元拍手連載
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「スニッフルズ……、が、公爵?」
尋ねると、鍋を掻き回していた手が一瞬止まり、僕のことですか?と疑問符を浮かべられた。
「僕は料理係です。公爵夫人は放っておくと糖尿病が悪化する一方なので」
言いながらスニフは手元の小瓶を引き寄せた。pepperと記載されたその中身はよく見れば胡椒ではない。にも関わらず、スニフは鍋にその瓶の中身、怪しげな錠剤をぼとぼとと落とし入れた。とても料理の具材には思えないのだけれど。
「……公爵はいないの?」
不穏な大鍋の中身に言及するのは避けて、オレは無難な問いを返す。すると、「さあ?僕は会ったことないです」と実に曖昧な返事をする料理係。そしてくるりと振り返り、その目はまっすぐオレを見た。
「それより、白兎を追いかけなくて良いんですか?」
追いかけなくて、って。
「……なんで?」
「なんで、って、だっていつも追い回してるじゃないですか」
「そうなの?」
「アリス?」
いやだからアリスじゃないんだって。
どうかしたんですか。頭でも打ちました?と、スニフの姿をした料理係が遠慮のない心配の言葉を掛けてくる。その手に持ったお玉の中身が少々どろっとしているのが大いに気になるが、ともかく返事をしようと口を開きかけ、
そしてその瞬間、背中にそれなりの衝撃と自分のものではない体温が一気に襲い掛かってきた。
「ぅわ、っ!」
ぐん、と重みが圧し掛かり、強制的に前屈みになる姿勢。
倒れてしまわないように気合で踏み止まれば、ふ、と少しだけ負荷が軽くなった。
「アリス!ショウタイジョウッ!」
殆ど予想済みだったが、後ろからは弾んだ声が降ってくる。
ナッティだろうが公爵夫人だろうが、そのパーソナルスペースは相変わらず広がっていないらしい。オレはスニッフルズが火を止めるのを見ながら、しょうたいじょう?と呟いた。
「手紙、あなた宛だったの」
すると追いかけてきたらしいギグルスの声が部屋の外から聞こえてきた。
同時に、公爵夫人のターゲットは近寄ってきた料理係に移ったらしい。ナッティはオレから剥がれてスニフに纏わりつくが、標的の方はといえば、自分に向かってくる長い手足を器用に避けながら、その件の手紙とやらを取り上げている。
「ここ、公爵の家じゃないの?」
「公爵の家よ?でもあなたへの手紙だったのよ」
瑣末な事だと、ギグルスの態度が告げている。
『アリス』は公爵の親戚か何かなのか?それとも自分の家に他人宛の手紙が来るのは、オレが知らないだけで常識的なことだったのか。
「確かに、アリス宛ですよこれ」
検分を終えたらしい料理係が言う。
公爵夫人はそんなスニフに瓶を開けてと頼むのに忙しい。勿論、糖尿病に厳しい少年はそれを撥ねつけていたが。
「急いで来るよう書いてありますよ。向かった方がいいんじゃないですか?」
ぱしっとその封筒ごと手紙を渡される。
そこには聞いたこともない住所と、そして【To Alice】の文字が。
それを見てオレはやっと自分が言うべきことを思い出す。
「待った。言い損ねてたけどオレはアリスじゃない」
それなのに、主張はあっさりと却下されるのだ。
「アリスだよッ?」
「人違いだ。でなきゃ、勘違いだよ」
「でもアリスだよ?アリスはね、アリスなのッ」
今や抱え込むようにスニフの肩に絡まったナッティは、全然譲る気配がない。そしてスニッフルズまでもが困ったような顔で、それを肯定している。
それでもアリスじゃないのに。それとも……アリスだったっけ?
あんまりにも皆が口をそろえてオレを否定するから、もう自分でもよく分からなくなってきた。自分のことなのに。
「でも、それに招待って……招待ってどこに」
せめてもの抵抗に、封書を握り締めながらそう言った。すると、
「あら」
その感嘆詞は戸口から。
「決まってるじゃない」と続けたギグルスに向き直る。そうか、宛先はともかく、手紙を運んできたのはこの使者だ。
頭につけた大きなリボンを揺らしながら、少女は笑って、そしてさも当り前のように教えてくれた。
「ハートのお城よ」
(急げ裁判が始まる前に)
→