十人一色 〜トランスジェンダーを抱えたふたり〜

 入学式はみんな私服で、和香と同じようにパンツスタイルの女性もちらほらいた。
 男装とまではいかなくても、スカートじゃない人がいるだけで救われたような気がする。

 そして、定時制なだけあって自分の親と同じ世代の人もチラホラと見受けられる。ツナギを着たおじさんや、三十代くらいの、髪を緑に染めた女性。
 ここは自由。檻のような場所じゃない。それだけで、この高校に来て良かったと思えた。

 入学式後、教室で最初の一週間の予定表をもらい、先生のあとについて学内を一周する。

 ホルマリン漬けの並ぶ棚やギターの立てかけられたラックを通り過ぎ、最後に入学式をした体育館に戻った。

 体育館では、先生方が折りたたみ椅子の片付けをしていた。

 ポケットの中で携帯電話が三回刻みで震え、メールの着信を告げる。
 説明会が終わってすぐ放課になったので、さっそく携帯を出すと、黒い折りたたみ携帯の背面ディスプレイに、《You got mail  from亜利》と文字が流れている。

『件名 説明会終わった
 本文 駅前のカラオケ行こ、犬の石像前で待ってる(・ω・*∪)ノシ』

『OK、こっちもおわったとこ。今から行く、犬の石像の前ね。(●´ω`●)』


 返信して学校を出る。
 肩にさげたスポーツメーカーのバッグは今日の説明会でもらった書類でパンパンだ。
 
 和香は大きく背伸びして、駆け足で駅へと急いだ。


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