賢者の石
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ものすごく大事な物か、ものすごく危険な物だな!」
朝食時の大広間。
ロンは興奮しながら昨夜の話をした。
3人はあの後フェルチから逃げる為に、命カラガラ四階の右側の廊下に出たんだそうだ。
そこには頭が三つある恐ろしい巨大な怪物犬が、下の扉らしきものの上に鎮座していた。
その後必死で逃げ帰り、事なきを得たとの事だった。
2人は何か大事な物を隠してるに違いないと踏んでいる。
「凄く大事な物で、凄く危険な物だよ!エマ…!」
ハリーも興奮していた。
「ほら、ハグリッドがホグワーツに持っていったもの覚えてるだろう?僕はあれが怪しんじゃないかと思う」
ハリーの誕生日の日に、3人が初めてダイアゴン横丁を訪れ、グリンゴッツで金庫を開けた時にハグリッドが持っていった小さな黒い包み。
確かに怪しい。
この学園にそんな大きな怪物を置いておく理由は何かを守りたい以外に考えられない。
エマも大変興味を持ったが、いまいち2人の温度についていけないでいた。
昨夜のドラコの事と、謎のスリザリン生が気になっていたのだ。
2人に昨日の事を話すのはめんどくさい事になるだけなので、絶対に言いたくなかった。
エマは2人の話をうんうんと聞くに徹する事にした。
すると後ろからネビルがエマにおずおずと話しかけてきた。
「エマっ!あの僕、ごめん!先に逃げちゃって…昨日の地下牢ゴボっ…」
エマは咄嗟にネビルの口を塞ぐ。
ロンとハリーはエマとネビルを交互に見た。
「…どうしたんだよ」
ネビルの顔を覗き込むエマの顔は、笑ったり心配そうにしたりと表情が迷子になっているが、強く塞いだ手のせいで、ネビルの顔がみるみるピンク色になっているのには気づかない。
「ネビルー?どうしたのー?吐きそう?大丈夫??昨日身体中青くて体調悪そうだったもんねー!一緒に医務室いこうーっ」
エマはほぼ担ぐようにしてネビルを大広間から連れ出した。
ハリーとロンがポカンとして2人を見送るしかない。
「あの2人あんなに仲良かったか?」
ロンがハリーに言ったが、ハリーは訝しげに顔を顰めた。
※※※
エマは大広間を抜けてしばらく廊下を歩いていたが、ネビルが苦しそうにバシバシとエマの腕を叩いたので、思い出したかのように解放した。
「僕、気持ち悪くないよ!医務室行かなくて大丈夫…!」
「ゴメンゴメン…そうだよね。医務室に行くつもりはないの、ただ…」
エマはネビルに近寄り、小声で話した。
「昨日地下牢にいた事、ハリー達には内緒にして。心配かけたくないから」
ネビルは小さく頷く。
「…あの後ピーブスが地下牢で叫んでるのが聞こえて、エマを置き去りにしてるのを思い出して急いで戻ったんだ」
エマは驚いた。
ピーブスが地下牢の階段に向かって叫んだ後に聞こえてた足跡は、フェルチではなくネビルのだったのだ。
「地下牢についたらエマがいなくなってて、代わりにピーブスがいたんだ。あの後ピーブスに追いかけられて、僕結局二階の男子トイレで一晩過ごしたんだ。」
そうだったのか。
エマは一時でもこの腰抜けと罵倒しそうになった自分を責めた。
あんなに怖がっていたのに、助けに戻ってきてくれていたとは。
エマは手を広げ、ネビルに抱きつく。
ネビルは息を止め、身体にグッ!と力が入りカチコチになった。
「ありがとうネビル、意外と勇気があるんだね」
エマはネビルから手を離し、カチコチのままのネビルに笑いかける。
「あの後、私上手く逃げ切れたんだよ、ネビルもハリー達も無事で良かった。それじゃ、ハリー達のところ戻るわ!」
ネビルはまだカチコミになっていたが、エマは気にせず「じゃぁね!」と大広間に戻った。
※※※
大広間では、ハリー達がいる席に人だかりが出来ている。
人だかりでよく見えないエマは何とか人の波をぬい、その好奇の元に辿り着けた。
ハリーの元に大きな包みと、包みに入りきれずにはみ出た箒の穂が見える。
その穂は先端が尖っており、綺麗に狐の尻尾のように整えられていた。
ハリーは嬉々として包みを広げる。
アホガニーの柄は光沢があり、持ち手の先端に『ニンバス2000』と金文字で掘られていた。
「ニンバス2000だっ!すげぇ!」
ロンがため息を交えて呟いた。
周りも羨ましそうに歓喜の声が湧いている。
ハリーは満面の笑顔を上座の教員席に向けた。
あの堅物で厳格なマクゴナガルが、目尻を下げて優しくにっこり微笑んでいる。
みんなニンバス2000に夢中だったが、エマはハリーとマクゴナガルのアイコンタクトを目撃してここ最近で1番ほっこりとした。
スリザリンの席に目をやると、憎々し気に顔を歪めるドラコが見えた。
怒りで何かを石にしてしまいそうな目だ。
ハリーの幸福という幸福が全て許せないのだろう。
彼はなぜあんなにもハリーにエネルギーを使えるのか謎だった。
エマはスリザリンの席をまじまじと見つめた。
クラップとゴイルはハリー達を睨みつけながらまだソーセージを食べている。
パーキンソンはわざわざドラコの席まで行って何かを話しかけているが、ドラコからのリアクションがかなりそっけない。クラップを押し除けてドラコの隣に座り、尚も笑顔で話しかけている。
黒人で坊主頭のイケメン、ブレーズ•ザビニもハリーを面白くないという表情でみている。
他の生徒も、グリフィンドールと相反して静かにしていたり迷惑そうにハリー達を見たりしている。
グリフィンドールが盛り上がっているのが気に食わないのだろう。スリザリンの席は邪悪なオーラが漂っていた。
ドラコとバチっと目が合った。
エマはすぐに視線を逸らす。
逸らした目線の先に、昨日スリザリンでエマを起こして逃がしてくれた少年がいた。
ドラコを中心にたむろしているスリザリン生達とは離れて座っている。
少年はこの一連の騒動に全く興味を示さず、立ち上がって大広間を出ようとしている。
エマは迷わず彼を追いかけた。
ハリーに「どこいくの?」と聞かれたが、答えずに急ぎ足で向かう。
大広間をでて廊下にでると、少年はもう結構遠くを歩いていた。
「まって!!」
聞こえないのか、彼はずんずん行ってしまう。
エマは走った。
バタバタと後ろで音がして「まってー」と聞こえたので、少年はようやく足を止めて振り返る。
「……あぁ、君か」
「歩くの早いのね!」
「何か用?」
淡々としている。
エマは弾む息を整える。
「昨日は助けてくれてありがとう!」
「あー、別にいいよ。君の為ってわけでもないし」
少年はそんな事かと表情を変えずに「それじゃぁ」と去ろうとした。
「ま、まってまって、名前だけ教えて」
男の子は眉を顰め、そんな事聞いてどうするんだといった顔をした。
そして早く終わらせたいのか「セオドール•ノットだ。じゃぁね、エマ•ファース」と短く言い、踵返し凄い速さで歩いて行ってしまった。
聞きたい事はまだあったが、セオドールはエマとの会話に時間を使いたくないようだった。
※※※※※※※※※※
ハリーのクィディッチの練習が本格的にはじまってからもう2ヶ月が経とうとしている。
ハリーの練習は週に3回あり、ハリーと会う頻度は少なくなったが、エマも毎日たっぷりある宿題をバーパティやラベンダー達としたり、1人で図書館でしたりしていた。
以前より魔法学の基礎が身につき、勉強が楽しくなってきており、中でも魔法薬学はエマの興味を湧き立たせ、スネイプのスリザリン贔屓を加味しても成績が上がってきていた。
食事は大広間で皆んなと食べ、時々ハリーやロンと一緒にハグリッドに会いに行き、夜は談話室で談笑しながらお菓子を食べたりして、眠くなったら部屋に戻ってミネットと一緒に寝る日々。
最初にマクゴナガル先生が言った、『寮が皆さんの家です。』という言葉がひしひしと身に沁みている。
ハーマイオニーとは、ハリー達との校内抜け出し事件からあまり話をしていない。
エマも今は朝寝坊する事は無く、起こしてもらう機会もなくなったのもそうだが、エマと目が合うとあからさまに目を逸らした。
3人でいる時は思いっきり首を横に向けて「ふん!」と方向転換する始末だ。
ロンは「ああやってくれてる方がありがたい」と言っていた。
今日はフリットウィック先生の『妖精の魔法』の授業だ。
「魔法使いの最も基本的な技術、それは浮遊の術。
すなわち物を浮かせて飛ばすことです。さぁ、羽は持ってきてるね?」
小人サイズの先生がキイキイ声で言った。
「では、2人1人組で練習をしましょう。」
ハリーとエマ、ネビルとシェーマス、ロンはなんとハーマイオニーと組む事になった。
ロンはすごい顔して恨めし気に後ろのハリーとエマを見た。
「では、練習した手首の動きを忘れないように
ビューンと来てヒョイです。みんなで!ハイ」
「ウィンガーディアムレヴィオーサ」
色んな席でガヤガヤと呪文を唱える言葉が響いているが、羽が浮き上がる事はない。
エマは少し羽がゆらゆらと揺れたが、宙に浮かない。
ハリーが「惜しい!」と笑った。
後ろではシェーマスが羽根に火をつけて、ネビルの前髪が少し燃える。
ハリーとエマとシェーマスがネビルの前髪がに向かって教科書をブンブン振り回すハメになった。
ロンは前の席で全く動かない羽根にイライラして、杖を風車のようにブンブン振り回していた。
元々イライラはしていたのだが。
「ウィンガーディアムレヴィオサーっ!」
「ちょっとちょっと!やめて!そんなに振り回すもんじゃないわ!それに、発音も全然違う。レヴィオーサよ。オーサ!あなたのはオサーよっ」
ハーマイオニーの棘のある声が聞こえた。
「そんなにキーキー教えてくれてどーもっ。よくご存知なんだろ大先生っ。やってみろよ!」
ロンも相当頭にきていたようだ。
ハーマイオニーはツンと前をむいて杖を構え、羽を見下ろした。
「ウィンガーディアムレヴィオーサ」
羽がふわっと宙に浮き上がった。
クラス全員舞い上がる羽根を見た。
フリットウィック先生の歓喜の声が教室中に響く。
「おー!凄い!みなさん見て下さいっ!グレンジャーがやりました!」
クラスが終わり、ロンは不機嫌さを隠す事なく大股で歩いていた。
「見たかっあの態度!あいつにはみんなが我慢してる。誰があんな奴と友達になりたいと思うんだよ!」
誰かがエマにぶつかり、泣きながら走り去っていく。
ふわふわの髪の毛がなびいている。
ハーマイオニーだ。
「今の聞こえたみたいだね。」
ハリーの言葉にロンは押し黙った。
罪悪感が湧いてきているようだった。
気まずそうにローブのポケットに手を突っ込んだ。
ハーマイオニーは次の授業にも、その次の授業にも出てこなかった。
ハーマイオニーがこんなに授業を休むなんて…これはただ事じゃない。
ロンは意地になって「知ったことか!」と不貞腐れている。
大広間ではハロウィンのパーティの準備が着々と進んでいたが、エマはハーマイオニーが気になって仕方がないので、クラスのみんなに聞いて回った。
「ハーマイオニー見なかった?」
シェーマスもネビルもディーンも知らないと言う。
「地下室の方に行ってたわよ。泣いてるみたいだった」
ラベンダーが教えてくれた。
何があったか聞かれたが、また今度!と言ってエマは地下室へ走った。
地下室に降りると、スンスンとすすり泣く声がする。
声の方向を探しながら、エマは女子トイレにきた。
「ハーマイオニー?」
エマの声がトイレの中で反響する。
ハーマイオニーの声は静かになってしまった。
「ハーマイオニー、ここにいたのね」
「…………」
ハーマイオニーは女子トイレの1番奥でドアに鍵をかけて1人で泣いていた。
エマはトイレの前に行き、扉に向かって話しかけた。
「ハーマイオニーが授業に出ないなんて、心配したのよ」
「誰も私の事なんて、本当には心配してないわ」
ハーマイオニーの声が涙で詰まっていてとても悲しそうだった。
エマはキュッと心が締め付けられる。
「ハーマイオニー、
あなた寂しかったのね。
マグルの世界からたった1人でやってきて、友達も兄弟もいない中、ずっと1人で頑張ってきてたのよね。あなた本当にすごいと思うわ」
「…………でも、から回ってたみたい。私、みんなに嫌われてる」
「バカね、嫌ってないじゃない。私はずっとハーマイオニーはかっこいいと思ってる。本当に頭が良くて可愛くて一生懸命な子嫌いになんてなれないわ。」
「…………」
ハーマイオニーがまたスンスンと泣き出した。
エマは今すぐハーマイオニーを抱きしめてあげたくなった。
「貴方が友達じゃないって言っても、私は貴方の事友達だと思ってるから。嫌がってもダメよ。どこまででも追いかけるわ」
ガチャッと鍵があき、扉が開いた。
ハーマイオニーが両手を広げてエマに飛び込んできた。
ハーマイオニーは声をあげて泣いた。
エマはハーマイオニーの頭を包み込むように抱き抱える。
ズシン……ズシン……
トイレの向こうのほうで大きな地響きのような足音と、ブァーーーーという唸り声がした。
酷い悪臭が漂ってくる。
「なに?」
気味の悪い悪臭がどんどん強くなり、足音と唸り声が近寄ってくる。
エマとハーマイオニーは恐怖で凍りついた。
背は4メートル、墓石のような鈍い灰色の肌、ゴツゴツでずんぐりとした巨体、手には巨大な棍棒をもっている。
2人はヘタリと床に座り込み、お互いに身体を強く寄せ合う
どちらかと言わず、2人の肩が震える。
トロールが予期せぬ動きで棍棒を持ち上げ、洗面台を薙ぎ倒した。
「きゃあああああああああ!!!」
声を出してはいけないなんて冷静な判断は今の2人には無理だった。
トロールは棍棒をめちゃめちゃに振り回し、トイレや壁を破壊しながら、エマ達に近寄ってくる。
「こっちに引きつけろ!!」
ハリー!!ハリーの声だ!!
ゴン!と洗面台がトロール目掛けて飛んできた。
トロールは鈍そうにドシンドシンと方向転換し、ハリーをみて、棍棒を振り下ろそうか迷ってから棍棒を振り上げる。
「こっち向けウスノロ!!」
ロンもいる!!
今度は蛇口が飛んできた。
トロールは今度はロンの方へ向きを変えまた少し悩んでいた。
「回り込め!」
ハリーがトロールの首に飛びつき、杖をトロールの鼻にブッ刺した。
トロールは大声で唸りながら棍棒をめちゃめちゃに振り回す。
天井がバラバラと落ちてくる。
ハリーはトロールの首を掴んで離さないが、棍棒がハリーに当たってしまいそうだ。
「ウィンガーディアムレヴィオーサ!」
ロンはあの呪文を叫んだ。
棍棒は宙に浮いた。
「やった!」
ハリーはパッ!と手を離しトロールから離れた。
棍棒は一回転して、ボクっ!と嫌な音をたてトロールの頭上に落ちる。
トロールはフラフラし、その場にドシンとたおれこんだ。
エマとハーマイオニーはただ呆然とその様子を見ていた。
ハリーとロンも息を切らしながら呆然としている。
「これ…しんだの?」
ハーマイオニーが口を聞いた。
「いや、気絶しただけだよ。」
ハリーが自分の杖を引き抜くと、ネバっとした黄色い塊が杖にくっついている。
「気持ち悪い!トロールの鼻くそだっ」
ハリーは鼻くそをトロールのズボンで拭いた。
バタバタと何人かの足音が聞こえ、まもなくマクゴナガル先生が飛び込んできた。
マクゴナガル先生は惨状を目にし、息を呑んだ。
そして生徒に目をやり辺りを見回す。
大きなは負傷者はいないのを確認すると、マクゴナガル先生の顔が怒りで満ちた。
「一体ぜんたい、これはどういう事ですか?説明しなさい」
スネイプが遅れて、片足を引き摺るようにしてやってくる。その後ろにクィレル先生もいた。
全員、下を向いて固まってしまう。
説明をするにも、何からどう話していいか分からない。
それに何を話してもダメな気がしていて、いい案が何一つ浮かんでこない。
何も話せないでいると、座り込んでいたハーマイオニーが立ち上がった。
「………3人は私を探しにきてくれたんです」
「ミスグレンジャー!」
ハーマイオニーは真っ直ぐマクゴナガル先生を見ながら声を張った。
「1人でトロールを倒せると思ったんです。本を読んだから…でもダメでした。
3人がきてくれなかったら、今頃死んでいました」
ロンはびっくりしてハリーとエマを見た。
あのハーマイオニーが先生に嘘をついている?
マクゴナガル先生は暫く黙って聞いていたが、他の3人が何も話さないのを確認し、短くため息をついた。
「助けに来たのだとしても、とても愚かな行いでした。もっとよく考えて行動してもらいたいものです。
ミス・グレンジャー、あなたには失望しました。
グリフィンドールは5点減点です」
ハーマイオニーは下を向いた。
拳をギュッと握っている。
「ミスターポッター、ミスターウィーズリー、ミスファース、一年生がトロールを相手にして生きて戻るのはそうないでしょう。
貴方達に1人5点ずつあげます。
その幸運に対しての加点です。
この事は、ダンブルドア校長に報告しておきます。
さぁ、寮では中断されたハロウィンパーティーの続きをしています。
もう行きなさい。」
エマはスネイプの引き摺られている足が目についたが、すぐに視線を逸らし、俯いているハーマイオニーの手を取り、その場を後にする。
ハリーとロンも後に続いた。
※※※
4人は何も話さずグリフィンドールの寮に向かっていた。
ハーマイオニーはまだ俯いて、エマの手に大人しく引かれている。
エマは1人でモンモンとしていた。
この騒ぎで生徒達は全員寮に帰らされた為、ホグワーツ校内はとても静かだ。
トロールがうろついているので、フェルチもミセスノリスも避難しているだろう。
トロールの後片付けや報告なんかで、校内を出歩いている先生は皆忙しくしている。
4人はトロールの件で体中砂埃で汚れているし、トロールの臭いが染み付いている。
清めの呪文を上級生にしてもらったり、寮のシャワーを浴びる等の解決方法はあるが…。
エマはこの非常事態の静けさを逆手に取りたくてウズウズしていた。
兼ねてよりやってみたくて仕方ない事を口にする。
「ねぇ!これから監督生のバスルームいかない?」
エマはハーマイオニーの顔を覗き込んだ。
ハーマイオニーは泣き腫らした顔をあげて呆けた表情をした。
「エマ…!君ってやつは!こんな非常事態に何考えたんだ!」
ロンが言った。
ダメか…とシュンとしたが
「「最高じゃないか!!」」
とハリーとロンが口を揃えて言った。
エマは湧き上がる感情に任せてハーマイオニーに向き直る。
「行こう!ハーマイオニー…こんなチャンスないわっ絶対今は大丈夫っ誰も見回ってないし、トロールが倒れた今私達を探す先生達もいない!
今しかないっこれを逃したら監督生にならない限りあのバスルームには入れない。そうなったら…後悔する!
ねぇハーマイオニー、後学だと思って!お願いっ行くと言って!」
エマは熱い眼差しでハーマイオニーの見ながら懇願した。
ハーマイオニーがプ!!と笑う。
そんなにエマの顔が面白かったのかさっきの項垂れが嘘のようにお腹をひくひくさせて笑っている。
3人はいささか不安気にハーマイオニーの顔を覗き込む。
「うん、行きましょう。私も入ってみたかったの」
笑いすぎて出た涙を拭いながらハーマイオニーは言った。
3人は大喜びで「「「イエーーイ!」」」とハイタッチをし、ハーマイオニーと肩を組んで監督生のバスルームに向かった。
※※※
監督生のお風呂は凄かった。
浴槽の周囲に、百本ほどの金の蛇口があり、取っ手のところに一つひとつ色の違う宝石がはめ込まれている。
飛び込み台もあった。
窓には真っ白なリンネルの長いカーテンがかけられ、浴室の隅にはフワフワの白いタオルが山のように積まれていた。
エマとハーマイオニーは目を輝けせてテキパキと服を脱ぎ、浴槽に入った。
浴槽は教室ひとつ分程あり、虹色の泡が沸いていて、とてもいい香りがした。
「あー……ここは最高ね」
ハーマイオニーが天井を向きながら呟く。
ボワーンとハーマイオニーの声が響いている。
エマも天井を見上げる。
高い高い天井は天国のような天井画が施され、そこにいる小さな天使達がエマやハーマイオニーに手を振っている。
「なんだか…疲れが全部溶けていくみたい。」
エマもうっとりしながら呟いた。
もう、ここで眠ってしまいたいほど素敵な空間だ。
エマは何も考えられずにいたが、口角がにやけているのだけは自覚していた。
「はぁー。監督生だけズルい。」
「きっとここにこっそり入る生徒って私達だけじゃないわよね」
ハーマイオニーが言った。
「こんな素敵なお風呂に毎日堂々と入れる権限を得る為、やる気を持たせる為に、先生達はある程度黙認してるんじゃないかしら」
またハーマイオニーがなんか固い事言い出した。
エマはバシャ!!とハーマイオニーにお湯をかけた。
「おだまり!!この石頭!!」
「……やったわね!」
ハーマイオニーがバシャ!!!と大波をエマにお見舞いした。
「ぷはっ…!」
「あはははは!!」
2人ははしゃいでお湯を掛け合い、頭まで泡まみれのびっしょびしょになった。
そして「疲れた…」と動くのをやめる。
プカプカと浴槽に浸かりながら天井画を眺めた。
「今日……凄く怖かったわ」
ハーマイオニーが小さな声で言った。
「うん、死ぬかと思った…」
エマも呟く。
天井では、天使達が楽器を手に優雅に音楽を奏でている。
とても優しくて切ないメロディーだ。
右端の天使達は追いかけっこをしている。
聖母に抱かれ、気持ちよさそうに眠っている天使もいた。
「エマ、あのね」
「うん」
「ありがとう」
2人は黙って天井を見上げながら手を繋いだ。
暫くしてのぼせそうになり、ようやくお風呂から上がる。
服についた臭いは、さすがハーマイオニーというべきか、私たちがまだできない清めの魔法で、匂いも汚れも一掃してくれた。
ハリーとロンも目をキラキラさせて、スッカリ綺麗になって出てきた。
「凄いよあのお風呂!!」
「毎日入りたい!」
2人の言葉にエマもハーマイオニーも賛同した。
そして4人は急いでグリフィンドールの寮に戻った。