賢者の石
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
厳格そうな顔したマクゴナガル先生が言った。
「変身術は最も複雑で、最も危険なものの一つです。いい加減な気持ちで授業をうける者は出ていってもらいますし、二度とクラスにはいれません。初めから警告しておきます。」
教台の上には地球儀と分厚い本がバラバラと置かれている。
大きくて古い砂時計がサラサラと授業の時間を測っている。
他にもいくつかある砂を落としていない砂時計は何に使うのか。
黒板の前でマクゴナガル先生が、これから授業を始める準備をしている。
生徒に人気のある変身術を学べると、クラスの空気はソワソワとしていた。
しかしロンは、別の意味でソワソワしていた。
ハリーとエマがまだ来ていないのだ。
「今日は皆さんにこのマッチ棒を針に変えれるよう、実習をしてもらいます。
それではまず、変身術の根本となる7原則にいて………
アラ、おはようございます。ミスター•ポッター、ミス•ファース」
ハァハァと息を切らしてハリーとエマが扉をぶち開けて入ってきた。
大きな音がしたので、全員の生徒の目が2人を見た。
「す、すいませ…」
「ピーブスに…つかまってて……」
2人は膝を曲げて苦しそうにゼェゼェと息を吐いている。
「寮の生徒と同じようにここに来れば遅刻する事はなかったでしょう。」
そう、2人は寝坊した。
ハリーは今朝、ロンが何度起こしても起きなかった。
ハリーの寝癖でゴワゴワの頭を引っ張っても、鼻の穴に指を突っ込んでも、無理やり瞼をこじ開けても、ズボンを無理やり脱がしてパンツにしても、起きなかった。
ハーマイオニーも朝食時、呆れ果てるようにエマが起きないと嘆いていた。
マクゴナガル先生の最もな意見に、ハリーもエマも息を切らす事しか出来ず黙っていた。
ダーズリー家にいた時は寝坊なんて絶対にしないし、出来なかったのに…!
「次に私の授業に遅刻したら、グリフィンドールは減点です。肝に銘じて席に座りなさい。」
ハリーはロンの隣、エマはハーマイオニーの隣に大人しく座る。
ハーマイオニーはエマの方をチラリと見る事もなく、マクゴナガル先生の喋る一文一句も逃すまいと、目から何か出そうな程真剣な眼差しで授業を聞いていた。
朝、多分ハーマイオニーは必死に頑張って起こそうとしてくれてたんだろう。
そして少しでも早く授業に向かえるように、制服とローブ、教科書とサンドイッチをベットの横に置いててくれたのだ。
それなのに結局遅刻してしまった。
「ごめん、ありがとう、ハーマイオニー」
「分かったわ、だから今は話しかけないで」
ハーマイオニーはそう言うが、目は前しか向いていない。
今はやめておこう、とエマも授業を聞いた。
生徒にマッチ棒が配られ、針に変える実習が始まった。
ロンのマッチ棒はチリチリと燃え出し、ハリーのマッチ棒は何故か三角定規になり、エマのマッチ棒はマッチが塵になった。
ハーマイオニーのマッチ棒がこのクラスで唯一綺麗な針になった。
マクゴナガル先生も称賛し、皆んなにミス•グレンジャーの針を見るように言った。
エマは授業後。スタスタ前を行くハーマイオニーに声をかけた。
「ハーマイオニー!今朝はありがとう!起こしてくれたのよね。それなのにごめん…」
ハーマイオニーはクル!とエマに向き直った
「あなた達に遅刻されたら減点なのよ、次は水をぶっかけてでも起こすから」
あながち冗談でもなさそうに軽快な表情で言って、またクルリと向きを変えて行ってしまった。
「あいつ自分が何言ってるかわかってないぜ」
ハーマイオニーに叱られたと思って落ち込んでるエマの肩にロンが手を置いた。
「それにしても、ハリーもエマも酷い寝坊だな。ハリーなんか僕が何しても起きなかった。」
「なんか夢見が悪くて…」
「僕も、覚えてないんだけど、変な夢みてる時は起きたくても目が開かないんだ」
ロンはやれやれと肩をすくめた。
※※※※※※※※※※※※※※※
窓のない、ドーム型の暗い地下牢が魔法薬学の教室だ。
地下牢の壁をくり抜かれて作った棚と、年期が立って木が黒く変色している棚に、隙間が無いほど瓶が並べられている。
その全てに何やらの個体や何やらの液体が入っている。
色鮮やかなものから、ヘドロのような物、光っている物、動いているものもあった。
地下牢の明かりは転々と壁にある燭台の上の蝋燭だけが頼りだ。
広い地下牢には、調合がしやすいように4人掛けの正方形の机が並べられている。
その机に、スリザリンとグリフィンドールの生徒が綺麗に別れて座り、真新しい大鍋に天秤、薬瓶を自分の席のテーブルの上に置いて、お行儀よく待っていた。
…というより、物々しい雰囲気に飲まれていた。
扉がバン!!と開き、全員肩がビク!っとすくんだ
「この授業では杖を振ったり、ばかげた呪文を唱えたりしない。
魔法薬調合の微妙な科学と芸術的な技を諸君が理解できるとは期待していない。」
黒いローブをブワリとはためかせ、コツコツとブーツの音を響かせながらセブルス•スネイプが異様な存在感を放ち登場した。
そして一層大きな大鍋に、大量のガラス瓶が敷き詰められている教台の前まで歩き、ゆっくり身体を生徒たちに向けた。
「だが、一部の素質のある選ばれた者には伝授してやろう。人の心を操り感覚を惑わせる技を。
名声を瓶の中に詰め栄光を醸造し死にすら蓋をする、そういう技を。」
低い低い、鼓膜が揺れているのが感じられる程低い声で話しながら、スリザリンの生徒の座る席に視線を向けた。
マルフォイがニヤリとしている。
何だか嫌な予感がしたグリフィンドール生徒は、キョロキョロとスネイプ先生とスリザリンの席を交互に見た。
「ミスター•ポッター」
突然呼ばれて、ハリーは息が止まった。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを加えると何になる?」
ハーマイオニーが臆する事もなくピン!と手を挙げる。
ハリーは困ってエマを見るが首をプルプル振るのみ。
ロンも肩をすくめるだけで、2人とも不安そうにハリーを見つめる。
「わ、わかりません。」
「では、モンクスフンドとウルフスブランの違いは?」
ハーマイオニーがさっきより高く手を挙げる。
エマは教科書を一生懸命めくってみるが、モンクスフンドが見つからない。
ロンがそれをみて『やっぱりダメだ』と眉毛をあげた。
「あの…わかりません。」
「…どうやら、名前だけ有名になってしまったようだな。最後にもう一つ、ベアゾール石を見つけてこいと言われたらどこを探す?」
ハーマイオニーが微動だにせず真っ直ぐ手を挙げているが、全く無視されている。
エマとロンはお祈りするようにハリーを見ることしか出来ない。
「ハーマイオニーが分かってるようですよ。」
ハリーも理不尽な問答に感じて少し腹を立てた。
スネイプは暫くハリーに呪いをかけるような目つきで見ていたが、踵を返す。
教台にもどり、黒板に向かってチョークをカッカッカと押し当てた。
「教えてやろうポッター。アスフォデルとニガヨモギを合わせると眠り薬となる。あまりに強力なため生きる屍の水薬と言われている。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で大抵の薬に対する解毒剤となる。モンクスフードとウルフベーンは同じ植物で別名をアコナイトとも言うがとりかぶとの事だ。
諸君何故今のを全部ノートに書き取らんのか?」
黒板に向いたままスネイプが流れるように言うと、生徒たちは慌てて羊皮紙を開き、ペンを持った。
「ポッターの無礼な態度により、グリフィンドールは1点減点」
グリフィンドール生はざわついた。
その後スネイプの授業ではハリーがターゲットとなり何かとグリフィンドールの点数が引かれた。ネビルが調合に失敗したのもハリーのせいにして。
一つの授業を出席しただけでグリフィンドールは5点も減点されてしまった。
※※※
「許せないわ!!スネイプのやつっ!」
エマがハグリッドの小屋で憤慨していた。
お茶会としてハグリッドがタイミングよく呼んでくれたので、ハリー、エマ、ロンはここでガス抜きをする事にしたのだ。
「あいつ、僕を憎んでるみたいだ。」
「スネイプはスリザリン以外の生徒全員嫌いだよ。フレッドとジョージもよく減点されてる」
ファングに顔をベロベロ舐められ、溺れそうになってるロンがハリーを気遣った。
「いいや、あやつはスリザリンだろうが生徒の事は皆嫌っとる。お前さんだけ憎んでるなんて事はねえさ」
ハグリッドが紅茶とロックケーキを皆に振る舞いながら言った。
ロックケーキを嬉々として齧ったエマが何とも悲しそうな顔をして、ゆっくり皿に戻してる様をロンは横目で見て、自分も齧ってみたが、エマと同じ顔になった。
ハリーはショックから立ち直れていないのか、遠い目をしながらロックケーキを黙々と口に運んでいる。
「そういやロン、チャーリー兄貴はどうしてる?俺は奴さんが気に入っとってな、動物の事にかけては凄い奴やった。」
「ドラゴンの研究してるよ。今ルーマニアにいる」
ロンとハグリッドがチャーリーのドラゴンの仕事についての話で盛り上がっていた。
エマはハグリッドにしては小さいベッドに座ってるハリーの横に腰掛けた。
「そんなに気にしないでいいよ。減点に関してはそりゃ腹立つけどハリーのせいじゃないもん」
「でもあいつの目が、本当に憎んでるような目だった。バーノンでもあんな目しなかったのに…」
エマはハリーの肩に手を回してぎゅっと抱き寄せた。
「ホグワーツに来て、ハグリッドやウィーズリーの家族、グリフィンドール寮の皆に会えた。
元の世界にいた時より優しい人達が沢山いるわ。
1人や2人嫌な奴がいたって、この世界を知らなかった時よりずっとずっとマシよ」
「2人ってマルフォイとスネイプか」
ハリーがフッと笑う。
「そうね。クラップとゴイルもあとパーキンソンもいたわね」
「結構たくさんいるね」
「ほんとだ!!」
ハリーとエマは笑い合った。
ハリーのお尻でカサカサと音がして見てみると『日刊預言者新聞』の切りぬきだった。
『 グリンゴッツ侵入さる
7月31日に起きたグリンゴッツ侵入事件については、知られざる闇の魔法使い、または魔女の仕業とされているが、捜査は依然として続いている。
グリンゴッツのゴブリンたちは、今日になって、何も盗られたものはなかったと主張した。荒らされた金庫は、実は侵入されたその日に、すでに空になっていた。
グリンゴッツの報道官は今日午後、「そこに何が入っていたかについては申し上げられません。詮索しないほうがみなさんの身のためです」と述べた。』
ハリーとエマは顔を見合わせてた。
「「ハグリッド!」」
ハグリッドは驚いて目を丸くする。
「これ!グリンゴッツに侵入されたのって僕の誕生日だよね?」
「ハグリッドが金庫から持ってったその日に泥棒が入ったって事?」
「あのハグリッドが持ってった物を盗もうとグリンゴッツに侵入したって事?」
ハグリッドは困ったように顔を下に向けたり上に向けたりしながら「うーっ」と唸っていた。
その通りという事らしい。
「そんな事よりー、もっとどうだ?ロックケーキ!まだまだあるぞ」
とハグリッドはロックケーキが沢山入ってるカゴを持ってきたので、ロンとエマは、もうお腹いっぱいです。という顔を一生懸命つくった。
ハリーだけは断りきれず、ポケットが膨らむ程、ロックケーキを持たされ、3人は夕食に遅れないように城にもどった。
※※※※※※※※※※※※※※
グリフィンドールとスリザリンの合同授業。
いよいよ飛行訓練だ。
今日はエマは1人で起きた。
ハーマイオニーに起こされる前に起きたのだ。
今日の飛行訓練でエマは華麗に箒に乗り、立派な魔女になると意気込んでいた。
もしかしたら飛行能力を見込まれて、クィディッチをやらないかとオファーが来るかもしれない
前代未聞、史上初、最年少のクィディッチ選手のオファーがやってくる。…そこまでいかなくても、せめてハーマイオニーに自慢できるくらいにはなりたいものだ。
だから、上がれ!!
箒よ!
私の手に来い!!
コロコロ転がってないで上がれ!!
「上がれってば!」
ゴン!!
「きゃーはははは!!!ダッサーーー!!」
パンジー•パーキンソンが指を刺して大声でエマを笑った。
エマの箒は思いっきりエマの顔面に柄をぶつけてきた。
ハリーとマルフォイは一発で箒を掴んでいるし、ロンも何度目かで成功している。
ハーマイオニーはまだ箒がコロコロしているだけだった。
エマより先に箒に殴られたネビルが、仲間を見つけたような顔でエマを見ている。
上手くいってる人の方が少ないようだが、エマは納得できなかった。
「エマ、大丈夫?」
「ハリー!どうやったの??」
「全然わからない。上がれって言ったら上がってきた」
「参考になるやつ頂戴!」
「うーーーーん…」
エマは必死に聞くが、ハリーは困ったように笑うだけだ。
「調子にのるな!ポッター」
マルフォイが向こうの列から噛み付いてきた。
ハリーもピリッとし、マルフォイを睨みつける。
「お前こそっ」
ピリピリした空気を感じたのか、マダム•フーチ先生がザッザッとやってきてピピピっ!と笛を吹き2人の間に立った。
「やめなさい!喧嘩をするなら、箒取り上げますよ!」
ハリーとマルフォイはフンっ!と顔そらした。
「では、私が笛を吹いたら箒にまたがり、地面を強く蹴ります。いいですか、2メートルです。2メートル上がったら少し前屈みになり、降りてきて下さい。」
一年生達は、箒を持ち上げる事すらできていないのに、もう飛ぶ練習をするのかと不安そうな顔をした。
「いいですか、吹きますよー!」
ビューーーーン!!とネビルが舞い上がった。
笛が鳴る前に2メートルどころか、8メートルくらい思いっきり上がって行った。
なんでそんなことになったのか
「コラ!!戻ってきなさい!!」
ネビルは箒に振り回されていた。
フーチ先生が「落ち着きなさい!!」と大声を張るが、彼には聞こえてないだろう。
ついに箒を握る手に限界がきたのか、ボトっ!!とネビルは落下した。
ボキッという嫌な音がひびく。
フーチが慌てて近寄ると、ネビルは右手を押さえてベソベソ泣いていた。
あんなのを見て、飛ぶ事ができるのだろうかと、おそらくエマ以外の生徒も思っていた筈だ。
「私がこの子を医務室に連れて行きます。その間全員動かないように!さもないとクィディッチのクを言う前にホグワーツから出て行ってもらいます!」
マダム•フーチはネビルを連れて医務室に向かって行った。
突然、マルフォイが大声でわらった。
それに便乗しスリザリンの生徒みんなが笑い出した。
「あいつの顔みたか?あの顔!」
クラップが落下する時のネビルのモノマネをして更にスリザリンが笑っていた。
「やめてよ!!ひどいわ!」
パーバティが咎める。
「何だお前、もしかしてあのチビデブに気があるのか」
マルフォイが笑いながらパーバティに絡んでいく。
「何も面白い事なんかないじゃない!いい加減にして!」
エマがマルフォイに詰め寄った。
マルフォイは笑うのをやめてエマを睨みつける。
「フン」と芝生に目を映し、キラキラ光る玉を拾った。
ネビルの『思い出し玉』だ
「マルフォイ、ネビルのだ。渡せよ」
ハリーは怒っているようだ。静かな声で言った。
ピリついた空気を感じ、みんながシンと静まった。
マルフォイはニヤリと笑う。
「取りにこいよ」
マルフォイも静かに言い、ヒラリと箒にのって飛び上がり、スーッと上空に舞う。
あっという間に15メートルは飛んだ。
「きゃーっ!」とパーキンソンが黄色い声をだしている。
「やめなさい!!フーチ先生がおっしゃったでしょう!私達に迷惑がかかる!」
と後ろでハーマイオニーの声が聞こえたと思ったら、ピュウ!と何かがマルフォイのところまで飛んで行った。
ハリーだっ!
ロンが「すげぇ!!!ハリー!かっこいい!!!」と叫んでいた。
ドラコとハリーは上空で睨み合う。
「こっちへ返せよ。振り落とされたくなかったらな」
「やれるもんならやってみろ」
2人は上空をすごい速さで絡み合った。
2人とも一年生とは思えない飛行をしていた。
「クィディッチの試合みたいだ」と誰かが言った。
ハリーの方がスピードが早かったのか、マルフォイは思いっきり思い出し玉を空中高く放り投げた。
思い出し玉が大きな弧を描きながら落下する。
ハリーは下に急降下し地面にぶつかる寸前だった。
エマは思わず手で顔を覆ったが、ハリーは見事思い出し玉をキャッチしていた。
ハリーが無事箒から降りてきた。
グリフィンドールの生徒が歓声を上げてハリーの元に駆け寄る「ハリー!すげえよ」「あれどうやったの!」
「スカッとした!!」
みんなハリーを称賛していた。
が、城からマクゴナガル先生がメガネを光らせながら走ってこちらにやってきたものだから、全員黙り込んだ。
「ハリー•ポッター、、、来なさい。」
マクゴナガル先生は何かを言う事なく言葉少なだったが、その気迫はただ事ではないのを訓練所にいる全員が感じていた。
ハリーは下を向いて、ただただマクゴナガル先生の後ろを着いていくしかなかった。
エマは血の気が引いていくのを感じた。
その後、マダム•フーチが帰ってきて、一連の騒動をマクゴナガルから聞いたと言う
「今回の件はマクゴナガル先生の判断に委ねます」
「そんな…!」
「悪いのはマルフォイなのに…!」
マダムフーチの言葉に、エマはショックを受け、他のグリフィンドール生もマダムフーチに抗議したが、聞き入れられなかった。
「ポッター、退学になるんじゃなーい?」
パーキンソンのせせら笑う声が聞こえてきた。
スリザリンの生徒がそれにつられて、ふざけたヤジを飛ばしてきたが、エマは反応せず、その後の飛行訓練をまともに受ける事が出来なかった。
※※※
飛行訓練の後は授業がなかった。
ロンはネビルに思い出し玉を返しにいくと言ったが、エマはついて行く気にならず、なんとなく中庭に向かった。
中庭の大きな木の下の木漏れ日がゆらゆら揺れていた。
他には誰もいない。
エマは木の下に腰を下ろして、大きな木の幹に寄りかかり、手を組んでお腹の上に置いた。
そしてただじっと自分の組んだ手を見ながら、ハリーの事を考えていた。
魔法界に来る前は、ダーズリー達のいる場所で2人で助け合って生きてきた。
本当に地獄だったけど、ハリーがいたから頑張れた。
そんなハリーと魔法界に来れた事が凄く凄く嬉しかったのに、奇跡だと思ったのに。
ハリーいなくなっちゃうの?
そして、1人であのダーズリーの家に帰るの?
そんなの、ダメだ。
ハリーが退学になったら…私も……。
エマは目を閉じた。
夢を見ていた。
男の人が心配そうに私に話しかけてきてくれる。
沢山抱っこして、沢山キスをしてくれた。
いっぱい笑いかけてくれた。
そして時々泣きながら私を抱きしめた。
顔を思い出せない。
私はこの人が大好きだった。
この人が私に笑ってくれる、話しかけてくれる、抱きしめてくれるだけでよかった。
『エマ…すまない…』『いつか必ず会いにいくから』
『約束だ!』
男の人がどんどん離れていく。去っていってしまう。
やだ…!行かないでよ!あなたまで私を置いていかないで!お願いっ!行かないで、
「………お父さん………」
頬に優しい感触があった。誰かが私を触っている。
優しい手だ………お父さん?
エマはその手を握って目を開けた。
ドラコ•マルフォイが目を見開いて動揺している姿が映った。
「マルフォイ…?」
あれ?もしかして私マルフォイの手を握ったの?
マルフォイが私に触っていたの?
「お、お前起きてたのか…?!」
マルフォイは素早く手を引っ込めた。
耳も頬も赤くなっている。
マルフォイは睨む対象をエマではなく芝生に向けていた。
「ファースの泣き面を拝みにきてやっただけだ!」
自分の頬に手を当ててみると、濡れていた。
マルフォイは踵を返し去ろうとしたが、エマは咄嗟に腕を掴んだ。
びっくりしているマルフォイ、エマもびっくりしていた。
「あの…えーと……もうちょっと一緒にいてくれない?…」
※※※
エマとドラコ。
2人は並んで木の下に座っていたが、どちらも長い事話さない。
ドラコのせいでハリーは今退学になりそうなのに、何で私はこの人と仲良く木の下に並んで座ってるのだろう。
ホグワーツ行きの汽車で、私は彼の肩を思いっきり噛み付いた気まずさもまだ残ってる。
なんで去っていくドラコを呼び止めたのか自分で自分が分からない。
長い沈黙の後、先に話したのはドラコだった。
「ポッターの事で泣いてたのか?」
思ったより落ち着いた声だった。
「…誰のせいでこうなったと思ってるのよ」
「フン!いい気味だ」
「あなたねぇっ!…………あー、もういいわ。」
エマは何故だか怒りが湧いてこなかった。
夢の内容は覚えてないが、多分ドラコは私の涙を拭っていた。
その事実が、ドラコへの怒りを鎮火させてしまったようだ。
「ハリーがもし退学になったら、私もホグワーツを去るわ」
ドラコがじっとこちらを見つめた。
「お前、何でそこまでしてポッターにこだわるんだ」
「そういうんじゃないわ。」
エマはスクっと立ち上がり、ローブについた芝生を払った。
「ドラコって箒凄く上手いのね、うっかり感動しちゃったわ。まるで燕みたいだった。」
「…………」
「機会がもしあれば、箒おしえて!ハリー教えるの凄く下手くそなのよ」
「ふん!嫌だね。」
ドラコは顔をそらした。
エマはクスクスと笑う。
「呼び止めて悪かったわ!でもちょっと元気でたかも。それから、汽車で私思いっきり噛み付いちゃってごめんね。ありがとう、それじゃぁ」
エマは振り返らず中庭を後にした。
あんなにモヤモヤしていた感情が晴れている。
エマは心が決まったのだ。
ハリーを1人にしない。
ドラコは、エマの後ろ姿をずっと見つめていた。
「変身術は最も複雑で、最も危険なものの一つです。いい加減な気持ちで授業をうける者は出ていってもらいますし、二度とクラスにはいれません。初めから警告しておきます。」
教台の上には地球儀と分厚い本がバラバラと置かれている。
大きくて古い砂時計がサラサラと授業の時間を測っている。
他にもいくつかある砂を落としていない砂時計は何に使うのか。
黒板の前でマクゴナガル先生が、これから授業を始める準備をしている。
生徒に人気のある変身術を学べると、クラスの空気はソワソワとしていた。
しかしロンは、別の意味でソワソワしていた。
ハリーとエマがまだ来ていないのだ。
「今日は皆さんにこのマッチ棒を針に変えれるよう、実習をしてもらいます。
それではまず、変身術の根本となる7原則にいて………
アラ、おはようございます。ミスター•ポッター、ミス•ファース」
ハァハァと息を切らしてハリーとエマが扉をぶち開けて入ってきた。
大きな音がしたので、全員の生徒の目が2人を見た。
「す、すいませ…」
「ピーブスに…つかまってて……」
2人は膝を曲げて苦しそうにゼェゼェと息を吐いている。
「寮の生徒と同じようにここに来れば遅刻する事はなかったでしょう。」
そう、2人は寝坊した。
ハリーは今朝、ロンが何度起こしても起きなかった。
ハリーの寝癖でゴワゴワの頭を引っ張っても、鼻の穴に指を突っ込んでも、無理やり瞼をこじ開けても、ズボンを無理やり脱がしてパンツにしても、起きなかった。
ハーマイオニーも朝食時、呆れ果てるようにエマが起きないと嘆いていた。
マクゴナガル先生の最もな意見に、ハリーもエマも息を切らす事しか出来ず黙っていた。
ダーズリー家にいた時は寝坊なんて絶対にしないし、出来なかったのに…!
「次に私の授業に遅刻したら、グリフィンドールは減点です。肝に銘じて席に座りなさい。」
ハリーはロンの隣、エマはハーマイオニーの隣に大人しく座る。
ハーマイオニーはエマの方をチラリと見る事もなく、マクゴナガル先生の喋る一文一句も逃すまいと、目から何か出そうな程真剣な眼差しで授業を聞いていた。
朝、多分ハーマイオニーは必死に頑張って起こそうとしてくれてたんだろう。
そして少しでも早く授業に向かえるように、制服とローブ、教科書とサンドイッチをベットの横に置いててくれたのだ。
それなのに結局遅刻してしまった。
「ごめん、ありがとう、ハーマイオニー」
「分かったわ、だから今は話しかけないで」
ハーマイオニーはそう言うが、目は前しか向いていない。
今はやめておこう、とエマも授業を聞いた。
生徒にマッチ棒が配られ、針に変える実習が始まった。
ロンのマッチ棒はチリチリと燃え出し、ハリーのマッチ棒は何故か三角定規になり、エマのマッチ棒はマッチが塵になった。
ハーマイオニーのマッチ棒がこのクラスで唯一綺麗な針になった。
マクゴナガル先生も称賛し、皆んなにミス•グレンジャーの針を見るように言った。
エマは授業後。スタスタ前を行くハーマイオニーに声をかけた。
「ハーマイオニー!今朝はありがとう!起こしてくれたのよね。それなのにごめん…」
ハーマイオニーはクル!とエマに向き直った
「あなた達に遅刻されたら減点なのよ、次は水をぶっかけてでも起こすから」
あながち冗談でもなさそうに軽快な表情で言って、またクルリと向きを変えて行ってしまった。
「あいつ自分が何言ってるかわかってないぜ」
ハーマイオニーに叱られたと思って落ち込んでるエマの肩にロンが手を置いた。
「それにしても、ハリーもエマも酷い寝坊だな。ハリーなんか僕が何しても起きなかった。」
「なんか夢見が悪くて…」
「僕も、覚えてないんだけど、変な夢みてる時は起きたくても目が開かないんだ」
ロンはやれやれと肩をすくめた。
※※※※※※※※※※※※※※※
窓のない、ドーム型の暗い地下牢が魔法薬学の教室だ。
地下牢の壁をくり抜かれて作った棚と、年期が立って木が黒く変色している棚に、隙間が無いほど瓶が並べられている。
その全てに何やらの個体や何やらの液体が入っている。
色鮮やかなものから、ヘドロのような物、光っている物、動いているものもあった。
地下牢の明かりは転々と壁にある燭台の上の蝋燭だけが頼りだ。
広い地下牢には、調合がしやすいように4人掛けの正方形の机が並べられている。
その机に、スリザリンとグリフィンドールの生徒が綺麗に別れて座り、真新しい大鍋に天秤、薬瓶を自分の席のテーブルの上に置いて、お行儀よく待っていた。
…というより、物々しい雰囲気に飲まれていた。
扉がバン!!と開き、全員肩がビク!っとすくんだ
「この授業では杖を振ったり、ばかげた呪文を唱えたりしない。
魔法薬調合の微妙な科学と芸術的な技を諸君が理解できるとは期待していない。」
黒いローブをブワリとはためかせ、コツコツとブーツの音を響かせながらセブルス•スネイプが異様な存在感を放ち登場した。
そして一層大きな大鍋に、大量のガラス瓶が敷き詰められている教台の前まで歩き、ゆっくり身体を生徒たちに向けた。
「だが、一部の素質のある選ばれた者には伝授してやろう。人の心を操り感覚を惑わせる技を。
名声を瓶の中に詰め栄光を醸造し死にすら蓋をする、そういう技を。」
低い低い、鼓膜が揺れているのが感じられる程低い声で話しながら、スリザリンの生徒の座る席に視線を向けた。
マルフォイがニヤリとしている。
何だか嫌な予感がしたグリフィンドール生徒は、キョロキョロとスネイプ先生とスリザリンの席を交互に見た。
「ミスター•ポッター」
突然呼ばれて、ハリーは息が止まった。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを加えると何になる?」
ハーマイオニーが臆する事もなくピン!と手を挙げる。
ハリーは困ってエマを見るが首をプルプル振るのみ。
ロンも肩をすくめるだけで、2人とも不安そうにハリーを見つめる。
「わ、わかりません。」
「では、モンクスフンドとウルフスブランの違いは?」
ハーマイオニーがさっきより高く手を挙げる。
エマは教科書を一生懸命めくってみるが、モンクスフンドが見つからない。
ロンがそれをみて『やっぱりダメだ』と眉毛をあげた。
「あの…わかりません。」
「…どうやら、名前だけ有名になってしまったようだな。最後にもう一つ、ベアゾール石を見つけてこいと言われたらどこを探す?」
ハーマイオニーが微動だにせず真っ直ぐ手を挙げているが、全く無視されている。
エマとロンはお祈りするようにハリーを見ることしか出来ない。
「ハーマイオニーが分かってるようですよ。」
ハリーも理不尽な問答に感じて少し腹を立てた。
スネイプは暫くハリーに呪いをかけるような目つきで見ていたが、踵を返す。
教台にもどり、黒板に向かってチョークをカッカッカと押し当てた。
「教えてやろうポッター。アスフォデルとニガヨモギを合わせると眠り薬となる。あまりに強力なため生きる屍の水薬と言われている。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で大抵の薬に対する解毒剤となる。モンクスフードとウルフベーンは同じ植物で別名をアコナイトとも言うがとりかぶとの事だ。
諸君何故今のを全部ノートに書き取らんのか?」
黒板に向いたままスネイプが流れるように言うと、生徒たちは慌てて羊皮紙を開き、ペンを持った。
「ポッターの無礼な態度により、グリフィンドールは1点減点」
グリフィンドール生はざわついた。
その後スネイプの授業ではハリーがターゲットとなり何かとグリフィンドールの点数が引かれた。ネビルが調合に失敗したのもハリーのせいにして。
一つの授業を出席しただけでグリフィンドールは5点も減点されてしまった。
※※※
「許せないわ!!スネイプのやつっ!」
エマがハグリッドの小屋で憤慨していた。
お茶会としてハグリッドがタイミングよく呼んでくれたので、ハリー、エマ、ロンはここでガス抜きをする事にしたのだ。
「あいつ、僕を憎んでるみたいだ。」
「スネイプはスリザリン以外の生徒全員嫌いだよ。フレッドとジョージもよく減点されてる」
ファングに顔をベロベロ舐められ、溺れそうになってるロンがハリーを気遣った。
「いいや、あやつはスリザリンだろうが生徒の事は皆嫌っとる。お前さんだけ憎んでるなんて事はねえさ」
ハグリッドが紅茶とロックケーキを皆に振る舞いながら言った。
ロックケーキを嬉々として齧ったエマが何とも悲しそうな顔をして、ゆっくり皿に戻してる様をロンは横目で見て、自分も齧ってみたが、エマと同じ顔になった。
ハリーはショックから立ち直れていないのか、遠い目をしながらロックケーキを黙々と口に運んでいる。
「そういやロン、チャーリー兄貴はどうしてる?俺は奴さんが気に入っとってな、動物の事にかけては凄い奴やった。」
「ドラゴンの研究してるよ。今ルーマニアにいる」
ロンとハグリッドがチャーリーのドラゴンの仕事についての話で盛り上がっていた。
エマはハグリッドにしては小さいベッドに座ってるハリーの横に腰掛けた。
「そんなに気にしないでいいよ。減点に関してはそりゃ腹立つけどハリーのせいじゃないもん」
「でもあいつの目が、本当に憎んでるような目だった。バーノンでもあんな目しなかったのに…」
エマはハリーの肩に手を回してぎゅっと抱き寄せた。
「ホグワーツに来て、ハグリッドやウィーズリーの家族、グリフィンドール寮の皆に会えた。
元の世界にいた時より優しい人達が沢山いるわ。
1人や2人嫌な奴がいたって、この世界を知らなかった時よりずっとずっとマシよ」
「2人ってマルフォイとスネイプか」
ハリーがフッと笑う。
「そうね。クラップとゴイルもあとパーキンソンもいたわね」
「結構たくさんいるね」
「ほんとだ!!」
ハリーとエマは笑い合った。
ハリーのお尻でカサカサと音がして見てみると『日刊預言者新聞』の切りぬきだった。
『 グリンゴッツ侵入さる
7月31日に起きたグリンゴッツ侵入事件については、知られざる闇の魔法使い、または魔女の仕業とされているが、捜査は依然として続いている。
グリンゴッツのゴブリンたちは、今日になって、何も盗られたものはなかったと主張した。荒らされた金庫は、実は侵入されたその日に、すでに空になっていた。
グリンゴッツの報道官は今日午後、「そこに何が入っていたかについては申し上げられません。詮索しないほうがみなさんの身のためです」と述べた。』
ハリーとエマは顔を見合わせてた。
「「ハグリッド!」」
ハグリッドは驚いて目を丸くする。
「これ!グリンゴッツに侵入されたのって僕の誕生日だよね?」
「ハグリッドが金庫から持ってったその日に泥棒が入ったって事?」
「あのハグリッドが持ってった物を盗もうとグリンゴッツに侵入したって事?」
ハグリッドは困ったように顔を下に向けたり上に向けたりしながら「うーっ」と唸っていた。
その通りという事らしい。
「そんな事よりー、もっとどうだ?ロックケーキ!まだまだあるぞ」
とハグリッドはロックケーキが沢山入ってるカゴを持ってきたので、ロンとエマは、もうお腹いっぱいです。という顔を一生懸命つくった。
ハリーだけは断りきれず、ポケットが膨らむ程、ロックケーキを持たされ、3人は夕食に遅れないように城にもどった。
※※※※※※※※※※※※※※
グリフィンドールとスリザリンの合同授業。
いよいよ飛行訓練だ。
今日はエマは1人で起きた。
ハーマイオニーに起こされる前に起きたのだ。
今日の飛行訓練でエマは華麗に箒に乗り、立派な魔女になると意気込んでいた。
もしかしたら飛行能力を見込まれて、クィディッチをやらないかとオファーが来るかもしれない
前代未聞、史上初、最年少のクィディッチ選手のオファーがやってくる。…そこまでいかなくても、せめてハーマイオニーに自慢できるくらいにはなりたいものだ。
だから、上がれ!!
箒よ!
私の手に来い!!
コロコロ転がってないで上がれ!!
「上がれってば!」
ゴン!!
「きゃーはははは!!!ダッサーーー!!」
パンジー•パーキンソンが指を刺して大声でエマを笑った。
エマの箒は思いっきりエマの顔面に柄をぶつけてきた。
ハリーとマルフォイは一発で箒を掴んでいるし、ロンも何度目かで成功している。
ハーマイオニーはまだ箒がコロコロしているだけだった。
エマより先に箒に殴られたネビルが、仲間を見つけたような顔でエマを見ている。
上手くいってる人の方が少ないようだが、エマは納得できなかった。
「エマ、大丈夫?」
「ハリー!どうやったの??」
「全然わからない。上がれって言ったら上がってきた」
「参考になるやつ頂戴!」
「うーーーーん…」
エマは必死に聞くが、ハリーは困ったように笑うだけだ。
「調子にのるな!ポッター」
マルフォイが向こうの列から噛み付いてきた。
ハリーもピリッとし、マルフォイを睨みつける。
「お前こそっ」
ピリピリした空気を感じたのか、マダム•フーチ先生がザッザッとやってきてピピピっ!と笛を吹き2人の間に立った。
「やめなさい!喧嘩をするなら、箒取り上げますよ!」
ハリーとマルフォイはフンっ!と顔そらした。
「では、私が笛を吹いたら箒にまたがり、地面を強く蹴ります。いいですか、2メートルです。2メートル上がったら少し前屈みになり、降りてきて下さい。」
一年生達は、箒を持ち上げる事すらできていないのに、もう飛ぶ練習をするのかと不安そうな顔をした。
「いいですか、吹きますよー!」
ビューーーーン!!とネビルが舞い上がった。
笛が鳴る前に2メートルどころか、8メートルくらい思いっきり上がって行った。
なんでそんなことになったのか
「コラ!!戻ってきなさい!!」
ネビルは箒に振り回されていた。
フーチ先生が「落ち着きなさい!!」と大声を張るが、彼には聞こえてないだろう。
ついに箒を握る手に限界がきたのか、ボトっ!!とネビルは落下した。
ボキッという嫌な音がひびく。
フーチが慌てて近寄ると、ネビルは右手を押さえてベソベソ泣いていた。
あんなのを見て、飛ぶ事ができるのだろうかと、おそらくエマ以外の生徒も思っていた筈だ。
「私がこの子を医務室に連れて行きます。その間全員動かないように!さもないとクィディッチのクを言う前にホグワーツから出て行ってもらいます!」
マダム•フーチはネビルを連れて医務室に向かって行った。
突然、マルフォイが大声でわらった。
それに便乗しスリザリンの生徒みんなが笑い出した。
「あいつの顔みたか?あの顔!」
クラップが落下する時のネビルのモノマネをして更にスリザリンが笑っていた。
「やめてよ!!ひどいわ!」
パーバティが咎める。
「何だお前、もしかしてあのチビデブに気があるのか」
マルフォイが笑いながらパーバティに絡んでいく。
「何も面白い事なんかないじゃない!いい加減にして!」
エマがマルフォイに詰め寄った。
マルフォイは笑うのをやめてエマを睨みつける。
「フン」と芝生に目を映し、キラキラ光る玉を拾った。
ネビルの『思い出し玉』だ
「マルフォイ、ネビルのだ。渡せよ」
ハリーは怒っているようだ。静かな声で言った。
ピリついた空気を感じ、みんながシンと静まった。
マルフォイはニヤリと笑う。
「取りにこいよ」
マルフォイも静かに言い、ヒラリと箒にのって飛び上がり、スーッと上空に舞う。
あっという間に15メートルは飛んだ。
「きゃーっ!」とパーキンソンが黄色い声をだしている。
「やめなさい!!フーチ先生がおっしゃったでしょう!私達に迷惑がかかる!」
と後ろでハーマイオニーの声が聞こえたと思ったら、ピュウ!と何かがマルフォイのところまで飛んで行った。
ハリーだっ!
ロンが「すげぇ!!!ハリー!かっこいい!!!」と叫んでいた。
ドラコとハリーは上空で睨み合う。
「こっちへ返せよ。振り落とされたくなかったらな」
「やれるもんならやってみろ」
2人は上空をすごい速さで絡み合った。
2人とも一年生とは思えない飛行をしていた。
「クィディッチの試合みたいだ」と誰かが言った。
ハリーの方がスピードが早かったのか、マルフォイは思いっきり思い出し玉を空中高く放り投げた。
思い出し玉が大きな弧を描きながら落下する。
ハリーは下に急降下し地面にぶつかる寸前だった。
エマは思わず手で顔を覆ったが、ハリーは見事思い出し玉をキャッチしていた。
ハリーが無事箒から降りてきた。
グリフィンドールの生徒が歓声を上げてハリーの元に駆け寄る「ハリー!すげえよ」「あれどうやったの!」
「スカッとした!!」
みんなハリーを称賛していた。
が、城からマクゴナガル先生がメガネを光らせながら走ってこちらにやってきたものだから、全員黙り込んだ。
「ハリー•ポッター、、、来なさい。」
マクゴナガル先生は何かを言う事なく言葉少なだったが、その気迫はただ事ではないのを訓練所にいる全員が感じていた。
ハリーは下を向いて、ただただマクゴナガル先生の後ろを着いていくしかなかった。
エマは血の気が引いていくのを感じた。
その後、マダム•フーチが帰ってきて、一連の騒動をマクゴナガルから聞いたと言う
「今回の件はマクゴナガル先生の判断に委ねます」
「そんな…!」
「悪いのはマルフォイなのに…!」
マダムフーチの言葉に、エマはショックを受け、他のグリフィンドール生もマダムフーチに抗議したが、聞き入れられなかった。
「ポッター、退学になるんじゃなーい?」
パーキンソンのせせら笑う声が聞こえてきた。
スリザリンの生徒がそれにつられて、ふざけたヤジを飛ばしてきたが、エマは反応せず、その後の飛行訓練をまともに受ける事が出来なかった。
※※※
飛行訓練の後は授業がなかった。
ロンはネビルに思い出し玉を返しにいくと言ったが、エマはついて行く気にならず、なんとなく中庭に向かった。
中庭の大きな木の下の木漏れ日がゆらゆら揺れていた。
他には誰もいない。
エマは木の下に腰を下ろして、大きな木の幹に寄りかかり、手を組んでお腹の上に置いた。
そしてただじっと自分の組んだ手を見ながら、ハリーの事を考えていた。
魔法界に来る前は、ダーズリー達のいる場所で2人で助け合って生きてきた。
本当に地獄だったけど、ハリーがいたから頑張れた。
そんなハリーと魔法界に来れた事が凄く凄く嬉しかったのに、奇跡だと思ったのに。
ハリーいなくなっちゃうの?
そして、1人であのダーズリーの家に帰るの?
そんなの、ダメだ。
ハリーが退学になったら…私も……。
エマは目を閉じた。
夢を見ていた。
男の人が心配そうに私に話しかけてきてくれる。
沢山抱っこして、沢山キスをしてくれた。
いっぱい笑いかけてくれた。
そして時々泣きながら私を抱きしめた。
顔を思い出せない。
私はこの人が大好きだった。
この人が私に笑ってくれる、話しかけてくれる、抱きしめてくれるだけでよかった。
『エマ…すまない…』『いつか必ず会いにいくから』
『約束だ!』
男の人がどんどん離れていく。去っていってしまう。
やだ…!行かないでよ!あなたまで私を置いていかないで!お願いっ!行かないで、
「………お父さん………」
頬に優しい感触があった。誰かが私を触っている。
優しい手だ………お父さん?
エマはその手を握って目を開けた。
ドラコ•マルフォイが目を見開いて動揺している姿が映った。
「マルフォイ…?」
あれ?もしかして私マルフォイの手を握ったの?
マルフォイが私に触っていたの?
「お、お前起きてたのか…?!」
マルフォイは素早く手を引っ込めた。
耳も頬も赤くなっている。
マルフォイは睨む対象をエマではなく芝生に向けていた。
「ファースの泣き面を拝みにきてやっただけだ!」
自分の頬に手を当ててみると、濡れていた。
マルフォイは踵を返し去ろうとしたが、エマは咄嗟に腕を掴んだ。
びっくりしているマルフォイ、エマもびっくりしていた。
「あの…えーと……もうちょっと一緒にいてくれない?…」
※※※
エマとドラコ。
2人は並んで木の下に座っていたが、どちらも長い事話さない。
ドラコのせいでハリーは今退学になりそうなのに、何で私はこの人と仲良く木の下に並んで座ってるのだろう。
ホグワーツ行きの汽車で、私は彼の肩を思いっきり噛み付いた気まずさもまだ残ってる。
なんで去っていくドラコを呼び止めたのか自分で自分が分からない。
長い沈黙の後、先に話したのはドラコだった。
「ポッターの事で泣いてたのか?」
思ったより落ち着いた声だった。
「…誰のせいでこうなったと思ってるのよ」
「フン!いい気味だ」
「あなたねぇっ!…………あー、もういいわ。」
エマは何故だか怒りが湧いてこなかった。
夢の内容は覚えてないが、多分ドラコは私の涙を拭っていた。
その事実が、ドラコへの怒りを鎮火させてしまったようだ。
「ハリーがもし退学になったら、私もホグワーツを去るわ」
ドラコがじっとこちらを見つめた。
「お前、何でそこまでしてポッターにこだわるんだ」
「そういうんじゃないわ。」
エマはスクっと立ち上がり、ローブについた芝生を払った。
「ドラコって箒凄く上手いのね、うっかり感動しちゃったわ。まるで燕みたいだった。」
「…………」
「機会がもしあれば、箒おしえて!ハリー教えるの凄く下手くそなのよ」
「ふん!嫌だね。」
ドラコは顔をそらした。
エマはクスクスと笑う。
「呼び止めて悪かったわ!でもちょっと元気でたかも。それから、汽車で私思いっきり噛み付いちゃってごめんね。ありがとう、それじゃぁ」
エマは振り返らず中庭を後にした。
あんなにモヤモヤしていた感情が晴れている。
エマは心が決まったのだ。
ハリーを1人にしない。
ドラコは、エマの後ろ姿をずっと見つめていた。