元拍手十一月
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「まあ、誰って言われてもオレだけど」
「詐欺かよ」
オレオレ詐欺かよ、と。
あれからちゃんと定位置に戻ってもらった食卓椅子に、相変わらず尊大に腰掛け間髪いれずに突っ込みをくれたのはシフティだ。その頭には一度は見間違いか偽物かと疑ってはみたもののどうあがいても本物の、三角耳が乗っかっている。二人の髪と同系色のそれは、形と模様を鑑みるにどうもアライグマのものらしい。耳と違わず動物めいた尻尾は思わず目が行く程度にもふもふと存在を主張しており、触りたいと頼んでみたところ、リフティが意外にも気安く許可してくれた。
「つか男になって最初に気にすんのがリーチかよ!」
そんな訳で、現在進行形でオレに尻尾を鷲掴かまれているリフティが叫ぶ。
思ったほど柔らかくはなく、感触は犬のそれに近い縞模様の尻尾は、よっぽど妙な触り方をしない限り特にどうと言う事はないらしい。感覚としては髪の毛に一番近いとか。撫でると気持ちいい、引っ張ると痛い。
「ま、でもそろそろ離してくんね?いくらイチってわかってても野郎にいじくられるシュミねーっつーか!」
「ハッ、同感だな!俺と同じ顔で迂闊なことさせてんじゃねーよ馬鹿弟」
「だっかっらバカって言うなばか兄貴!」
「ああ、……そういえばオレ今男だっけ」
「オイ、そこかよ!!」
「忘れてんなよ!!」
「そんなこと言われても」
普通、人は自分の性別を確かめながら日常を送ったりしない。逐一鏡を見ているわけでもなし、うっかりすると忘れてしまうのも道理ではないだろうか。慣れなさ過ぎて、咄嗟に声を出した時まだ自分の声がいまいち認識できなくて、誰が喋ってるのか一瞬考える。
「……お前って頭悪くないクセにたまに全力で馬鹿だよな!」
頭上の帽子を直しながら、シフが呆れた口調で言う。耳のせいで据わりが悪いらしい。弟の方は、兄が自分以外を対象に馬鹿にしているのが毎度ながら嬉しいらしく、にしゃにしゃと笑ってオレを見ていた。が、ふと何かに気付いたように、きょとんとした表情を浮かべる。
「イチ、変わったのセイベツだけか?」
「え?」
予期せぬ問いに首を傾げれば、さらりと髪が首を伝う。
ああ、そういえば何か伸びていたのだったか。
答えながら、思い立ったが好機とばかりに肩口で遊んでいた黒髪を纏める。髪留めは……空けた片手でパーカーのファスナーに結わえていた赤い組紐を解いて眺める。フレイキーから貰った綺麗な飾り紐を、漸く本来の役目に従事させてやれるらしい。
「……いやそうじゃねーよ」
と、オレ達の答弁に何か思うところがあったのか、シフティが口を挟んだ。
「お前、なんか成長してね?」
「成長?」
「ああ!そーか、それだそれ!なんっか変っつーか、い、……い?」
「違和感?」
「それだ!」
ばしん、と手を打つリフティの、尻尾が呼応するように揺れてオレの手を撫でる。
「俺らとおなじくれーに見える!」
「元から同い年だけど」
「そーは見えねぇっつーの」
いつもはな。
ユニゾンで付け加えられた注釈に、さてどういう反応を返したものか。
「なら……つまりオレは男になって歳までとった訳だ。それで二人は耳と尻尾が生えた。……今更だけど、何で?」
「ほんっと今更だな!!」
「つか俺らもソレ訊きに来たんだけどなー」
「え、そうなの?朝ご飯食べにきたのかと思ってた」
「暢気すぎるだろ!」
「だってオレに聞かれても」
「『だって』、前もおまえ絡みだったじゃんか」
「前?」
人の主張に被せる様に、そういうリフティの前、とは、
「アレだよ、ほれ!えっと、俺らが縮んだとき!」
「ハッ、縮んだっつか戻ったつーか」
「ああ、なるほど」
そういえばそんなこともあった。
蘇るのは雁字絡めになったスニーカーの紐と打ち鳴らされるクラッカーの記憶である。あの時とはつまり、双子と、それからナッティが揃って十年ほど若返ってしまった時の事。三人とも年齢的に、若返ったというかただ子供に戻されただけだったのだが。確かに、アレはオレ絡みの事件であると、言えなくもない。言えなくもない、が。
「でもあれはオレがっていうか……」
言いかけて顔を挙げれば、同時に勘付いたらしいリフと目が合う。そしてシフティがその様子に気づいて目を細めた。
あれはオレがっていうか、直接の原因は二人が飲み込んだ錠剤であり、その怪しげな薬の効力の発露として双子の歳は巻き戻ったである。切欠はオレ絡みでは有るが、現象それ自体には関わっていない。
暫く、三人とも喋らずに、ダイニングには暫しの静寂が訪れた。
やがてオレ達は無言のままに立ち上がり、
「行くか」
シフティが端的な号令をかける。
まぁそんなこんなで連れ立って、彼の錠剤の作り手、スニッフルズの家まで来たわけだが。
「やぁっほーぅ!んんーまぁた愉快な事になってるねっ?」
当然、この流れで何事もなく物語が終着する筈もなく。
スニフの家から出てきたのは長身痩躯で、青髪で、金のメッシュとピアスを揺らす、
「ま、僕も人の事言えないけどねぇ?」
ランピーそっくりの美女だった。
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