賢者の石
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夕食時の大広間
「シーカー?!?!?!」
ハリーが頬を染めながらいい笑顔で笑っている。
「一年生はシーカーは絶対なれない筈なのに…最年少の寮代表選手だよ…!!!」
ロンが興奮してローストビーフのささったフォークを落とした。
あの後、ハリーはマクゴナガル先生に連れて行かれた先はグリフィンドールチームのキャプテン、オリバー•ウッドの所だった。
ハリーが思い出し玉を拾うため地面に急降下し、見事キャッチした様子を偶然マクゴナガル先生が見ていたのだ。
そして是非グリフィンドールのシーカーにとウッドに紹介したのだった。
「じゃぁ、あのマクゴナガルのメガネが光ってたのは、興奮してたからか!」
ロンはいちいち叫んでいた。
「一年でシーカーになったのは100年ぶりだってウッドが言ってた」
「凄いぞ!エマ!!聞いてるか?!」
「…………………。」
エマは思い出していた。ドラコに言った自分の恥ずかしい言葉達を。
自分の醜態を。
「っぶ!!?!」
エマはハリーの頬っぺたを両手で掴んだ。
ハリーは唇を尖らせ、シパシパと目を瞬かせる。
「こんのーーーーーっ!!」
「ひたたたたたた!!」
湧き上がる恥ずかしさと安堵で手加減が出来きず、ハリーの頬っぺたをこねくり回した。
「心配してたんだから…!!」
エマの口が泣きそうなのを堪えるように綺麗なへの字をしている。
「ごへん…ひんぽいこけてぃ(ごめん、心配かけて)」
「バカっ!」
エマは手を離してハリーのオデコをペシっ!とたたいた。
「おいおい、夫婦喧嘩かー」
「よう!ハリー」
フレッドとジョージがやってきて、ハリーの肩に手を回した。
「ウッドから聞いたぜ!俺たちはグリフィンドールのビーターだ!よろしくな!」
「ハリー、お前よっぽど凄いんだな、ウッドの奴、小躍りしてたぜ」
「チャーリーがいなくなってから、一度もカップをとれてないんだ。でも今年は抜群のチームになるぞ!
クィディッチカップはいただきだ!」
「で、エマはなんでそんなにむくれてるんだ?」
フレッドがストン!とエマの隣に座った。
「別に!…ただ心配しただけよ、凄い顔のマクゴナガル先生がハリー連れてっちゃうんだもの」
「僕も最初は怖かったよ。あのマクゴナガル先生が凄い剣幕するもんだから退学させられるのかと…」
ジョージがケタケタわらった。
エマは笑い事じゃないっ!と余計に機嫌を悪くする。
ロンがフレッドとジョージにこっそり耳打ちした。
「大丈夫、今から面白いもの見せるから見てて」
フレッドとジョージはどういうことかと疑問に思った。そしてロンはササッと皿にデザートのカボチャパイとカスタードを乗せ、横に可愛くチェリーを置いてエマの前に黙って差し出した。
「エマ、今日はカボチャパイだよ」
ロンは至って平静を装いつつ、自然にさりげなくエマの前にデザートを置いた。
フレッドとジョージも黙ってその様子を見つめる。
「あ、ありがとう!」
エマは暫く皿のカボチャパイを見つめた。
綺麗に編み込まれたツヤツヤのパイ生地の下でカボチャが黄色く光っている。
みるからにねっとりホクホクだ。
エマは早速フォークを手に取りパイに刺した。
クスンとした下のクッキー生地からの抵抗が重量感を感じせる。
フォークに乗っかったカボチャパイに、カスタードを潜らせ、口に運んだ。
カボチャ…!あまーいカボチャがカスタードと相まってクリーミーさをまとう。
「………うまっ……」
その様子を黙って見ていたウィーズリー兄弟。
コレは、なるほど…。
ロンが言いたい事がわかってしまったフレッドとジョージ。
「エマ、もっとたくさん食べな!」
「紅茶いれてこようか?」
フレッドとジョージが両隣で優しくニコニコしながら話しかけてくるので、エマは少しびっくりした。
「おい!フレッド!ジョージ!早く来いって!」
リー•ジョーダンが2人を呼びにきた。
「おっとそうだった!!じゃぁなハリー!また練習の時に!」
フレッドとジョージはハリーの背中を叩いて、リーと大広間を後にした。
「よう!ポッター!」
げっ!この声は…
ハリーとエマは同時に心の中で呟いた。
ドラコがクラップとゴイルを従えてやってきたのだ。
エマはそーっと空のお皿で顔を隠した。
「最後の晩餐か?いつマグルの所に帰るんだよ。」
「お前に関係ないだろ。小さなお友達を連れないと、僕に話しかけれないのか」
ハリーが冷ややかにいった。上座に座っている教師たちの目を気にして、クラップとゴイルは強く拳を握り睨んでいる。
「今ここで喧嘩しようってんじゃない。僕1人とお前1人で魔法使いの決闘だ。杖だけでだ。やるか?」
「やるさ!僕が介添人をする!」
ロンが口を挟んだ。
「僕はクラップだ。真夜中のトロフィー室。
逃げるなよポッター」
ドラコはハリーから離れて向かいに座るエマの方にツカツカやってきて、エマが自分の顔を隠してる皿をサッと取り上げる。
「ひっ!」
「女は首を突っ込むなよ。お前はくるなっ」
ドラコは皿をポイとなげて行ってしまった。
「魔法使いの決闘って?介添人ってなに?」
ハリーがロンに尋ねた。
「介添人は、君が死んだら代わりに戦う人のことさ。死んだりするのは本当の魔法使い同士の決闘だけど、僕らはまだそんな事出来ないから、まぁ殴り合いになるんじゃないかな。」
「ちょっと失礼!」
今度はハーマイオニーがやってきた。
ロンが出た!という顔をした
「聞こえてきたんだけど、貴方たちまさか本当に真夜中に校内をウロつくつもりなの?絶対にダメよ!!グリフィンドールが何点減点されるとおもってるの!いい加減自分勝手な行動はやめなさい!」
「流石に余計なお世話だよ」
ハリーが言い返す。
ロンが全くだ!と頷いている。
「エマ!貴方からも何か言って!」
ハーマイオニーに突然振られてオロオロするエマ
「……んー…確かに、飛行訓練の事もあるからもう無茶してほしくないけど…でも行かないとハリーは一生ドラコにこの事をつつかれちゃう事は確かね…」
「その通りだよ!そう言う事さ、お世話さん!バイバイ!」
そう言ってロンが立ち上がり、ハリーも続いた。
エマも慌てて2人を追う。
ハーマイオニーは全く納得していないように3人の後ろ姿を睨んでいた。
※※※※※※※※※※
グリフィンドールの談話室。
ハリーとロン、そしてエマはパジャマにガウンを羽織って暖炉の前にいた。
「そろそろ11時だ。行こう」
ロンが言った
「エマ、本当に大丈夫?」
「うん、ドラコに来るなって言われたのがなんか今更腹がたってきちゃって。」
エマはどさくさに紛れてあのプラチナブロンドをぐしゃぐしゃにしてやろうと思っていた。
「ちょっとまって。エマ、なんでマルフォイを名前で呼ぶんだ」
ロンが訝しげにいう。
「………え?呼んでた??」
とぼけるエマ。
自覚はない。
ハリーもロンと同じ顔でエマを見つめたが、
「早く行かないとあいつら帰っちゃうかもよ!」
と2人を立たせた。
3人が扉に向かうと、「待ちなさい!」と後ろから声がし、走り寄ってくる音がした。
ロンは「聞くな!いくぞ!」と走ろうとしたが、ハリーが捕まってしまった。
ハーマイオニーはくるりとハリーを自分の方へ向かせ睨む。
「まさか本当にいくつもり?私が絶対に行かせないわよ」
「ほっといてくれよ。コレは僕とマルフォイの問題なんだ。」
「そうだ!ベットに戻れ!」
ハリーはハーマイオニーを容赦なく振り払った。
3人は振り返らず、ハーマイオニーから逃げるように太った貴婦人の肖像画を押しあける。
貴婦人の肖像画の向こうに行けばハーマイオニーから逃げられると誰もが思っていたのに、ハーマイオニーは外までやってきた。
「お前いい加減にしろよ!」
ロンはカンカンになって怒った。
「いい加減にするのは貴方たちの方よ!いい?貴方達が自分達のことばかり気にして、スリザリンが寮杯を取るなんて嫌よ!」
「頼むから部屋に戻ってくれ、君には迷惑かけない」
「いいわ!私はちゃんと忠告しましたからね!どうなったって知らないから!」
ハーマイオニーはプイ!!と踵を返したが、じっと動かない。
肖像画がない。
太った貴婦人は夜のお出かけにいってしまったようだ。
「さぁ!どうしてくれるの?!」
ハーマイオニーが喚いた。
「知るか」
ロンはうんざりしたように言い、3人は待ち合わせ場所に向かう。
ハーマイオニーがテクテクテクとロンの横について歩いた。
「ついてくるなよ!」
「あそこにいたってフェルチに見つかるじゃない!」
「…ちょっとまって!静かに…!何かいる…!」
エマの声でロンとハーマイオニーは息を潜める。
ハリーがそーっと暗がりを透かし見ながら怪しい影を見つめた。
「ミセス•ノリス?」
ロンがぼそっと息だけで言った。
そこにいたのは猫、ではなくまだ制服姿のままのネビルだった。
4人ともギョッとする。
ネビルは何故か廊下で丸まって眠っていた。
「ネビル?」
ハリーが声をかけるとネビルはビクっ!と目を覚まし、ハリーをみて安堵の表情を浮かべた。
「わ、わぁ!よかった…見つけてくれて!僕、合言葉忘れちゃって帰れなかったんだよ!」
「しっ!静かに。今太った貴婦人はいなくなっててどのみち寮には入れない」
ロンはネビルを嗜める。
そして「それじゃ僕ら行くから…」と置いていこうとしたが「待ってよ!この辺ゴーストがすごい出るんだ!」と喚かれてしまう。
しょうがなく一緒に行く事にした。
ぞろぞろとトロフィー室に向かう。
「なんでこんな大所帯で決闘に向かわないと行けないんだ!」
ロンは嘆いた。
5人は抜き足差し足で、トロフィー室に無事着く事が出来た。
部屋の真ん中に集まり、ハリーとロンは杖を構え、ドラコの不意打ちに備えた。
しかし、待てど暮らせどドラコ達がやってこない。
ロンが腕時計に目をやる。
「マルフォイのやつ、怖気ついたんじゃないか?」
ハリーが「っし!!」と動きを止めた。
「何か来る…」
キィキィとランタンの揺れる音と明かりが、開いた扉の向こうでゆらゆら揺れている。
「この辺にいるんだな…ノリス…隠れてるに違いない、しっかり匂いを嗅ぐんだぞ。」
フェルチだ!ミセス•ノリスもいる!
5人は心臓が凍りそうになった。
音を立てずフェルチ達のいるドアの反対側に向かった。
ドアの向こうには沢山鎧が飾ってある廊下だった。
ネビルの顔色が外の薄明かりでも分かるほど蒼白になっている。
「この辺にいるんだな?」
フェルチが後ろに迫ってきている。
ネビルが突然悲鳴をあげてやみくもにかけだし、つまづいた。
ガラガラガシャーーーン!!とすさまじい音がして鎧が倒れた。
「逃げろ!!」
ハリーの合図に全員走り出した。
エマは必死で逃げたが、ネビルがエマのガウンを握って離さず、またつまづいて転けたのでエマも転けてしまう。
ハリー達は気づかず先に行ってしまった。
「まて!!」
フェルチだ!
エマはネビルを起こして手を握り、必死に走った。
もうどこを走っているか分からない。
階段を降り、更に階段を降り、とにかくフェルチから遠いところに…!
どれくらい走っただろう。
エマとネビルは暗い地下牢にいた。
ネビルが寝そべって息を切らしている。
エマも息を整えようとその場にしゃがんだ。
「………ここ……どこだろ…」
ネビルはようやく息が落ち着いてきた。
「…わからない…でもフェルチの声は聞こえないわ…」
エマは辺りを見渡した。
湿った剥き出しの石が並ぶ地下牢だ。
エマ達の声が岩に反射して響いて聞こえる。
静けさと圧迫感で不気味な雰囲気が漂っていた。
「なんか僕、寒くなってきた。」
ネビルが丸い顔を小刻みに揺らしている。
なんだか、顔が青白い。
いや、元々さっきから青白かったのだが、なんだか透けるような青い光を帯びている。
「ちょ、ちょっとネビル大丈夫?」
「あかっんべー!」
ネビルの顔に重ねて、大口をあけてベロを出すゴーストが生えてきた。
ピーブスだ。
「きゃぁ!!」
「わーはははは!びっくりしたびっくりしたー!!」
ネビルは思いっきり息を吸い、
「ひあぁああああああ!」
と地下牢を飛び出して行った。
エマを置いて。
ピーブスはネビルには目もくれず、エマを見ながらケラケラ笑っている。
「見てたぞ見てたぞ!真夜中にフラフラしちゃって!悪い一年生ちゃん!」
「ピーブス、お願い、お願いだから静かにして…!」
「お願い?お願いをしてるの?もしかしてもしかして、君は今ピンチなの?」
エマは息を止めてピーブスをみた。
ピーブスは哀れみの表情をつくっている。
「そうなのっピンチなのっ…だからお願い!静かに…」
エマは両手を合わせてピーブスに祈った。
ピーブスがにっこりする。
「わかった!了承した!君のために!一肌脱ごう!!」
エマは安堵の表情を浮かべたのと同時にピーブスがニヤリと笑う。
「おおおおおおい!!!ベットを抜け出した一年生ちゃんはここだーーー!!!スリザリンの寮の入り口にいるぞーーー!!!!」
ピーブスが地下牢の階段に向かって大声をあげる。
「ここだーここだー!!!ここにいるぞーーー!!!フェールチーーーー!!!」
遠くで誰かの走ってくる音が聞こえた。
エマは心臓が止まりかける。
息が短くなる。
パニックが起きそう、ネビルみたいになりそうだ!!
突然、バッと口を塞がれ、体を引き寄せられた。
何か呪文のような言葉が聞こえ、ゴゴゴゴゴゴという音と共に暗闇に引きずりこまれる。
ドクドクドクドクと自分の心臓が鼓膜を打っている。こんなに自分の心臓の音を聞いたのは、組分けの時以来かもしれない。
あたりは暗くてよく見えない。
エマは強く目を瞑った。
頭の後ろで誰かの息遣い。
エマの手を塞いでる指の感触。
石鹸と香のような香り。
こんな状態だというのに、手の温かみに安心感が湧いてくる。
エマは次第に心臓の音が落ち着き、呼吸も落ち着いてきた。
この優しい手には覚えがある。
エマはその手を自分の手でそっと握り、ゆっくり外した。
後ろを振り返りる。
薄明かりに照らされたプラチナブロンドが光っている。ドラコもこちらをじっと見ていた。
いつもオールバックにされていた髪はサラサラとドラコの顔を流れた。
「お前、首を突っ込むなって言っただろ」
「…助けてくれたの?」
ドラコは何も言わなかった。
エマも前を向き、黙った。
長い間2人は動かず、外からの僅かな光が2人を照らしている。
エマは背中にぬくもりを感じながらドラコの手を握り、凄く安心していた。
小さく聞こえるドラコの心音。
なんだかうっとり眠りそうになる。
…いやまて。
まてまて、なぜ決闘を申し込んでいた筈のドラコがここにいるんだ?
エマは目を見開いてドラコの顔をじっと見つめる。
「なんだよ」
「なんだよじゃないわよ。あなた自分から決闘って言っておいてトロフィー室にこなかったわね?」
「?」
ドラコはポカンとした。
「行くわけないだろう」
「はぁ??」
「僕がポッターと決闘する為に夜の校内をうろつくなんて、なんでそんなリスク負うと思うんだ」
至極当たり前みたいに言ってのけたドラコ。
どう考えたらそうなるのか信じられないエマ。
「あ、あのねぇ。あなたがわざわざ自分でハリーに言ったのよっ夜中に決闘だっ!て」
「あぁ、それはポッターがバカを見たって事さ。愚かな奴。お偉い自分ならさぞスマートに決闘に勝てると思ったんだろう」
鼻でせせら笑うドラコ。
エマは思わず、ドラコの顔面に後頭部で頭突きした。
「……ったぁっ!!」
「この!おたんこなす!!人でなし!」
エマは足をばたつかせてドラコの腕を振り払おうと暴れた。
「おぃ!お前ちょっと静かにしろっ…!スリザリンの寮でお前がいるのがバレると厄介だ」
ハタっとエマは動きを止める。
ここはスリザリンの寮だ。
エマは今、ドラコのような者が住まう敵の陣地に1人でいるのだ。
ハリー達が今どうしてるかも気になるが、生きて会うにはドラコが言うように大人しく朝を待ち、誰にもバレないうちにここから出るしかない。
「ドラコも私と朝までここにいるのよ」
「はぁ??なんだと?」
「私1人で待てないわよ!スリザリンの寮でなんか!!」
エマはドラコに向き直り、ドラコの目を見つめる。
ドラコもエマをじっと睨んでいたが、すぐに目が泳ぎ、顔を逸らした。
ようやく諦めたように大きくため息をつく。
「6時までは誰も起きない。5時には出ていけ」
「そうねっ!5時なら、フェルチに追いかけられる事もないわ。」
「…全く、本当に信じられないな君は。いくらポッターが好きだからといってノコノコついてきたのか。ポッターはどうしたんだ」
信じられないのはドラコの方だろうとエマは思った。
「フェルチに見つかりそうになって逃げた時にはぐれたのよ。誰かさんのせいで」
ドラコはクックックッと小気味よく笑っている。
「いい気味だ、朝になるのが楽しみだな」
「また頭突きするわよ」
ドラコは静かになった。
「…でもなんでドラコあそこにいたの?寮の外に」
「…………別に良いだろ。なんでも」
結局ドラコはその後何も話さなくなった。
エマとドラコは、少し離れて座り、壁にもたれかかった。
朝になったらここを出て行かなくちゃ。
眠らないように、しっかり目を開けとこう。
ハリーとロンは…ハーマイオニー達は無事だろうか。
※※※
トントンと誰かが肩をたたく。
エマは目を覚ました。
ボヤける視界にスリザリンの制服が映っている。
「…起きなよ…」
知らない男の子がエマを見下ろしている。
いや、女の子のようにも見えた。
あまり生気のない表情でこちらを見つめている。
神経回路が徐々に目を覚まし、今の自分の現状を脳が把握しだした。
寝ていた!
あんなにスリザリンの生徒に見つかりたくないと必死で起きているつもりだったのに!
逃げないと!
急いで起き上がった時にも違和感があった。
ドラコの伸ばした膝の上から自分は起き上がったのだ。
ドラコのサラサラとしたサテンの黒いパジャマの感触が右のほっぺに残っている。
エマはカッカと顔が赤くなったのが自分でも分かった。そしてスリザリンの生徒にドラコの膝で寝てるのを見られてしまった。
急いで逃げ去ろうとするが、寝起きと動揺で足がもつれてしまい、無様に転けてしまう。
冷たい石の床におでこをくっつけて顔をあげれないでいると、男の子が声をかけてきた。
「そろそろ行かないと、皆起きてくる」
そう言い、エマの腕を拾い上げて立たせた。
そしてそのままスリザリンの寮の出入り口まで引っ張って行き外に連れ出してくれた。
「…あ、ありがとう、あの、あなたは」
「昨日はずっと見てたよ。」
男の子は気だるそうに無表情で言った。
「あんまり感心しないな。女の子が夜の校内を歩き回るなんて」
要領を得ないが、何でも知ってるような目で淡々と述べられエマは動揺した。
「何で知ってるの?」
「早く帰りな」
男の子は階段の方へエマの肩を押しやった。
エマは振り返り男の子を見たが、ゴゴゴという音と共に男の子はその場から姿を消していた。
不思議な人だったけど、この人もたすけてくれたんだろう。
エマはポツンと地下牢に佇んでいたが、昨日のことや先ほどの醜態を思うと居ても立っても居られず、すごい速さで地下牢の階段を駆け上がっていった。
「シーカー?!?!?!」
ハリーが頬を染めながらいい笑顔で笑っている。
「一年生はシーカーは絶対なれない筈なのに…最年少の寮代表選手だよ…!!!」
ロンが興奮してローストビーフのささったフォークを落とした。
あの後、ハリーはマクゴナガル先生に連れて行かれた先はグリフィンドールチームのキャプテン、オリバー•ウッドの所だった。
ハリーが思い出し玉を拾うため地面に急降下し、見事キャッチした様子を偶然マクゴナガル先生が見ていたのだ。
そして是非グリフィンドールのシーカーにとウッドに紹介したのだった。
「じゃぁ、あのマクゴナガルのメガネが光ってたのは、興奮してたからか!」
ロンはいちいち叫んでいた。
「一年でシーカーになったのは100年ぶりだってウッドが言ってた」
「凄いぞ!エマ!!聞いてるか?!」
「…………………。」
エマは思い出していた。ドラコに言った自分の恥ずかしい言葉達を。
自分の醜態を。
「っぶ!!?!」
エマはハリーの頬っぺたを両手で掴んだ。
ハリーは唇を尖らせ、シパシパと目を瞬かせる。
「こんのーーーーーっ!!」
「ひたたたたたた!!」
湧き上がる恥ずかしさと安堵で手加減が出来きず、ハリーの頬っぺたをこねくり回した。
「心配してたんだから…!!」
エマの口が泣きそうなのを堪えるように綺麗なへの字をしている。
「ごへん…ひんぽいこけてぃ(ごめん、心配かけて)」
「バカっ!」
エマは手を離してハリーのオデコをペシっ!とたたいた。
「おいおい、夫婦喧嘩かー」
「よう!ハリー」
フレッドとジョージがやってきて、ハリーの肩に手を回した。
「ウッドから聞いたぜ!俺たちはグリフィンドールのビーターだ!よろしくな!」
「ハリー、お前よっぽど凄いんだな、ウッドの奴、小躍りしてたぜ」
「チャーリーがいなくなってから、一度もカップをとれてないんだ。でも今年は抜群のチームになるぞ!
クィディッチカップはいただきだ!」
「で、エマはなんでそんなにむくれてるんだ?」
フレッドがストン!とエマの隣に座った。
「別に!…ただ心配しただけよ、凄い顔のマクゴナガル先生がハリー連れてっちゃうんだもの」
「僕も最初は怖かったよ。あのマクゴナガル先生が凄い剣幕するもんだから退学させられるのかと…」
ジョージがケタケタわらった。
エマは笑い事じゃないっ!と余計に機嫌を悪くする。
ロンがフレッドとジョージにこっそり耳打ちした。
「大丈夫、今から面白いもの見せるから見てて」
フレッドとジョージはどういうことかと疑問に思った。そしてロンはササッと皿にデザートのカボチャパイとカスタードを乗せ、横に可愛くチェリーを置いてエマの前に黙って差し出した。
「エマ、今日はカボチャパイだよ」
ロンは至って平静を装いつつ、自然にさりげなくエマの前にデザートを置いた。
フレッドとジョージも黙ってその様子を見つめる。
「あ、ありがとう!」
エマは暫く皿のカボチャパイを見つめた。
綺麗に編み込まれたツヤツヤのパイ生地の下でカボチャが黄色く光っている。
みるからにねっとりホクホクだ。
エマは早速フォークを手に取りパイに刺した。
クスンとした下のクッキー生地からの抵抗が重量感を感じせる。
フォークに乗っかったカボチャパイに、カスタードを潜らせ、口に運んだ。
カボチャ…!あまーいカボチャがカスタードと相まってクリーミーさをまとう。
「………うまっ……」
その様子を黙って見ていたウィーズリー兄弟。
コレは、なるほど…。
ロンが言いたい事がわかってしまったフレッドとジョージ。
「エマ、もっとたくさん食べな!」
「紅茶いれてこようか?」
フレッドとジョージが両隣で優しくニコニコしながら話しかけてくるので、エマは少しびっくりした。
「おい!フレッド!ジョージ!早く来いって!」
リー•ジョーダンが2人を呼びにきた。
「おっとそうだった!!じゃぁなハリー!また練習の時に!」
フレッドとジョージはハリーの背中を叩いて、リーと大広間を後にした。
「よう!ポッター!」
げっ!この声は…
ハリーとエマは同時に心の中で呟いた。
ドラコがクラップとゴイルを従えてやってきたのだ。
エマはそーっと空のお皿で顔を隠した。
「最後の晩餐か?いつマグルの所に帰るんだよ。」
「お前に関係ないだろ。小さなお友達を連れないと、僕に話しかけれないのか」
ハリーが冷ややかにいった。上座に座っている教師たちの目を気にして、クラップとゴイルは強く拳を握り睨んでいる。
「今ここで喧嘩しようってんじゃない。僕1人とお前1人で魔法使いの決闘だ。杖だけでだ。やるか?」
「やるさ!僕が介添人をする!」
ロンが口を挟んだ。
「僕はクラップだ。真夜中のトロフィー室。
逃げるなよポッター」
ドラコはハリーから離れて向かいに座るエマの方にツカツカやってきて、エマが自分の顔を隠してる皿をサッと取り上げる。
「ひっ!」
「女は首を突っ込むなよ。お前はくるなっ」
ドラコは皿をポイとなげて行ってしまった。
「魔法使いの決闘って?介添人ってなに?」
ハリーがロンに尋ねた。
「介添人は、君が死んだら代わりに戦う人のことさ。死んだりするのは本当の魔法使い同士の決闘だけど、僕らはまだそんな事出来ないから、まぁ殴り合いになるんじゃないかな。」
「ちょっと失礼!」
今度はハーマイオニーがやってきた。
ロンが出た!という顔をした
「聞こえてきたんだけど、貴方たちまさか本当に真夜中に校内をウロつくつもりなの?絶対にダメよ!!グリフィンドールが何点減点されるとおもってるの!いい加減自分勝手な行動はやめなさい!」
「流石に余計なお世話だよ」
ハリーが言い返す。
ロンが全くだ!と頷いている。
「エマ!貴方からも何か言って!」
ハーマイオニーに突然振られてオロオロするエマ
「……んー…確かに、飛行訓練の事もあるからもう無茶してほしくないけど…でも行かないとハリーは一生ドラコにこの事をつつかれちゃう事は確かね…」
「その通りだよ!そう言う事さ、お世話さん!バイバイ!」
そう言ってロンが立ち上がり、ハリーも続いた。
エマも慌てて2人を追う。
ハーマイオニーは全く納得していないように3人の後ろ姿を睨んでいた。
※※※※※※※※※※
グリフィンドールの談話室。
ハリーとロン、そしてエマはパジャマにガウンを羽織って暖炉の前にいた。
「そろそろ11時だ。行こう」
ロンが言った
「エマ、本当に大丈夫?」
「うん、ドラコに来るなって言われたのがなんか今更腹がたってきちゃって。」
エマはどさくさに紛れてあのプラチナブロンドをぐしゃぐしゃにしてやろうと思っていた。
「ちょっとまって。エマ、なんでマルフォイを名前で呼ぶんだ」
ロンが訝しげにいう。
「………え?呼んでた??」
とぼけるエマ。
自覚はない。
ハリーもロンと同じ顔でエマを見つめたが、
「早く行かないとあいつら帰っちゃうかもよ!」
と2人を立たせた。
3人が扉に向かうと、「待ちなさい!」と後ろから声がし、走り寄ってくる音がした。
ロンは「聞くな!いくぞ!」と走ろうとしたが、ハリーが捕まってしまった。
ハーマイオニーはくるりとハリーを自分の方へ向かせ睨む。
「まさか本当にいくつもり?私が絶対に行かせないわよ」
「ほっといてくれよ。コレは僕とマルフォイの問題なんだ。」
「そうだ!ベットに戻れ!」
ハリーはハーマイオニーを容赦なく振り払った。
3人は振り返らず、ハーマイオニーから逃げるように太った貴婦人の肖像画を押しあける。
貴婦人の肖像画の向こうに行けばハーマイオニーから逃げられると誰もが思っていたのに、ハーマイオニーは外までやってきた。
「お前いい加減にしろよ!」
ロンはカンカンになって怒った。
「いい加減にするのは貴方たちの方よ!いい?貴方達が自分達のことばかり気にして、スリザリンが寮杯を取るなんて嫌よ!」
「頼むから部屋に戻ってくれ、君には迷惑かけない」
「いいわ!私はちゃんと忠告しましたからね!どうなったって知らないから!」
ハーマイオニーはプイ!!と踵を返したが、じっと動かない。
肖像画がない。
太った貴婦人は夜のお出かけにいってしまったようだ。
「さぁ!どうしてくれるの?!」
ハーマイオニーが喚いた。
「知るか」
ロンはうんざりしたように言い、3人は待ち合わせ場所に向かう。
ハーマイオニーがテクテクテクとロンの横について歩いた。
「ついてくるなよ!」
「あそこにいたってフェルチに見つかるじゃない!」
「…ちょっとまって!静かに…!何かいる…!」
エマの声でロンとハーマイオニーは息を潜める。
ハリーがそーっと暗がりを透かし見ながら怪しい影を見つめた。
「ミセス•ノリス?」
ロンがぼそっと息だけで言った。
そこにいたのは猫、ではなくまだ制服姿のままのネビルだった。
4人ともギョッとする。
ネビルは何故か廊下で丸まって眠っていた。
「ネビル?」
ハリーが声をかけるとネビルはビクっ!と目を覚まし、ハリーをみて安堵の表情を浮かべた。
「わ、わぁ!よかった…見つけてくれて!僕、合言葉忘れちゃって帰れなかったんだよ!」
「しっ!静かに。今太った貴婦人はいなくなっててどのみち寮には入れない」
ロンはネビルを嗜める。
そして「それじゃ僕ら行くから…」と置いていこうとしたが「待ってよ!この辺ゴーストがすごい出るんだ!」と喚かれてしまう。
しょうがなく一緒に行く事にした。
ぞろぞろとトロフィー室に向かう。
「なんでこんな大所帯で決闘に向かわないと行けないんだ!」
ロンは嘆いた。
5人は抜き足差し足で、トロフィー室に無事着く事が出来た。
部屋の真ん中に集まり、ハリーとロンは杖を構え、ドラコの不意打ちに備えた。
しかし、待てど暮らせどドラコ達がやってこない。
ロンが腕時計に目をやる。
「マルフォイのやつ、怖気ついたんじゃないか?」
ハリーが「っし!!」と動きを止めた。
「何か来る…」
キィキィとランタンの揺れる音と明かりが、開いた扉の向こうでゆらゆら揺れている。
「この辺にいるんだな…ノリス…隠れてるに違いない、しっかり匂いを嗅ぐんだぞ。」
フェルチだ!ミセス•ノリスもいる!
5人は心臓が凍りそうになった。
音を立てずフェルチ達のいるドアの反対側に向かった。
ドアの向こうには沢山鎧が飾ってある廊下だった。
ネビルの顔色が外の薄明かりでも分かるほど蒼白になっている。
「この辺にいるんだな?」
フェルチが後ろに迫ってきている。
ネビルが突然悲鳴をあげてやみくもにかけだし、つまづいた。
ガラガラガシャーーーン!!とすさまじい音がして鎧が倒れた。
「逃げろ!!」
ハリーの合図に全員走り出した。
エマは必死で逃げたが、ネビルがエマのガウンを握って離さず、またつまづいて転けたのでエマも転けてしまう。
ハリー達は気づかず先に行ってしまった。
「まて!!」
フェルチだ!
エマはネビルを起こして手を握り、必死に走った。
もうどこを走っているか分からない。
階段を降り、更に階段を降り、とにかくフェルチから遠いところに…!
どれくらい走っただろう。
エマとネビルは暗い地下牢にいた。
ネビルが寝そべって息を切らしている。
エマも息を整えようとその場にしゃがんだ。
「………ここ……どこだろ…」
ネビルはようやく息が落ち着いてきた。
「…わからない…でもフェルチの声は聞こえないわ…」
エマは辺りを見渡した。
湿った剥き出しの石が並ぶ地下牢だ。
エマ達の声が岩に反射して響いて聞こえる。
静けさと圧迫感で不気味な雰囲気が漂っていた。
「なんか僕、寒くなってきた。」
ネビルが丸い顔を小刻みに揺らしている。
なんだか、顔が青白い。
いや、元々さっきから青白かったのだが、なんだか透けるような青い光を帯びている。
「ちょ、ちょっとネビル大丈夫?」
「あかっんべー!」
ネビルの顔に重ねて、大口をあけてベロを出すゴーストが生えてきた。
ピーブスだ。
「きゃぁ!!」
「わーはははは!びっくりしたびっくりしたー!!」
ネビルは思いっきり息を吸い、
「ひあぁああああああ!」
と地下牢を飛び出して行った。
エマを置いて。
ピーブスはネビルには目もくれず、エマを見ながらケラケラ笑っている。
「見てたぞ見てたぞ!真夜中にフラフラしちゃって!悪い一年生ちゃん!」
「ピーブス、お願い、お願いだから静かにして…!」
「お願い?お願いをしてるの?もしかしてもしかして、君は今ピンチなの?」
エマは息を止めてピーブスをみた。
ピーブスは哀れみの表情をつくっている。
「そうなのっピンチなのっ…だからお願い!静かに…」
エマは両手を合わせてピーブスに祈った。
ピーブスがにっこりする。
「わかった!了承した!君のために!一肌脱ごう!!」
エマは安堵の表情を浮かべたのと同時にピーブスがニヤリと笑う。
「おおおおおおい!!!ベットを抜け出した一年生ちゃんはここだーーー!!!スリザリンの寮の入り口にいるぞーーー!!!!」
ピーブスが地下牢の階段に向かって大声をあげる。
「ここだーここだー!!!ここにいるぞーーー!!!フェールチーーーー!!!」
遠くで誰かの走ってくる音が聞こえた。
エマは心臓が止まりかける。
息が短くなる。
パニックが起きそう、ネビルみたいになりそうだ!!
突然、バッと口を塞がれ、体を引き寄せられた。
何か呪文のような言葉が聞こえ、ゴゴゴゴゴゴという音と共に暗闇に引きずりこまれる。
ドクドクドクドクと自分の心臓が鼓膜を打っている。こんなに自分の心臓の音を聞いたのは、組分けの時以来かもしれない。
あたりは暗くてよく見えない。
エマは強く目を瞑った。
頭の後ろで誰かの息遣い。
エマの手を塞いでる指の感触。
石鹸と香のような香り。
こんな状態だというのに、手の温かみに安心感が湧いてくる。
エマは次第に心臓の音が落ち着き、呼吸も落ち着いてきた。
この優しい手には覚えがある。
エマはその手を自分の手でそっと握り、ゆっくり外した。
後ろを振り返りる。
薄明かりに照らされたプラチナブロンドが光っている。ドラコもこちらをじっと見ていた。
いつもオールバックにされていた髪はサラサラとドラコの顔を流れた。
「お前、首を突っ込むなって言っただろ」
「…助けてくれたの?」
ドラコは何も言わなかった。
エマも前を向き、黙った。
長い間2人は動かず、外からの僅かな光が2人を照らしている。
エマは背中にぬくもりを感じながらドラコの手を握り、凄く安心していた。
小さく聞こえるドラコの心音。
なんだかうっとり眠りそうになる。
…いやまて。
まてまて、なぜ決闘を申し込んでいた筈のドラコがここにいるんだ?
エマは目を見開いてドラコの顔をじっと見つめる。
「なんだよ」
「なんだよじゃないわよ。あなた自分から決闘って言っておいてトロフィー室にこなかったわね?」
「?」
ドラコはポカンとした。
「行くわけないだろう」
「はぁ??」
「僕がポッターと決闘する為に夜の校内をうろつくなんて、なんでそんなリスク負うと思うんだ」
至極当たり前みたいに言ってのけたドラコ。
どう考えたらそうなるのか信じられないエマ。
「あ、あのねぇ。あなたがわざわざ自分でハリーに言ったのよっ夜中に決闘だっ!て」
「あぁ、それはポッターがバカを見たって事さ。愚かな奴。お偉い自分ならさぞスマートに決闘に勝てると思ったんだろう」
鼻でせせら笑うドラコ。
エマは思わず、ドラコの顔面に後頭部で頭突きした。
「……ったぁっ!!」
「この!おたんこなす!!人でなし!」
エマは足をばたつかせてドラコの腕を振り払おうと暴れた。
「おぃ!お前ちょっと静かにしろっ…!スリザリンの寮でお前がいるのがバレると厄介だ」
ハタっとエマは動きを止める。
ここはスリザリンの寮だ。
エマは今、ドラコのような者が住まう敵の陣地に1人でいるのだ。
ハリー達が今どうしてるかも気になるが、生きて会うにはドラコが言うように大人しく朝を待ち、誰にもバレないうちにここから出るしかない。
「ドラコも私と朝までここにいるのよ」
「はぁ??なんだと?」
「私1人で待てないわよ!スリザリンの寮でなんか!!」
エマはドラコに向き直り、ドラコの目を見つめる。
ドラコもエマをじっと睨んでいたが、すぐに目が泳ぎ、顔を逸らした。
ようやく諦めたように大きくため息をつく。
「6時までは誰も起きない。5時には出ていけ」
「そうねっ!5時なら、フェルチに追いかけられる事もないわ。」
「…全く、本当に信じられないな君は。いくらポッターが好きだからといってノコノコついてきたのか。ポッターはどうしたんだ」
信じられないのはドラコの方だろうとエマは思った。
「フェルチに見つかりそうになって逃げた時にはぐれたのよ。誰かさんのせいで」
ドラコはクックックッと小気味よく笑っている。
「いい気味だ、朝になるのが楽しみだな」
「また頭突きするわよ」
ドラコは静かになった。
「…でもなんでドラコあそこにいたの?寮の外に」
「…………別に良いだろ。なんでも」
結局ドラコはその後何も話さなくなった。
エマとドラコは、少し離れて座り、壁にもたれかかった。
朝になったらここを出て行かなくちゃ。
眠らないように、しっかり目を開けとこう。
ハリーとロンは…ハーマイオニー達は無事だろうか。
※※※
トントンと誰かが肩をたたく。
エマは目を覚ました。
ボヤける視界にスリザリンの制服が映っている。
「…起きなよ…」
知らない男の子がエマを見下ろしている。
いや、女の子のようにも見えた。
あまり生気のない表情でこちらを見つめている。
神経回路が徐々に目を覚まし、今の自分の現状を脳が把握しだした。
寝ていた!
あんなにスリザリンの生徒に見つかりたくないと必死で起きているつもりだったのに!
逃げないと!
急いで起き上がった時にも違和感があった。
ドラコの伸ばした膝の上から自分は起き上がったのだ。
ドラコのサラサラとしたサテンの黒いパジャマの感触が右のほっぺに残っている。
エマはカッカと顔が赤くなったのが自分でも分かった。そしてスリザリンの生徒にドラコの膝で寝てるのを見られてしまった。
急いで逃げ去ろうとするが、寝起きと動揺で足がもつれてしまい、無様に転けてしまう。
冷たい石の床におでこをくっつけて顔をあげれないでいると、男の子が声をかけてきた。
「そろそろ行かないと、皆起きてくる」
そう言い、エマの腕を拾い上げて立たせた。
そしてそのままスリザリンの寮の出入り口まで引っ張って行き外に連れ出してくれた。
「…あ、ありがとう、あの、あなたは」
「昨日はずっと見てたよ。」
男の子は気だるそうに無表情で言った。
「あんまり感心しないな。女の子が夜の校内を歩き回るなんて」
要領を得ないが、何でも知ってるような目で淡々と述べられエマは動揺した。
「何で知ってるの?」
「早く帰りな」
男の子は階段の方へエマの肩を押しやった。
エマは振り返り男の子を見たが、ゴゴゴという音と共に男の子はその場から姿を消していた。
不思議な人だったけど、この人もたすけてくれたんだろう。
エマはポツンと地下牢に佇んでいたが、昨日のことや先ほどの醜態を思うと居ても立っても居られず、すごい速さで地下牢の階段を駆け上がっていった。