元拍手連載
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がばりと身を起こすなりオレは言った。
「またか」
初めに歩いた砂利道でも、森の中の土でもなく、整備された赤レンガの道路に、どうやらオレは転がっていたらしい。立ち上がってみれば、成程、目線が元に戻っている。……まあ、このレンガ道が人間用に造られているのを前提にした話ではあるが。少なくともさっきより縮んではいないだろう。
特に痛みはないが、念のためと自分の体を見下ろしてみるも相変わらず怪我一つ無い。
その事を不思議に感じるよりも前に、意図せず口から溜息が漏れた。
一日に二度も風に飛ばされた。しかもそのうちの一回は爆風である。
「それに小さくなったり大きくなったり」
知り合いが知り合いでなかったり。
猫は消えるし、お茶会は終わらないし、茸によじ登らされたり。
妙なことばかりだ。変なことしか起こっていない。そういえば全部、双子に突き落とされた時から始まったのだ。
立ち竦んでいたところでどうにもならないので、考えながらも足を進めることにする。
どちらに向かうかはこれ以上ないくらい完璧に勘便りだ。どこに向かうべきなのかすら分かっていないのだから当然である。
「……というかオレはアリスじゃないのに」
そして忘れかけていた非難を口にする。
皆が皆、アリスと呼びかけてくるけれど。
一体どうなってるんだ、とどうも答えの見つからなさそうな疑問に頭を悩ませて居れば、幸か不幸か視界を過ぎる風景に変化が訪れた。
孤独に伸びるレンガ道を淡々と進んでいたのだが、ふと、その脇に一軒の家が現れたのだ。
周りには何もなく、白い柵で申し訳程度に囲ってあるこじんまりとした清楚な家。近寄ってみるとそれなりに凝った造りの建物だと知れた。
お茶会のテーブルみたいに道のど真ん中にないだけ常識的だけど、……それにしたって何だってこんなところに一軒だけ。
意匠がかった両開きの扉に、内側からカーテンの掛けられた窓。
そして何気なく、その脇に立つポストに目をやって、そこに書かれた名を見て、オレは思わず固まった。
【THE DUKE of ……】
続きは、何故か煤けて読めなかったが。
「公爵……」
『公爵夫人によろしくね』
カドルスの言葉が蘇る。ああ、いや、ハトだったか。
オレがここに辿り着くことを知っていたのか?それとも『アリス』ならば公爵夫人にいずれ会うことになると……?
若干途方に暮れながらそのドアを見つめていれば、ふいにがちゃりとドアノブが回った。片側の扉が開かれ、中から人影が姿を見せる。
「っ!」
「あ!」
怯むオレに声をあげたのは、リボンのあしらわれた、所々ひらひらした、それでもオレが知っている普段よりはかっちりとしたまるで何かの制服のようなものを着た、
「誰かと思ったらアリスじゃない!」
ピンク色の少女、ギグルスだった。
ギグルスはぎぃいとドアをさらに押し開けて外に出てくると、オレの所まで駆けてくる。
「ちょうどいいわ、寄っていきなさいよ。私も今来たばっかりだけど」
小首を傾げながら笑って袖を引くギグルスに、引き込まれるように家の中へ連れて行かれる。入ってみればそこは思ったよりも広々として、シックなインテリアで纏まった居心地のよさそうな部屋だった。
「今来た……?え、ここギグルスの家じゃないの?あれ、公爵夫人って、誰」
「……何言ってるのよ大丈夫?私はギグルスじゃないわ、ただのお使いよ、手紙を届けに来たの。それにほら、公爵夫人ならそこに居るでしょ?」
ぐいっと腕を引かれ、それまで見えていなかったが、部屋の隅に三脚の椅子が据えられているのがようやく分かった。続き部屋なのかその裏にはぽっかりと開いたままの戸口があり、微かに物音がしている。そして、その、問題の椅子の上の人物はといえば、
「あ、アリスだッ!」
ロリポップキャンディをばりばりと噛み砕きながらオッド・アイをくるくる回した、が、いや、ちょっと待て。
「な、ナッティ?」
よく見れば咥えたキャンディだけでなく、膝ごと抱えるように甘味の詰まった大きな瓶を抱きしめている。だが、何故かその蓋は細い鎖でぐるぐると巻かれあまつさえ南京錠まで掛けてあった。……隣の部屋に誰が居るのか大体見当がついた気がする。
「ナッティはナッティじゃないよッ」
バキっと一際大きな音がして、可愛らしい飴玉は半分近くその口の中に飲み込まれた。
「コウシャクフジンだよッ!」
「……でも公爵夫人は名前じゃなくて、公爵の奥さんのことだよ」
「コウシャク?」
「公爵」
「でもナッティはコウシャクじゃないよ!コウシャクフジンだよッ」
「…………」
「ナッティはコウシャクフジンなのッ」
カリリっと歯でキャンディを鳴らしながら罪のない笑顔で見上げてくるコウシャクフジンはでもどう考えてもナッティだしそもそも夫人どころか婦人でない。
反応に困ってギグルスを振り返れば、自分の手提げ鞄をごそごそやって、何やら忙しそうである。そういえば、手紙、とか、言ってたな。
邪魔するのも悪いと思って、オレは椅子の向こう側、開きっぱなしの戸口に目を向ける。
そして誰にも咎められないままその敷居を越える。
どうもキッチンらしい、そこには案の定、
「アリス?来てたんですね」
物音の正体は鍋を火に掛けながらずれた眼鏡を直した。
(瓶の蓋は開けちゃだめですよ)
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