元拍手十一月
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「いやぁー、皆考える事は同じだねっ?」
「冤罪です……」
人様の家だというのに構わず、まるで自宅のような振る舞いで両手を広げる白衣の女性。
髪の長さはいつも通りに、スレンダーな体つきと長身も相俟ってモデルか何かのようにも見えるその人はどう考えてもランピーだが。
その隣で、うなだれながら頭を抱える、やや遠い目で呟く水色の髪の青年はもしかして、
「スニッフルズ?」
「あん?メガネまで面白れーことになってんのか?」
オレの確認とシフティの問いは殆ど同時に。
「……そうですよメガネですっ!言っときますけど今回は僕のせいじゃないですからね!!」
明らかに数年ほど年齢の加算された青年、スニフは吹っ切れたように怒鳴り返した。
「これでもナッティより身長低いんですよ、やってられませんよもう」
「え、ナッティは平気なの」
「外見はそのままでした。でも中身が……何ていうかすっごくまともに」
長めの前髪を片方撫で付けて、いつもと違いずり落ちることの無いメガネを両手で挟んで視線を逸らす。
「スーツにネクタイで出かけましたけど、自他共に特に害のある感じじゃなかったんで放っときますよ、もう」
「それは……」
普段の様子を鑑みるにかなりの異常事態なのでは。放置でいいのか。
因みにスニフの背丈はまぁ、その顔立ちから年齢を推察するに、確かに小柄な方だと思う。オレが言えた事ではないが。というか隣に並んでいる人との相関のせいかもしれないが。性別が変わったところで規格外に長身のランピーである。白衣の女性に目を向ければ、
「あっ、モールは変化なしだったよー」
と、聞く前から教えてくれる。いや、丁度気にはなっていたのだが続けて「つまんないねぇ?」というその台詞はまさか本人の前で言わなかっただろうなと少し心配する。
しかしてっきり街の全員が、何らかの異変を起しているものと思っていたのだが。どうもそうではないらしい。一体何が基準なのだろう。
嬉々としてスニフ青年をからかっている双子を尻目に、軽く考え込んでいれば不意に腕をぐいっと引かれた。
「ぅ、わっ」
「えっへへー、見てみてーっ、イチちゃん──イチちゃんだよね?イチちゃんと俺お似合いー?」
いつもより近いところから聞こえる声は、記憶のそれよりかなり高い。
むぎゅうと半ば抱きつくように腕を絡ませ、響くのはいつの間にか取出した携帯端末のシャッター音。
「モールに自慢しよぅっと!」
「モールさんには見えないよ」
「だってモール見えないのに本読んでるし新聞読んでるしカメラ持ってるじゃない?」
確かに。
「で、どぉどお?お似合いっ?美男美女でしょお?」
ぐるん、と。
オレの腕を取ったまま一回転するものだから重力に振り回されて辛い。が、そこはそれ。いつもより体幹がしっかりしているせいか、軽くよろけただけで転ぶこともなく持ち直す。体勢がややランピーに縋りつく格好になってしまったが。しかしそれが不味かったらしい。
「イチお前……ウリは割りに合わねーんだぞ」
「有閑ババァがツバメ侍らしてるよーにしか見えねぇっつの」
同時に振り返ったリフティとシフティが神妙に言う。瓜?
「ばばあじゃないもーんっ!」
「もん、言うなキメェ!」
「今はオンナノコだからゆるされるんですぅー!」
「というかやっぱりイチさんだったんですね」
「……うん?」
双子とランピーの応酬に、聞き捨てのならない呟きが混ざったような気がして顔を挙げる。ちなみに今だ絡みつかれたままの状態であるため、そうすると見慣れた、それでいて少し印象の変わった顔がかなり近くなるのだが……改めて見ると細かいところが変わっているなぁと思う。睫毛が長い。さっき遠目に見たときはそこまで変化していないように思えたのに。やっぱり視点の高さが変わると視力にも支障が出るのだろうか。というか視力。そう、眼鏡の青年は今なんと言った?
「スニフ、気付いてなかったの?」
突然訊ねてきた知らない男の人とああも旧知のように話してたのか?それはちょっと大物過ぎるんじゃないか。
スニッフルズの知られざる寛容さに驚いていれば、当の本人は慌てたように否定する。
「いえ、そうかなとは思ってたんですけど……正直今殆ど目が見えないんですよね」
「……目が?」
不思議に思って、その成長した顔を見るも青く縁取られた眼鏡はいつも通り大人しく鎮座している。寧ろ普段は少し大きめのそれが、今日はサイズ感も狂わず見た目としては返ってしっくりきている気がするが。
「度が合わないんですよ。数年でまた視力が落ちるみたいで」
「あー、イレモノ変わった分だけスペックも変動してるみたいだからねぇ」
割って入ってくる間延びした台詞に、目を向ければ、
「双子はやっぱり洗い物したくなるのっ?ねえねぇ洗濯機まわすう?」
「「うっっっぜえ!!!」」
「コッチ来んなよな!!」
「触んなっつーの!!」
口とは裏腹に、多少の仕様変更など物ともしない白衣の女性が長い両手を翻して二人を追い回しているところだった。薄く赤い唇から快活なアルトが迸る。
「…………」
全力で楽しんでいる元主治医と、因果応報というか、先程までスニフをからかっていた筈が今や被害者と化している悪友二人を眺めていれば、同じ光景を見ているくせにそこまで動じている風でない青年が隣から声をかけてくる。
「イチさんは平気なんですか?今日ちょっと目つき悪いですけど」
そういえば、すこし、視界が悪いような気はしていたのだが……。
(ウリは瓜じゃなく売り、売春の隠語 またイチにしょーもない知識が増える)
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