元拍手十一月
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朝、目が覚めたとき、ベッドの上で起き上がりながら明らかな違和感を覚えた。
何故そう感じたのかと考えるまでもなくあからさまそれを、しかしオレの寝惚け頭は一度無視する。
そのまま毎日の惰性により洗面台へ向い、碌に鏡を見ることもなく蛇口を捻って洗顔しようと身を屈めた。
その時である。
その時初めて、オレは身のうちに沸き起こる違和とまともに対峙した。
つまり、身支度に腰を屈めなければならないほどオレの身長は高かっただろうか、と。いつも肩口がずり落ちる寝巻きの襟はこんなにも柔らかく首を絞めてきただろうか、と。頭を垂れたとき首筋を擽りながら流れ落ちてくる黒髪はもっと極端に短くはなかっただろうか、と。
そしてオレは漸く現実と向き合うことを決意する。
明らかにあからさまどころか時が経つにつれてどんどん主張を激しくしていく違和感の正体についてまともに考察しなければならないと。
だが思えばこの時のオレは、未だに寝惚けたままだったのかも知れない。
何故なら、だって、今日、朝、オレの身に起こった違和感は、その要因は、考えるまでもなく一目瞭然に看破できる類のモノだったのだから。
やがて、そんな簡単なことにも気付かなかった寝起きのオレは恐る恐る顔を上げる。
覗き込んだ鏡に映った虚像は普段のそれとは意匠が異なり、
「…………誰だ、これ」
そして自分の口から滑り出た呟きは、まるで成人男性のような低音で以て辺りに響いた。
◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇
「…………いや」
これではただの現実逃避である。
言い直そう。
まるで成人男性のような、というか、完全に成人男性だった。……声だけに留まらず。
衝撃のせいかぼんやりする視界の仲で。頭突き寸前にまで近付いて洗面台を覗き込みながら、念のため、と頬を抓るが痛みは走るし目は覚めない。どうやらこれは現実のようだ。鏡の中で明らかに自分ではない自分が溜息を吐いた。
改めて見るに、顔の造りはそこまで変わっていない。
髪や目の色もそのままだし、性別差と言っても普段からそこまで性差の激しい顔つきをしていないので正直このままオレ本人で罷り通せる気さえする。しかし少し視線を下げてみれば喉仏が控えめに存在主張しているし、体つきがどう見ても男性のそれだった。
そして何より、
「目線が高い……」
リーチが長い。
いつも一ふた周りサイズの大きい服を着ている筈なのに、今日ばかりはなんと言うか、体格にきちんと合っている。七部袖がちゃんと七部だ。……腕が出る!
どう考えてもそんな事に感動している場合ではないのだが、しかし『目が覚めて突然性別が変わっていた場合の正しい対処法』などとても思いつかないので、現状を認識した後、思う存分手足の長さを楽しむ事にする。寝巻きから服を着替えながら、保護者に譲って貰って以来、肩も腰も丈も余りっぱなしだったパーカーがそれなりにフィットするのを感じて知らず機嫌が急上昇する。というか、ざっと目測で三十センチは身長が伸びているのだが。ランピーには遠く及ばないとして、普段、皆こんな目線で過ごしてるのか。例えば、そう双子とか。多分今同じくらいだと思うのだけど。
近くなった天井を見上げながら、ふと、魔が差す。
オレは最近増えてきた本の山を退かしながら、ダイニングテーブルへと近付いた。そして椅子を一脚、引き摺らないように気をつけて机から引き離す。
「…………」
いや、言い訳をさせてもらえるならば、人間誰しも経験した事があると思うのだ。少しの欲求が満たされたとき、人はより自らの欲望により忠実になる、という原理を。
──靴下もスリッパも、元々履いていなかった。流石にテーブルは気が引ける、と、オレは裸足のままで椅子に登り、立ち上がって万歳をするように腕を上げた。
「……!とどいた」
ぺったり、と両の掌が天井にへばりついた。
凄い。だって普段、電球を換えるのですら梯子に登って脹脛が攣るほど背伸びをしているのに。掃除はハタキがないと始まらないのに……そもそも天井に触れたの、これが初めてなんじゃないか?
恐らくは元来の長身保持者には想像もつかない感覚を噛み締めていれば、不意にどこかから視線を感じた。
はっとして、その不躾な動線の元を辿れば、巡りついたのはダイニングの窓ガラス。
噂をすれば影が射す。
窓から覗いていた、というか、いつもながら一体どうやっているのか施錠されていたはずのガラス戸をがらりと引き開け遠慮知らずに入ってくるのはついさっき思い浮かべていたばかりの二人。
しかし、その様子は普段と違い、どこか焦ったように目を見開いている。
「なななにしてんだ、何してんだお前!!」
「つか、おまっ、おまえ誰だ誰だお前!!」
そして家に上がるなり舌を縺れさす様に叫びながらこちらを指差すように糾弾するのだが、そうか、そういえば今オレいつもと見た目が違うのか。知り合いの家に顔が同じとは言え他人が、しかも椅子に登って天井と握手し手入れば、まあ、焦るか。
というか、一瞬とはいえ自分の変化を忘れていたオレが言うのも何なのだが、
……オレは、こちらを見上げながら何か感づいたらしいシフティと、警戒と言うより混乱から抜け出せていないリフティをよくよく観察して、言う。
「それ……仮装?」
行儀も悪く、椅子の上から。何故か中々定まらない焦点を苦労して合わせながら。
見下ろす見慣れた双子の頭と腰に、ふさふさとした見慣れない尻尾と耳が付いているように見えるのは果たして気のせいだろうか?
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