくる。
本当にちゃんといたんだっ
この指輪をつけていたんだ…
エマは胸がいっぱいになり、指輪を両手で包み自分の胸に押し当てた。
目頭が熱くなり、ポロと温かい涙が溢れた。
一粒流れると、次から次へと涙が流れていく。
「おーい!!エマ!メリークリスマス!おいでよ!」
ハリーの声。
エマは溢れ出た涙を慌てて拭い、深呼吸して何でもないような顔を作った。
「メリークリスマス!ハリー、ロン」
「メリークリスマス…あっ!やっぱりだよ、エマにもあげてたか!」
ロンがあちゃーと自分のおでこを叩く。
「ハリー!お揃いね!」
ハリーがエメラルドグリーンのセーターを軽く引っ張りエマに見せるようにした。
「すごくあったかいよ」
ハリーとエマはセーターをすごく気に入っていたが、ロンはうんざりしてるやら恥ずかしいやらといった顔をしている。
「ロン、あなたのセーターは?」
「僕は栗色は嫌いなんだ!」
「おい!見ろよ!お二人さんもウィーズリー家のセーター来てるぜ」
フレッドとジョージが青いセーターを着て談話室へやってきた。
胸元に大きく『F』『G』がついている。
「うわっはー!かーわーいー!」
エマは双子のペアルックに感激した。
2人はモデルポーズを決めている。
「でもそっちの方が上等だな」
フレッドがハリーのセーターを掴み、笑ってジョージに見せた。
「ママは身内じゃないとますます力が入るんだよ」
「ロン!なにしてるんだっ、着ろよ!あったかいぞ」
ジョージが急かした。
ロンは渋々栗色のセーターを着る。
「嫌いとか言ってたけど、とてもよく似合ってるわ」
「お世辞をありがとう」
「ロンのはイニシャルがないね」
ハリーが言った
「ママはお前なら名前を忘れないと思ったんだろうな」
「僕らだって自分の名前はちゃんと覚えてるのにな」
「僕、グレッド!」
「僕、フォージ!」
「ややこしいよ!」
男子寮の階段から「何の騒ぎだい?」とパーシーが顔をだした。腕にはもっこりしたセーターを抱えている
「P担当!メリークリスマス…あっ!お前も着てない!もう、うちの子達何考えてるの!?」
ジョージがパーシーのセーターをひったくり、無理やりパーシーに着せる。
「伸びる伸びる!自分で着るからやめろー!」
「いいかコードネームP!今日は監督生のテーブルにつくことは許されない!クリスマスだから僕らと過ごすんだぞ!」
双子は、まだセーターを半分しか着れてないパーシーを逃げられないように押さえつけて連れ出た。
ロンも「ハリー、エマ、いこう!」と3人について行った。
エマがウィーズリー兄弟のドタバタをひとしきり笑った後、みんなについて行こうとしたが視界の端でハリーが動かないので不思議に思った。
ハリーがじっとエマを見つめていた。
エマは首を傾げる。
「エマ、泣いてた?」
ハリーの瞳が真っ直ぐ入ってきた。
エマはギクっとして慌てて目の周りを拭く。
「何かあったの?」
「んーん、何でもないの。大丈夫、後で話すわ」
「おーいっ!行こうよ!」
ロンが呼んでいる。
2人は談話室を出た。
※※※
大広間でのクリスマスのご馳走に、ハリーとエマは度肝を抜いた。
丸々太った七面鳥のロースト百羽、山盛りのローストポテトと茹でポテト、大皿に盛ったソーセージ、深皿いっぱいのバター煮の豆、銀の器に入ったコッテリとした肉汁とクランベリーソース。
そしてテーブルのあちこちに魔法のクラッカーが山のように置いてあった。
フレッドがクラッカーを鳴らした。
大砲のような音を立てて、モクモクと青い煙が辺りに立ち込め、中からカーボーイハットと生きたハツカネズミが飛び出してきた。
ハリーとエマは目を輝かせてクラッカーを鳴らす。
紫と緑色の煙が立ち込め、コックの帽子とシルクハットが出てきた。
みんなでウィーズリーセーターを着て、色んな帽子を被りテーブルに座った。
上座ではダンブルドア先生が婦人用の大きな孔雀の羽が付いたピンク色の帽子を被っている。
エマはそれをみてすごくキュンキュンしていた。
ハグリッドはワインの飲みすぎて酔っぱらい、あのマクゴナガル先生のほっぺにキスをしていた。
それだけでも驚きなのに、マクゴナガル先生は頬を染めてくすくす笑ったのには、ハリーに今の驚愕な出来事を伝えざるを得なかった。
上座の大人達はクラッカーに入っていたイギリスジョークが書かれた紙を読んではクスクス笑ったり大爆笑したりと、いつもより砕けて楽しげな教師陣の姿を見る事ができた。
ご馳走の後はブランデーにフランベしたプディングがでてきて食べていたが、ジョージの「プティングは違ったらしい!」という声が聞こえてきた。
「クリスマスといえばクリスマスケーキだよな!」とフレッドに唐突に聞かれ「プティングも美味しいよ」と言ったが「「 プティングじゃだめだ! 」」と双子が声を揃えていた。
※※※
自分の部屋で、エマは母親の指輪を眺めた。
大事に仕舞うより、肌身離さずつけておきたかったが、親指以外の指は全てブカブカでつけられない。
そうだ、指輪の事ハリーに言わなきゃ
エマは指輪をポケットに入れてハリーの部屋に向かう。
「エマ!ちょうど今呼ぼうと思ってたんだ!」
部屋にはハリーとロンがいた。
ハリーが輝く銀色の布を見せてきた。
ロンが「これは目玉が飛び出るほど貴重なものなんだ」と興奮している。
「なにこれ?」
エマが恐る恐る触ると、布なのに水のような肌触りだ。
「透明マントだよ」
「透明マント?」
説明するより見せた方が早いと、ハリーがマントを羽織る。
いや、羽織るというよりハリーの下半身が突然消え去った。
「え?!何?!」
「透明になれるマントなんだよ!」
ハリーもロンもニコニコしながらエマを見た。
魔法の世界は不思議だ不思議だと思っていたが、こんなものまであるとは驚きだった。
「僕のお父さんが誰かにこれを預けて、その人からのクリスマスプレゼントで今朝届いたんだ」
「ハリーも?」
エマはポケットに入っていた指輪を取り出して2人に見せた。
「この指輪も、私のお母さんの物だって知らない人から今朝プレゼントで届いたの」
ハリーがマジマジと指輪を眺める
「綺麗な指輪だね、つけるの?」
「ダメなの、まだ大きくて」
「石には時々、守りの魔法や呪いがかけられてる時があるらしいぜ。僕は見た事ないけど、チャーリー兄さんが言ってた」
ロンに言われ、エマはもう一度指輪を見つめてみた。
今朝も感じた母親の温もりが、トンと胸に落ちてきて、胸をキュッと締め付けた。
「…私この指輪、何だか凄く懐かしい感じもしてるの。それに手紙には、私を守ってくれるって。」
「僕もそう思うよ」
ハリーがエマを見つめながら言った。
エマは頷き、指輪を大事そうにポケットにしまう。
突然、部屋のドアが勢いよく開き、フレッドとジョージが入ってきたので、ハリーは慌ててマントを隠した。
「雪合戦だ!」
ジョージが雪の玉をロン目掛けて思いっきり投げつけた。当たるや否や光の速さで飛び出すロン。
「まてこの!!!」
ロンが勢いよく飛び出し、ジョージを追いかけ回した。
本物の雪が部屋の中に飛び込んでくるとは思ってなかったエマが呆然としてると、フレッドが扉を通りすぎる時に素早くもう一球飛ばしてきた。
見事ハリーの顔面にクリティカルヒット。
フレッドが「きゃーーー!!たすけてー!!」と逃げ去っていくので、ハリーも光の速さで部屋から飛び出した。
エマが部屋から出てみると、パーシーも雪玉をくらっていて、赤毛のくりくりの頭から雪を落としながらフレッドを追いかけている。
敵を作りすぎて分が悪くなってきている2人は談話室を飛び出して行き、ロン、ハリー、パーシーは後を追った。
エマはポツンとひとりになった。
みんなと一緒に行こうかと悩んだけど、今は雪合戦をする気分じゃ無い。
エマは部屋に戻ることにした。
ポケットに入っていた指輪を取り出し、引き出しに仕舞おうと開けた時にドラコのプレゼントが目についた。
指輪を引き出しに入れ、アクセサリーケースを取り出し開けてみると、石が光を取り込んでキラキラしている。
一つを取り出してしげしげと眺めた。
「…まさか、呪いがこめられてないわよね…」
エマはいささか不安になり、ミネットに見せてみた。
「どう思う?」
ミネットは確認するように髭をひくひくさせてピアスに鼻をつける。
暫くクンクン嗅ぎ、ピタっと止まった後、フン!と鼻息を飛ばし、ゴロンとペットに横たわる。
「…大丈夫って事?」
ミネットからの返事はなかったが、お腹を出して目を細め、ゴロゴロいっていた。
エマはピアスを見つめた。
ドラコはこのピアスをどうやって用意したんだろう。
坊ちゃんだから召使いさんに用意させたんだろうか。
それともドラコが選んだんだろうか。
エマは部屋の姿鏡に近寄り、自分の顔を覗き込んだ。
ゆっくり髪をかきあげて耳を見てみる。
「…この辺かな…」
エマは耳たぶの真ん中に爪を食い込ませて痕をつける。
裁縫用の針を取り出し、爪痕に針の先端を向けた。
ーーーチクっ!
耳たぶからプクッと血が出てきた。
針は皮膚を少し刺しただけで、貫通するにはまだまだ長い道のりになる事は痛い程実感した。
「…これは無理だわ」
エマはピアスと針を引き出しに仕舞い込み、耳にハンカチを押し当てて、ベットにゴロンと横になった。
お腹も満たされていて、ミネットの尻尾が顔にフサフサかかるのが気持ちよく、次第に瞼が降りてきて眠ってしまった。
夢を見た。
『指輪が貴方を守ってくれる』
声がする
湖のほとりで女の人が佇んでいる
その人は指輪を外し、湖の中に沈めていた
指輪が水中の奥深くへ沈んでいく
深く、深く…
指輪が暗闇の中へ溶けて消えていく
私とお母さんの繋がりが消えていってしまう
『大丈夫』
後ろから手が伸び、私の肩を抱き寄せた
私の手を取り、指輪をはめてくれた
『大丈夫』
指輪が私の手にある
嬉しい、温かい、
お母さんの温もりを感じられる
エマは更に深く眠りにつく。