文化祭とは(元拍手十一月)
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
舞台の上では何が起こるかわからない。
それは実際のところ予言に違い発言だった。そしてオレはもう一つ新しい事を学ぶ……舞台の上では何が起こっても『おかしくない』、その共通認識が観客にある以上、
要するにまぁ例えば殺陣のちょっとしたミスで誰かの模擬剣がすっぽ抜けてしまったりとか、それが偶々意図しないタイミングで王子様の顔面間近に飛んでくるとか、直後にその瞳の色が変わってしまったりとか、そういうのが全部、例えでなくとも脚本の一部だと認識されてしまうのである。
「いや
マウスでなくともそう思う。
しかしながら、なまじスプレンディドの我を通し過ぎるお姫様が災いしたらしい。あれが脚本ならこれも脚本だろうと。そう考えると気持ちは分らなくも無いが、行き掛けの駄賃とばかりに魔女の手下──役の生徒達を蹴り飛ばしている恐らくは本人も状況を飲み込めていない金色の瞳を見ればアクシデントである事は一目瞭然である。
「おー……フリッピーじゃん、困ってンなー」
そして旧知故かその暴力の理由を正しく理解した友人と、
「あーそういや
悪魔じみてにやついた愉快犯によって、
「…………王子様ちょっと話を聞いて欲しいんだけど」
「誰が王子だ狂ってンのかクソガキ」
突然ステージ上に放り込まれたメイドが居たとしてもそれもまた斬新なシナリオの一部として拍手で迎えられてしまうのである。
▼
「誰っていうか……」
もしもオレの日頃の行いが良ければ、手元に鏡があったのだろう。表情はともかく造りは同じ顔なのでフリッピーに似合う服がフリッピーに似合わない筈が無い。
そうして金眼の王子様がメイドの胸ぐらを掴み上げようとした瞬間、
「おっと、そこまでだ王子様!」
バキリと何かが割れるような音がした。
眼前に迫る金色が見開かれるが多分オレの表情も似たようなものだろう。何故きちんと蝶番のついた
ただの板と化した上蓋を手に、棺から接吻も無くお姫様が現れた。
「僕の城を破壊するのは
──眠り姫、なんだよな?
この芝居は。
相変わらず自分を偽る気が微塵も無いらしい生徒会長は、ドレスとウィッグを揺らしてこれ以上ない程に堂々と宣言する。同時にあ゛ぁ!?と濁点付の文句が目の前の金色から迸った。基本的にあの青色を前にする時、オレ達の苦手意識は同調する。フリッピーは一旦の敵視をオレからスプレンディドに変更したらしく、捨て置かれたその隙に舞台袖を盗み見た。……ハンディがここ最近で一番の顰め面をしていた。
「ンだてめぇ気ッ色悪ぃ格好しやがって阿呆会長が!」
「今の僕は会長ではないよ、オーロラ姫だとも王子様。さて、あんまり賑やかで呪いが解けてしまったな!」
罵倒と共に小道具を投げつける王子様の、その振りかぶった腕をとっさに屈んで避けるメイドは一体観客席からどう見えているんだ。
一方で飛んできたダンボール製の岩を易々と叩き返し浪々と語るお姫様……その台詞に、舞台に残っていた数人の、
「……オイなんだあのバケモンは」
考え無しに動いたせいか、思いかけずフリッピーの足に激突してしまった。それくらいでは微塵もよろけない体幹は流石だが、目の前の光景がよっぽど腑に落ちないのか意外にも激昂する事なく問うように呟いている。
「いや、劇で……まだ芝居中で、なんだけど、会長は眠り姫で、自分で起きたらしいけど」
「は?」
見上げて言えば、要領の得ない説明に耐えかねたのか振り向いた王子様と目が合った。途端、今更何かに気付いたようにその眉根が寄った。
「は? ──なに珍妙な服着てんだてめぇは何なンだ」
「と、通りすがりの……メイド……か?」
「狂ってんかクソガキ」
それを言うなら今フリッピーは王子様なんだけどな。
一体なにからどう説明して弁解しようか金の瞳を見つめていれば、不意に悲鳴に似た声が聞こえた。知り合いの誰でもないそれに王子と揃って目を向ければスプレンディドがとうとう棺より歩み出て、転がる模擬剣を拾ったところだった。
「ふむ」
嫌な予感がする。
具体的に言えば、直感だが本格的に幕を下ろすタイミングが失われた気がする。
自称オーロラ姫は手の内の剣をまじまじと見詰め、何事か思案したように呟くといつものように笑顔で言った。
「成程、僕の呪いは無事に解けたようだが城は安全とは言えないらしい! 困ったものだね、僕は一国の姫として、城主として自分の住処を取り替えそうじゃないか!」
良く通るその声は、今日も晴天の空より蒼い。
恐らくその宣言は観客席全てに届いたのだろう、妙に上手いその演技のせいか、おお、という感嘆のどよめきが沸いた。おお、ではない。隣からフリッピーの只管に困惑する気配が伝わるのだが残念な事にオレもそれなりに困惑している。
そうしてステージ上で唯一迷いのない演者は、ぐるりと残った魔女の手下を、そして何故か
「掛かって来たまえ!」
おかしいな、眠り姫の最終敵は魔女だった筈なのだが。……そろそろ眠り姫の作者に叱られるのではないだろうか。
→