十人一色 〜トランスジェンダーを抱えたふたり〜

 同じ学年にいるのは、某男子に片想いしているなどとあらぬ噂を流すような悪い女ばかりではない。

 和香に女の子らしさが欠片もなくても、気にせず友だちになってくれる子もいた。
 亜利ありという。
 亜利には弟がいるからなのか、男勝りなところがある。
 一番仲のいい友だちになった。

 家に遊びに行くと少年マンガを貸してくれた。
 努力、友情、勝利。
 誰かのために戦って、血と涙を流す主人公たちはすごく輝いて見える。
 自分にはそんなマネできない。
 自分以外の誰かのために必死になるなんてしたことがない。
 自分のためにすら、必死になれたことがない。

 かっこいい男たちの物語に和香は引き込まれて、亜利と少年マンガの話をするようになった。
 本心で他人と話せたのは初めてかもしれない。


 他の女の子たちは流行りの少女マンガや、女の子の恋愛アニメを好んでいて、週明けはその話でもちきり。

 観ていない、読んでいないものの話題に入れないから、和香はその輪に近づかない。
 兄と観ている特撮ライダーの話を誰かとできないものかと思ったけれどかなったことはない。

 髪を短くして仕草も兄や父の真似。男言葉で話す和香は、本人は気づいてないけれど変人と思われていた。




 そのまま中学生になり、亜利とはクラスが離れてしまった。

 同じ地域にもう一つの小学校がある。二つの小学校の卒業生が持ち上がりでその中学に入る。
 これまた選ぶ権利すらなく、女子の制服はスカートだった。
 体操着の夏物が男女統一で半ズボンなのが唯一の救いと言えよう。


 体質なのか太りやすく、中学生の和香は良く言えばぽっちゃり、有り体に言えばデブになっていた。
 身だしなみを気にしないからニキビも増える。


 男言葉なうえにオデブでニキビの汚い顔。新しい友だちも作れなかったからいつも教室の片隅で好きな本を読みふける。
 

 クラスの輪に溶け込まない異物の和香は、ヤンチャ盛りで口さがない男子たちの格好のえもの。
 いじめの対象になった。


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