賢者の石
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
11月のとても寒い土曜日の朝。
今日はクィディッチの試合の日、そしてハリーのデビュー戦だ。
大広間はウキウキソワソワした空気とソーセージの焼けた良い匂いが漂っている。
エマはハリーの練習風景を見た事無かったが、どんなプレイをするのかワクワクしていた。
それに相反して当の本人は目の下がややぼやけたような顔で、ソーセージをフォークでツンツン突いているだけだった。
「ハリー、昨日寝れた?」
ハリーは首を横に振った。
「色々考えちゃって全然寝れなかった」
「しっかり食べなきゃダメよ」
ハーマイオニーがロンの隣から声をかけた。
ハリーはプスリ…とソーセージをフォークに刺すが、やっぱり食べる気が起きないらしい。
あと2時間もすれば、ハリーは大勢に見守られながらグラウンドに入場する。
ハリーはついにソーセージを一口も食べないままフォークを置いてしまった。
ロンが「食べておけ!」とトーストにソーセージを挟んだ物をハリーの口に無理やりねじり込んだ。
それから間も無くして、選手は控え室に向かう時間になった。
「ハリー行くぞ!」
ジョージがハリーの肩を軽くパンチし、フレッドがエマに向かってニヤリと笑いながらガッツポーズをした。
2人は溢れ出る闘志を体現するように堂々と歩く。
ハリーは立ち上がり、2人の後について大広間を出ていった。
※※※
10時には学校中からクィディッチ競技場の観客席に詰めかけた。
エマ、ロン、ハーマイオニーはネビルやシェーマス達と一緒に最上段の席にいた。
この日の為にみんなでベットシーツで作った『ハリーポッターを大統領に!!』という旗を広げる。
旗にはハーマイオニーが魔法で文字をキラキラと光らせてくれたのでよく目立った。
「ハリー、大丈夫かな」
「大丈夫さ!この時の為に死ぬほど練習したんだ」
今朝のハリーの様子を見ていたエマとロンは、自分がこれから入場するかのように緊張している。
エマは真剣な面持ちで右手で十時を切りその手の甲にキスをして空に掲げた。
それを見てロンも真剣な面持ちで真似をする。
そんな2人の様子をシェーマスが「何してんだよ」とケタケタ笑った。
ハーマイオニーはやれやれと首を振り、双眼鏡を覗く。
「あ!!ハリーよ!」
ハーマイオニーの声は大歓声にかき消された。
グリフィンドールの選手とスリザリンの選手が競技場に出てきた。
「どれ?!どれがハリー??」
「全部豆みたいでわからないよ!」
ハーマイオニーは、2人の首から下げてるそれは何なのよ?と言いたげな表情で、ロンの双眼鏡をロンの目に押しやった。
エマもその様子に気付き、慌てて双眼鏡を覗く。
暫く芝生やらスリザリンの選手を映していた双眼鏡はハリーを捉えた。
ハリーは緊張しながらフレッドとジョージの後ろにいる。
赤いローブのようなユニフォームは左胸にグリフィンドールの紋章が刺繍されており、両手には皮のグローブ、右手にはニンバス2000が握られている。
「きゃーーーハリー!!かっこいいーーー!!」
エマは双眼鏡を覗き込みながら笑顔でハリーに手を振った。
両チームは競技場の真ん中で横並びに立ち、互いに向かい合う。
競技場は暫く大歓声が続いていたが、両選手の真ん中にいるマダムフーチの増幅魔法で大きくした声が響き渡る。
「さぁ!!皆さん、正々堂々!戦いましょう!!」
会場が静かになる。
「よーい!箒に乗ってっ…!!」
フーチ審判の銀の笛が鳴り響く。
15本の箒が空に舞い上がる。
高くさらに高く、試合開始だ。
「さあ!始まりました!今シーズン最初のクィディッチ!司会は私、リー•ジョーダンが務めさせていただきます!
さてクアッフルはたちまちグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンが取りました!
何て素晴らしいチェイサーでしょう、その上かなり魅力的であります!」
リーのマイク実況だ。
「ジョンソン選手突っ走っております。
アリシア・スピネットにきれいなパス!ジョンソンにクアッフルが返る、
そして…あ、駄目です」
「スリザリンがクアッフルを奪いました。
キャプテンのマーカス・フリントが取って走る!
ゴールを決めるか…いやグリフィンドールのキーパーウッドが素晴らしい動きでストップしました!」
「クアッフルは再びグリフィンドールへ、
あ、あれはグリフィンドールのチェイサー、ケイティ・ベルです!
フリントの周りで素晴らしい急降下!!ゴールに向かって飛びます!
あいたっ!これは痛かった!!」
「ブラッジャーが後頭部にぶつかりました。
クアッフルはスリザリンに取られました。
今度はエイトリアン・ピュシーがゴールに向かってダッシュしています。
しかしこれは別のブラッジャーに阻まれた!」
「フレッドなのかジョージなのか見分けはつきませんがウィーズリーのどちらかが狙い撃ちをかけた!
グリフィンドール、ビーターのファインブレイですねっそしてクアッフルは再びジョンソンの手に!」
「前方には誰もいません!さあ飛び出した!
ジョンソン選手、ブラッジャーが物凄いスピードで襲うのをかわすっゴールは目の前だ!頑張れ!!
今だアンジェリーナ!!
キーパーのブレッチリーが飛びつく…がミスした!」
「グリフィンドール先取点!!!」
グリフィンドールの席から大歓声が上がった。
向かいのスリザリン側からはブーイングが起こっている。
エマもワー!!と一生懸命拍手をしていると、ぐいっと大きな体に押された。
「ハグリッド!」
「おう!ちょっと詰めてくれや!」
大きなハグリッドが座れるように、みんな席をギュウギュウに詰めた。
「小屋からじゃやっぱりな…会場でみにゃ!
スニッチは見つかったか?」
「まだだよ。ハリーは今はする事なくて上空にいる」
「あぁ、敵選手に狙われんように間をおいとるんだ。今はそれがええ。」
「さて今度はスリザリンの攻撃です。
チェイサーのピュシーはブラッジャーを2つかわし双子のウィーズリーをかわしチェイサーのベルをかわして物凄い勢いで・・・ちょっと待ってください!あれはスニッチか?!」
観客席がザワザワとなった。エイドリアン•ピシューがクァッフルを落とした。
その時ハリーがすごい速さで急降下した。
獲物を見つけた鷹のようだ。
スリザリンのシーカー、テレンス•ヒッグズとハリーの箒が並ぶ。
2人が飛ぶ先の先端にスニッチがある。
2人は追いつ追われつと大接戦だ。
ハリーがヒッグズよりも早かった。
ハリーの箒が一段とスピードを増す。
その瞬間だった。
グリフィンドールの席から怒りの声が湧き上がる。
「反則だ!!!」
マーカス•フリントがハリーに体当たりし、ハリーは箒ごと場外へ弾き飛ばされる。
ロン達の席でも悲鳴や怒号が飛んだ。
エマは手に汗を握りながらハリーを双眼鏡で見た。
ハリーはなんとか箒にしがみつき、無事だ。
フレッドがブラッジャーをマーカスめがけて勢いよく叩きつける。
「フリントはもう少しでハリーを地上に突き落とすところだったわい、クィディッチに反則はないが、ルールを見直すべきだ」
ハグリッドも怒っていた。
リーの実況にも不満が漏れ出る。
「えー誰が見てもはっきりと胸糞の悪くなるようなインチキの後…え?なんです?はいはい…えー、おおっぴらで不快なファールの後…あ、はいはい、了解ボス。
フリントはグリフィンドールのシーカーを殺しそうになりました、誰にでもあり得るようなミスですね、きっと。
そこでグリフィンドールのペナルティ・スローです。
スピネットが投げました。さあ、ゲーム続行!
クアッフルはグリフィンドールが持ったままです」
双眼鏡でずっとハリーを追っていたエマが異変に気づく。
ハリーは変な動きをしていた。ハリーの箒はグイッと動いたり、ビクビクっと動いたりしながら上へ、下へゆっくりと試合会場から遠ざけてるようだった。
「ハリー、あれは一体してるの?!」
エマの言葉にロン達もハリーを見た。
ハリーのニンバス2000がハリーの指示通りに動かないどころかハリーを振り落とそうと空中をジグザグに飛んだり、激しく揺れ動き、あわやハリーは振り落とされそうだ。
観客があちこちで一斉にハリーの方を指した。
箒が激しくハリーを揺さぶり、ハリーは箒の柄に何とかしがみついてる状態だ。
観客は総立ちだ。
「フリントがぶつかった時、箒がどうかしちゃったのか?!」
ロンが双眼鏡を覗き込みながら叫ぶ。
「強力な闇の魔術以外、ニンバス2000には悪さは出来ん。ここにいるチビどもには絶対無理だ」
ハグリッドが言い切った。
箒の不自然な動きに誰かの殺意を感じたエマは脳内にアドレナリンが活性化するのを感じた。
ハリーの命がかかっている。
双眼鏡で観客席を端から端まで見る。
怪しい動きをしている物を見つけた。会場を挟んで向かいの席にいるスネイプが、恐怖したり動揺している客達とは似ても似つかず、瞬きもせずハリーを見つめ絶え間なく口を動かしている。
スネイプだ!!
エマが突然走り出た。
「エマ!どこいくの!」
ハーマイオニーの言葉はエマには届かない。
フレッドとジョージがハリーを助けようと近寄るが、近づくたびに箒は高く上空へ登ってしまう。
フレッドとジョージは下で輪を描くように飛び始めた。
もし、ハリーが落ちた時にキャッチするために。
マーカスはクァッフルを奪い、その隙に5点も入れていた。
エマは観衆をかき分け、スネイプの背後に回る。
休み時間、4人で凍てつくような寒さの時に、中庭でハーマイオニーが空のジャム瓶に消えない炎を灯してくれた。
その炎の瓶で4人で肩を寄せ合い暖をとった。
あの魔法がどうしても覚えたくてハーマイオニーに教えてもらったのだ。
エマはスネイプのローブに杖を指した。
「インセンディオ」
とても小さい火を放った。
ローブに燃え移るまでにエマはそそくさとその場を立ち去る。
エマが去る後ろの方で観客からまた違う悲鳴を聞き、スネイプの呪文を阻止できたと確信した時、人混みに紛れていたクィレル先生とぶつかる。
クィレル先生は転けそうになりながらも、手はターバンを抑えていた。
エマはヤバいと思い、謝りもせず人混みに身体を紛れさせて逃げた。
「あ!ハリーっ箒に跨がれた!ネビルっもう見ても大丈夫だよ!」
ロンがハグリッドのジャケットに顔を埋めて怯えてるネビルに声をかけた。
ハリーは急降下した。そして手を伸ばし、芝生の上に転がり落ちる。
観衆は静かになった。
ハリーは地上で四つん這いになり、苦しそうにしている。
「ハリー!吐くんか!?」
ハリーはお腹を抑えて、コポ…!と口から何かをだした。
「スニッチをとったぞ!!!!」
ハリーが競技場内で叫ぶ。手にはスニッチが握られていた。
「ハリー•ポッターがスニッチを掴んだ!!
170対60で勝ちました!!
グリフィンドールの勝利!!」
わああああ!!!
グリフィンドール側から割れんばかりの大歓声に次ぐ大歓声。
「やつは取ったんじゃない!!飲み込んだんだ!!」
大歓声の中フリントが喚き抗議したが、結果は変わらなかった。
「ハリーがスニッチ取った所見逃した!!」
「エマ!こんなタイミングでトイレ行くなんてバカじゃないのか?!」
ロンがやっと帰ってきたエマに、勝利の喜びを笑顔で表現しながらエマの背中を軽くこずいた。
ハーマイオニーはエマを見つめる。
瞳の奥でエマの事を感心していた。
「あなた、ハリーの事になると凄いのね」
ハーマイオニーはエマの鼻を摘む。
エマはフガフガと笑った。
※※※
試合が終わってすぐにハリー達は試合の後の騒ぎを抜けて、ハグリッドの小屋にいた。
ハグリッドが特別に濃い紅茶を淹れてくれている。
「スネイプよ」
ハーマイオニーが切り出した。
「ハリーの箒に呪いをかけてた。ずっとハリーから目を離さなかったわ」
ハーマイオニーの言葉にハリーは驚き、少し黙ってから口を開いく。
「あいつ、ハロウィンの日足をひこずってただろ。
僕、昨日スネイプに図書館で借りた本を没収された時に取り返そうと職員室に行ったんだ。
たまたま聞こえてきたんだけど、スネイプは4階の3頭犬が守ってる物を奪おうとして噛まれたらしいんだ。」
ハグリッドは持っていたティーカップを落とした。
ロンがびっくりして紅茶が飛んでこないように反射的に身体を縮めた。
「なんでフラッフィーをしっとるんだ」
「「「「フラッフィー?」」」」
「あの犬フラッフィーなんて名前があるの?!」
ロンが驚く。
「そう、俺の犬だ。パブで会ったギリシャ人から買ったんだ…守る為にダンブルドアに貸した」
「何を守るの?」
ハリーが身を乗り出した。
「これ以上聞くな!重大秘密なんだこれは…」
ハグリッドがぶっきらぼうに言った。
「だけどスネイプは盗もうとしたんだよ!」
「バカな!スネイプはホグワーツの教師だぞっそんな事する訳なかろう」
「ならどうしてハリーを殺そうとしたんだろ」
エマがどこを見るでもなく、でも真っ直ぐ見据えて言った。
「エマがスネイプを見つけて飛び出した後、私も見たわ。あれは呪文をかけてる時の顔よ。目を逸らさず、瞬きもせず対象を見続けて呪文を言うの。スネイプは瞬き一つもしなかった」
ハーマイオニーの言葉にハグリッドはフーーっと大きなため息をつき、壊れた紅茶カップをカチャカチャと片付け出した。
「俺はハリーの箒が何であんな動きをしたのかはわからん。だがスネイプは生徒を殺そうとしたりなどせん。
お前さん達は関係のない事に首を突っ込んどる。
あの犬の事も、犬が守ってる物も忘れるんだ、あれはダンブルドア先生とニコラス•フラメルの…」
「ニコラス•フラメル?」
ハグリッドはしまったと思ったのか手が止まった。
「いいから、全部わすれろ!」と喚いていた。
※※※※※※※※※※
12月の半ば、エマは暖炉の前で毛繕い中のミネットを見ていた。
前足の肉球をぺろぺろと舐めて耳後ろをかき、またぺろぺろと舐めるを繰り返している。
「ミネット」
エマが呼ぶとミネットは毛繕いをやめ、優雅にゆっくり歩いてやってきてソファに座るエマの膝の上にトン!と登った。
もうすぐクリスマス。
グリフィンドールの寮の談話室には、天井に届くほどの大きなクリスマスツリーが立ち、色とりどりのオーナメントボールやスターが散りばめられている。
魔法で蛍の光のような灯がツリーの周りでフワフワと光り、ツリーの周りだけ冷たくない雪が降っていた。
とても幻想的だ。
談話室では、エマの他にハリー、ハーマイオニー、ラベンダー、ロン、フレッド、ジョージ、リーがいた。
「エマは暇さえあればツリーを見てるね」
ハリーがマシュマロの浮いたココアを飲みながらエマの隣に座る。
「あ!いいなっ私も飲みたい!」
「ほらっ」
ソファの後ろから大きなマグカップが差し出される。
フレッドが、マグカップになみなみに入ったマシュマロココアを持ってきてくれた。
「おーまーけっ」
ジョージがさらにココアの上にホイップクリームスプレーをシューーとかけてくれる。
器用な事に、クリームは綺麗な螺旋を描いた。
エマは歓喜のため息をつき、マグカップを受け取る。
ミネットがサッと暖炉の前に移動した。
「ありがとう!」
エマはコク…とココアを飲む。
少し苦めなココアにマシュマロの甘味とクリームのコクが加わっている。
カカオのこうばしい香りが鼻を通った。
エマはその香りを思いっきり吸い込み、パッ!と口を鳴らす。
「…うまーー…」
口と鼻についた常温のクリームに気づく事なく、見事に綻び、顔がニヤけているエマをウィーズリー兄弟が優しい笑顔で見守っていた。
「…うわぁ、美味しそう、僕もクリーム頂戴」
ハリーもジョージに綺麗にクリームの螺旋を作ってもらい、ご満悦そうだ。
「おっ、いいな、俺にも作れよっ」
「ずるいわ!私にも頂戴!」
「私にも!」
リー、ハーマイオニー、ラベンダーも欲しがったが、既に人数分ココアは用意されていた。
結局全員、鼻と口にクリームをつけながらココアを楽しむ事になった。
なんて幸せな休日なんだ…。
「ねぇ、ハリーとエマは同じ所に住んでるの?」
ラベンダーがハリー達に尋ねる。
「ハリーとエマは血の繋がってない遠い親戚だって。
近くに住んでるけど同じ家じゃないよ」
隣にいたロンがラベンダーの鼻についたクリームを拭いながら答えた。
ラベンダーは「ロンだってついてる」と笑っていた。
「ハリーとエマはクリスマス休暇はどうするの?」
ハーマイオニーに尋ねられ、ハリーとエマは顔を見合わせた。
クリスマス休暇にあそこに帰る?ボクワーツを離れてわざわざあのダーズリー家に?
「僕たちは帰らないよ」
エマはウンウンと頷いてココアを飲んだ。
「お!じゃぁ一緒だな!」
「そうそう、今年のクリスマスはママ達がチャーリーに会いにルーマニアに行くんだ」
「今年は僕ら一緒に過ごせるんだね!」
ロンが喜んでハリーの隣にやってきた。
既に今年のクリスマスは最高になる予感がして、ハリーもエマも嬉しそうだ。
「ハーマイオニーはどうするの?」
「私はロンドンに帰るわ」
ラベンダーとリーも、毎年クリスマスは家族と過ごすので実家に帰るんだそう。
エマはきっとグリフィンドールの女子寮は私1人だろうと思うと少し寂しくなった。
ミネットが足元にやってきて「ニャァ」と鳴く。
エマはミネットを抱き上げてミネットのオデコと鼻を擦り合わせた。
「プレゼントを楽しみにしてて」
寂しがってるエマに気づいて、ハーマイオニーはエマの髪の毛をくりくりいじくりながら言った。
「うん!ありがとう」
「クリスマスイブは俺、初めて魔法ラジオに出るんだ、24日の21時!」
「え?!リー、ラジオに出るの?!凄いわ!」
エマが言うとリーは得意げにふんぞり返った。
「知り合いがやってんだよ。ゲストで少しだけ出れる事になったから、絶対聞いてくれよな!」
「リーとクィッディッチの実況本当に凄かったものね、プロみたいだった」
リーは肺にいっぱい空気をいれてもっと自慢げに胸を張った。
「うん、凄くわかりやすかったわ」
「あの実況で臨場感が凄く上がったよな」
「リーはいつか有名司会者になれるわよ」
「リーの司会がなかったらクィッディッチは始まらないよね」
後輩からの称賛の嵐にリーの胸は弾けそうに膨れ上がる。
膨れすぎて広がった鼻の穴に、フレッドが指を突っ込んだ。
「ヤメロこの!」
フレッドとリーがふざけてペシペシ叩き合う。
それを見てみんなが笑っていた。
ココアの上のクリームがすっかり溶けてしまっていた。
※※※※※※※※※※※
魔法薬学、息が白くなるほど寒い地下牢の中でスリザリンと合同授業。
今日は現在までの成績ごとにペアを組み、薬を調合する事になった。
ハリーとネビル、ロンとゴイル、ハーマイオニーとパーキンソン、エマとドラコという異例の組み合わせだ。
そして何故かセオドール•ノットはスネイプの横で授業の手伝いをしている。
この組分けに、グリフィンドールの生徒のほとんどが震え上がる。
ハリーはホッとするやらヒヤヒヤするやらと言った顔をしていたが、頭があまり良くない上に底意地の悪いゴイルと組んでいるロンよりはずっとマシだった。
ネビルやゴイルに比べたら、ハリーもロンもそこまで成績が悪いわけでは無いだろうが、そこにスネイプの悪意が感じられる。
ロンは憎々しげにスネイプの後ろ姿を睨み、ついでにハリーにも睨んでいた。
今日は『元気爆発薬』を作る。
グリンゴッツのトロッコに酔った後、ハグリッドが漏れ鍋で飲んだあの薬だ。
ドラコは精製水の量の微調整をしており、スポイトで一滴一滴丁寧に測っていた。
精製水が凍らないように、エマが大鍋に火をつける。
「ねぇ、ドラコはクリスマス家に帰るの?」
ドラコは黙って測り続け、最後の一滴が終わった後に顔を上げ、鼻を少し啜り前を見ながら答えた。
「当たり前だ。クリスマスは家族と過ごすもんだろ」
エマは「そっか」と言い、山生姜を手が悴んで動かなくならないように、鍋の火の近くで潰した。
エマを見ながらドラコはニヤリと笑う。
「かわいそうに、お前やポッターは家に帰れないのか?」
「えぇ、むしろ帰りたくないの。ここでみんなといる方がいい」
ドラコに意地悪く言われたが、特に気にする様子もなく山生姜を測りに乗せて重さを見る。
ドラコはまだまだ口がよくまわった。
「ポッターの『発作』はもう収まったのか?」
「もしかしてクィディッチの時の事言ってるの?あれは発作じゃないわ」
「気の毒にな、『発作』が起きるシーカーなんて致命的だぞ」
「だから発作じゃないって」
「じゃぁなんだっていうんだ」
スネイプの呪いよ、と言いたかったがエマは黙る。
「発作が起きる上にクリスマスに帰る家もないなんて本当に同情するよ」
このヤロウ、人が何を言おうと関係ないんだな。
「プレゼントをもらえる当てはあるのか?」
「ないわよっもういいから手を動かしなさいっ」
エマは羽衣草をズイッとドラコに差し出した。
ドラコは顔顰め、エマをチラリと睨むも羽衣草を潰し始める。
前の席では、ロン、ゴイルのペアからあり得ない量の煙が大鍋から出ていた。
「お前達はマグルの世界で、どんな生活してたんだ」
ドラコはまだハリーを貶めたいのかとエマは呆れる。
「親が死んで、意地悪な親戚に召使いみたいに働かせながらいつもお腹を空かせてる以外は別に普通よ。」
エマが嫌味を込めて言った。
ドラコはさぞ喜ぶだろうかと思っていたが、何も言わなかった。
急に静かになったので、エマはドラコを見た。
「あら?もしかして本当に同情したの?」
「…フン!そんなわけないだろっ」
エマがドラコの顔を覗き込む。
ドラコは少しだけ目を泳がせたが咳払いをし、無視する事にしたらしい。
エマは肩をすくめて、マンドレイクの根の泥を落とした。
工程が進み、エマが鍋をかき回す為に銀のスプーンを取ろうとした時、ドラコもスプーンを取ろうとしてエマの手の上にドラコの手が重なった。
お互いに顔を合わせる。
ドキッと心臓が跳ね上がった。
理解が追いついてから2人は慌てて手を引っ込め、
同時に顔を背けた。
忘れていたのに、先日助けてもらった時の事を思い出してしまった。
ドラコと手が触れ合ったのはこれが初めてではないが、咄嗟に手を引っ込めてしまい余計きまずい。
何か話さないと…
この間のお礼はおかしいし、恥ずかしすぎる。何か別の話題を…
「…ド、ドラコの体って温たかいよね!手も凄くあったかい!」
私は何をいってるんだ!
「…1つくらいなら…送ってやる…」
…何を??
向こうを向いてるドラコの耳が赤い。
1つくらい送るって、もしかしてプレゼントの事?
ドラコが私に…?
聞き間違いかもしれない…でも…
ジワリと胸が暖かくなった。それと同時に居た堪れなくなるような感じがして、顔に血が昇っているのを感じる。
凄く寒いのに、顔が熱い。
大鍋からふつふつふつと音がしている。
ピッと熱い液体がエマの手にかかり、正気に戻った。
「あ、あ!大変!」
次の工程を急がなくてはいけない事を思い出して、2人は慌てて作業に戻る。
二角獣の角を手に取った時、エマが何かに気がついた。
あっ、これは…!
「先生!」
エマが手を挙げて、ちょうどハリーとネビルの所で減点を言い渡していたスネイプに声をかけた。
ハリー、ロン、ハーマイオニー、クラスの全員がびっくりしてエマを見た。
グリフィンドールの生徒がスネイプに物を言う事は、ハーマイオニー以外はもうぼぼなくなっていたからだ。
急に沢山の視線を集めて、緊張するエマ。
スネイプがツカツカとこちらにやってきた。
「作業に集中したまえ、ミスファース…」
エマは減点を言い渡される前に、スネイプに持っていた二角獣の角を差し出した。
それを見たスネイプが少し驚いたように目を見開き、受け取る。
「ミスファース、何故これを我が輩に見せたのか言ってみろ」
スネイプの低い声が響く。
「この角には根本と先端に小さい赤茶色の斑点が出現しています。毒豆虫に寄生された果実を食べ、二重寄生された二角獣の死骸の角に出る反応です」
「…この斑点が出現するまでにかかる期間は?」
「6ヶ月から12ヶ月です」
「…斑点が出現した角とマンドレイクの根を使って薬を調合した場合はどうなる?」
「神経錯乱薬が出来ます」
「………では、海熊の肝臓とトカゲキノコでは?」
「7日熟成させると猛毒薬が出来ます」
「この猛毒薬に対する解毒薬の材料を答えよ…」
「毒豆虫を主食としているキイロ鳥の糞と、たんぽぽの根、満月草、海熊の心臓です。」
「杖を振るタイミングは…?」
「第二段階の3工程目です」
エマは自分でも不思議なくらい淡々と答えた。
スネイプは黙ってエマを見つめる。
「…ノット、二角獣の角を用意する時には今の事をしっかり覚えておけ」
スネイプはエマに背を向け教台へ向かった。
「…グリフィンドールに5点」
ザワザワと教室が騒がしくなる。
ハリーは信じられないと驚いている。
ロンもハーマイオニーもお互いに口を開けて顔を見合わせていた。
「あり得ない!」
しっかりと聞こえる声で言ったのはパーキンソンだ。
彼女は忌々しげにエマを睨んでいる。
その迫力にやや圧倒されながら、エマは大人しく前を向いた。
セオドールが代わりの角をこちらに持ってきて、エマに手渡した。
「ファース、やるねぇ」
セオドールがエマを見つめ、ニヤリと笑う。
そしてすぐに踵を返し、スネイプの横につく。
ドラコも驚いてエマを見ていた。
右斜め前からのパーキンソンの視線を感じながら、エマはスネイプからのグリフィンドール初加点の喜びを味わう事もなく、居心地が悪いまま作業をつづけた。
今日はクィディッチの試合の日、そしてハリーのデビュー戦だ。
大広間はウキウキソワソワした空気とソーセージの焼けた良い匂いが漂っている。
エマはハリーの練習風景を見た事無かったが、どんなプレイをするのかワクワクしていた。
それに相反して当の本人は目の下がややぼやけたような顔で、ソーセージをフォークでツンツン突いているだけだった。
「ハリー、昨日寝れた?」
ハリーは首を横に振った。
「色々考えちゃって全然寝れなかった」
「しっかり食べなきゃダメよ」
ハーマイオニーがロンの隣から声をかけた。
ハリーはプスリ…とソーセージをフォークに刺すが、やっぱり食べる気が起きないらしい。
あと2時間もすれば、ハリーは大勢に見守られながらグラウンドに入場する。
ハリーはついにソーセージを一口も食べないままフォークを置いてしまった。
ロンが「食べておけ!」とトーストにソーセージを挟んだ物をハリーの口に無理やりねじり込んだ。
それから間も無くして、選手は控え室に向かう時間になった。
「ハリー行くぞ!」
ジョージがハリーの肩を軽くパンチし、フレッドがエマに向かってニヤリと笑いながらガッツポーズをした。
2人は溢れ出る闘志を体現するように堂々と歩く。
ハリーは立ち上がり、2人の後について大広間を出ていった。
※※※
10時には学校中からクィディッチ競技場の観客席に詰めかけた。
エマ、ロン、ハーマイオニーはネビルやシェーマス達と一緒に最上段の席にいた。
この日の為にみんなでベットシーツで作った『ハリーポッターを大統領に!!』という旗を広げる。
旗にはハーマイオニーが魔法で文字をキラキラと光らせてくれたのでよく目立った。
「ハリー、大丈夫かな」
「大丈夫さ!この時の為に死ぬほど練習したんだ」
今朝のハリーの様子を見ていたエマとロンは、自分がこれから入場するかのように緊張している。
エマは真剣な面持ちで右手で十時を切りその手の甲にキスをして空に掲げた。
それを見てロンも真剣な面持ちで真似をする。
そんな2人の様子をシェーマスが「何してんだよ」とケタケタ笑った。
ハーマイオニーはやれやれと首を振り、双眼鏡を覗く。
「あ!!ハリーよ!」
ハーマイオニーの声は大歓声にかき消された。
グリフィンドールの選手とスリザリンの選手が競技場に出てきた。
「どれ?!どれがハリー??」
「全部豆みたいでわからないよ!」
ハーマイオニーは、2人の首から下げてるそれは何なのよ?と言いたげな表情で、ロンの双眼鏡をロンの目に押しやった。
エマもその様子に気付き、慌てて双眼鏡を覗く。
暫く芝生やらスリザリンの選手を映していた双眼鏡はハリーを捉えた。
ハリーは緊張しながらフレッドとジョージの後ろにいる。
赤いローブのようなユニフォームは左胸にグリフィンドールの紋章が刺繍されており、両手には皮のグローブ、右手にはニンバス2000が握られている。
「きゃーーーハリー!!かっこいいーーー!!」
エマは双眼鏡を覗き込みながら笑顔でハリーに手を振った。
両チームは競技場の真ん中で横並びに立ち、互いに向かい合う。
競技場は暫く大歓声が続いていたが、両選手の真ん中にいるマダムフーチの増幅魔法で大きくした声が響き渡る。
「さぁ!!皆さん、正々堂々!戦いましょう!!」
会場が静かになる。
「よーい!箒に乗ってっ…!!」
フーチ審判の銀の笛が鳴り響く。
15本の箒が空に舞い上がる。
高くさらに高く、試合開始だ。
「さあ!始まりました!今シーズン最初のクィディッチ!司会は私、リー•ジョーダンが務めさせていただきます!
さてクアッフルはたちまちグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンが取りました!
何て素晴らしいチェイサーでしょう、その上かなり魅力的であります!」
リーのマイク実況だ。
「ジョンソン選手突っ走っております。
アリシア・スピネットにきれいなパス!ジョンソンにクアッフルが返る、
そして…あ、駄目です」
「スリザリンがクアッフルを奪いました。
キャプテンのマーカス・フリントが取って走る!
ゴールを決めるか…いやグリフィンドールのキーパーウッドが素晴らしい動きでストップしました!」
「クアッフルは再びグリフィンドールへ、
あ、あれはグリフィンドールのチェイサー、ケイティ・ベルです!
フリントの周りで素晴らしい急降下!!ゴールに向かって飛びます!
あいたっ!これは痛かった!!」
「ブラッジャーが後頭部にぶつかりました。
クアッフルはスリザリンに取られました。
今度はエイトリアン・ピュシーがゴールに向かってダッシュしています。
しかしこれは別のブラッジャーに阻まれた!」
「フレッドなのかジョージなのか見分けはつきませんがウィーズリーのどちらかが狙い撃ちをかけた!
グリフィンドール、ビーターのファインブレイですねっそしてクアッフルは再びジョンソンの手に!」
「前方には誰もいません!さあ飛び出した!
ジョンソン選手、ブラッジャーが物凄いスピードで襲うのをかわすっゴールは目の前だ!頑張れ!!
今だアンジェリーナ!!
キーパーのブレッチリーが飛びつく…がミスした!」
「グリフィンドール先取点!!!」
グリフィンドールの席から大歓声が上がった。
向かいのスリザリン側からはブーイングが起こっている。
エマもワー!!と一生懸命拍手をしていると、ぐいっと大きな体に押された。
「ハグリッド!」
「おう!ちょっと詰めてくれや!」
大きなハグリッドが座れるように、みんな席をギュウギュウに詰めた。
「小屋からじゃやっぱりな…会場でみにゃ!
スニッチは見つかったか?」
「まだだよ。ハリーは今はする事なくて上空にいる」
「あぁ、敵選手に狙われんように間をおいとるんだ。今はそれがええ。」
「さて今度はスリザリンの攻撃です。
チェイサーのピュシーはブラッジャーを2つかわし双子のウィーズリーをかわしチェイサーのベルをかわして物凄い勢いで・・・ちょっと待ってください!あれはスニッチか?!」
観客席がザワザワとなった。エイドリアン•ピシューがクァッフルを落とした。
その時ハリーがすごい速さで急降下した。
獲物を見つけた鷹のようだ。
スリザリンのシーカー、テレンス•ヒッグズとハリーの箒が並ぶ。
2人が飛ぶ先の先端にスニッチがある。
2人は追いつ追われつと大接戦だ。
ハリーがヒッグズよりも早かった。
ハリーの箒が一段とスピードを増す。
その瞬間だった。
グリフィンドールの席から怒りの声が湧き上がる。
「反則だ!!!」
マーカス•フリントがハリーに体当たりし、ハリーは箒ごと場外へ弾き飛ばされる。
ロン達の席でも悲鳴や怒号が飛んだ。
エマは手に汗を握りながらハリーを双眼鏡で見た。
ハリーはなんとか箒にしがみつき、無事だ。
フレッドがブラッジャーをマーカスめがけて勢いよく叩きつける。
「フリントはもう少しでハリーを地上に突き落とすところだったわい、クィディッチに反則はないが、ルールを見直すべきだ」
ハグリッドも怒っていた。
リーの実況にも不満が漏れ出る。
「えー誰が見てもはっきりと胸糞の悪くなるようなインチキの後…え?なんです?はいはい…えー、おおっぴらで不快なファールの後…あ、はいはい、了解ボス。
フリントはグリフィンドールのシーカーを殺しそうになりました、誰にでもあり得るようなミスですね、きっと。
そこでグリフィンドールのペナルティ・スローです。
スピネットが投げました。さあ、ゲーム続行!
クアッフルはグリフィンドールが持ったままです」
双眼鏡でずっとハリーを追っていたエマが異変に気づく。
ハリーは変な動きをしていた。ハリーの箒はグイッと動いたり、ビクビクっと動いたりしながら上へ、下へゆっくりと試合会場から遠ざけてるようだった。
「ハリー、あれは一体してるの?!」
エマの言葉にロン達もハリーを見た。
ハリーのニンバス2000がハリーの指示通りに動かないどころかハリーを振り落とそうと空中をジグザグに飛んだり、激しく揺れ動き、あわやハリーは振り落とされそうだ。
観客があちこちで一斉にハリーの方を指した。
箒が激しくハリーを揺さぶり、ハリーは箒の柄に何とかしがみついてる状態だ。
観客は総立ちだ。
「フリントがぶつかった時、箒がどうかしちゃったのか?!」
ロンが双眼鏡を覗き込みながら叫ぶ。
「強力な闇の魔術以外、ニンバス2000には悪さは出来ん。ここにいるチビどもには絶対無理だ」
ハグリッドが言い切った。
箒の不自然な動きに誰かの殺意を感じたエマは脳内にアドレナリンが活性化するのを感じた。
ハリーの命がかかっている。
双眼鏡で観客席を端から端まで見る。
怪しい動きをしている物を見つけた。会場を挟んで向かいの席にいるスネイプが、恐怖したり動揺している客達とは似ても似つかず、瞬きもせずハリーを見つめ絶え間なく口を動かしている。
スネイプだ!!
エマが突然走り出た。
「エマ!どこいくの!」
ハーマイオニーの言葉はエマには届かない。
フレッドとジョージがハリーを助けようと近寄るが、近づくたびに箒は高く上空へ登ってしまう。
フレッドとジョージは下で輪を描くように飛び始めた。
もし、ハリーが落ちた時にキャッチするために。
マーカスはクァッフルを奪い、その隙に5点も入れていた。
エマは観衆をかき分け、スネイプの背後に回る。
休み時間、4人で凍てつくような寒さの時に、中庭でハーマイオニーが空のジャム瓶に消えない炎を灯してくれた。
その炎の瓶で4人で肩を寄せ合い暖をとった。
あの魔法がどうしても覚えたくてハーマイオニーに教えてもらったのだ。
エマはスネイプのローブに杖を指した。
「インセンディオ」
とても小さい火を放った。
ローブに燃え移るまでにエマはそそくさとその場を立ち去る。
エマが去る後ろの方で観客からまた違う悲鳴を聞き、スネイプの呪文を阻止できたと確信した時、人混みに紛れていたクィレル先生とぶつかる。
クィレル先生は転けそうになりながらも、手はターバンを抑えていた。
エマはヤバいと思い、謝りもせず人混みに身体を紛れさせて逃げた。
「あ!ハリーっ箒に跨がれた!ネビルっもう見ても大丈夫だよ!」
ロンがハグリッドのジャケットに顔を埋めて怯えてるネビルに声をかけた。
ハリーは急降下した。そして手を伸ばし、芝生の上に転がり落ちる。
観衆は静かになった。
ハリーは地上で四つん這いになり、苦しそうにしている。
「ハリー!吐くんか!?」
ハリーはお腹を抑えて、コポ…!と口から何かをだした。
「スニッチをとったぞ!!!!」
ハリーが競技場内で叫ぶ。手にはスニッチが握られていた。
「ハリー•ポッターがスニッチを掴んだ!!
170対60で勝ちました!!
グリフィンドールの勝利!!」
わああああ!!!
グリフィンドール側から割れんばかりの大歓声に次ぐ大歓声。
「やつは取ったんじゃない!!飲み込んだんだ!!」
大歓声の中フリントが喚き抗議したが、結果は変わらなかった。
「ハリーがスニッチ取った所見逃した!!」
「エマ!こんなタイミングでトイレ行くなんてバカじゃないのか?!」
ロンがやっと帰ってきたエマに、勝利の喜びを笑顔で表現しながらエマの背中を軽くこずいた。
ハーマイオニーはエマを見つめる。
瞳の奥でエマの事を感心していた。
「あなた、ハリーの事になると凄いのね」
ハーマイオニーはエマの鼻を摘む。
エマはフガフガと笑った。
※※※
試合が終わってすぐにハリー達は試合の後の騒ぎを抜けて、ハグリッドの小屋にいた。
ハグリッドが特別に濃い紅茶を淹れてくれている。
「スネイプよ」
ハーマイオニーが切り出した。
「ハリーの箒に呪いをかけてた。ずっとハリーから目を離さなかったわ」
ハーマイオニーの言葉にハリーは驚き、少し黙ってから口を開いく。
「あいつ、ハロウィンの日足をひこずってただろ。
僕、昨日スネイプに図書館で借りた本を没収された時に取り返そうと職員室に行ったんだ。
たまたま聞こえてきたんだけど、スネイプは4階の3頭犬が守ってる物を奪おうとして噛まれたらしいんだ。」
ハグリッドは持っていたティーカップを落とした。
ロンがびっくりして紅茶が飛んでこないように反射的に身体を縮めた。
「なんでフラッフィーをしっとるんだ」
「「「「フラッフィー?」」」」
「あの犬フラッフィーなんて名前があるの?!」
ロンが驚く。
「そう、俺の犬だ。パブで会ったギリシャ人から買ったんだ…守る為にダンブルドアに貸した」
「何を守るの?」
ハリーが身を乗り出した。
「これ以上聞くな!重大秘密なんだこれは…」
ハグリッドがぶっきらぼうに言った。
「だけどスネイプは盗もうとしたんだよ!」
「バカな!スネイプはホグワーツの教師だぞっそんな事する訳なかろう」
「ならどうしてハリーを殺そうとしたんだろ」
エマがどこを見るでもなく、でも真っ直ぐ見据えて言った。
「エマがスネイプを見つけて飛び出した後、私も見たわ。あれは呪文をかけてる時の顔よ。目を逸らさず、瞬きもせず対象を見続けて呪文を言うの。スネイプは瞬き一つもしなかった」
ハーマイオニーの言葉にハグリッドはフーーっと大きなため息をつき、壊れた紅茶カップをカチャカチャと片付け出した。
「俺はハリーの箒が何であんな動きをしたのかはわからん。だがスネイプは生徒を殺そうとしたりなどせん。
お前さん達は関係のない事に首を突っ込んどる。
あの犬の事も、犬が守ってる物も忘れるんだ、あれはダンブルドア先生とニコラス•フラメルの…」
「ニコラス•フラメル?」
ハグリッドはしまったと思ったのか手が止まった。
「いいから、全部わすれろ!」と喚いていた。
※※※※※※※※※※
12月の半ば、エマは暖炉の前で毛繕い中のミネットを見ていた。
前足の肉球をぺろぺろと舐めて耳後ろをかき、またぺろぺろと舐めるを繰り返している。
「ミネット」
エマが呼ぶとミネットは毛繕いをやめ、優雅にゆっくり歩いてやってきてソファに座るエマの膝の上にトン!と登った。
もうすぐクリスマス。
グリフィンドールの寮の談話室には、天井に届くほどの大きなクリスマスツリーが立ち、色とりどりのオーナメントボールやスターが散りばめられている。
魔法で蛍の光のような灯がツリーの周りでフワフワと光り、ツリーの周りだけ冷たくない雪が降っていた。
とても幻想的だ。
談話室では、エマの他にハリー、ハーマイオニー、ラベンダー、ロン、フレッド、ジョージ、リーがいた。
「エマは暇さえあればツリーを見てるね」
ハリーがマシュマロの浮いたココアを飲みながらエマの隣に座る。
「あ!いいなっ私も飲みたい!」
「ほらっ」
ソファの後ろから大きなマグカップが差し出される。
フレッドが、マグカップになみなみに入ったマシュマロココアを持ってきてくれた。
「おーまーけっ」
ジョージがさらにココアの上にホイップクリームスプレーをシューーとかけてくれる。
器用な事に、クリームは綺麗な螺旋を描いた。
エマは歓喜のため息をつき、マグカップを受け取る。
ミネットがサッと暖炉の前に移動した。
「ありがとう!」
エマはコク…とココアを飲む。
少し苦めなココアにマシュマロの甘味とクリームのコクが加わっている。
カカオのこうばしい香りが鼻を通った。
エマはその香りを思いっきり吸い込み、パッ!と口を鳴らす。
「…うまーー…」
口と鼻についた常温のクリームに気づく事なく、見事に綻び、顔がニヤけているエマをウィーズリー兄弟が優しい笑顔で見守っていた。
「…うわぁ、美味しそう、僕もクリーム頂戴」
ハリーもジョージに綺麗にクリームの螺旋を作ってもらい、ご満悦そうだ。
「おっ、いいな、俺にも作れよっ」
「ずるいわ!私にも頂戴!」
「私にも!」
リー、ハーマイオニー、ラベンダーも欲しがったが、既に人数分ココアは用意されていた。
結局全員、鼻と口にクリームをつけながらココアを楽しむ事になった。
なんて幸せな休日なんだ…。
「ねぇ、ハリーとエマは同じ所に住んでるの?」
ラベンダーがハリー達に尋ねる。
「ハリーとエマは血の繋がってない遠い親戚だって。
近くに住んでるけど同じ家じゃないよ」
隣にいたロンがラベンダーの鼻についたクリームを拭いながら答えた。
ラベンダーは「ロンだってついてる」と笑っていた。
「ハリーとエマはクリスマス休暇はどうするの?」
ハーマイオニーに尋ねられ、ハリーとエマは顔を見合わせた。
クリスマス休暇にあそこに帰る?ボクワーツを離れてわざわざあのダーズリー家に?
「僕たちは帰らないよ」
エマはウンウンと頷いてココアを飲んだ。
「お!じゃぁ一緒だな!」
「そうそう、今年のクリスマスはママ達がチャーリーに会いにルーマニアに行くんだ」
「今年は僕ら一緒に過ごせるんだね!」
ロンが喜んでハリーの隣にやってきた。
既に今年のクリスマスは最高になる予感がして、ハリーもエマも嬉しそうだ。
「ハーマイオニーはどうするの?」
「私はロンドンに帰るわ」
ラベンダーとリーも、毎年クリスマスは家族と過ごすので実家に帰るんだそう。
エマはきっとグリフィンドールの女子寮は私1人だろうと思うと少し寂しくなった。
ミネットが足元にやってきて「ニャァ」と鳴く。
エマはミネットを抱き上げてミネットのオデコと鼻を擦り合わせた。
「プレゼントを楽しみにしてて」
寂しがってるエマに気づいて、ハーマイオニーはエマの髪の毛をくりくりいじくりながら言った。
「うん!ありがとう」
「クリスマスイブは俺、初めて魔法ラジオに出るんだ、24日の21時!」
「え?!リー、ラジオに出るの?!凄いわ!」
エマが言うとリーは得意げにふんぞり返った。
「知り合いがやってんだよ。ゲストで少しだけ出れる事になったから、絶対聞いてくれよな!」
「リーとクィッディッチの実況本当に凄かったものね、プロみたいだった」
リーは肺にいっぱい空気をいれてもっと自慢げに胸を張った。
「うん、凄くわかりやすかったわ」
「あの実況で臨場感が凄く上がったよな」
「リーはいつか有名司会者になれるわよ」
「リーの司会がなかったらクィッディッチは始まらないよね」
後輩からの称賛の嵐にリーの胸は弾けそうに膨れ上がる。
膨れすぎて広がった鼻の穴に、フレッドが指を突っ込んだ。
「ヤメロこの!」
フレッドとリーがふざけてペシペシ叩き合う。
それを見てみんなが笑っていた。
ココアの上のクリームがすっかり溶けてしまっていた。
※※※※※※※※※※※
魔法薬学、息が白くなるほど寒い地下牢の中でスリザリンと合同授業。
今日は現在までの成績ごとにペアを組み、薬を調合する事になった。
ハリーとネビル、ロンとゴイル、ハーマイオニーとパーキンソン、エマとドラコという異例の組み合わせだ。
そして何故かセオドール•ノットはスネイプの横で授業の手伝いをしている。
この組分けに、グリフィンドールの生徒のほとんどが震え上がる。
ハリーはホッとするやらヒヤヒヤするやらと言った顔をしていたが、頭があまり良くない上に底意地の悪いゴイルと組んでいるロンよりはずっとマシだった。
ネビルやゴイルに比べたら、ハリーもロンもそこまで成績が悪いわけでは無いだろうが、そこにスネイプの悪意が感じられる。
ロンは憎々しげにスネイプの後ろ姿を睨み、ついでにハリーにも睨んでいた。
今日は『元気爆発薬』を作る。
グリンゴッツのトロッコに酔った後、ハグリッドが漏れ鍋で飲んだあの薬だ。
ドラコは精製水の量の微調整をしており、スポイトで一滴一滴丁寧に測っていた。
精製水が凍らないように、エマが大鍋に火をつける。
「ねぇ、ドラコはクリスマス家に帰るの?」
ドラコは黙って測り続け、最後の一滴が終わった後に顔を上げ、鼻を少し啜り前を見ながら答えた。
「当たり前だ。クリスマスは家族と過ごすもんだろ」
エマは「そっか」と言い、山生姜を手が悴んで動かなくならないように、鍋の火の近くで潰した。
エマを見ながらドラコはニヤリと笑う。
「かわいそうに、お前やポッターは家に帰れないのか?」
「えぇ、むしろ帰りたくないの。ここでみんなといる方がいい」
ドラコに意地悪く言われたが、特に気にする様子もなく山生姜を測りに乗せて重さを見る。
ドラコはまだまだ口がよくまわった。
「ポッターの『発作』はもう収まったのか?」
「もしかしてクィディッチの時の事言ってるの?あれは発作じゃないわ」
「気の毒にな、『発作』が起きるシーカーなんて致命的だぞ」
「だから発作じゃないって」
「じゃぁなんだっていうんだ」
スネイプの呪いよ、と言いたかったがエマは黙る。
「発作が起きる上にクリスマスに帰る家もないなんて本当に同情するよ」
このヤロウ、人が何を言おうと関係ないんだな。
「プレゼントをもらえる当てはあるのか?」
「ないわよっもういいから手を動かしなさいっ」
エマは羽衣草をズイッとドラコに差し出した。
ドラコは顔顰め、エマをチラリと睨むも羽衣草を潰し始める。
前の席では、ロン、ゴイルのペアからあり得ない量の煙が大鍋から出ていた。
「お前達はマグルの世界で、どんな生活してたんだ」
ドラコはまだハリーを貶めたいのかとエマは呆れる。
「親が死んで、意地悪な親戚に召使いみたいに働かせながらいつもお腹を空かせてる以外は別に普通よ。」
エマが嫌味を込めて言った。
ドラコはさぞ喜ぶだろうかと思っていたが、何も言わなかった。
急に静かになったので、エマはドラコを見た。
「あら?もしかして本当に同情したの?」
「…フン!そんなわけないだろっ」
エマがドラコの顔を覗き込む。
ドラコは少しだけ目を泳がせたが咳払いをし、無視する事にしたらしい。
エマは肩をすくめて、マンドレイクの根の泥を落とした。
工程が進み、エマが鍋をかき回す為に銀のスプーンを取ろうとした時、ドラコもスプーンを取ろうとしてエマの手の上にドラコの手が重なった。
お互いに顔を合わせる。
ドキッと心臓が跳ね上がった。
理解が追いついてから2人は慌てて手を引っ込め、
同時に顔を背けた。
忘れていたのに、先日助けてもらった時の事を思い出してしまった。
ドラコと手が触れ合ったのはこれが初めてではないが、咄嗟に手を引っ込めてしまい余計きまずい。
何か話さないと…
この間のお礼はおかしいし、恥ずかしすぎる。何か別の話題を…
「…ド、ドラコの体って温たかいよね!手も凄くあったかい!」
私は何をいってるんだ!
「…1つくらいなら…送ってやる…」
…何を??
向こうを向いてるドラコの耳が赤い。
1つくらい送るって、もしかしてプレゼントの事?
ドラコが私に…?
聞き間違いかもしれない…でも…
ジワリと胸が暖かくなった。それと同時に居た堪れなくなるような感じがして、顔に血が昇っているのを感じる。
凄く寒いのに、顔が熱い。
大鍋からふつふつふつと音がしている。
ピッと熱い液体がエマの手にかかり、正気に戻った。
「あ、あ!大変!」
次の工程を急がなくてはいけない事を思い出して、2人は慌てて作業に戻る。
二角獣の角を手に取った時、エマが何かに気がついた。
あっ、これは…!
「先生!」
エマが手を挙げて、ちょうどハリーとネビルの所で減点を言い渡していたスネイプに声をかけた。
ハリー、ロン、ハーマイオニー、クラスの全員がびっくりしてエマを見た。
グリフィンドールの生徒がスネイプに物を言う事は、ハーマイオニー以外はもうぼぼなくなっていたからだ。
急に沢山の視線を集めて、緊張するエマ。
スネイプがツカツカとこちらにやってきた。
「作業に集中したまえ、ミスファース…」
エマは減点を言い渡される前に、スネイプに持っていた二角獣の角を差し出した。
それを見たスネイプが少し驚いたように目を見開き、受け取る。
「ミスファース、何故これを我が輩に見せたのか言ってみろ」
スネイプの低い声が響く。
「この角には根本と先端に小さい赤茶色の斑点が出現しています。毒豆虫に寄生された果実を食べ、二重寄生された二角獣の死骸の角に出る反応です」
「…この斑点が出現するまでにかかる期間は?」
「6ヶ月から12ヶ月です」
「…斑点が出現した角とマンドレイクの根を使って薬を調合した場合はどうなる?」
「神経錯乱薬が出来ます」
「………では、海熊の肝臓とトカゲキノコでは?」
「7日熟成させると猛毒薬が出来ます」
「この猛毒薬に対する解毒薬の材料を答えよ…」
「毒豆虫を主食としているキイロ鳥の糞と、たんぽぽの根、満月草、海熊の心臓です。」
「杖を振るタイミングは…?」
「第二段階の3工程目です」
エマは自分でも不思議なくらい淡々と答えた。
スネイプは黙ってエマを見つめる。
「…ノット、二角獣の角を用意する時には今の事をしっかり覚えておけ」
スネイプはエマに背を向け教台へ向かった。
「…グリフィンドールに5点」
ザワザワと教室が騒がしくなる。
ハリーは信じられないと驚いている。
ロンもハーマイオニーもお互いに口を開けて顔を見合わせていた。
「あり得ない!」
しっかりと聞こえる声で言ったのはパーキンソンだ。
彼女は忌々しげにエマを睨んでいる。
その迫力にやや圧倒されながら、エマは大人しく前を向いた。
セオドールが代わりの角をこちらに持ってきて、エマに手渡した。
「ファース、やるねぇ」
セオドールがエマを見つめ、ニヤリと笑う。
そしてすぐに踵を返し、スネイプの横につく。
ドラコも驚いてエマを見ていた。
右斜め前からのパーキンソンの視線を感じながら、エマはスネイプからのグリフィンドール初加点の喜びを味わう事もなく、居心地が悪いまま作業をつづけた。