元拍手連載
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「五月蝿い」
「ひどい!!」
……いきなり掛け合いが始まってしまった。
つまりこれが『いじめられている』状態だろうか。確かにいいようにあしらわれている。
その、口喧嘩だかなんだか分からない余興を呆けっと見ていれば、不意に袖を引かれた。
くん、と引かれた上着に下を向けば、そこにあったのは小さな小さな手。
「……ダメ」
あのね、だめだよ、ここにいたら。
明らかに眠気に囚われたままで、目を擦り無理やり口を開いて、ふにゃりと笑って続けるのはフレイキー……眠り鼠。
「ありす、ボクだってありすといっしょにいたいけど……」
また眠ってしまいそうになりながらつっかえつっかえ、眠り鼠は一生懸命言葉を紡ぐ。
そしてそれは、再三再四聞かされ続けているものだった。
「アリスは、シロウサギを追いかけないと、だから……ぅ」
「ふれ、っ」
何とか言い終えるや否や、力尽きたようにがくんと落ちる頭を天板に直撃する寸前でどうにか受け止める。ああ、フレイキーじゃなくて眠り鼠だったっけ。
「えぇ、いーじゃん白兎なんて放っておいたってぇ。きっと何とかなるよぅ、猫もいるんだしさっ」
そんなオレ達を見て、三月ウサギがすかさず近寄ってくる。どうやら帽子屋には口で勝てなかったらしい。
大雑把に、それでもフレイキーの周りの菓子や食器を避けてやっているランピーを見ながら、オレはそっとその赤毛をテーブルに横たえ、手を引いた。
さてどうしたものか。
ランピーの意見はよく分からないが、何故オレがシロウサギを追いかけなければならないのかわからないという点には大いに同意だ。会う人会う人そう言うが、理由は誰も教えてくれない。だから別にここに居てもいいのだけれど……。
こん。とポケットの中で小型爆弾とナイフがぶつかる。
これは、返しておきたいって、気持ちもある。その為には、やっぱり兎ことフリッピーを見つけ出すべきなのだろうか?
困り果て未使用のカップを弄んでいれば、ふ、とモールさんと目が合った。
「仕方ありませんね」
すると、モールさん、いや帽子屋さんがすすす、と手招きをする。
なんだろうと近づいてみれば、その手には相変わらず空っぽのティーポットが抱えられていた。
「え、とあの、オレもう紅茶はいらないから……」
慌てて言えばモールさんはクスと口元だけで笑う。
「まだ一滴も飲んでいないのに?」
「……」
わざとだったのか。
驚いて見上げれば、モールさんがゆっくりとサングラスを外した。顕になった氷の目に、思わず見惚れていれば、かちゃん、と微かな音がして、帽子屋の手の中でティーポットが逆さまになっていた。
「さて」
もちろん、蓋ごと抱えられたポットは地に落ちることはなく、元より空っぽなので紅茶が零れることもないのだが、見た目的にかなり不安を呼び寄せる。
目の見えないモールさんにそんなことは関係がないのか、平常と変わらない表情で、そっとポットの本体だけを持ち上げた。
すると、
「っえ?」
さっきまで、空だったのに。
白い手の平の上の、白いティーカップの蓋の上には、いつの間にか一枚のチョコチップクッキーが現れていた。
「ただの手品です」
言いながら帽子屋さんはそれを摘み上げると、そっとオレの手に載せた。
「……食べていいの?」
「お好きにどうぞ」
許可とも不許可とも採れる台詞に暫くクッキーと睨み合う羽目に陥るが、結局オレは、それを口に運んだ。
サクリと一口齧れば、プレーンの生地にチョコの甘さと、一瞬だけ苦さが溶けてとても美味しい。思わずさくさくと食べ進めていれば、上からくつくつと笑い声が降りてくる。
その、珍しい笑い方に意識せずとも手が止まる。
「素直ですね」
「……モールさん?」
「帽子屋ですよ」
今はね。
まるでその言葉が呪文だったかのように、ぐらりと視界が揺れる。地面が近づいてくるような錯覚を覚え、立っていられなくなりしゃがみ込む。
そして焦るオレを他所に、マッドハッターは愉快そうに囁いた。
「アリス、白兎を追いかけろ」
(そのとき風が吹いて体が宙に浮かんだ)
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