十人一色 〜トランスジェンダーを抱えたふたり〜
(放っておけばそのうち飽きるか)
そう考えて和香は何事もなかったようにごみ処理をして席についた。
無視しても、和香の席がゴミ置き場と化すことは何日も続いた。
ひと月経ったある日の授業中、黒板の板書をしていると後頭部に何か当たった。
軽い音がして、落ちた何かを見ると、半分にちぎられた消しゴムだった。
紙のカバーがなく、定規で削ったような歪な断面のものだ。
拾い上げると斜め後ろの席の男子たちがヒソヒソとささやきあい、和香を見ながら肘でつつきあっている。
「ふざけんな、おれの消しゴムを蛮人 に投げるな、病原菌が移るだろうが」
「あーあ、バイキン付いたな。もう使えねー」
タイミングから考えて彼らのもの。
(頭悪すぎてついていけない)
幸い和香の席は窓際。もう使えないと言うなら代わりに捨ててあげよう。
拾い上げたそれを、窓の外中に放った。草むらにまぎれて見えなくなった。
「何しやがる」と男子たちは憤慨していたが、和香の知ったことではない。
授業が終わり教室を出ようとしたところで、例の男子たちが扉の前を塞ぐ。
思いきり蹴り上げたら退いた。
「何する! 女のくせに。きたねぇな!」
「ウザいんだよお前ら!」
普通の人なら一生のうち一度だって吐かないだろう、憎しみの限りの暴言が和香の口から滝のような勢いで吐き出された。
女のくせになんて、一番言われたくない言葉だ。
好きで女に生まれたわけじゃないのに。
女になんて生まれたくなかったのに。
「くたばれ! 俺に関わるな!」
叫んでも、和香はそれ以上のことができなかった。
現代日本において、傷害と殺人は犯罪だ。こんな奴らのために自分の人生棒に振りたくないし、犯罪者になりたくない。
殺人が犯罪でないなら、いじめの加害者全員、息の根を止めてやっただろう。



そう考えて和香は何事もなかったようにごみ処理をして席についた。
無視しても、和香の席がゴミ置き場と化すことは何日も続いた。
ひと月経ったある日の授業中、黒板の板書をしていると後頭部に何か当たった。
軽い音がして、落ちた何かを見ると、半分にちぎられた消しゴムだった。
紙のカバーがなく、定規で削ったような歪な断面のものだ。
拾い上げると斜め後ろの席の男子たちがヒソヒソとささやきあい、和香を見ながら肘でつつきあっている。
「ふざけんな、おれの消しゴムを
「あーあ、バイキン付いたな。もう使えねー」
タイミングから考えて彼らのもの。
(頭悪すぎてついていけない)
幸い和香の席は窓際。もう使えないと言うなら代わりに捨ててあげよう。
拾い上げたそれを、窓の外中に放った。草むらにまぎれて見えなくなった。
「何しやがる」と男子たちは憤慨していたが、和香の知ったことではない。
授業が終わり教室を出ようとしたところで、例の男子たちが扉の前を塞ぐ。
思いきり蹴り上げたら退いた。
「何する! 女のくせに。きたねぇな!」
「ウザいんだよお前ら!」
普通の人なら一生のうち一度だって吐かないだろう、憎しみの限りの暴言が和香の口から滝のような勢いで吐き出された。
女のくせになんて、一番言われたくない言葉だ。
好きで女に生まれたわけじゃないのに。
女になんて生まれたくなかったのに。
「くたばれ! 俺に関わるな!」
叫んでも、和香はそれ以上のことができなかった。
現代日本において、傷害と殺人は犯罪だ。こんな奴らのために自分の人生棒に振りたくないし、犯罪者になりたくない。
殺人が犯罪でないなら、いじめの加害者全員、息の根を止めてやっただろう。
