百物語とは(元拍手八月)
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これは僕が現実に体験した話なんだけれどね。
しかし有名な話でもあるのできっと皆知っていると思うよ。
では話そう。
ある日の放課後、実際には正確な日時まで覚えているがそれは伏せておくよ、ともかく春と夏の間の頃だったね。僕は生徒会での仕事を終えて、寮への帰り道を歩いているところだった。陽が沈みかける時分だったから、辺りが真っ赤に染まっていたのを覚えているよ。そこで僕はふと、先に帰った筈の友人の姿を見つけたんだ。ほんの数メートル先だったよ。だから当然、歩みを速めて追いついた。話しかければ照れてでもいるのか彼は走って逃げようとしたが、やはり友人だからね、僕達は一緒に帰ることにしたんだ。どうせ行き先も同じなのだしね。
暫く僕達は何事もなく夕暮れの道を歩いていたよ。しかし、……すぐそこに人通りの少ない坂があるだろう?そう、寮の前の。寮生くらいしか利用しないために、必然的に利用者が少なくなっているのだろうね。丁度その道に差し掛かった時だった。──彼女が現れたのは。
「ワタシ、キレイ?」
その人は、気候に合わない赤いコートを着てマスクを着けた、髪の長い女性だったよ。
友人の振りかぶった鞄が偶然、その人に軽く触れてしまったんだ。いつもは殆どいない筈の通行人に、狙った訳でもあるまいに。とても不運な事故だね。え?何故鞄を振りかぶるのか?はは、元々彼は僕に向って鞄で殴ろうとしたんだよ。しかし勘違いしないであげて欲しいな、決して苛めなどではないよ、彼なりの愛情表現なんだよ、これは。
ともかく、一般の方に迷惑を掛けてしまったと思い、僕は咄嗟に謝罪をしようとその女性に向き直った。だが、返って来たのは先程の台詞だ。「ワタシ、キレイ?」何を訊ねてもこれを繰り返すだけ。やはり怒っているのかと訊ねても、答えてはくれなかったのだよ。しかも、それらの問い掛けは全て友人に向けられていた。うん、鞄を当てたその友人だ。彼女に向って謝罪を試みたのも、怪我の有無を訊いたのも僕で、友人はその間立ち去ろうとはしないものの沈黙を護っていたのだけれどね。彼女はずっとその友人に尋ね続けるんだよ、ワタシ、キレイ?と。……ここで一つ、新しい情報を開示しよう。友人はかなりの短気な男でね。その時も、ああ苛々してるなぁと僕は隣で感じていたのだがとうとう臨界点を突破したらしい。彼は尋ね続ける女性に向って言い捨てた。
『しつけぇなンなもんテメェで鏡でも見て確かめやがれクソ女』
僕は然程オカルトに明るい訳ではないのだけれどね、流石に分かったよ、あ、これ禁句だ、ってね。
案の定、周りの空気と女の顔色が変わった。
一瞬で、ぞくっと背筋が震えたよ。体中に鳥肌が立った。正面から女と対峙していた友人が、思わず後退っていたのを覚えている。突然気温が冷たくなった気がした。空が暗くなっていないか見上げて確認したくらいだ。結局、辺りは相変わらず日暮れ時のままで、景色はまだ赤かったのだけれどね。
そう、女の服と、同じように……。
「──そこで僕はこれは不味いと思って、取り敢えず両手を突き出して『破ァ!!』とやってみたのだけれど、」
「待て待て待て、ちょっと待てっつの!」
何事も無かったかの様に怪談話……?を続けようとする生徒会長に、待ったをかけたのは珍しく怖がっていないシフティだった。
まぁ、気持ちは分かる。
「生徒会長って凄い、と、改めて僕は思いました」
「止めろスニフ、のるな。会長は凄いと俺も思うけど」
「それ何処のTさんってかバ会長友達居たのかよ!」
「そもそも何で急に気功を試したんです」
「いや、そうすると心霊現象は治まると聞いた事があったからね」
「誰から?」
「ランピー先生」
スプレンディドが悪びれず答えた瞬間、またアイツか……!と、双子が誤差なく同時に呻く。
「僕は怪談に相応しい話をしたつもりなのだけれど……何かおかしかったかい?」
突然の崩落を見せたオカルティックな雰囲気に成り代り、コメディの神様が場を支配する。脳内BGMは稲川淳二から一気に笑点OPに。
そこへ恐る恐ると言うように、フリッピーが右手を挙げた。
「というか、あの……ディドさん、その友人って、もしかして……」
「ああ!そうだね、覚醒くんだよ!」
次の瞬間、フリッピーは器用にも座ったまま膝をついた。あからさまに下がった肩が痛々しい。そういえばそんな話聞いたような気がする……と零す緑の瞳を横目に、こちらも今回ばかりは平気な顔のスニッフルズが逸早く軌道修正を試みる。
「それで、結局どうなったんですか?」
「うん、まだ途中だったね。掛け声まで発して置いてなんだけど、実際あれで如何にかなるとは考えて無かったよ。不意をついて、取り敢えず覚醒くんを逃がすつもりだった。まぁ、精々何か時間稼ぎに、波動砲的な物でも出れば良いかなぁくらいの気持ちだった」
「ガッツリ期待してんじゃねーか!」
「しかも波動砲かよ反動どころの話じゃねーだろソレ」
「出なかったけれどね」
「「当たり前だ!!」」
一向に戻らない恐怖感に、戸惑うように残り少ない蝋燭の火が揺れる。風も無いのに動いた炎は、本来ならば場を高める絶好のスパイスなのだろうが、今や誰も、気付いてすらいない。
「結局、何事も無く気づいたら女性は居なくなっていたよ。彼女、とうとうマスクを取らなかったのだけど、やっぱりあの下は口が裂けて居たのだろうか……」
「えっと、今となっては藪の中ですね……?」
若干戸惑い気味にトゥーシーが纏める。彼とスニフッフルズの生徒会長に対する信奉精神は大概尊敬に値すると思う。彼らより上回生、四人の白けた表情を見る限り。
「破!と叫んだ時、彼女と覚醒くんが全く同じタイミングで肩を揺らしたのが少し面白かったよ。僕の話は以上だね!」
誰が面白い話をしろと言った。
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