十人一色 〜トランスジェンダーを抱えたふたり〜

 昼休憩時間は希沙と雪江、希沙の幼なじみたちと賑やかにお弁当を広げるのか日常となっていた。
 リクと知りあってからは、リクもそこに加わっている。

 リクはサンドイッチをくわえながら、手に持っている教本に視線を落としている。
 表紙に自動二輪免許学習と書かれている。

「リク、バイクの免許取るのか?」
「おう。バイクで風を切るの、かっこいいじゃん。仮面ライダーっぽくて。今はバイトで車学に通う金貯めてるとこ。ゴールデンウィークもほぼシフト入ってんだ」
「すごいな。俺も見習おう」

 社会人も通う学校だから、和香たちの通う高校はバイトも自動車学校も禁止されていない。
 春生まれの人はすでに教習所通いなんてのも普通だ。

 リクは自動車学校のお金も自分でなんとかしようと働いている。
 希沙や雪江も、欲しい服を買いたいからバイトする、と休み時間に履歴書を書いていた。

 同じ十五才なのに、和香は何もできない愛想もよくない、家族と喧嘩ばかりでいいとこなし。

(リクたちのような、前向きに努力できる人間になりたい)

 友だちとして隣りに居て、恥ずかしくない人間になりたい。


 家に帰ると、いつものように母と兄が怒鳴り合う声が聞こえてきた。
 和香はカバンを玄関の中に放り込み、かわりに玄関脇に置いてある懐中電灯を取って、すぐ家を出た。


 今の和香は、駅の階段を昇り降りするだけで膝が悲鳴を上げるようなおデブ。
 ささやかながら、今の自分にできること。ダイエットをしようと考えた。

 無愛想なおデブじゃ、バイト面接で追い返されてしまうだろうから。
 川辺の遊歩道を歩きながら、リクや希沙たちの笑顔を思い起こして自分の口角をあげてみる。


「こんばんは。若い子がウォーキングなんて偉いねぇ」

 犬の散歩をしていたおばちゃんが、柔和な笑みで和香に声をかけてくれた。

「こ、こんばんは」

 うまく笑えたかわからないけど、和香は精一杯の笑顔でおばちゃんに挨拶を返した。


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