文化祭とは(元拍手十一月)
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今更言うまでもない気はするが、オレ達のクラスの出し物は生徒が給仕の格好をする喫茶店。
……要するに『メイド喫茶』というものらしい。メイドだけでなく執事も居るが。
二クラス合同で企画書が上がった為、もともと同じ組所属のオレとシフティは勿論、先程『微妙』という受け取る側からしても実に微妙な感想を放り投げてくれたリフティもまた執事に扮していた。まぁ、自分でも似合わない事は、正直着る前から分っていたし、執事服を完璧に着こなしてしまっている双子に言われればそれはもう、全く返す言葉が無いのだけれど。
「いや、似合わねーとは言ってねぇっつの」
「にあってんのはにあってんぜー!オマエも女子だったんだなーって思った」
「ハッ、服に着られてる感すっごいけどな!」
目の前の、殆ど同じ顔がそれぞれ好きに勝手を喚く。というかそれはやっぱり似合っていないのではないだろうか。
「けどメイドって感じじゃねーんだよなぁ」
「メイドはメイドでも茶ぁ運びそうにねぇっつか」
「どっちかってっと格ゲーでキャラ選択できそうっつーか!」
「バイオで日本刀振り回してそーっつか」
「うっは! ちょーウケる! っぽい! ぜってーゾンビ倒してる!」
「ハッ、戦闘メイドかよ?」
うちの喫茶店はそんなコンセプトではない。
というかそんな改善点の分りにくい感想を言われてしまうとこちらとしてもかなり困るのだが。さっくり、変、と一言いわれた方がまだマシである。それから別に日本刀は使えない。というかゾンビシューティングそれ自体をやった事がない。システムが難しい。オレはゲームならテトリス至上派である。
「……これでも一応努力はしたんだけどな」
「どこがだよ」
「かみのけ……とか」
というか双子ほど無遠慮では無いものの類似の反応は衣装合わせの際に既に受けている。ので、努力というよりはその際に改善した、というか。
いつもは我ながら放ったらかしにしている短い黒髪は、耳が出るように金属製のカチューシャで纏めてある。ちなみに演劇部の備品だ。
「…………」
「…………」
二人して何とも言えない顔で黙るのは止めてくれないだろうか。
「……まえがみじゃね?」
首を捻りながら、そういうのはリフティだ。
何だかんだ文句を言いながらも真面目に衣装を身に繕った兄と違い、ネクタイをだらしなく緩めたその執事姿はそれでも様になっているのだからそこはかとない不公平さを感じる。そんな無気力執事は言うなり、燕尾服のポケットから何かを取り出し、訊ねる間もなく距離を詰めたかと思えば、
「え……うわ」
「あっ、こら動くなっつーの」
人の頭に右手を伸ばし、その前髪を容赦なく掴む。
流石に痛みは無いが、これは多分、傍から見たら満場一致でカツアゲ現場なのでは。
反射的に目を瞑れば、軽く頭皮の引き連れる痛みと、ぱち、と軽い音。リフの手が離れると同時に、先程よりやや明るく広くなった視界。
「どうだ!」
「どうだ、って……え、どうなってるの?」
「ん」
次の瞬間、目の前に差し出されたのはシフティのスマートフォン。画面が落とされたままのその黒いディスプレイは鏡のように風景を反射する。果たしてそこの映って居たのはオレの間抜面と、そしていつもは野暮ったく放置されている前髪が分けて耳上で留められている様子だった。使われていたのは、小さなバレッタのような、しかし髪用にしてはややごつい金属の何か。
「あー、なんだっけ、なんかピン? ネクタイにつけろって言われたけど俺つける気ねーっつーの! イラナイ」
「そこまで覚えててなんで『ネクタイピン』っつー言葉が出てこねえんだろーな、この愚弟」
殆ど同じ顔の弟を最早しみじみと振り返りながらシフティは、そう言い捨て、
「ハッ、ちったぁマシになったんじゃねーのデコすけ」
揶揄するように笑ったかと思うと、その手に持っていた端末から微かなシャッター音がする。
去年の文化祭でもそうだったが、双子は期間中、物珍しいものがあると片端から写真に撮っていた。……物珍しいカテゴリに入れられた事は置くとして、それらは勿論思い出作りなどという殊勝な心掛けではなく。
「……今年も売るつもりか」
「ったりめーだろうが稼ぎ時だっつの!」
「去年叱られてただろ」
「ばれなきゃいーんだっつーの、ヨユーだぜ!」
ちなみに当然校則違反である。
「ま、精々客引きガンバレよ戦闘メイド」
「だから、戦わないって」
まだ見ぬ数日後の販売利益を夢見たのか、上機嫌に言うシフティに、むしろこれからシフトが入ってるのは二人の方だろうと反駁すれば双子は正に今初めて気付いたかのような顔をした。
【高等部2年 T組・F組 合同喫茶】
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