十人一色 〜トランスジェンダーを抱えたふたり〜
十月になり、球技大会のお知らせが配布された。
全日制の一般的な高校と違って、ここには体育祭なるものは存在しない。
代わりにあるのが球技大会。
スリーオンスリーのバスケ、バレー、バトミントンのダブルスとシングルス。
これらの競技の中から好きなものにエントリーして参加する。
和香はバトミントンのシングルスにエントリーした。
エントリーする段階で初戦敗退する気満々だった。
チーム戦だと負けたら自分のせいになるし負い目を感じるけど、シングルスなら全部自分のせいだし誰にも負い目を感じなくていい。
ホームルームが終わるなり、申込書を握りしめた希沙が突撃をかましてきた。
「ミズっちー! バスケに参加しようよバスケ!」
「むり、俺、運動嫌い」
「ダイエットするならバスケしようよー!」
「人選ミスだ」
それはそれ、これはこれ。
ダイエットのためにウォーキングしているけど、激しい運動は息が上がるから嫌いだった。
「あとひとりなのー!」
「あー、リクなら適任じゃね? スラダン好きだし」
「オレにふるな。漫画は好きだしルカワはかっけーけどさ、これたいてい参加するのバスケ部の連中じゃん。普段運動しない人間がにわかチーム作っても初戦敗退するって」
リクはリクで飛び火した火の粉をはたき落とした。
「でもでもバスケがいいよ! チームワークとか一体感良いじゃん!」
なぜ希沙はここまでバスケにこだわるのか。答えは簡単。
和香のような集団イベント大嫌い人間の対極、お祭ヤローなのだ。
お祭があると浮かれずにはいられない子なのだ。
「しかたねーな」
リクが折れて、チームメンバーの欄にサインしてあげた。断固拒否した和香と大違いである。
「さっそく今日の放課後から練習しよー!」
「あ、むり。今日彼氏とデートだから」
「えええぇ! そんなぁ!」
和香はリクに彼氏がいたということに驚いたが、希沙は練習に付き合ってくれないことに衝撃を受けていた。
マンガだと中学生にだってカレカノがいるんだから、高校生のリクにいても不思議ではない。けど、
「彼氏がいるんだ。予想外だ」
「おー」
リクはケータイのメールチェックでボタンをポチポチしながら生返事を返してくる。
恋愛として好きになる相手が同性か異性かなんて些細なものだ。
リクはどことなく雰囲気が和香に似ているけど、似ているだけで違う存在だ。
心が男で好きになる相手が男でも、そうなんだなくらいにしか思わなかった。
和香は恋愛感情自体持ち合わせてないから。
だから、深く考えずに聞いた。
「漫画でよくある、『今はまだ学生だけど本気だから結婚前提に〜』みたいな感じか?」
リクはポチポチしてた指を止めて、ちらりと和香を見て、言い淀んだ。
あ、これたぶん聞いちゃ駄目なやつだった。
リクの反応でその空気を察知したけどもう遅い。
「ははっ。わかんね。オレらまだ16歳だからな」
「そっか。そうだよな。ごめん」
明らかに無理した笑いとわかる顔を作って、リクは携帯電話をたたんだ。



全日制の一般的な高校と違って、ここには体育祭なるものは存在しない。
代わりにあるのが球技大会。
スリーオンスリーのバスケ、バレー、バトミントンのダブルスとシングルス。
これらの競技の中から好きなものにエントリーして参加する。
和香はバトミントンのシングルスにエントリーした。
エントリーする段階で初戦敗退する気満々だった。
チーム戦だと負けたら自分のせいになるし負い目を感じるけど、シングルスなら全部自分のせいだし誰にも負い目を感じなくていい。
ホームルームが終わるなり、申込書を握りしめた希沙が突撃をかましてきた。
「ミズっちー! バスケに参加しようよバスケ!」
「むり、俺、運動嫌い」
「ダイエットするならバスケしようよー!」
「人選ミスだ」
それはそれ、これはこれ。
ダイエットのためにウォーキングしているけど、激しい運動は息が上がるから嫌いだった。
「あとひとりなのー!」
「あー、リクなら適任じゃね? スラダン好きだし」
「オレにふるな。漫画は好きだしルカワはかっけーけどさ、これたいてい参加するのバスケ部の連中じゃん。普段運動しない人間がにわかチーム作っても初戦敗退するって」
リクはリクで飛び火した火の粉をはたき落とした。
「でもでもバスケがいいよ! チームワークとか一体感良いじゃん!」
なぜ希沙はここまでバスケにこだわるのか。答えは簡単。
和香のような集団イベント大嫌い人間の対極、お祭ヤローなのだ。
お祭があると浮かれずにはいられない子なのだ。
「しかたねーな」
リクが折れて、チームメンバーの欄にサインしてあげた。断固拒否した和香と大違いである。
「さっそく今日の放課後から練習しよー!」
「あ、むり。今日彼氏とデートだから」
「えええぇ! そんなぁ!」
和香はリクに彼氏がいたということに驚いたが、希沙は練習に付き合ってくれないことに衝撃を受けていた。
マンガだと中学生にだってカレカノがいるんだから、高校生のリクにいても不思議ではない。けど、
「彼氏がいるんだ。予想外だ」
「おー」
リクはケータイのメールチェックでボタンをポチポチしながら生返事を返してくる。
恋愛として好きになる相手が同性か異性かなんて些細なものだ。
リクはどことなく雰囲気が和香に似ているけど、似ているだけで違う存在だ。
心が男で好きになる相手が男でも、そうなんだなくらいにしか思わなかった。
和香は恋愛感情自体持ち合わせてないから。
だから、深く考えずに聞いた。
「漫画でよくある、『今はまだ学生だけど本気だから結婚前提に〜』みたいな感じか?」
リクはポチポチしてた指を止めて、ちらりと和香を見て、言い淀んだ。
あ、これたぶん聞いちゃ駄目なやつだった。
リクの反応でその空気を察知したけどもう遅い。
「ははっ。わかんね。オレらまだ16歳だからな」
「そっか。そうだよな。ごめん」
明らかに無理した笑いとわかる顔を作って、リクは携帯電話をたたんだ。
